【2019年】PwCの眼(9)MaaS時代に向けたサプライヤーの進化の方向性

2020-01-17

モノに対する価値観が所有から利用へシフトする中、自動車産業でもMaaSが急速に普及している。MaaSでは、クルマが事業者によって所有され、移動が遍くサービスとして提供される。そこではOEM(完成車メーカー)だけでなく、部品サプライヤーも自らの提供価値やケイパビリティを見直す必要がある。本稿ではMaaS時代に向けたサプライヤーの3つの進化の方向性を考察する。

1つ目は、優れたUX(ユーザー体験)をパッケージでOEMに提案することである。自動運転の普及を待つまでもなく、MaaSではユーザー(乗員)は運転から解放され、移動中の体験が従来以上に重視される。例えば、スマホ操作など別の作業をしても車酔いをさせない機能が歓迎されうる。サプライヤーとしてはこれまでのような個々の部品の音や振動の対策だけなく、人間工学に基づきシステム全体で防音・防振を考え、空調や臭いなどのコントロールも含めて車酔いを防止する機能を実現できると大きな価値となるだろう。すなわち、今後MaaSで多様化する移動シーンを見据えて特に重視されるUXを見極め、機能パッケージとしてOEMに能動的に提案していくことが鍵となる。

2つ目は、製品発売後も継続的に機能改善することである。MaaS車両ではコネクテッド化が当たり前となり、ユーザーの利用状況のモニタリングやOTA(無線通信)でのアップグレードが可能となる。サプライヤーにはデータ取得の壁を乗り越えつつ、データ分析で得られた示唆から改善余地を見出し、製品にフィードバックしていくことが求められる。先述の車酔い防止機能の例でいうと、クルマの走行環境(例:路面)やユーザーの状態(例:体調変化)を各種センサーで把握し、製品利用状況との因果関係を解明して機能改善につなげるといった具合である。今後、サプライヤーは発売後も顧客・製品とつながり、迅速に改善を繰り返すというサイクルを確立する必要がある。

3つ目は、高稼働ビジネスに適したメンテナンスとリユース・リサイクル事業を構築することであるMaaSにおいては高い稼働率の確保が必須要件である。従ってサプライヤーは耐久性やメンテナンス性の高い製品開発に加え、予防保全サービスや3Dプリンターによるスポット生産の提供などあらゆる手段によりMaaS事業者の稼働率向上に貢献することが重要になる。また、MaaS車両の多くは短期で使い尽くされることが想定されるが、部品の中にはまだ使えるものも多くありリユース・リサイクルで有効活用できる。特に電子部品などの高付加価値品は、潜在的なビジネス機会として大きいだろう。

以上のように、今後のMaaS時代のサプライヤーには従来の延長線上にはない変化が求められる。OEMの先にいるMaaS事業者やユーザーの痒い所に手が届く価値を発掘し、部品領域を横断した機能パッケージの提供を実現する。発売後も改善を続け、二次・三次利用も含むライフサイクルを通じて関与する。これは従来の売り切り型事業モデルからのトランスフォーメーションを意味する。サプライヤーには事業ドメインや組織体制、収益管理のあり方、従業員のマインドセットなど自社を包括的に見直す時機が訪れていると言えよう。

【Strategy&は、PwCの戦略コンサルティングサービスを担うグローバルなチームです。】

執筆者

北川 友彦

ディレクター
PwC Strategy&
tomohiko.t.kitagawa@pwc.com

※本稿は、日刊自動車新聞2019年12月28日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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