{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
2025-05-01
※本稿は、旬刊経理情報2025年4月1日号(No.1739)に寄稿した記事を転載したものです。
※発行元である株式会社中央経済社の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
「Assurance Vision 2030」は、2023年7月にPwC Japan有限責任監査法人(以下、「当法人」という)が発表した2030年に向けた中期経営ビジョンである。PwCのPurpose(存在意義)である「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」ことを実現し、いずれの時代においても社会から必要とされる存在であり続けるために、私たちの持つ専門性をつなぎ、社会が求める広範な「トラストギャップ(信頼の空白域)」を埋める組織を目指すというものである。策定の前提となる2030年の社会の姿は、当法人の若手職員が作成した「10年後創造プロジェクト」の未来シナリオを用いた(図表)。政治経済、気候変動対策の軸で4つの未来を描き、それぞれの未来で「トラスト(信頼)」が確立されているのか、喪失されているのかという点に着目したものだ。作成時点ではどの未来に進んでもおかしくないと思っていたが、今、世界はグローバリゼーションの時代から転じ、「自国第一主義」が急速に広がっている。生成AIの登場やSNSの利用拡大による新たなリスクも発生している。しかしどのような未来になろうとも、当法人が目指すことに変わりはない。
図表:2030年の未来社会を描く4つの未来シナリオ
当法人が社会の信頼構築に貢献したいと考える根拠、またそれを可能とする基盤は、当然のことながら、「高品質な監査」である。国際監査・保証基準審議会(IAASB)による国際品質マネジメント基準1号(ISQM1)、公開会社会計監督委員会(PCAOB)による新品質基準であるQC1000に確実に対応し、PwCグローバルネットワークで開発した、各メンバーファームが品質管理と事業運営およびリスク管理を統合するフレームワークを用いた高品質な監査を担保するしくみに磨きをかけている。
また、ここ数年で急速なデジタル化の波が来ているが、デジタル化の本質にいち早く気づき、計画を立て、まず業務の標準化に取り組んだ。その次に、被監査会社のERP(統合基幹業務システム)から直接、標準化したフォーマットでデータを取得するしくみを導入した。その間に、グローバルや国内でデジタル監査技術の開発を進め、順次導入しているほか、そのすべてをつなぎ自動化する次世代監査に向けて着々と準備を進めている。世の中の変化のスピードが加速しているのに合わせ、生成AIの監査業務への活用についても慎重かつスピード感を持って検証し、導入を開始している。もちろん、これらの施策を有効なものにするために不可欠な人財の育成についても同時並行で取り組んでいる。
監査業務から培った知識・経験を活用して提供しているのが、ブローダーアシュアランスサービスと呼んでいるアドバイザリー業務だ。たとえば、有価証券報告書などの英文開示支援を宝印刷㈱とともに提供することを昨年11月に発表したが、単なる日本語の英訳ではなく、会計事象の本質を捉えた英文へのブラッシュアップを実施する。新リース会計基準への対応支援にあたっては、会計方針検討の一部の業務に生成AIを取り入れて効率化し、専門家が、部門横断で対応が必要となる業務プロセス構築などの付加価値の高い業務に集中し、より高品質な支援を行うことを可能とした。このような品質へのこだわりも、監査業務の提供を続けるなかで自然に生まれた特長である。
当法人では「2030年に統合思考・報告のリーディングプロバイダー」、「統合監査のリーディングプロバイダー」になることを目指し、力を入れている。近年、財務情報だけでは企業の価値を測れないという投資家からの要請の高まりや、気候変動が世界中の喫緊の課題となっていることなどを受けて、世界中で企業のサステナビリティ情報開示基準の策定が急ピッチで進められているためだ。
EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)への対応など、状況を注視しながら、グローバル展開する企業の多くに開示支援を行っている。日本でもサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が金融審議会の「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」の開示・保証に関する議論を踏まえて基準策定を進めていることを受け、今後は国内のSSBJ基準との接続性に関するものや、国内基準のみで開示する企業の支援業務が増えると考えている。また、開示支援だけでなく企業価値向上に向けた支援として、上場企業2,000社超の財務・非財務情報から成る大規模データを投資家視点で分析し、PBR改善を支援するサービスを昨年8月に開始した。PBR(ROE×PER)について、多くの企業がROEの向上に取り組みながらも、市場(投資家)の期待が反映されているPER向上への取組みは不十分な状況のもと、投資家側と企業側の重要視する経営指標(非財務指標を含む)やその値に認識のずれが生じている。データ分析により投資家の視点を定量的に把握することでこのずれを修正し、投資家との効果的なコミュニケーションを促進することを目的としている。
さらに、法定化により導入される本格的なサステナビリティ情報の保証提供に向けた準備を着実に進めている。ステークホルダーの皆様からのご期待に応えるため、昨年11月8日付けで初期研修を監査部門所属の対象者全員を含む2,000人超が受講完了した旨を公表した。また、企業の実務担当者の皆様の準備にもお役立ていただくため、3月にサステナビリティ保証の実務についての書籍を出版した。
前半部分で述べたとおり、当法人の目線は2030年を向いており、未来の世界で生まれるトラストギャップを埋めるべく、取組みを開始している。PwCの「グローバル経済犯罪実態調査2024」によれば、過去2年以内に自国内で経済犯罪・不正の被害に遭ったと回答した企業は、グローバルで41%、日本は34%に上った。グローバルのほうが割合は高いが微減傾向であるなか、日本はいったん減少したものがコロナ禍を経て増加に転じている点に注意が必要だ。昨年9月に企業が不祥事に備えるための「フォレンジックコンシェルジュ」サービスをPwC Japanグループで提供開始した。平時に不正・コンプライアンスリスクに係る研修、データ保全や不正調査に関する社内方針策定の助言などを、企業の状況に応じて提供し、また有事の際に証拠隠滅を防ぐデータ保全など初動対応までカバーするという、幅広い備えを提供するものである。
また、データの真正性・信頼性を確保するための研究を、大学発スタートアップベンチャーやAI/DX関連の事業者と行っているほか、トラストのあり方を追求するトラスト・インサイト・センターを当法人内に設置した。スタートアップやアカデミアとつながるハブとなって、より広範なトラストの構築へ向け、邁進していく所存である。
久保田 正崇
代表, PwC Japanグループ
代表執行役, PwC Japan有限責任監査法人
{{item.text}}
{{item.text}}