【2019年】PwCの眼(7)マネタイズに向けた発想の転換

2019-11-14

ここまで、ダイナミックプライシング、与信の仕組み、そして、所有データ流通やサイバーセキュリティへの対応をはじめとする市場参加条件の整備が、次世代モビリティの本質の1つである「データを押さえ、様々なモノ・コトを最適化していくこと」の主要なメカニズムであることに触れた。

いうまでもなく、近年モビリティに関する事業者目線の価値の源泉は、移動そのものではなく、移動後の「コト」にシフトしている。従って、この事業化構想においては、移動の前後に周辺サービスを付加し「モノ」の付加価値を向上させるのではなく、周辺サービスの価値向上に向け移動を組み込み、モビリティ全体の付加価値を向上させる、という発想の転換が求められる。事業会社にとって、この転換は、頭では分かっていても実際には難しい。なぜなら、例えばメーカーにとっては、その存在価値自体を揺るがしかねないからである。ただ既に、海外プレーヤーはその点で先を進んでいる。移動そのものであるライドシェアサービスを事業起点にした大手スタートアップは、現在ライドシェアに依存しない収益モデルを構築し、ライドシェアで獲得した顧客基盤を基に、街づくりや人々のライフサポート事業で価値を創出している。「ユーザー目線」は、従前より使われてきた言葉であるが、次世代モビリティを考えるにあたって、今一度噛みしめるべきであろう。

また、この事業化構想における「成功」「うまくいく」の定義は、当事者によって異なることも次世代モビリティの特徴である。事業会社にとっては、最終的に収益を確保すること「Win」が成功の定義の1つであることは疑いないが、公共社会や生活者等の参加プレーヤー目線では、幸せになること、豊かに生きること「Happy」が成功であってよいし、そうあるべきである。

国・地域・産業に合った周辺サービスを捉え・設計することが「Win‐Win」「Happy」に向けた出発地点だとすると、ここに「世の中に万能なモビリティのモデルは存在しない」という理由がある。海外事例の紹介などでは、都市部にフォーカスが当たる傾向にあるが、都市部の周辺住宅地、郊外幹線道路の沿道部、過疎地等も存在し、それぞれでニーズや困りごとは異なることを認識しなければならない。

一方で、モビリティ社会の継続性を考えれば、「Win」、すなわちマネタイズという観点は不可欠である。社会・生活づくりにポイントを置いた次世代モビリティは、社会や生活の創成・維持=“儲かりにくい事業”というように一括りに捉えられがちであるが、実際には事業としてもマネタイズを実現する。例えば、不動産業界では「鉄道会社が進める地方創生と不動産付加価値向上施策」がそれであり、「渋滞/排ガス等の環境問題が解決され、幹線道路沿線も地価が上昇する」「モビリティサービスが付帯することで不動産価格が上昇する」などの効果が実際に得られており、また同時に「シームレスな移動サービスにより地方・郊外への移住が進み生活の質が向上する」「税収負荷がバランスされる」という「Happy」も得られている。次回は、具体的なマネタイズモデルを例に複雑なエコシステム構築のカギに触れる。

担当者

北川 友彦

ディレクター
PwC Strategy&

阿部 健太郎

シニアマネージャー
PwC Strategy&

※本稿は、日刊自動車新聞2019年10月26日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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