2025年上半期最新情報

エネルギー・ユーティリティ・資源分野における世界のM&A動向

Global M&A trends in energy, utilities and resources hero image
  • 2025-08-05

2025年下半期に向けて、エネルギー需要の高まりと加速するトランジション目標に対応する形で、エネルギー・ユーティリティ・資源分野における戦略的M&Aは、「Value in motion」*を実現し続けるでしょう。

By Tracy Herrmann, Chloe Ho and Greg Oberti

未来へのプラグイン:エネルギー安全保障、デジタルインフラ、そして規制の多様化がM&Aを促進する

エネルギー・ユーティリティ・資源(EU&R)セクターは、世界の変革の最前線にあり、この動向が2025年後半以降の本セクターにおけるM&Aの見通しにも引き続き大きな影響を与えるでしょう。電化   、エネルギー安全保障、デジタルインフラの拡充が戦略的M&Aを牽引する一方で、地域ごとの政策の違いや地政学的緊張が課題と機会の両方を生み出しています。短期的には「様子見」ムードが取引の勢いに影響を与える可能性がありますが、2025年上半期には50億米ドル以上のメガディールが9件発表されており、小規模な取引も安定的に続いています。業界の長期的な基盤は堅調であり、企業はポートフォリオの再編や戦略的投資に積極的に取り組むことが求められます。

必要とされる資本支出の規模は前例のないものであり、民間資本の不確実性を軽減するためには新たな政策の導入と政府の継続的な支援が不可欠です。エネルギー安全保障、脱炭素化の義務、デジタルインフラの急速な拡大が重なる中で、行政機関、企業、ファイナンシャルインベスターは協力して進化するインフラ機会を捉える必要があります。

主要市場においては、バリューチェーン全体でのリスクを分散させ、またインフラ投資を支えるために必要な資本を賄う必要性によって、M&A活動が行われています。

以下は、2025年後半から2026年にかけての鉱業・金属、石油・ガス、電力・ユーティリティ、化学セクターにおけるM&A活動の見通しです。

  • 資源ナショナリズムと重要鉱物争奪戦が鉱業セクターの再編と売却を促進する
  • 石油・ガスセクターのM&Aは、埋蔵量の確保と資本支出管理に重点を置く
  • 電力・ユーティリティセクターでは、データセンター、クラウドコンピューティング、AIによるエネルギー需要の増加により、インフラ投資の再配分、送電網のアップグレード、オンサイト発電、蓄電池の導入が加速する。
  • 化学セクターのM&Aは、特殊用途やサステナブル分野、国内回帰や自立性確保に向けた生産能力のニーズに焦点を当てる。

*PwCのグローバル調査レポート「Value in motion」は、2035年までの経済・産業の再構築と価値創造の方向性を示す戦略的フレームワークです。AI、気候変動、地政学的緊張、都市化、人口動態の変化などのメガトレンドが、従来の業界構造を超えて新たな成長領域(ドメイン)を生み出すことを前提にしています。

スポットライト 将来を見据えたインフラ投資

ディールメーキングは、地政学的な不確実性、デジタル化の加速、気候変動問題などを背景に、レジリエンスの構築と長期的な価値の獲得にますます注力しています。このような変化の激しい状況下で、「Value in motion」 と題したPwCによる新たな調査レポートは、従来の業界の枠を超えた成長領域を特定し、価値を引き出すための差別化された視点を提供します。

この分析では、6つの相互に関連する成長領域が示されており、その中でもEU&R分野に特に関連する「How we fuel and power(エネルギー供給と電力)」領域は、2035年までに6.2兆米ドル規模に達すると予測されています。この領域は、AI、データセンター、電動輸送を支えるクリーンで信頼性の高いエネルギーの争奪によって再定義されつつあります。実際、エネルギー、テクノロジー、産業セクターの融合は、2025年のM&A機会の展望を急速に変えつつあります。デジタル化が加速する中、ハイパースケーラー、デベロッパー、オペレーターは、拡大するデータセンターの電力需要に対応するため、低炭素で信頼性の高い電力の調達や送電網への接続に積極的に関与しています。

この分野に沿った戦略的なM&Aはすでに始まっています。例えばカナダでは、風力、水力、太陽光などの再生可能エネルギー、そして蓄電池に焦点を当てた最近の取引として、ケベック州の再生可能電力会社Innergexに対するCDPQによる100億米ドル規模の買収提案や、Sitka PowerによるSaturn Powerからの再生可能エネルギーおよび蓄電池 等の取得が挙げられます。また、業界横断型の取引としては、データセンター向けのビハインド・ザ・メーター(需要家向け)ソリューションから、特殊化学品に関する取引まで多岐にわたります。例えば、2025年3月に発表されたMitsuiのターミナル取引は、アンモニアやCO₂などのエネルギートランジション製品の輸送を可能にすることを目的としています。このような価値の変化を予測し、リスクポートフォリオを適切にバランスさせ、果断に行動できる者こそが勝者となるでしょう。

こうした統合の動きは化学分野にも見られ、特殊化学品がより広範なサプライチェーンに統合されることで、製造業の国内回帰や代替エネルギーの支援につながっています。米国市場では、企業がサプライチェーンの再構築を目指し、産業政策のインセンティブを活用する動きが活発化しており、M&A活動が増加しています。

これらの動向は、EU&R分野における価値創出が、従来の業界の枠を超えてケイパビリティを統合することができるかどうかに左右されるという根本的な変化を浮き彫りにしています。これにより、企業はデジタルおよびエネルギートランジションにおける新たな成長機会を捉えることができるのです。

「2025年において、エネルギー・ユーティリティ・資源セクターは、電化・脱炭素化・デジタル化の需要に応えるため、業界を越えた資本の流れの中で、レジリエンスと変革的成長を重視しています。戦略的なM&Aの機会を見極め、業界間の統合によるパートナーシップを構築することが、差別化の鍵となり、企業が迅速かつ大規模に価値を獲得するための助けとなるでしょう」

Tracy Herrmann、PwC米国、グローバルエネルギー・ユーティリティ・資源ディールリーダー

エネルギー・ユーティリティ・資源分野における2025年の主要なM&Aテーマ

EU&Rセクターは、地政学の変化、エネルギー安全保障の優先事項、市場のダイナミクスといった変革的な動きによって引き続き形成されています。以下では、2025年下半期のM&A活動を牽引する4つのテーマを紹介します。

エネルギー安全保障が中心的な課題に

地政学的な不確実性は、世界のエネルギーおよび電力分野におけるM&Aの方向性に影響を与え続けています。一部のディールメーカーは、関税、貿易政策、規制の方向性に関するシナリオ分析の結果を待ちながら、慎重な「様子見」姿勢を取っています。

北米では、エネルギー安全保障がエネルギーおよび電力分野のM&A活動における支配的テーマです。石油・ガスの上流統合は加速しており、企業は長期的な供給を確保できる国内埋蔵量の確保を目指しています。一例として、EOG Resourcesが最近発表した56億米ドル規模のEncino Acquisition Partnersの買収は、オハイオ州のUtica Shaleにおける石油中心の事業領域を拡大するものです。
同時に、電力・ユーティリティ分野でもエネルギー安全保障が戦略的投資を促進しています。例として、Capital Powerによる22億米ドル規模の天然ガス火力発電所(ペンシルベニア州のHummel Stationとオハイオ州のRolling Hills)の買収があり、ペンシルベニア・ニュージャージー・メリーランド市場(北米最大かつ最も流動性の高い電力市場)に2.2GWの調電源を追加しました。この取引は、電力網の信頼性維持、再生可能エネルギーの統合支援、そして電力需要の増加や異常気象リスクへの対応において、天然ガス発電の重要性が高まっていることを示しています。

一方、欧州は構造的に国内のエネルギー・電力資源が不足しているため、ロシア産ガスへの依存を減らし、長期的な自立性を高めるために、再生可能エネルギーや送電網の強靭化など、エネルギー移行戦略への投資を強化することでエネルギー安全保障の優先課題に取り組んでいます。

アジア太平洋地域では、インドが特に活発な市場として際立っており、エネルギー安全保障と野心的なクリーンエネルギー目標(再生可能エネルギー、蓄電池、グリーン水素に関する政府主導の取り組みによって支えられている)が、M&A活動にとって好条件の環境を生み出しています。

地域ごとの変化が分岐するエネルギー戦略を生む

地域ごとのエネルギー優先事項は、地政学的な動向や規制の枠組みによってますます異なっています。

北米では、主要な油田地域でのポジション強化や長期的な掘削在庫の確保に向けた投資が進められており、化石燃料発電ポートフォリオの再構築や、データセンターやAI主導の成長を支えるプラットフォームへの投資にも注目が集まっています。一方、欧州では、エネルギー安全保障と脱炭素化が最優先事項です。例えば、ノルウェーは天然ガスの主要供給国ですが、Utsira Nordのような洋上風力発電や炭素回収プロジェクトを拡大しています。2025年5月には、ノルウェーエネルギー省が浮体式洋上風力の入札プロセスの第一段階を開始しました。高金利、規制の複雑さ、評価の変動により、洋上風力や炭素回収分野のM&A活動は減速しており、買い手に有利な市場環境が生まれています。ドイツやその他の欧州地域では、米国やカタールからのLNG輸入が継続されており、ロシア産エネルギーへの依存低減を目指しています。

アジア太平洋地域では、野心的なクリーンエネルギー目標の達成に向けた投資、電化の推進、重要鉱物のサプライチェーン構築に引き続き注力しています。たとえばインドでは、2030年までに非化石燃料ベースの発電容量500GW、エネルギー貯蔵容量61GW/336GWhの達成を目指しており、再生可能エネルギー、グリーンエネルギー、電気自動車分野でのM&A活動が活発化しています。最近の注目すべき取引としては、JSW Neo Energyによる4.6GWのO2ポートフォリオの買収や、ONGC NTPC Greenによる4.1GWのAyanaプラットフォームの取引が挙げられます。稼働中および建設中の資産に対する投資家の関心は高く、ハイブリッドモデルが注目を集めています。政府の支援も、地域全体でのエネルギーおよびインフラ関連のM&A活動をさらに後押しすると見込まれています。この支援的な政策環境の例としては、インド政府によるバイオガスの国家ガス網への統合構想や、国内の太陽電池製造を促進するための、近年のDomestic Content Requirement(DCR)政策の改定が挙げられます。

低炭素燃料や水素を含むその他の持続可能なエネルギー源は、世界的にまだ開発の初期段階にあり、未開拓の領域と位置付けられています。市場ベースの価格設定が存在しないことや、輸送面での課題が引き続きあることから、投資収益の評価が困難なため、これらの持続可能なエネルギー源の成長は鈍化しています。

AIとエネルギーの出会い

データセンターやAIアプリケーションの急速な拡大により、信頼性が高く、低炭素な電力の確保が求められています。送電網の制約により、オンサイト発電や先進的な蓄電技術などの革新的なソリューションが登場しています。デジタルインフラへのニーズは、資産の立地選定にも影響を与えていますが、現時点ではM&Aの取引量を直接的に押し上げる要因にはなっていません。

米国では、世界のデータセンターの約50%が集中している中、ハイパースケーラー企業が持続可能なエネルギーへの取り組みを進めています。例えば、MicrosoftはBrookfieldと提携し、2026年から2030年の間に世界中で10.5GW以上の新たな再生可能エネルギー容量を自社の運営向けに供給する計画を発表しています。同様に、中東ではCATLとMasdarが2025年1月に提携を発表し、アブダビにおいて世界初の大規模・24時間稼働のギガスケールプロジェクトを構築する計画を進めています。このプロジェクトは、5.2GWの太陽光発電容量と19GWhのエネルギー貯蔵を組み合わせたものです。さらに、2025年5月には、サウジアラビアのDataVoltが米国においてAIデータセンターおよびエネルギーインフラへの200億米ドルの投資を進める計画を発表しました。

アジア太平洋地域では、インドがデータセンター分野において中国に続く重要なプレーヤーとして台頭しています。インド政府が国内(オンショア)データセンターでのデータ保存を重視していることから、需要が高まり、グリーンフィールド型の投資が活発に行われています。インド市場は今後も成長が見込まれており、2030年までにIT負荷容量が合計4.5GWに達する可能性があると予測されています。

送電網の容量制約は、各国ごとの対応を強いる要因となっています。例えば英国では、送電網の容量制約により、2023〜2024年に1,700件以上の送電網接続申請が提出されました(過去は年間40〜50件程度)。この急増を受けて、Ofgem(英国ガス・電力市場監督庁)およびElectricity System Operator(ESO:電力系統運用者)は、再生可能エネルギーおよび蓄電池プロジェクトの計画と接続を加速するための法改正を進めています。

世界的に見て、デジタルインフラとエネルギーインフラの交差点が、新たな分散型発電および蓄電への投資を促しています。特にデータセンターの成長が、ビハインド・ザ・メーター型の電力ソリューションや革新的な冷却方法への需要を押し上げており、これらはM&Aの観点からも注目すべき分野となりつつあります。

エネルギー・ユーティリティ・資源分野における世界のM&A動向

以下では、2025年下半期に鉱業・金属、石油・ガス、電力・ユーティリティ、化学セクターのM&A活動を牽引すると予想される主な動向について概説します。

M&Aは鉱業業界において重要な役割を果たし続けており、企業が事業の最適化や既存事業の見直しを内部資源のみを活用した場合より迅速に進め、価値を最大化する手段となっています。企業が新たな成長領域を模索し、そこから利益を得る中で、同分野の取引件数は今後も堅調に推移すると見込まれますが、いくつかの逆風も存在します。私たちは以下の主要テーマが今後も継続すると予想しており、世界経済における鉱業セクターの重要性の高まりが、2025年後半以降のM&A活動を支えると考えています。

特に金と銀の分野では、企業が規模とレジリエンスを求めて統合を進めています。過去最高水準の金価格が取引を活性化させており、Gold Fields LimitedによるGold Road Resourcesへの23.5億米ドルの買収提案や、Equinox GoldによるCalibre Miningの18億米ドルの買収などがその例です。銀分野でも戦略的統合の動きが進んでおり、First MajesticによるGatos Silverの9.7億米ドルの買収、Coeur MiningによるSilverCrest Metalsの17億米ドルの買収、Pan AmericanによるMAG Silverとの21億米ドルの合併提案などが挙げられます。ただし、資産評価額の上昇により買収価格が高騰しており、買い手がリスクとリターンをあらためて見直す中で意思決定が遅れるおそれもあります。

企業は優先度の高いプロジェクトに集中するため、ノンコアアセットの売却を進めています。例えば、Newmontは38億米ドルで6つのノンコアアセットを売却し、Barrickも継続的に資産売却を進める中、最近ではアラスカのDonlin Goldプロジェクトにおける50%の持分を10億米ドルで売却することを発表しました。これにより、買い手にとっては成長余地のある資産を取得する機会が生まれています。さらに、Rio TintoによるArcadium Lithiumの買収のように、垂直統合によってサプライチェーンを統制し、価値創出機会を獲得していく動きも増加しています。

企業は事業の集中リスクを軽減するため、新たな鉱物や地域への進出を進めています。具体的には、Pilbara MineralsによるブラジルのLatin ResourcesのSalinasプロジェクトの買収は、同社のリチウムの事業ポートフォリオを自国オーストラリア以外にも広げるものとなっています。

また、Weir GroupによるMicromine(鉱業向けソフトウェアプロバイダー)の約8億米ドルの買収のように、鉱業の生産性と持続可能性を高めることを目的としたテクノロジー主導のM&Aが注目を集めています。

政府の関与が取引のダイナミクスにますます影響を与えています。支援的な施策としては、安定した投資政策や戦略的資源に関するジョイントベンチャーがあり、たとえばCodelcoとRio Tintoによるチリでのリチウム事業の提携が挙げられます。一方で、規制の厳格化、資源ナショナリズム、市場価格の変動、関税の不確実性などが、国境を越えた取引やサプライチェーンの複雑化を招いています。

2025年の石油・ガスのM&A情勢は、エネルギー安全保障とポートフォリオのレジリエンスに焦点を当てた再編が続くことが特徴です。価格変動と地政学的な不確実性が続く中、埋蔵量の確保と設備投資を求めるディールが上流で続いています。規模を拡大し、市場の衝撃に耐える必要があることから、プライベート・エクイティ・ファームを中心に、新規資産の市場参入ペースは鈍化し、当初の予想を下回っているものの、上場・非上場を問わず再編が進んでいます。

この勢いに対する逆風としては、IPO活動の鈍化、買い手と売り手の価格差の拡大、規制や関税の継続的な不確実性などがあり、これらはディールの実行を複雑にし、投資家心理を低下させています。

それでも、重要な取引が統合の流れを裏付けています。2025年上半期の注目取引としては、Diamondback EnergyによるDouble Eagleの一部子会社の41億米ドルの買収があり、パーミアン盆地での開発を強化するものです。米国のパーミアン盆地やその他の主要油田地域は、ミッドストリーム分野でも活発な取引が続いており、Stonepeakによるルイジアナ州のLNG施設への57億米ドルの投資など、米国のミッドストリーム取引の規模と多様性を示しています。

エネルギー企業の再編に続いて、積極的なプレーヤーは売却よりもポートフォリオの開発を重視しています。例えば、2025年5月、Sunocoは、ポートフォリオの多様化と地理的な拠点を拡大するため、燃料販売会社Parkland Corporationの91億米ドル買収を発表しました。欧州では、石油大手は、強力なキャッシュフロー、改善しつつある負債による資金調達、炭素回収・貯留(CCS)などの低炭素イニシアチブを背景に、ターゲットを絞ったM&A活動と、ノンコアアセットの売却を進めています。米国では石油・ガス分野への投資が顕著に増加していますが、持続可能性への圧力や長期的な脱炭素目標があるため、投資家はこれらの資産への完全な回帰には慎重な姿勢を保っています。プライベートエクイティ関連の新規参入はほとんど見られず、取引活動の多くは小規模資産の取引やポートフォリオの再構築に集中しています。

油田サービス会社は、資本規律とテクノロジーへの投資の増加により、記録的な収益性を達成しています。このため、買収に対する戦略的関心が高まっています。しかし、最近の原油価格の下落は、買い手がリスクプレミアムを織り込み、潜在的に期待ディール金額のギャップを広げ、ディールの勢いを弱めるなど、より大きな不確実性をもたらしています。

全体として、2025年の石油・ガス分野のM&A市場は、エネルギー安全保障と戦略的再編という2つの要請によって形成されており、地域的なニュアンスと市場の動きがディールのペースと性質の両方に影響を及ぼしています。

電力・ユーティリティセクターは、データセンターの増加の影響と送電網近代化の必要性により、インフラ投資家の注目の的となっています。米国と英国のユーティリティ企業は、ノンコアであるガスやLNG資産を積極的に売却し、急増する電力需要に対応するため、電化やデジタルインフラに資本を再配分しています。AIを活用したデータセンター、輸送の電化、産業再編が需要プロファイルを再構築する中で、この戦略的な軸足は不可欠です。その一例がTenneTで、洋上風力発電の送電と送電網に焦点を当てた2,000億ユーロの投資計画のために資本を調達する戦略的オプションを模索しています。この分野でのM&A活動のもう一つの例は、2024年5月に初めて発表され、2025年半ばに完了する見込みの、カナダ年金制度投資委員会とグローバルインフラパートナーズによる、規制対象のユーティリティと再生可能エネルギー企業を含むエネルギー企業ALLETEの62億米ドル買収です。

送電網の制約により、政府の介入の必要性も高まっています。オランダやアイルランドなどの国では、新しいデータセンターが送電網に直接接続することを制限しています。ラテンアメリカやスペインで最近発生した大規模停電は、地理的なエネルギーミックスに適した送電網のアップグレードの緊急性を示しています。分散型の再生可能エネルギー統合に送電網を適合させるために多額の資本を必要とするオーストラリアのような市場では、投資家は部分的な売却によるリスク分担を積極的に追求するようになっています。

再生可能エネルギーの増加に対応するため、蓄電池が注目されています。投資家は昼夜の価格変動を利用したり、システムの安定性を高めたりすることが可能です。欧州では、英国とノルウェーが、再生可能エネルギー資源と蓄電池を活用し、コストと接続性のメリットを生み出しています。しかし、蓄電分野でのディールがどの程度活発化するかは、それが魅力的な大規模投資となるような蓋然性の高い収益モデル(料金、容量、上限・下限の設定など)を構築できるかどうかにかかっています。

分散型発電と地域熱供給は、都市部の脱炭素化目標や人口密集地でのエネルギー効率を最適化する必要性から、欧州でM&Aが活発化する可能性のある分野として浮上しています。

長期的な見通しは明るいものの、この分野では、サプライチェーンコストの上昇や規制の不透明感から、一部の投資家は「様子見」の姿勢を取っています。とはいえ、電化、デジタル化、分散型エネルギー の融合により、2025年下半期も取引の流れは持続すると予想されています。

化学セクターは、M&A活動の低迷期から徐々に脱しつつあります。金利が安定するにつれて、戦略的インフラや特殊化学品に再び勢いが出てきています。投資家たちは、特に特殊化学品セグメントにおける垂直統合やその他の価値創造の機会に注目しており、リターンを得るまでの投資期間が長期化することも受け入れる姿勢を見せています。

それぞれの取引は内容によって大きく異なるものの、市場に出回る資産は増加しています。企業価値評価(バリュエーション)は、石炭価格、各地域におけるエネルギー戦略、生産能力の経済性の変化といった地政学的要因が複雑に絡み合って形成されています。例えば、Mitsuiによる17億米ドル規模の大型タンクターミナル運営会社の買収提案は、米国と欧州における既存の化学品物流ネットワークに貯蔵ターミナルを追加することで、次世代エネルギー事業の展開を加速させることを目的としています。これにより、アンモニアやCO₂などの新しいエネルギー製品の取り扱い需要の増加に対応しようとしています。また、Borouge GroupによるBorealis AGとの合併提案と、それに続く134億米ドル規模のNova Chemicals買収は、世界的なポリオレフィン(合成樹脂)トップの創出を目指すものであり、最大かつコスト競争力の高い市場へのアクセスを通じて価値創出を図る戦略的再構築の一環といえます。

米国は、原料のアクセス性、好ましい政策環境、産業の国内回帰の流れに支えられ、依然として重要な市場と言えます。国境を越えた取引の動向は依然としてディールフローに不確実性をもたらしていますが、日本をはじめとする外国投資家は、北米のインフラ分野で積極的に機会を追求しています。

欧州および英国では、規制の複雑化とサステナビリティの義務化により、デューデリジェンスの実施期間が延びつつあります。ディールの買い手はエネルギー価格の変動、脱炭素化への道筋、サプライチェーンレジリエンスの評価により多くの時間をかけています。

化学セクターがエネルギートランジションとともに進化するにつれ、持続可能なインフラプラットフォームが投資家の注目を集めるようになっています。

2025年下半期のエネルギー・ユーティリティ・資源におけるM&Aの見通し

2025年下半期は、EU&R企業が価値の創出と電化、脱炭素化、デジタルインフラの次の波に向けた資金調達のため、事業売却や戦略的再編を追求し、ポートフォリオの見直しが活発に行われることが予想されます。

金融投資家は、将来に備えた多様なポートフォリオへのシフトを受けて、上流のエネルギー生産や太陽光発電(PV)開発から蓄電池ソリューションに至るまで、バリューチェーン全体への投資機会を求める傾向が強まっています。市場はいまだに細分化されており、特定の分野に特化した事業者はそれぞれ異なるリスク・リターン特性を持っていますが、真のチャンスはビジネスモデルの刷新にあります。すなわち、機能の統合、選択肢の拡大、リスクを適切に取ることで、新技術から価値を引き出すことができるのです。

この変化する環境で成功するためには、企業は電化・脱炭素・デジタル化の各分野で価値を創出するためにポートフォリオを再調整し、ビジネスモデル革新を進めることが必要です。

M&A動向の解説は、業界で認知された情報源からのデータと当社独自の調査に基づいています。具体的には、本文で言及している金額と件数は、2025年5月31日時点でロンドン証券取引所グループ(LSEG)が提供し、2025年6月1日から4日の間にアクセスされた、正式に発表されたディールに基づいています(噂や取り下げられた取引を除く)。過去の半期との比較を容易にするため、2025年上半期(図表ではH1'25eと表記)のLSEGのディール件数および金額データは、上半期の5カ月間に基づく推定値であり、6カ月間を表すように調整され、報告ラグを考慮するように調整されています。これらの調整により、分析の一貫性が確保され、報告された期間にわたってより良い傾向分析が可能になります。H25e上半期はPwCの予測ではありません。これは、S&P Capital IQおよび当社独自の調査による追加情報によって補足されたものです。PwCの業界マッピングに合わせるため、ソース情報に一定の調整が加えられています。メガディールは50億米ドル以上のディールと定義しています。

Tracy Herrmann
PwC米国、パートナー、グローバルエネルギー・ユーティリティ・資源ディールリーダー

Chloe Ho
PwCカナダ、ディールパートナー、エネルギー&デジタルインフラ担当

Greg Oberti
PwCカナダ、パートナー、エネルギートランジション&ユーティリティ・ディールズリーダー

※本コンテンツは、PwC米国が2025年6月に公開した「2025 mid-year outlook Global M&A trends in energy, utilities and resources」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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