【2019年】PwCの眼(11)MasS時代の自動車部用品販売店

2020-02-13

過去数年間は、緩やかな減少傾向で推移してきた自動車部用品の小売市場ではあるが、中長期的な市場の見通しとなると、悲観的な見方を持つ識者も少なくない。その背景として、メーカー純正品の質の向上に加え、シェアリングの普及による若年層の車離れ(個人保有台数自体の減少)が加速化する傾向にあることが挙げられる。しかし、人々の車の保有のあり方・移動のあり方が変わるMaaS時代に機会を見出そうとする時、自動車部用品販売店の進化のあり方として、主に以下の二つの方向性が考えられる。

第一に、法人として車を大量に保有するMaaS事業者を新たな顧客層として取り込むためのサービスを強化することである。同事業者にとっては、保有車の稼働率を高めて車両保有コストの最適化を図ることが経営上の主要関心事である。そのニーズに答えるには、顧客に嗜好品や消耗品を従来通り売るだけではなく、部用品の最適な購買タイミングや量を助言する能力や、一定の技術力を伴うメンテナンスサービスを提供する能力が必要となるだろう。また、MaaS車両の相当割合が多数のセンサーを搭載した自動運転車になると、センサー等の部品を適切な装着状態に保つための細かなメンテナンスへの対応力や故障予知など、直接的にMaaS事業者の稼働率向上に資するサービス提供能力も要求される可能性がある。現在でも車検や軽鈑金などのサービス売上の割合が増えている自動車部用品小売店も存在するが、MaaS車両固有の保守管理に関する多様なサービスを、リーズナブルな価格で提供していくことが進化のあり方の一つである。

第二に、顧客のニーズ変化に沿う形で、業態の垣根を超えて取扱い商品を拡大・変容させ、自社の業態のあり方を柔軟に変えていくことである。新車販売よりも大きな利益プールを有すると言われる自動車アフター関連小売市場だが、これまでは部用品、車検・整備、自動車ローン/保険/リース、ガソリン小売などの商品領域別に専業プレイヤーが存在し、棲み分ける傾向が強かった。しかし、例えば車購入後に必要なこれらのアフター関連商品をまとめて、顧客の嗜好性に応じて月額いくらという選択式サブスクリプションの形で提供できれば、顧客の利便性は大きく向上することになる。ここでのポイントは、MaaS時代の車両自体の技術変化がいつどのようなスピードで起きるのかが不確実であることを認識し、顧客ニーズが具体化しない内に先走った商品領域拡大のための投資をしないことである。むしろ既存の周辺業態の事業者が単体として競争力を失った時に、自社の事業に統合して取り込む能力の巧拙が、自動車部用品販売事業者が将来的に大きな残存者利益を獲得できるかどうかを左右するかもしれない。

以上のように、MaaS時代の自動車部用品販売店には、これまでとは異なる戦い方とケイパビリティが必要になると考えられる。カー用品小売市場と定義された既存市場の低成長が中長期的に続くと見込まれる中で、継続的な利益成長のために求められるのは、法人・個人双方を視野に入れて自動車保有者のターゲット顧客層を明確にし、そのニーズの漸次的な変化を見極め、自社の事業領域を徐々に変えて行ける柔軟さと能力ではないだろうか。

【Strategy&は、PwCの戦略コンサルティングサービスを担うグローバルなチームです。】

執筆者

玉越 豪

玉越 豪

ディレクター
PwC Strategy&
go.tamakoshi@pwc.com

※本稿は、日刊自動車新聞2020年2月1日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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