Worldwide Tax Summary 2025年6月号

  • 2025-07-23

PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問
岡田 至康 監修

Worldwide Tax Summary 2025年6月号トピックス

  1. 税制改正に係る議会の動き(米国)
  2. 最近の州税および地方税の改正動向(米国(2))
  3. CDU、CSU、SPD間の連立協定 - 法人税関連(ドイツ)
  4. 関税および消費税の特例の撤回(南アフリカ)

税制改正に係る議会の動き

2025年4月10日、下院は、予算調整法案(reconciliation bill)に係る上院修正版(4月5日付)の予算決議(H. Con. Res. 14)を216対214で承認した(注)。これにより、共和党議員は、2026年に期限切れとなる減税・雇用法(TCJA)の規定や、立法課題の他の部分に対処するための法案に関して、上院で一般的に必要な60票ではなく、過半数で予算調整手続きを進めることが可能となった。本予算決議では、広範な税制および歳出措置に関して、下院と上院の委員会に対して異なる調整指示を出しており、法律制定(大統領の署名)前に共通法案に係る両院での合意が求められる(共和党は、上下両院において僅差で過半数(上院53/100、下院220/435(うち、2議席欠員)となっている)。

下院予算案と今回の上院修正版との主な違い - 上院修正版の予算決議では、特定のTCJA規定が2025年の後に予定通り期限切れまたは改正されることを前提とする「現行法」ベースラインの下で、下院歳入委員会に10年間で4.5兆ドルの純減税を承認するよう求める下院承認の調整指示を維持している。他の下院委員会に歳出を1.5兆ドル以上削減するように指示しているが、4.5兆ドルの純減税は、議会が2兆ドルの歳出削減というより高い目標を達成することを条件としている。下院の予算決議ではまた、現在の連邦債務の法定限度額(36.1兆ドル)を4兆ドル増やすことを提案している。一方、上院修正版の予算決議では、上院財政委員会は、2025年の後に期限切れまたは改正が予定されているTCJA規定の継続を前提とした「現行ポリシー」ベースラインの下で、10年間で1.5兆ドルの純減税を規定する法案が可能となる。国境警備資金、国防費、国内エネルギー生産に関連するさまざまな上院調整指示も含まれており、4つの委員会で40億ドル以上(最低限)の歳出削減が設定されている。また、5兆ドルの債務限度額の引上げも提案している。上院が「現行ポリシー」ベースラインを使用することで、期限切れとなるTCJA租税規定の延長に係る、この予算決議の対象会計年度(2025年-2034年)における約3.8兆ドルのコストの可能性は考えられておらず、さらには、TJCA規定の実質的な恒久化が可能となる(2017年当時は、予算調整措置において将来の数十年で連邦赤字を増やすことを禁じる上院の規則に準拠するためTCJAの適用期限を設ける必要があった)。一方、新たな減税案は、10年間の予算期間を超えて連邦財政赤字を増やすことに対する上院の規則の対象となる。これには、トランプ大統領や上下両院共和党議員の提案(Section 174の研究開発支出の損金算入の復活、Section 163(j)に基づくEBITDAベースの事業関連利子控除制限、および100%の特別減価償却など)も含まれる(本誌2024年3月号10月号および2025年1月号参照)。

また、40を超えるTCJA規定(例えば、個人の最高税率37%に係る所得閾値の見直しなど)の改正の可能性もあろう。

調整上限を超える減税の可能性および増税案 - 下院歳入委員会のジェイソン・スミス委員長(共和党)と上院財政委員会のマイク・クレイポ委員長(共和党)は、下院と上院の税制委員会が、各委員会の予算調整指示で設定された純減税額の上限を超えると予想される減税措置の総コストを相殺するための歳入増加策を検討する可能性があるとしている。下院では、数名の下院共和党議員が、個人の州税と地方税に係る項目別控除に対する現在の10,000ドルの上限について、大幅な引上げがない法案を支持しないとしている。他の下院共和党議員は、クリーンエネルギー生産に対するインセンティブの大幅な削減に反対を表明している。クレイポ委員長は、共和党の上院議員から200超の税制提案を受け取ったとコメントしている。これらには、児童税額控除の引上げや、オポチュニティーゾーン投資税制優遇措置の拡大が含まれる。トランプ大統領は、期限切れとなるTJCAの個人所得税と遺産税の規定を恒久化するよう求めている他、米国で物品を生産する企業に対する21%の法人所得税率を15%に引下げ、100%の特別減価償却、および米国を拠点とする研究活動に対する当年度損金算入を復活させることを提案している。また、チップ所得、残業代、社会保障給付に対する税金の撤廃、個人の州税と地方税に係る項目別控除の復活、米国生産の自動車購入ローンの利子に対する項目別控除の規定などの諸提案によって、多数の対象を絞った個人減税を求めている。トランプ大統領は選挙運動中、特定の私立のカレッジや大学の寄付基金に課されている現在の1.4%の消費税(excise tax)の引上げを求めている。2025年2月6日には、投資ファンドマネージャーの特定の「キャリードインタレスト」が通常の所得税率ではなくキャピタルゲイン税率で課税されることを認める税制の廃止を求めている。また、特定のスポーツチームのオーナーに対する税制上の優遇措置を制限するよう求めている。ホワイトハウスの一部の高官によると、所得100万ドル超の個人に対する現在の最高個人税率の引上げや、高所得者に影響を与えるその他の歳入増加措置を求める可能性もある。

下院予算委員会、さまざまな議会議員、その他の政策アナリストによって特定された歳入増加案には、以下が含まれる。

  • 州税および地方税に係る特定の事業控除(business deductions)の改正や、選択的なパススルーエンティティー税規定(所得税のあるほとんどの州で制定)の利用制限(個人の州税および地方税に係る項目別控除に対する現在の10,000ドルの上限の改正との組み合わせが考えられる)
  • 歳入委員会のスミス委員長が最近提出した法案(H.R.591)で、米国の企業や個人に域外適用的または差別的な税を課したと財務省が決定した外国に対する報復を規定(本誌2023年7月号2025年3月号および5月号参照)
  • 下院歳入委員会のメンバーであるロン・エステス氏(共和党)が最近提出した法案(H.R.2423)で、外資系の域外適用的な税制に係る事業体(foreign-owned extraterritorial tax regime entities)に対する税源浸食濫用防止税(BEAT)を改正(本誌2025年5月号参照)
  • 2022年のインフレ削減法の一部として制定されたさまざまなクリーンエネルギー税制上の優遇措置を制限または廃止するための措置
  • 上場企業の控除可能な従業員報酬の100万ドル上限の改正
  • 従業員雇用維持に係る税額控除の改正
  • 特定の株式の買い戻しに対する現行の消費税の改正

調整法案可決までのタイムライン - 2025年度予算決議に係る予算調整権限は、連邦政府の現行の会計年度末である2025年9月30日に失効する。マイク・ジョンソン下院議長(共和党)は、5月末のメモリアルデーの休会期間が始まる前に、議会がトランプ大統領に最終法案を提出するよう求めているが、多くの上院指導者は、この日程はかなり厳しいと指摘している。議会は7月の第1週に独立記念日の休会があり、7月末から1か月の休会期間に入り、9月上旬に再開予定となっている。

(注)2025年5月12日、ジェイソン・スミス委員長は、修正税制案を公表した(5月9日の公表案に代わるもの)。「不公正な外国税」(unfair foreign taxes)※に対処するための報復措置(Section 899(案)- BEAT課税強化(案)を含む)では、今後10年間について合計で1千億ドル超の税収を見込んでいる。

※“unfair foreign taxes”には、UTPR、DSTの他、DPT(迂回利益税)なども含むとしている。

Source: PwC, Tax Insights

最近の州税および地方税の改正動向

州税および地方税に係る最近の主な所得税関連の改正(案)には、以下が含まれる。

配分基準(Apportionment)

インディアナ州 – 州歳入局は、2019年に制定されたサービスおよび無形資産に係る州の市場ベースのソーシング(源泉)規定を実施するために、所得税に係る売上ソーシング(源泉)に関する規則を改訂する最終規則を公表した(2025年2月28日発効)。本最終規則は、2020年1月1日に同局が公表した緊急規則(LSA文書#19-688(E))と実質的に類似しており、2019年の認可法での求めに従って、多州租税委員会(MTC:Multistate Tax Commission)のモデル規則の規定を組み込んでいる。テレビ・ラジオ・インターネット・放送手段による広告サービスについて、当該収入の源泉は視聴者とみられる者に基づく、また、実際の情報がない場合には全ての州の当該サービス対象人口に対する当州の当該サービス対象人口比で配分割合が決定される、とする。

テネシー州 - 歳入規則24-12(12/19/24)により、フランチャイズ税および消費税(excise tax)上のドロップシップ販売(第三者の仲介者ではなく、最終消費者への販売と見なされるもの)に係るソーシングルールに対処している。

所得計算と調整

ジョージア州 - 歳入局は、2025年2月5日に最終修正された連結申告規則(Ga. Comp. R. & Regs. R.560-7-3-.13)を公表した(2025年2月25日発効)。2023年1月1日以降に開始する課税年度から、納税者は連結ベースで申告するための拘束力のある5年間の選択を行うことができる(従前は、納税者は許可を求める必要があった)。従前、許可が与えられていた納税者は、(1)従前の許可の下で申告を続けるか、(2)新しい規則の下で連結申告を選択するか、または(3)個別の申告を開始するか、を選択できる。

税額控除

ミシガン州 – 2025年1月13日制定の法律(H.B. 5100)により、研究開発税額控除が規定されている。2025年1月1日以降に開始する課税年度について、適格研究開発(R&D)費用が特定基準額を超える認定納税者は、次のように研究開発税額控除を求めることができる。

  • 従業員数250人以上の事業者 - 基準額までは適格R&D費の3%、基準額を超える部分は10%(年間200万ドルを上限)
  • 従業員数が250人未満の事業者 - 基準額までは適格R&D費の3%、基準額を超える部分は15%(年間25万ドルを上限)

さらに、認定事業の納税者は、ミシガン州の研究大学との共同作業で発生した適格な研究開発費の5%に相当する追加の税額控除を求めることができる(上限は年間20万ドル)。

税率

アイダホ州 – 2025年3月6日に制定された法律(H.B.40)により、法人所得税率は、5.695%から5.3%に引き下げられる(2025年1月1日に遡及して発効)。

ユタ州 – 2025年3月26日に制定された法律(H.B.106)により、法人所得税率は、4.55%から4.5%に引き下げられる(2025年5月7日に発効し、2025年1月1日以降に開始する課税年度に遡及的に適用)。

なお、ジョージア州では、所得税率の引下げ案(HB 111)がある(2025年1 月1日以降開始課税年度について、5.39%から5.19%に引下げ)。

間接税関連では、以下の動きがある。

取引の課税対象

インディアナ州 - 2025年1月22日、歳入局は、Revenue Ruling #2024-04-RST(1月7日付け)を発出し、オンラインビデオゲームのサブスクリプション、ゲーム内(in-game)アイテム、仮想通貨には売上税・使用税が適用されないことを明確にした。なお、「特定のデジタル産品」(デジタル書籍など)は課税対象である。

テキサス州 - 改正データ処理規則が2025年4月2日に発効している。当局(Comptroller of Public Accounts)は、2025年3月28日にTexas Registerに掲載された規則3.330の修正版を採択した。修正されたルールでは、データ処理の定義、事例、ソーシングルールが改訂され、サービスとの一括販売取引に対応する(データ処理が他のサービスに付随するものであれば当該定義から除外)とともに、オンラインマーケットプレイスに規定が適用される。改正された規則3.330では、「データ処理サービス」には、データまたは情報のコンピュータ化された入力、リトリーバル、検索(サーチ)、コンパイル、操作、または保存が含まれると規定されている(10月1日以降、マーケットプレイスのプロバイダーサービスは、データ処理として課税される可能性がある)。 

ユタ州 - 2025年3月25日にS.B.47を制定し、リモート販売者、マーケットプレイスファシリテーター、マーケットプレイス販売者に係る200件の取引閾値を撤廃した。2025年7月1日より、売上税・使用税について、10万ドルの売上の閾値のみが適用される(7月1日より前は200件以上の販売も適用対象)。

以上の他、2025年の立法会期中に、いくつかの州で、デジタル広告、消費者データの使用、またはデジタルサービスに係る税法案が提出されている(本誌2025年5月号参照)。

売上税・使用税の免除など

ワイオミング州 - 2025年3月3日にH.B.11を制定し、製造売上税・使用税の免除の期限切れ日を2027年12月31日から2042年12月31日まで延長し、2024 年の売上税免除の改正に合わせて使用税免除における特定の製造カテゴリー要件を廃止した。ワイオミング州では、有形動産(tangible personal property)の製造のためにワイオミング州で直接かつ主に使用されている機械について、売上税・使用税が免除されている。製造に係る使用税免除は、現在、特定のNAICSコード(主に材料または物質の新製品への化学的、機械的、または物理的変換に従事する産業をカバーするセクター31〜33)に分類される製造業者に限定されている。この免除には、IRC Section 179に従って損金算入された機械を除き、資産計上されていない機械も含まれない。2025年7月1日より、H.B.11はこれらの製造に係る使用税免除の限定を撤廃する。

その他

サウスダコタ州 - 2025年2月18日にS.B.43を制定し、納税義務が発生するまでに30日間の猶予期間を設けるよう、リモート販売者とマーケットプレイスプロバイダーの登録および納付要件を改正した(従前は、前年または当年の暦年にサウスダコタ州での総売上高が10万ドル超の事業者は、閾値に達したらすぐに登録して売上税を納付する必要があった)。歳入局は、Remote Seller Bulletin(2023年7月)で、「リモート販売者が徴収を開始する前に必要な準備手順がある」ことを認めているが、法令では正式に移行期間が規定されていなかった。2025年7月1日より、エコノミックネクサスの閾値を満たすリモート販売者またはマーケットプレイスプロバイダーは、基準を満たしてから少なくとも30日後から始まる最初の月の1日まで、登録して売上税を納付する必要がなくなる。

以上の他、ワシントン州では、多数派議員が、160億ドルの予算不足を税金で補うことを目指し、特にデジタルサービスを対象とするデジタル経済などに対する税制法案を提出している(S.B.5814/H.B.2083)。2025年10月1日より、広告やデータ処理サービスなどの「デジタル自動化サービス」に対する特定の課税免除の廃止により売上税の適用範囲が拡大されよう。また、IT技術コンサルティング、ITトレーニング/技術サポート/その他関連サービス、および特定の広告サービスを含むさまざまなサービスに対して売上税の適用範囲が拡大されよう。その他の提案として、特にサービス業やワシントン州での課税所得が2億5千万ドル超の「高収益企業」に対する「business and occupation tax」(総収入に係る税)(注)の税率引上げが含まれている。

(注) ワシントン州には、法人所得税はない。

Source: PwC, State Tax Quarterly Insights / Knowledge Navigator

CDU、CSU、SPD間の連立協定 - 法人税関連

2025年4月9日のCDU(キリスト教民主同盟)、CSU(キリスト教社会同盟)、SPD(社会民主党)間の連立協定のうち、法人税関連では、以下が含まれる。

法人税と投資

  • 2025年、2026年、2027年の設備投資に係る30%の減価償却(投資促進)
  • 法人所得税率を2028年1月1日から毎年1%ポイントずつ5段階で引下げ(上述と一体)
  • 法的形態間の税中立性を促進するため、法人所得税法(CITA)の第1a条のオプションモデルおよび所得税法(ITA)の第34a条の再投資インセンティブを「大幅に改善」(2027年から、新設事業体の営業所得が法的形態に関係なく法人所得税の対象範囲に含まれ得るかどうかについて検討)

グローバルミニマム課税

  • 大企業グループに対するミニマム課税は維持する一方、ミニマム課税制度の恒久的な簡素化に向けた国際的な取り組みを支援する。国際的な相違がグローバルな税構造に与える影響をモニタリングし、ドイツ企業が国際競争において不利にならないよう、欧州レベルでも取り組む。

Source: PwC, Knowledge Navigator

関税および消費税の特例の撤回

南アフリカ歳入庁(SARS)は、2025年3月20日に、現在対象権限外の取引業者によって利用されている全ての形態の特例(concessions)を撤回する意向を通知した。この通知には、1964年の関税および消費税法(Customs and Excise Act of 1964)の一定要件に関連して過去に取引業者に対して付与された特例、乖離(deviations)、合意、または特認措置が具体的に含まれている。SARSは、ステークホルダーに対して、これらの特例が撤回されるべきでない理由を示す書類の提出を2025年4月23日まで募集した(特例が法令で規定されていない場合、法令改正の提案も可能)。SARSは、多くの特例が法令、政策、手続きの改正、または技術の進歩により、もはや適用され得ないものであると示唆している。

Source: PwC, Knowledge Navigator

その他、海外税務ニュースを含む当法人発行ニュースにつきましては、https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/tax/tax-news.htmlをご参照ください。

本ニュースは、各国の税制改正の動向をお知らせする目的で、各国のPwCが作成する速報ニュースや各国省庁等のホームページ掲載の情報等を翻訳してお伝えしています。税制改正案の段階の情報が多いため、最終的な法制度につきましては、専門家にご確認くださるようお願いいたします。

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