【2019年】PwCの眼(10)自動車ディーラーから「モビリティハブ」への転身

2020-01-23

「100年に一度の大変革」と言われるとおり、来るMaaS時代には既存自動車バリューチェーンは全く異なる形に再定義されていく。前回は川上領域を担う自動車部品サプライヤーを取り扱ったが、今回は川下領域を担う自動車ディーラーに着目したい。MaaS時代に自動車ディーラーはどのような変化に直面し、どう価値を再定義しうるかを論ずる。

MaaS時代の自動車ディーラー事業は、「消費者のクルマ離れ」「OEMからの領域侵犯」の挟み撃ちにあい厳しい状況に陥り、消費者は、文字通りクルマをサービスとして利用し保有しなくなる。特に日本では75歳以上の免許保有者が増加し既に500万人を超えているが、MaaSが免許返納・クルマ離れを加速させるだろう。一方、MaaS時代のOEMは、車両販売の減少とCASE等の開発投資の増加で収益悪化が見込まれる。OEMは収益回復を図るべく、モジュール化/PF戦略、技術・資本提携といった効率化施策を講じるとともに成長機会となる新規事業を模索している。例えばリース・サブスクリプションモデルは自動車ディーラーの販売手数料を奪うことになる等、近接領域ゆえ自動車ディーラーへの影響は大きい。さらに、海外同様に大口フリート顧客となるモビリティサービス事業者が台頭すると自動車ディーラーが価格交渉力を失う等の脅威に晒される。

以上のように自動車ディーラー事業の見通しは厳しいものの、MaaS時代の変化を機会として捉えた先進的な取組みも見受けられる。変化に乗じた機会としては例えば、自動運転車は稼働時間・走行距離が長く、手動運転車に比してメンテナンス需要が大きいことが挙げられる。実際、米国では既に、自動運転タクシーサービス(MaaS×自動運転)の普及を見据え、自動車ディーラーと自動運転開発の企業が車両整備・保守に関する提携を行っている。

こうしたメンテナンス領域に加え自動車ディーラーは、将来的に「モビリティハブ」にまで発展することが期待される。MaaSと密接不可分な自動運転は一般に低速・限定環境下からより高速・非限定環境下の順で普及すると考えられている。多くの自動車ディーラーは幹線道路沿いかつ居住地近くに位置し、早期から自動運転化されうる支線道路と当面は手動運転が担う(自動運転専用レーンを持たない)幹線道路の中継地点となりうる。このような人流・物流の中継地点では自動運転車両・配送ロボットのメンテナンスのみならず、荷捌き場、車両非稼働時の駐留場・充電スポットの提供等、移動・輸送に関する包括的な機能を提供しうるのだ。

自動車ディーラーが「モビリティハブ」の役割を担う上では、これまでの顧客接点から得た地域・風土も踏まえ、行政・地域コミュニティー、人流・物流含むモビリティ事業者と地域交通の在り方を提言・共創していく必要がある。加えてメンテナンス・その他サービスの提供に十分な人材・アセットを持つことも望まれる。そのような体力を持ち続けるべく、短期的にはデジタル活用を通じた顧客体験向上や合従連衡(規模の経済確保)といった効率化も不可欠である。

【Strategy&は、PwCの戦略コンサルティングサービスを担うグローバルなチームです。】

執筆者

阿部 健太郎

阿部 健太郎

シニアマネージャー
PwC Strategy&
kentaro.abe@pwc.com

※本稿は、日刊自動車新聞2020年1月11日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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