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プライベート・エクイティ:主要プレーヤーがM&Aの新たな現実にどう対応しているか
市場の変動や政策の不確実性が続く中でも、PEおよびプリンシパル・インベスター(自己資金を用いて投資する投資家)によるM&Aへの強い意欲は継続しています。収益性が高く、ファンダメンタルズが堅固で、業界の追い風がある企業は依然として投資家の関心を集めていますが、ディールメイカーはより選別的になっており、時には案件の検討を一時停止することもあります。
最大規模のPEファンドの一部は、米国の不確実な環境を逆手に取って欧州などの海外へ展開することで脆弱性を補完し、自社およびポートフォリオ企業へのプレッシャーを軽減しています。また、関税によって起こり得るサプライチェーンのリスクや複雑化といった、マクロ経済や地政学上の不確実性に対応することもその作業に含まれます。ソブリン・ウェルス・ファンドも欧州やその他の地域で活動を活発化させています。
また、大型ファンドはAIを活用して業務効率を向上させており、ポートフォリオ企業向けにAI導入の青写真を描く動きも見られます。AI技術の進化と利用範囲の拡大に伴い、M&AにおけるAIの役割は今後さらに大きくなると予想されます。これは米国に限らず、グローバルな現象です。中東やアジアなどのソブリン・ウェルス・ファンドは、AIの膨大なエネルギーインフラ需要に対応するため、PEプレーヤーと連携して多額の資金を投入しており、この傾向は今後も続くとみられます。
「確信を持てるディールは継続しつつも、最大手のプライベート・キャピタル・プレイヤーは現在の不確実な市場で足元を見つめなおし、効率性と能力を高め、市場が本格的に回復した際により強い立場で臨めるようにしています」
Eric Janson、PwC米国、パートナー、グローバルPE、プリンシパル・インベスター・リーダー2025年第1四半期のPEによるバイアウトは、件数、金額ともに前年同期比で増加しました。ディール件数は4,462件から推定で4,828件に、ディール金額は2024年第1四半期の3,540億米ドルから4,950億米ドルに増加したと予測されています。初期データによると、2025年第1四半期に見られた上昇傾向は第2四半期にも続いているものの、やや緩やかになっているようです。PEは2025年最大級のM&A案件の1つにも関与しており、2025年4月にはGTCRが、保有期間2年未満の決済処理企業Worldpayを、Global Paymentsに242.5億米ドルで売却することを発表しました。
一部のケースでは、エグジット戦略の実行が困難な状況が続いています。しかし、PitchBookのデータによると、2025年第1四半期におけるPEによるエグジット件数は前年同期の820件から83件増加し、903件となりました。エグジットの金額も増加しており、2024年第1四半期の1,660億米ドルからほぼ倍増し、2025年第1四半期には3,020億米ドルに達しました。この成長の一因として、セカンダリー取引やコンティニュエーション・ファンドの利用が増加していることが挙げられます。これらは、資本の回収を望む投資家に流動性を提供する一方で、他の投資家が自身の投資を継続し、ポートフォリオ企業の将来的な成長に参加し続ける機会を与えます。エグジット活動が増加しているにもかかわらず、ポートフォリオ企業の在庫は依然として増加傾向にあります。PEファームにとって資金調達は依然として困難であり、資金は主にパフォーマンス上位のジェネラル・パートナーに流れています。ただし、政策の不確実性が緩和されれば、PEのエグジット案件のパイプラインは徐々に緩和され、M&Aの活性化につながると予想されます。
米国市場は、貿易政策の方向性に対する不確実性、予想を上回る金利の上昇、そして一部で続く規制の逆風により、慎重な姿勢が目立っています。米国では市場の一部規制緩和が進み、M&Aにとって追い風になると広く予想されていましたが、期待されたほどの規制緩和は実現しておらず、連邦取引委員会(FTC)は引き続き大型案件に対する精査を続けています。例えば、2025年3月には、保険仲介会社AssuredPartnersの134.5億米ドルの買収を進めているArthur J. Gallagherに対し、FTCが追加情報を求めました。
米国外では、PEファームやプライベート投資家(ファミリーオフィスやソブリン・ウェルス・ファンドなど、自らの資本を直接資産や企業に投資する主体)の活動が複数の市場で活発化しています。例えば日本では、低金利と株主アクティビズムの高まりを背景に、大手企業や商社がポートフォリオの見直しを進め、ノンコアアセットの売却を進めています。これにより、魅力的なディール機会が生まれ、PEやプリンシパル・インベスターの関心を集めています。欧州は、米国に比べて相対的に低いバリュエーションや、主要国での政府支出の増加(特に防衛やインフラ)から生じる新たなビジネスチャンスを背景に、引き続き投資家の関心を集めています。他の PE の例では、Blackstone Groupが、今後10年間で欧州に少なくとも5,000億米ドルの投資を見込んでおり、欧州全域の企業への主要な貸し手となり、大規模なインフラディールや買収の機会を狙っていると述べています。
PEとプリンシパル・インベスター双方にとってのもう一つの大きなテーマは、プライベート・クレジットの継続的な成長です。大手PE投資家の中には、ここ数年で機能を強化し、その過程で戦略的買収を行った企業もあります。例えば、2023年11月のTPGによるAngelo Gordonの買収、2024年9月のBrookfieldによるCastlelakeへの戦略的投資、2024年12月に発表されたBlackRockによるHPS Investment Partnersの買収案などが挙げられます。詳細は後述しますが、プライベート・クレジットは 、レバレッジド・ローンの代替手段としてだけでなく、ストラクチャード・デット・インストルメントとしてより広く利用されるようになってきています。
ポートフォリオ企業のためのAI推進計画。大規模言語モデルに基づく生成AIの急速な普及により、オーナー/オペレーター型ファンドは自社およびポートフォリオ企業の業務効率を向上させる新たな機会を得ています。一部のファンドでは、特定の機能に対してAI活用の青写真を描き、それをポートフォリオ全体に展開可能な形で構築しています。特に顧客対応のコールセンターでは、AIによって応答時間の短縮と精度向上が図られています。また、顧客データの整理と活用を目的としたナレッジマネジメントにもAIが活用されており、企業がより迅速かつ効率的にデータと対話できるようになっています。さらに、ソフトウェア開発分野でもAIの内部展開が進んでおり、スケールメリットと標準化の実現が目指されています。
こうした取り組みは複数の大手ファンドで進行中ですが、公に言及している例は少数です。例外として、Brookfieldは全ポートフォリオから選択的にAIを投入して、売り上げと利益率を向上させていることを詳細に説明しています。Brookfieldの住宅インフラポートフォリオに含まれるEnercareとHomeServeは、家庭用配管、暖房・冷房、電気システム製品などを提供する企業で、年間360万件の修理依頼のうち約45%を占める修理相談のコールセンターの自動化のために、AIを活用しています。AIボットは、予約のスケジューリングなどの定型業務を担い、人間のオペレーターがより価値の高い顧客対応に集中できるようにしています。Brookfieldによると、AIボットの導入により通話時間は15~20%短縮され、顧客満足度が向上。さらに、人間の営業担当者の効率的な配置により、販売件数、アップグレード、顧客維持率が約25%増加しました。
大手ファンドは、ディールプロセスの精度向上にもAIを活用しています。投資チームは、高度な推論エンジンを備えたAIリサーチエージェントを導入し、案件発掘、初期ブリーフィング、投資仮説の明確化を支援しています。さらに、一部の大規模ファンドでは、投資委員会の質疑をシミュレーションしたり、シナリオ分析を行うために仮想投資委員会の「ペルソナ」やAIアドバイザーを作成しています。これらのAIソリューションは、過去の多数のディール(通常50件以上)の履歴データを分析し、焦点を絞った投資モデルを構築、主要リスクを特定し、投資委員会レビューに向けてチームを効果的に準備させる役割を果たしています。
Value in motion:セクターの垣根を越えて成長を生み出すPE
2025年のM&A見通し(1月発表)では、テクノロジー企業、エネルギー企業、インフラ企業が連携して新たなデータセンターを構築・稼働させ、増大するAI需要に対応する中で、プライベート・キャピタルが重要な資金源として大きな役割を果たしていることが取り上げられました。
この変革の中心にあるのがプライベート・キャピタルです。多様な業界を結び付け、豊富な資金を動員し、柔軟な資金調達手段を構築できる能力があるためです。世界的には、ソブリン・ウェルス・ファンドや主要投資家がこの業界融合の流れにおいて重要な役割を担っており、大規模なデータセンタープロジェクトにも関与しています。例えば、xAI、Kuwait Investment Authority(クウェート投資庁)、Temasekは、BlackRockやMicrosoftなどが2024年9月に設立したAIインフラパートナーシップに参加する計画を最近発表しました。このパートナーシップは、データセンターおよび関連する電力インフラへの投資を目的としています。一方、サウジアラビアはソブリン・ファンドであるPublic Investment Fundを通じて、中東地域のAI能力強化を目的とした大規模なAIイニシアチブ「HUMAIN」を開始しました。さらに、中東およびフランスの投資家が提携し、欧州最大規模となるAIキャンパスをパリに建設する計画も進行中です。
エネルギー分野でもパートナーシップの動きが見られます。例えば、NextEra Energyは、GE Vernovaと新たな枠組み協定を締結し、再生可能エネルギーと蓄電とを組み合わせた天然ガス発電プロジェクトの開発を進めることを発表しました。
また、他の形の業界融合としては、テクノロジー企業とヘルスケア、金融サービス、自動車産業などとの連携が進んでいます。このような業種横断的な取り組みは、私たちはエネルギー供給をどのように行うか、建設をどのように行うか、ヘルスケアをどうするか(how we power, how we build, how we care(英語)*1)の「私たち」という表現に示されるように、人間中心の中核的な活動を軸に集約され、新たな価値の源泉が生まれていることを示しており、グローバル経済における構造的な変化を物語っています。
*1 PwCのグローバル戦略「Value in Motion」や「The New Equation」に関連する6つの変革領域の一部であり、社会や産業の再構成に向けた重要な視点を示す。
このような業界融合のテーマを示す最近の取引例としては、Bain CapitalによるHealthEdgeの買収発表があります。HealthEdgeは、保険者、医療提供者、患者をエンド・ツー・エンドのデジタルソリューションでつなぐ次世代SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)プラットフォームです。また、Cotiviti(KKRおよびVeritas Capitalが支援するデータ主導型ヘルスケアソリューション企業)によるEdifecs(TA AssociatesおよびFrancisco Partnersが支援する医療データ運用企業)の買収、TPGが企業向け決済会社Corpayと提携して行った、AvidXchange(買掛金自動化ソフトウェアおよび決済ソリューションの提供企業)の買収、Main Capital Partnersによる、オランダの自動車業界向けソフトウェア企業UnameITへの投資発表などがあります。
プライベート・エクイティの新たなリテール戦略:退職金プラン
2024年中間期のM&A見通しでは、主要なプライベート・キャピタル・ファンドがリテール投資家の獲得に向けた取り組みを強化していることを強調しました。新たな注力分野として、米国の個人向け401(k)退職プランを通じてリテール投資家を惹きつける動きが挙げられます。
複数の大手PEグループが最近、401(k)向けに設計されたファンドや類似の投資商品を立ち上げています。KKRはCapital Groupと提携し、クレジット戦略に特化した2つのインターバル・ファンドを立ち上げました。現在、モデル・ポートフォリオやターゲット・デート・ファンドなどの仕組みを通じて、個人がプライベート市場にアクセスできるようにする取り組みが進められています。このようなタイプのファンドは、PE商品を一般投資家向けに提供する際の複雑さのひとつ、すなわち「同時に大量の解約が発生した場合の対応」に対処するために設計されています。具体的には、投資家が売却できるタイミングに一定の制限を設けることで、こうしたリスクを緩和しています(このため「インターバル・ファンド」と呼ばれます)。
2025年4月、Apolloと資産運用会社State Streetは、投資家が自身の401(k)ポートフォリオの最大10%をプライベート市場に配分できるファンドを立ち上げました。翌月には、米国で2番目に大きい401(k)プロバイダーであり、1,900万人分・1.8兆米ドルの401(k)プランを管理するEmpowerが、プライベート投資ファンドの運用会社およびカストディアンと提携し、一部の退職プランにおいてプライベート・クレジット、プライベート・エクイティ、不動産投資を提供することを発表しました。
規制の流れもこの動きに追い風となっているようです。メディア報道によると、トランプ政権は、PEやその他のプライベート・キャピタルへの投資を401(k)退職プラン内で認める方向で、SEC(米国証券取引委員会)を含む連邦機関に対して検討を指示する大統領令を考えているとされています。これにより、現在、PEへの投資の導入に対する大きな障壁となっている「法的責任リスク」が取り除かれる可能性があります。
市場規模の急速な拡大:過去15年間におけるプライベート・クレジットの成長は、急速かつ革新的でした。現在、世界全体で運用資産は約2兆米ドルに達しており、プライベート・クレジットは従来のレバレッジドローン(銀行による融資)と真っ向から競合し、着実に市場に浸透しています。投資家の関心は衰える気配を見せていません。PitchBookのデータによると、2024年には上位5つのプライベート・クレジット・ファンドがそれぞれ100億米ドル以上を調達し、合計で770億米ドルに達しました。
ダイレクトレンディングを超えて拡大:プライベート・クレジットは世界的に成長する中で、その形態も変化しています。当初は、投資ファンドなどのノンバンクによる企業向けの直接融資(ダイレクトレンディング)として始まりましたが、現在では、債務バリューチェーンのさまざまな段階に対応する形で幅を広げています。具体的には、案件の発掘、起案、引き受け、ストラクチャリング、販売、流通までを対象とするようになっています。最近の取引の中には、従来の単純な債務取引というよりも、ストラクチャードファイナンスに近いものも見られます。例えば、2025年6月には、Carlyleのグローバル・クレジット・プラットフォームが、保険仲介会社Trucordiaに対して13億米ドルの戦略的投資を行うことで合意しました。この取引により、Trucordiaのレバレッジが軽減され、既存の少数株主からユニットを買い戻すことでガバナンス構造が簡素化される見込みです。また2025年6月、KKRはインドのコングロマリットであるManipal Groupに対して、同グループの事業拡大と成長目標を支援するために、柔軟な構造を持つ6億米ドルの資本を提供することを発表しました。この動きは、2024年11月にシンガポールのTemasekがManipal Health Enterprisesの41%の株式を約20億米ドルで取得したことに続くものです。
貸し手にとっての構造的柔軟性の向上:プライベート・クレジット・ファンドは銀行よりも規制が緩やかなため、投資適格未満の借り手を含む、より多様な担保を受け入れる柔軟性があります。資本構造の中でもリスクの高いトランシェに焦点を当てることで、これらの貸し手はより高いリターンを狙うことが可能になります。一部のプライベート・クレジットの貸し手は、ペイメント・イン・カインド(PIK)や、株式連動型金融商品を受け入れることで、利回りと選択肢の幅を広げています。
借り手にとっての柔軟なメリット:借り手にとっても、プライベート・クレジットには大きな利点があります。たとえば、ニーズに合わせて設計された融資、希薄化を伴わない資金調達、そして迅速な資金アクセスが可能になる点です。多くの企業が取引や事業運営のために資金を必要としている中で、プライベート・クレジットの新しい形態が登場しています。例えば、ファンドが少数株主として出資するケースがあり、これは転換型優先株式のような性質を持ちます。このような仕組みにより、貸し手は債務のように固定リターンを得ながら、一定の条件下で株式に転換するオプションを持つことができ、債務のように、ダウンサイドへのリスクを抑えながら、株式のようにアップサイドの恩恵を受けることができます。
ハイブリッド型クレジット・ファンドの登場:こうした変革が進む中で、新しいタイプのファンドが成長しています。例えば、2024年9月にはWarburg Pincusが、債務、優先株式、資産担保型ファイナンスを組み合わせて企業に資金を提供するストラクチャード投資戦略に特化した初のファンドをクローズしました。この新しいファンドは、当初の目標額20億米ドルの2倍となる40億米ドルでクローズされました。また、Carlyle Groupは2024年12月に第3号ファンド「Carlyle Credit Opportunities Fund III」をクローズし、71億米ドルの投資可能資金を確保しました。
市場の成熟に伴う監視の強化:プライベート・クレジットの急速な成長は、一部で懸念も生んでいます。国際通貨基金(IMF)もその脆弱性について警鐘を鳴らしています。多くのクレジット・ファンドは、まだ完全な信用サイクルや深刻な市場の下落を経験しておらず、大きなストレス下やディストレス資産の管理において、これらのファンドがどのように機能するかは不透明な部分が残っています。機関投資家やリテール投資家の参加が増える中で、これらのファンドには、透明性の向上と投資家保護の観点から、より厳格な規制の目が向けられつつあります。
金融市場が不安定さを持ちつつ変動する中、PEやプリンシパル・インベスターは、依然として控え目ながらもM&Aを推進する原動力として台頭しています。企業が変革を迫られている状況や、バリュエーションや金利の動向に対する不確実性を踏まえると、さらには業界間の融合が進み、テクノロジーがグローバルなビジネス環境を再定義し続ける中にあっては、今後数カ月のM&A活動において、PEおよびプリンシパル・インベスターが中心的な役割を果たす可能性が高いと考えられます。ドライパウダー(投資家から調達したものの投資に回されていない投資待機資金)が過去最高水準またはそれに近い規模にある中で、PEおよびプリンシパル・インベスターは、果断な行動を取るのに絶好の体制が整っており、そのため今後数カ月から数年にかけて、彼らはM&Aの案件創出をけん引する強力な存在となるでしょう。
※本コンテンツは、PwC米国が2025年6月に公開した「2025 mid-year outlook Global M&A trends in private equity and principal investors」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。