【2019年】PwCの眼(12)モビリティとまちの未来

2020-04-14

今年度の連載では、モビリティは従来の「クルマ」の概念を超えたものであり、さまざまな観点で発想の転換が求められると論じてきた。特に、社会課題の解決や事業目線でのマネタイズを実現するには、移動の前後の周辺サービスも含めて、エコシステム全体で価値を向上させることが重要であると指摘した。今年度の最終回では、エコシステムの代表例である「まち」に焦点を当てて、モビリティがまちづくりにどのような影響を及ぼすのかを考察する。

自動車業界の「100年に一度の大変革期」の主な原動力がCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング/サービス、電動化)であるが、これはまちづくりにも密接に関わる。世界各地で生活の質の向上、諸活動の効率化、環境負荷の低減などを目指したスマートシティの構築が進む中、CASEはその強力なイネーブラーとなるのである。以下で具体的に述べる。

【C】クルマのコネクテッド化によりクルマの位置情報や周辺環境情報など有益で膨大なデータが収集可能となる。また外から車両や乗員に対する情報のフィードも可能となる。従って都市運営においてヒト・モノの移動に関する見える化とコントローラビリティが飛躍的に高まる。

【A】自動運転の普及により、人々が運転から解放されたり交通事故が減少したりするのに加えヒト・モノの輸送効率の最適化や駐車スペースの削減など、都市活動全体の生産性が大きく改善される。

【S】完全自動運転の登場を待たずとも、クルマでの移動がカーシェアやライドシェアといったサービスとして提供されることで、自動運転に近い効果が得られる。また、他の交通手段とも経路検索や決済なども含めてシームレスに連動することにより、都市内の移動にかかる時間やストレスが軽減される。

【E】電気自動車はクリーンなまちづくりにつながるだけでなく、車載電池を電力の蓄積・輸送・供給手段としての活用により、都市の電力システムの強靭性・柔軟性を高めることにも貢献する。昼夜の電力バランスの平準化、再生可能エネルギーの普及、非常用電源の配備など、さまざまな活用シーンが想定される。

これらのCASEの各要素は相互に密に絡み合っているため、まちづくりにおいても全体を俯瞰した上での導入計画が必要となる。個々の機能の実証は小規模でもよいが、本格的に価値を創出するにはクリティカルマスを超えた大規模投資が不可欠となり、投資対効果も広範に測定する必要がある。個々のモビリティとしての経済性は成立し難いが、システム全体では大きな価値を生みうるためである。これが最も悩ましい部分であろう。国家や大企業が主導して丸ごと都市設計する事例もあるが、必ずしも皆が採用できるアプローチではない。多くの場合、多数のステークホルダーの利害を調整して最適解に導いていくための、ビジョン策定とコーディネーション能力が必要不可欠となる。

以上のように今後のモビリティは、より大きなエコシステムの一部として捉える必要がある。目の前の顧客や課題の対応だけでなく、その先やさらにその先までを見据えた鳥観図をもってビジネスを構想した上で、自らの役割を定義して能動的に周囲をうまく巻き込めるプレイヤーが、今後の市場での主導権や収益を獲得する時代になるだろう。

【Strategy&は、PwCの戦略コンサルティングサービスを担うグローバルなチームです。】

執筆者

北川 友彦

北川 友彦

ディレクター
PwC Strategy&
tomohiko.t.kitagawa@pwc.com

※本稿は、日刊自動車新聞2020年3月21日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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