2025年上半期最新情報

不動産業界における世界のM&A動向

Global M&A trends in real estate and real assets hero image
  • 2025-08-05

世界の不動産およびリアルアセット市場における動向の相違が、国際市場を含め、新たな投資機会を生み出しています。

By Tim Bodner

動き出した資本:不動産投資家は成長のためにどこに軸足を置くのか?

不動産および実物資産の投資家は依然として資本の投入に意欲的ですが、2025年初頭のディールメーカーや業界全体が感じていた楽観主義はやや後退しました。その代わりに、一部の市場参加者の間では、金利やGDP成長率、予測不能な貿易政策といったマクロ経済要因の不確実性に起因する、より慎重な「様子見」の姿勢が強まっています。それでも、新たなトランスフォーメーションのチャンスは数多くあり、日本やインドから中東に至るまで、一部の国際市場が投資家の注目を集めています。

2025年第1四半期の世界の不動産取引件数は、伝統的なアセットクラスと開発アセットを対象に、主に米州とアジア太平洋地域、特に米国での力強い投資活動に牽引され、前年同期比で3%増加しました。しかし、取引件数および取引金額は第2四半期には減少するものと予想され、年末にかけて低調に推移するかもしれません。2025年後半を見据えると、投資家による市場のファンダメンタルズ(基礎的な要因)への注目の高まりは、世界的な資本再配分と相まって、不動産M&Aの主要な投資先として国際市場がますます重視されると予想されます。

2025年上半期の不動産M&A活動の鈍化は、投資家の需要の低迷の結果ではなく、また、今年の残りの期間を示唆し得る指標でもないと考えています。実際、不動産投資の勢いはすでに高まっており、Preqinの「Investor Outlook: H1 2025」によると、不動産投資家の34%、インフラ投資家の37%が今後12カ月のうちに資本コミットメントを増額する予定となっています。

2025年に不動産業界およびリアルアセットにおけるM&Aを促進する主なテーマ

キャップレート圧縮の時代は終わりを迎えたのか

不動産投資家が「キャップレート圧縮」(物件価値に対するNet Operating Income、NOIの割合が市場全体で低下すること)を利用してリターンを得ることは、構造的およびマクロ経済的な変化により著しく減少しています。中でも、米国における長期金利の上昇は、資本コストを上昇させ、固定収益型の債券オルタナティブ商品の魅力を高め、結果的に買い手が上乗せ価格を支払う意欲を減退させました。特にオフィスや一部の小売などの不動産価値が安定または低下している市場では、投資家はもはや受け身の保有戦略や市場主導の価値上昇に頼ることができなくなっています。その代わりに、実質的なNOIの成長に焦点を当てた運用価値の創造に軸足を移す必要があります。より実践的なアプローチには、ポートフォリオの効率性向上や、賃貸借(リーシング)の最適化、物件のリポジショニングといった戦略の実施が含まれます。

その結果、不動産M&Aは、運用面での上昇余地、プラットフォームの効率化、リポジショニングの機会を提供するといった戦略的買収を求める投資家によってますます推進されています。

立地が重要性を増すリアルアセット

投資家は、持続的な賃料上昇と底堅い需要を支える強固なファンダメンタルズを持つアセットクラスや地域を優先しています。世界的に見て、コア不動産セクターへの需要はもはや一様ではなく、投資家は各アセットクラスとその地理的な位置の相対的な魅力を再評価しています。このようなトレンドが各アセットクラスでどのように影響するかを理解することで、世界の資本がどこに、なぜ流入しているのか、またその洞察を得ることができます。

  • オフィス:オフィスセクターは世界的に最も顕著な乖離を示しています。欧州とアジア太平洋の一部、特に東京、パリ、シドニーなどの都市では、オフィス需要が回復しています。この回復の主な要因は、投資家が一等地の高品質ビルを求める「質への逃避」です。一方、米国のオフィス市場は地域によって状況が異なり、一部ではリーシング活動に苦しむ地域がある一方で、改善の兆しを見せる地域もあります。すべての市場に共通して言えるのは、現代の職場基準やテナントのニーズを満たさない建物は、陳腐化リスクを高め、ひいては投資家にとっての不確実性を高めることになります。
  • 集合住宅:集合住宅セクターは、世界的に投資家の関心を集め続けています。このセクターは、レジリエンス(回復力)、安定した収益、住宅需要の強さにより高く評価されています。最近では、アジア太平洋地域や南米への拡大が進んでおり、長期的な可能性を持つ未投資市場への信頼が高まっています。投資家の関心は、集合住宅と同様の構造である学生向け住宅、高齢者向け住宅、共同生活型住宅など、集合住宅に隣接するセグメントにも広がっています。
  • 小売不動産:小売不動産セクターは変革期を迎えています。投資家の関心は数年間低下していたものの、特に高品質で体験重視の施設において復活の兆しを見せています。ヨーロッパでは、一等地における人通りが回復し、パフォーマンスの向上に寄与しています。オムニチャネル戦略、ラストマイル物流、消費者データの洞察と分析を効果的に統合できている施設は、同業他社をしのぐパフォーマンスとなっています。同時に、ライフスタイル、利便性、体験型小売に焦点を当てたニッチなセグメントが、魅力的な投資機会として台頭してきています。
  • 産業用不動産:グローバルな産業用不動産セクターは転換点にあります。貿易摩擦の激化や米国の関税政策案により、リショアリング(国内回帰)やニアショアリング(近隣国移転)戦略が加速しており、投資家はサプライチェーンの再評価と既存産業アセットの活用方法の見直しを迫られています。先進アジア地域や欧州の一部では産業施設の建設活動が継続しており、セクターのファンダメンタルズに対する信頼感を高めています。一方で、データセンターセクターは急速に拡大しているものの、地域によってばらつきがあります。欧州全域では開発活動が急増している一方、米国では貿易政策の転換により一部調整が進んでいます。これらの要因により、従来型の産業アセットと新興のデジタルインフラの両方において、投資家の優先順位が変化しつつあります。

成長を追い求めて:不動産資本は米国を超えて動く

歴史的に、米国の不動産市場は国内外の投資家にとって資本投入の主要な目的地とみなされてきました。しかし、米国の貿易および金利政策の変化、そしてそれらが米ドルに与える影響により、投資家は短期的に投資対象を拡大し、よりグローバルなアプローチを取るようになっています。市場のファンダメンタルズがこれらの投資戦略をますます形成しており、資本は金利政策が有利で、人口動態が良好で、成長の可能性が高い地域へと流れています。

主な検討事項は以下のとおりです。

  • 資本コスト:過去数カ月間で、日本銀行が金利を引き上げ始めた一方で、他の国々は金利を引き下げる措置を講じています。このような世界的な金融政策の乖離は、地域ごとの資本コストの違いを生み出しており、投資家はより低金利でより良いリターンが得られる市場を求めて資本配分を決定しています。
  • 投資期間:不確実性の高まりと資本集約型の不動産およびインフラプロジェクトへの関心の高まりの中で、投資家は価値創出のサイクルが長期化することを見越して投資期間を延長しています。
  • 好ましい人口動態:特にアジアや中東において、急速な都市化と富裕層の増加が進む市場では、住宅やオフィス物件の需要が高まっており、それが小売業や産業用不動産の需要も押し上げています。

「高成長市場は、単にグローバル不動産の物語の一部ではなく、そのペースメーカーとなっています。世界の投資家は、インド、日本、中東をしっかりと視野に入れながら、グローバルポートフォリオを積極的に形成しています」

Tim Bodner、PwC米国、パートナー、グローバル不動産ディールズリーダー

スポットライト 注目すべきM&A市場

日本、インド、中東への投資家の関心は引き続き高まっており、最近の取引動向は、2025年後半以降に向けて、これらの高成長市場を形成する強力なトレンドが浮き彫りになっています。

日本:低金利と高い信頼性が不動産M&Aを後押し

日本は、マクロ経済の安定性、低い借入コスト、堅調なファンダメンタルズという稀有な組み合わせを提供する魅力的な不動産市場として、投資家にとって非常に魅力的な存在であり続けています。日本銀行は2024年3月に8年ぶりに金利を0%以上に引き上げましたが、他の主要市場と比べて日本の資本コストは依然として有利です。この環境は、投資家の強い投資意欲を支えており、2025年第1四半期の取引件数は前年同期比で8%増加しました。

投資家の信頼感は、いくつかの大型取引によって裏付けられています。2025年2月には、Blackstoneが東京ガーデンテラス紀尾井町(約240万平方フィートの複合施設)を4,000億円(26億米ドル)で買収しました。同月、Gaw Capital Partnersは東急プラザ銀座(50,093平方メートルの小売アセット)を10億米ドル超で買収しました。

今後は、住宅、オフィス、ホテルアセットが引き続き投資家の関心の中心であることが予想されます。住宅およびオフィスセクターでは、供給の制約と安定した需要により賃料のさらなる上昇が見込まれています。一方、日本の観光業も成長を続けています。世界経済フォーラムのデータによると、日本政府は2030年までに年間6,000万人の訪日観光客の誘致を目指しており、これは2024年比で約60%の増加です。この訪問者数の急増は、ホテルセクターの旺盛な需要を促進し、今後数年間で平均客室単価(ADR)の上昇を後押しする見込みです。

成熟した不動産市場、都市の高密度化、世界的な不安定性の中での相対的な安全性という特徴を持つ日本は、2025年以降も不動産資本の主要な投資先であり続けるでしょう。

インド:グローバル投資家にとって不動産は大きな賭けとなるのか?

インドの不動産セクターは、都市化の進展、富裕層の増加、拡大する中間層といった人口動態のトレンドに支えられ、住宅、オフィス、ホスピタリティといったアセットクラス全体で力強い成長軌道を維持すると予想されています。西側諸国からの調達資本は高金利の影響で依然としてコストが高いものの、Reserve Bank of India(インド準備銀行)が金融緩和に転じたことで、国内資本の供給が拡大し、投資活動が活性化しています。

インドの活況は、最近の動向にも反映されています。例えば、Blackstone(米国)とSattva Group(インド)の合弁事業であるKnowledge Trust REITの新規株式公開(IPO)が予定されており、620億インドルピー(約7億1,000万米ドル)の調達を目指しています。このREITのシードポートフォリオは、インド6都市にまたがる30物件、総面積4,810万平方フィートのAクラス級のオフィスで構成されており、インドの商業不動産のファンダメンタルズに対する強い信頼を示しています。

このような好条件により、2025年後半以降、国際的な投資がさらに増加すると見込まれています。Preqinの「Investor Outlook: H1 2025」によると、約40%の投資家がインドを新興市場の中で最も魅力的な投資先と評価しています。この関心の高まりは、中国からの資本移動、インドの規制環境の好ましい変化、そしてインドの成長可能性に注目する日本の投資家の増加によるものです。

さらに、インド政府はインフラ投資を継続しており、2026年の資本支出予算を10%増加させ、鉄道、道路、電力分野に重点を置いています。ただし、インドが先進国からの資本の投資先としての地位を確立するには、8%のGDP成長率を持続する必要があり、これは世界的なマクロ経済の影響によって逆風を受ける可能性があります。

中東:トランスフォーメーションが不動産資本を引き寄せる

中東は、大規模なインフラプロジェクト、観光の成長、野心的なスマートシティ構想によって、国内外の投資家から強い関心を集め続けています。地域のソブリン・ウェルス・ファンド(政府が運営する投資ファンド)や富裕層は、グローバルな不動産市場で依然として活発に活動していますが、2025年下半期には外国人投資家が中東市場に参入する新たな機会が生まれています。

2025年5月、Brookfieldはアブダビ拠点のオルタナティブ投資運用会社と10億米ドル規模のジョイントベンチャーを発表し、UAE、サウジアラビア、その他の中東市場における住宅の開発と取得に注力する方針を示しました。この取引は、同地域の成長可能性と長期的な投資先としての魅力を表しています。

中東がこの成長軌道を維持し、国際資本を引き留めるためには、石油市場の安定性が一部の鍵を握っています。地域経済が進化し続け、世界の注目を集める中で、不動産投資家は自身の長期的な開発目標に合致し、安定したリスク調整後リターンを提供するアセットに対して、慎重かつ積極的に投資機会を見極めていくと予想されます。

2025年下半期の不動産業界におけるM&Aの見通し

2025年下半期に入り、世界の不動産業界は変化の波にさらされており、投資機会も変化しています。投資家は、従来の不動産やローカル市場だけでなく、成長が加速し、ファンダメンタルズが堅調なアセットクラスや地域にも目を向けています。このローテーションの中で、日本の観光セクターの急成長、インドの持続的な経済拡大、中東の大規模なトランスフォーメーションの取り組みを背景に、日本、インド、中東が重要な市場として浮上しています。集中力と柔軟性を発揮する投資家は、不動産投資の新たな章で最大の恩恵を受けることができるでしょう。

M&A動向の解説は、業界で認知された情報源から提供されたデータおよび当社独自の調査に基づいています。具体的には、本文で言及している世界および地域の不動産取引額は、2025年5月2日時点でReal Capital Analyticsが提供し、2025年5月14日から23日の間にアクセスした、正式に発表されたディールに基づいています(噂や取り下げられた取引を除く)。

Tim Bodner
PwC米国、パートナー、グローバル不動産ディールズリーダー

※本コンテンツは、PwC米国が2025年6月に公開した「2025 mid-year outlook Global M&A trends in real estate and real assets」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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