2025年上半期最新情報

消費者市場における世界のM&A動向

Global M&A trends in consumer markets hero image
  • 2025-08-05

消費者市場のディールメーカーにとって、静かとは言えない環境の中、「慎重さ」が引き続き求められています。

By Hervé Roesch

テック、関税、テイスト:変化する消費者市場のM&A環境

2025年初頭、消費者市場のディールは着実に回復すると予想され、慎重な楽観論に支えられていました。しかし、持続的なインフレ圧力、予想以上の長期金利の上昇、関税の不確実性が、投資家の確信と消費者心理の両方を弱め、結果としてセクター全体のM&A活動は低調なままです。

このような不確実性の連鎖によって、2025年後半も投資家はより慎重なアプローチを取ると予想されると同時に、慎重さが引き続き求められるでしょう。ディールのタイムラインは長期化が常態化しており、企業がポートフォリオの見直しや戦略の再構築を慎重に進めています。さらに、企業価値評価(バリュエーション)のギャップ(売り手と買い手の認識の差異)も大きな障壁となっています。

「私たちは不確実性の連鎖の中にいるようで、それが消費者心理に重くのしかかっています。消費者市場ではよくあることですが、消費者の声が今後数カ月のM&Aのペースと量に決定的な影響を与えるでしょう」

Hervé Roesch、PwC英国、パートナー、グローバル消費者市場ディールズリーダー

それでも楽観的な要素もあります。消費者市場におけるグローバルなディール金額は注目度の高い取引がけん引する形で、前年比で32%増加しており、これは長期的な消費者需要と規模の戦略的価値が揺らいでいないことを示しています。

事業者は、引き続きポートフォリオの最適化や統合の機会を追求すると私たちは予想しています。プライベート・エクイティ(PE)のエグジット環境は依然として厳しい状況です。PEが支援する消費者セクターにおけるポートフォリオ企業の保有期間が長期化していることと流動性へのニーズが高まっていることから、売り手のタイプ、アセットの質、セクターの動向によって異なる展開が考えられます。

買い手側では、株式市場のバリュエーションが低水準にあることを捉えた非公開化ディールが進み、PEはボルトオン型の取引や、高品質で長期的なアセットに焦点を当てるでしょう。売り手側では、PEが引き続きエクジットの機会を求めてポートフォリオを査定し、優良アセットが売りに出される時に備えています。ただし、業績不振のアセットや関税の影響を受けやすいアセットについては、市況の好転を探って保有期間が長期化する可能性があり、年初に予想されたPEのエグジット増加は抑えられるかもしれません。

デジタル技術は、消費者セクター全体における戦略的なM&A加速の原動力となっています。企業は自社の成長と競争優位性に向けて、統合されたデジタルエコシステムの構築を急いでおり、特にリテールテクノロジー領域は、バリューチェーン全体で収益性の高い成長を実現し(英語)、企業やブランドの差別化の源泉となる可能性を秘めています。小売企業は、マーケティングや顧客エンゲージメントプラットフォーム、POS決済ソリューション、eコマースプラットフォーム、在庫管理、需要計画など、商業とオペレーションの両機能に投資しています。こうした革新的な技術を獲得または保有する企業は、進化する市場環境の中で優位に立つことができるでしょう。

スポットライト インドの消費者市場におけるM&A

2025年のインドにおけるM&Aは力強い成長を遂げており、アジア太平洋地域の中でも際立った存在となっています。インドでは小売エコシステムの変革が進行しており、M&Aはその実現に重要な役割を果たしています。以下のような要因が、特に消費者セクターにおいて、インドを戦略的M&Aや長期投資の魅力的な目的地にしています。

  • 拡大する消費者層:中産階級の増加、良好な人口動態、可処分所得の増加により、インドはグローバルな消費者市場に焦点を当てた投資家における戦略的市場となっています。インフレが賃金の伸びを上回ることで消費にも影響を与えていますが、インド準備銀行が発表した2025年の消費者信頼感調査では、現在および将来の消費者見通しの両方が改善していると報告されています。支出、所得、物価水準、経済状況など、全てのカテゴリーで信頼感スコアが向上しています。
  • 直接投資(FDI):インドでは、消費財製造、小売、eコマースなど多くの消費セクターで100%のFDIが認められています。
  • 規制環境:近年、インドは規制を緩和し、よりビジネスフレンドリーな姿勢を採用することで、国際基準との整合性を高めています。
  • チャイナプラスワン戦略の恩恵:繊維、家電、皮革製品、玩具などの消費財・消費財派生セクターにおけるインドの製造業者は、サプライチェーンの転換や多様化を目指すグローバル企業にとって、中国の代替または補完となる低リスクの選択肢となっています。さらに、成長するデジタルインフラやインド政府の生産連動型インセンティブ(PLI:Productivity Linked Incentive)制度も投資家を惹きつけています。
  • 米国の関税:米国の関税に関して、インドの消費者市場の貿易は、中国、ベトナム、台湾、バングラデシュなどに比べて比較的有利な立場にあるようです。

事業再編がM&Aを促進
2025年後半にインドの消費者市場で予想される主要なテーマの一つは、大手企業間の再編です。特に日用消費財(FMCG:Fast-Moving Consumer Goods)セクターでは、大企業が市場でのプレゼンスを強化し、商品ラインを多様化するために、戦略的スタートアップ企業の買収を目指しています。それを示す最近のディール事例は、Hindustan Unilever Ltdが2025年1月に発表した美容ブランドMinimalistの買収、ITCが2025年2月に発表した冷凍食品メーカーPrasumaの買収、2025年4月に発表したインドのベビーケアブランドMother Sparshへの出資拡大などがあります。

国際的な投資家を惹きつける消費セクター
グローバルPEや戦略的投資家による、インドの消費者関連企業(現代的なものから伝統的なものまで)への強い関心は、2025年後半以降も続くと予想されます。例えば、Temasek、Alpha Wave Global、International Holding Companyはいずれも、最近の投資ラウンドの一環として、インドの有名なスナック・菓子メーカーに投資を行いました。また、複数のグローバル投資家が、インドのeコマース企業Meeshoの最近の5.5億米ドルの資金調達ラウンドに参加しました。

進化するインドの小売事情
インドの小売セクターでは、組織小売(ライセンス取得済み、規制対象、専門的に管理された企業)と非組織小売(非正規の小規模・家族経営企業)が共存しています。組織小売はより速いペースで成長すると予測される一方で、非組織小売は価格への敏感さと地元との関係が依然として重要とされる半都市部や農村部の市場で引き続き成長しています。組織小売の成長は、消費者への直販(D2C)や地域ブランドの台頭、仲介業者を介さない価値提供の重視、全国の消費者により多くの品目と利便性を提供するためのテック強化型流通など、複数のトレンドが相互に関連しながら推進されています。

こうした傾向はeコマースにおいて顕著
人口統計学的要因(第1都市の大都市圏に次ぐ第2、3、4都市における大規模な消費者基盤の拡大を含む)、テクノロジーの普及(スマートフォンの利用率やインターネットの普及率の向上など)、インドのデジタル決済インフラの進化、ロジスティクスの進歩は、全てこの急成長に寄与しています。

最近のディールメーキングの動きは、インドのeコマースセクターにおける再編と戦略的拡大の傾向を浮き彫りにしています。テクノロジー企業は、技術機能の強化、ユーザー基盤の拡大、市場ポジションの強化のために買収を活用しています。例えば、2025年2月、インドのeコマース企業Flipkartが支援する統合決済インターフェース(UPI)プラットフォームであるsuper.moneyは、同社のテクノロジースタックと開発者機能へのアクセスを目的として、オンライン決済時の金融プラットフォームであるBharatXの買収を発表しました。

消費者市場における世界のセクター別M&A動向

2025年下半期において、消費者市場の各セクターでM&A活動を促進すると予想される主要なトレンドは以下のとおりです。

食品・飲料セクターは、事業者やPEからの継続的な関心に支えられ、依然として高いレジリエンスを維持しています。消費者の嗜好の変化、ESGに起因する規制圧力、商品価格の上昇が業界全体に影響を与え、バリューチェーン全体の再構成を促しています。FAO食料価格指数は、世界的に取引される一連の食料品の国際価格の月次変動を追跡するもので、2025年5月の平均は127.7ポイントで前年同月比6%上昇したものの、2022年3月に達したピークを20.3%下回りました。

2025年6月に発表された最新の「Voice of the Consumer Survey(英語)」では、消費者は健康、利便性、サステナビリティに対する考え方に沿った食品を購入したいと考えていることがわかりました。しかし、食品価格の高騰と生活費の上昇が、その願望の実現を妨げています。

33%

の消費者が、食品ブランドを変更する際に「健康上のメリット」を最も重要な要因の1つとして挙げています。

出典:PwC’s Voice of the Consumer Survey, 2025


この健康志向の高まりは、食品・飲料企業にとって「より体に良い」製品を提供する機会を生み出しています。例えば、飲料セクターでは、アルコール飲料の需要が減少し、より健康的な選択肢への需要が増加しています。2025年3月に発表されたPepsiCoによるプレバイオティック・ソーダ・ブランド「poppi」の買収は、消費財企業がイノベーションと戦略的買収を通じてポートフォリオを進化させている好例です。

消費者の健康志向や環境への配慮の高まりは、戦略的なポートフォリオの見直しを促し、進化するニーズに合致するブランドの買収や企業のコアバリューに合わなくなったブランドの売却につながっています。

パーソナルケアセクターはPEの関心と事業者主導の再編が相まって、活発な動きを見せています。例えば、KKRが2025年4月に発表したEQTからのコンシューマーヘルス企業Karoの買収意向やPersánが2025年3月に発表したMibelle Groupの買収は、欧州におけるパーソナルケアの受託製造とプライベートブランドの地位を強化するものです。Unilever が2025年4月、プラスチックフリーで詰め替え可能な包装を提供する英国の自然派パーソナルケアブランド Wild を買収した事例が示すように、消費者にとってはサステナビリティも重要なテーマです。

2025年後半から2026年にかけて、パーソナルケアセクターに対する投資家の関心は堅調に続くと予想されており、好調な消費者動向と非常に細分化されたブランド市場がその背景にあります。

美容セクターでは、既存のポートフォリオに追加するブランドの厳選された買収が期待されます。例えば、e.l.f. Beautyは2025年5月、ブランドポートフォリオをさらに強化するため、Hailey Bieber氏が設立したライフスタイルビューティーブランドであるrhodeの買収を発表しました。

2025年下半期のアパレルセクターのM&Aの見通しは、「活発だが選別的」という表現がふさわしいでしょう。最近注目されたディールの例としては、3Gによる Skechersの買収、Authentic Brandsによる Levi’s からの Dockersの買収などが挙げられます。こうしたディールは、有名ブランドに対する買い手の意欲とブランドポートフォリオの再評価を進める売り手側の動きが相まって、このセクターでM&Aの機会が引き続き生じていくことを示しています。

食料品小売セクターでは、地理的拡大と市場再編により、引き続きM&A活動が活発化すると予想されます。最近の例としては、デンマークの小売企業 Salling Groupによるエストニア、ラトビア、リトアニアで事業を展開する食品小売企業RIMI Balticの買収、Trial HoldingsによるKKRとWalmartからの日本のスーパーマーケットチェーン西友の買収、オンラインファッション小売企業Zalandoによる競合企業About Youの非公開化などが挙げられます。

WHSmithが英国のPEであるModella Capitalにマス向けの小売事業を売却し、国際的な旅行小売(トラベルリテール)事業に集中できるようにしたように、戦略的なポートフォリオの見直しは、今後も幅広い小売セクターのM&A活動を促進するでしょう。また、Dollar Treeが低価格帯バラエティ事業をBrigade Capital ManagementおよびMacellum Capital Management に売却した例もあります。

2025年上半期には、いくつかの上場企業のディールが発表されました。2025年3月には、消費財・流通・小売関連投資を専門とするPEであるSycamore Capitalが小売薬局のWalgreens Boots Allianceを非公開取引することで合意、2025年5月には、3Gがフットウェア企業のSkechersを非公開取引することで合意、2025年5月には、DICK’S Sporting Goodsがフットウェア・スポーツアパレル小売のFoot Lockerを買収することで合意しました。今後も、上場企業のバリュエーションが抑制されている状況やその他の市場力学により、好機を捉えるM&Aが増加すると見込まれます。

こうした再編、戦略的ポートフォリオの見直し、好機を捉えた非公開化の動きは、2025年から2026年にかけても続くでしょう。

ホスピタリティとレジャーセクターのM&Aの見通しは、慎重ながらも楽観的です。世界観光機関(UN Tourism)の2025年5月の「世界観光指標」によると、2025年最初の3カ月間に3億人以上が海外旅行を行い、前年比5%増となり、年間成長率予測(3~5%)と一致しました。

関税の引き上げや経済成長の鈍化により、オペレーションのコストが上昇し、旅行者が低コストの選択肢を求めたり、近場や代替地域を選んだりする可能性があります。これにより、一部のセグメントでは投資家の関心が下がるかもしれません。全体として、体験型旅行、ウェルネス重視の商品、プレミアムなレジャー体験に対する消費者の需要は堅調に推移すると予想され、下半期におけるM&Aにとっての追い風となりそうです。

最近の M&A 事例は、消費者の嗜好の変化に合わせてポートフォリオの調整を進める取り組みが継続していることを示しています。例えば、スポーツは依然として大きな投資を集めるセクターです。最近行われたBoston Celticsの買収は、ブランド価値の高い希少なアセットが高い価値を持つことを示しています。投資家は、チケット販売、メディア権、スポンサーシップ、グッズ販売を通じて継続的な収益をもたらす、スポーツチームの熱心で忠実な観客に魅力を感じています。

このセクターにおける最近のディールの例としては、Blackstone Infrastructureが、旅行、レジャー、沿岸都市への人口移動による長期的な成長を活用する立場にあるSafe Harbor Marinasを56.5億米ドルで買収したことも挙げられます。価値観の多様化に伴う消費者ニーズへの対応の必要性は、ホテルチェーンの国際的な拡大を加速することを目的とした、PAI PartnersによるMotel Oneの過半数株式の取得が物語っています。

運輸・物流セクターは引き続き大きなボラティリティに直面しています。年明け早々、関税引き上げを予期して貨物量が急増し、4月と5月にはロサンゼルスやロングビーチなどの主要港で貨物量が急減しました。各社はオペレーションを見直し、船隊、設備、人員配置のバランスを調整しています。燃料価格の下落は短期的な安心材料にはなったものの、現在進行中の構造的な変化や、関税や貿易政策を巡る不確実性により、需要の予測が困難になっています。その結果、多くの事業者や投資家は、市場の展望がより明確になるまで、大規模なM&Aを控えています。

ボラティリティが持続し、バリューチェーンと貿易の流れが世界的に再構成される可能性が迫っている中、戦略的な明確さと機会を捉える能力が、セクターのM&A活動を引き続き支えることになるでしょう。

33%

A third of consumers rank health benefits as one of the most important factors in their decisions to switch food brands.

Source: PwC’s Voice of the Consumer Survey, 2025

消費者市場における2025年下半期のM&Aの見通し

果断に行動できる事業者は、「市場がある」ことを示し、バリュエーションの低下や苦境に陥った状況を機会として活用するでしょう。非公開ディールや再編が引き続きM&A活動の大きな原動力になると予想されます。

テクノロジーがあらゆるセクター、特に小売と食品セクターの形を変え続ける中、デジタル機能の統合の重要性が、このセクターへの投資を支えている価値創造の考え方における鍵となるでしょう。

PEは、戦略ファンド、継続ファンド、成長ファンドを活用し、小規模ベンチャーや少数株主を支援するなど、取引ストラクチャーの幅を広げることが期待されます。このような機動性により、 より低いリスクプロファイルでの参加が可能になり、後の段階でコーナーストーン投資家の支援を受けた将来のIPOの舞台が整うことになります。

当面はボラティリティが続くと予想されるため、投資家は静かとは言えない市場で選別的な姿勢を維持すると思われます。ディールメーキングを成功させるには、戦略的思考と巧みな運用能力を組み合わせる必要があります。

M&A動向の解説は、業界で認知された情報源からのデータと当社独自の調査に基づいています。具体的には、本文で言及している金額と件数は、2025年5月31日時点でロンドン証券取引所グループ(LSEG)が提供し、2025年6月1日から4日の間にアクセスされた、正式に発表されたディールに基づいています(噂や取り下げられた取引を除く)。過去の半期との比較を容易にするため、2025年上半期(図表ではH1'25eと表記)のLSEGのディール件数および金額データは、上半期の5カ月間に基づく推定値であり、6カ月間を表すように調整され、報告ラグを考慮するように調整されています。これらの調整により、分析の一貫性が確保され、報告された期間にわたってより良い傾向分析が可能になります。H25e上半期はPwCの予測ではありません。

2025年5月のFAO食品価格指数*(FFPI)データは、2025年6月16日にアクセスした国際連合食糧農業機関(FAO)のウェブサイト(2025年6月6日付)から引用しています。https://www.fao.org/worldfoodsituation/foodpricesindex/en/(英語)

国際到着数の予測成長に関するデータは、2025年6月16日にアクセスした2025年5月27日付の国際連合世界観光機関(UNWTO)の「世界観光バロメーター」から引用しています。
https://www.unwto.org/un-tourism-world-tourism-barometer-data(英語)

本データは、S&P Capital IQおよび当社独自の調査による追加情報で補完されています。PwCの業界マッピングに合わせるため、ソース情報に一定の調整を加えられています。メガディールは50億米ドル以上のディールと定義しています。

Hervé Roesch
PwC英国、パートナー、グローバル消費者市場ディールズリーダー

※本コンテンツは、PwC米国が2025年6月に公開した「2025 mid-year outlook Global M&A trends in consumer markets」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
 

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