M&Aを成功に導くビジネスDD(デューデリジェンス)の進め方【第4回】企業/事業の競争力とは

2020-04-01

これまで、ビジネスDDの概要とビジネスDDを実施するために重要な事業構造分析についてみてきました。今回はビジネスDDを実施した際に議論となる「対象企業/事業の競争力の源泉は何か」ということについて、考えてみたいと思います。

(1)競争力について考える

  • まず、「競争力」という言葉について考えてみたいと思います。大辞林の解説によると、競争力とは「他との競争に打ち勝つ力」となっています。DDにおいて、対象企業/事業に競争力があるかを分析する場合、他との競争に打ち勝つということは、「他の企業ではなく対象企業が選ばれるか否か」、「他社事業や他社製品ではなく、対象事業や対象企業の製品が選ばれるか否か」ということだと考えられます。
  • 競争力の分析では、多くの場合、初期の段階で対象企業へのマネジメントインタビューを行い、そのインタビュー結果を踏まえて対象会社の評価を行います。しかしながら、そこには注意が必要です。DDにおけるマネジメントインタビューでは、インタビュー対象者の想いがコメントに反映されることが多く、自社/事業の競争力を客観的に把握されていない場合も見受けられます。したがって、マネジメントインタビューのコメントについて、外部および内部の情報とデータを分析することで、ファクトとの整合性が取れるかを確認することが求められます。結果として市場や顧客から選ばれているか/選ばれる予兆が見えているかということが重要であり、それが競争力になるからです。したがって、競争力についてはマネジメントインタビューに加えて、消費者アンケート、顧客インタビュー、競合インタビューなどを実施し、多面的に競争力の有無を分析することが必要です。加えて、定量分析で実際に市場や顧客から選ばれているかを把握することも必要となります。数量や金額が伸びているか、新しい顧客は増えているか、既存顧客の離反はないかなど、選ばれるということが結果としてでているかを確認することが重要となります。
  • もう一つ気を付けなければならないのが、競争力があるかどうかと競争力の源泉となりうる強みの区別です。例えば、メーカーの場合「自社には競争力がある。技術が優れているから競争力があるのだ」というコメントが時々見られます。ここで考えなければならないのは、優れた技術でどんな製品やサービスが実現できているのか、その製品やサービスで売上/収益を生み出すビジネスモデルがあるのか、そのビジネスモデルは他社よりも顧客を獲得できる優れたものなのか、ということです。すなわち、優れた技術は競争力の源泉でしかなく、競争力そのものではないということです。
  • また、「対象企業/事業がなくなった場合、だれがなぜ困るのか」を考えることも重要です。代替企業や代替製品がある場合には、だれも困らないという結論になる場合があります。その場合、対象企業/製品には真の意味での競争力はないということになるでしょう。
  • 時間軸も重要な概念です。分析すべき競争力が今の競争力なのか、将来の競争力なのかについて議論が混在している場合があります。将来の競争力を考える場合、現時点でのケイパビリティにプラスして、何らかのケイパビリティが獲得できれば競争力が発揮できる可能性があるという場合があります。その場合は、どのようにしてそのケイパビリティを補完するか、補完できた場合にはどのようにすれば競争力が得られるかを分析します。また、ケイパビリティの補完による競争力の獲得については、M&A後の事業戦略やシナジー検討などでもしっかりと考えることが必要となります。

(2)競争力と競争力の源泉

  • (1)で記載した競争力の源泉と競争力の関係について、もう少し触れてみたいと思います。競争力が「ほかの企業ではなく対象企業が選ばれるか否か」「他社事業や他社製品ではなく対象事業や対象企業の製品が選ばれるか否か」ということだとすると、競争力の源泉とは選ばれる理由ということになります。品質、コスト競争力、デザインなどが考えられます。さらに、それらを実現できる理由として技術力、人材の豊富さ、設備の優位性、高度な物流などが考えられるでしょう。
  • DDで重要なのは、競争力と競争力の源泉の関係を論理的に多層的に捉えることです。なぜ対象企業には競争力があるのか、それは品質が他社製品に比べて高いからだ、高い品質を実現しているのは生産ラインの管理がしっかりしていることに加えて熟練工が製品の最終調整を行っているからだ、という風に競争力がなぜあるのかを深堀りしていくことが重要となります。その中で、カギとなる競争力の源泉となる項目について、その優位性を生み出す基盤の強さについて判断することが求められます。特許で守られているなど、中長期にわたり優位性が維持されるのであれば、真に競争力があるとみることができます。しかしながら、そうではない場合には、競争力の評価は短期および中長期で分けて考える必要があります。
  • その際に有効なのがフレームワークです。3C分析、SWOT分析、5forcesなどが代表的なフレームワークであり、皆さんも聞いたことがあると思います。これらを競争力の源泉をきちんと把握するために活用していきます。しかしながらフレームワークは万能ではありません。競争力を深堀りする過程で、何を明確にしたいかに応じて使い分けることが重要です。なんでもかんでもSWOT分析をすればいいということではありません。

(3)競争力分析の一般的な手順

  • 改めて競争力分析の手順についてみていきましょう。内容はこれまでの記載でも触れているところもありますが、流れに沿って見ていきたいと思います。競争力分析においては、まずは、対象企業/事業に関する事業環境を正しく理解することが重要です。競争力は他社との比較により優位性が発揮できないと獲得できません。その視点からどのような事業環境にあり、それは対象企業/事業にどのような影響を与えるのかについて理解することが必要です。市場規模や成長性はもとより、注目すべき外部環境変化、主要なプレイヤーの戦略などをしっかりと把握することが求められます。その際には5 forcesのようなフレームワークが有効になります。
  • そのうえで、対象企業の強みと課題を明確にします。ここで必要となるのが、強みと課題を他社との比較、業界での位置づけで考えることです。(1)と(2)で記載したとおり、対象企業の経営者へのインタビューだけでなく、対象企業の顧客や競合、業界有識者へのインタビューなどを通じ多面的に分析することやその強みがいつの時点のものなのかを明確にしていくことが必要です。特に有識者インタビューは、対象会社の何が評価されているかを客観的に把握するために効果的です。財務的な分析も必要となります。売上およびコストの両面で他社と比べ、何が優れているのかを数値面からも分析していくことが重要です。ベンチマーク分析も有効です。
  • ここまでくると、対象企業の強みが明らかになってくると思います。次に、その強みがどのように生かされているのか、言い換えると、その強みによってどのように競合に対して売り上げや収益の視点で優位性を構築しているのかを明確にします。繰り返しになりますが、いくら高い技術力がありそれが強みとなっていても、その技術を活かした製品、さらにその製品を販売する販路がきちんと構築されていないと競争力を発揮することにはなりません。ここではロジックツリーなどを用い、強みと競争力の関係性を整理することが有効でしょう。ロジックツリーを用いて整理することで、それまで気付いていなかった強みや競争力が浮かび上がることもあります。ここでも時間軸を意識することが求められます。競争力が今のものなのか、将来期待できるものなのかは明確に区別する必要があります。

今回は企業/事業の競争力について考えてきました。DDにおいて、明確なロジックがない状態で「競争力がある」と言ってしまうことは最終的な判断に大きな影響を及ぼします。上記のように段階を踏んで競争力の有無、競争力の源泉を明らかにすることが求められます。そのためには事業構造をしっかりと把握することが重要です。第3回でみてきた事業構造分析を念頭に競争力の分析を進めるべきでしょう。

次回は経営力について考えていきたいと思います。いくら優れた事業であっても経営力の有無で、成功を収めるか否かが決まります。M&Aを実行する際に、DDで対象企業の経営力についても把握しておくと、PMIがスムーズに進むことにつながります。特に最適なガバナンス構築、シナジーの獲得などには対象会社の経営力の把握は欠かせません。次回、経営力という視点からPMIとのつながりについても記載していきたいと思います。

このコンテンツはPwCアドバイザリー合同会社のプロフェッショナルによるM&A情報・データサイトMARR Onlineへの寄稿記事です。詳細はこちらからお読みください(要登録/無料)。なお、執筆者の肩書などは執筆時のものです。

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