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驚きの連続:混乱の時代を勝ち抜くためのM&A戦略
2025年の始まりに、M&Aの増加に対して慎重ながらも楽観的な見方をしていましたが、同時にそれをくじく可能性のある「ワイルドカード」についても警鐘を鳴らしていました。ところが、結果としてそのカードは私たちの予想をはるかに超えるものでした。米国の政治の中枢であるワシントンD.C.から日々発信されるニュースにより、金融市場はヨーヨーのように上下し、関税に関する議論は予想以上に激しく、規制緩和の進展は予想よりも遅れています。一方で、地域紛争は激化し、米国および欧州の長期金利は予想を覆す動きを見せています。
驚くべきことに、こうした状況下でもディールは成立しています。ディールメーカーは今日のM&A市場に広がる不確実性を乗り切る方法を見出しているのです。2025年上半期のディール件数は2024年上半期に比べ9%減少しましたが、ディール金額は15%増加しており、国境を越えた地域密着型の企業や、関税の影響を受けにくいサービス業などの取引が引き続き見られます。また、地域やセクターを問わず、強力なキャッシュフローと健全な将来性を持つ優良企業の売買は続いています。しかし、これらの条件に当てはまらない多くの企業にとって、市場環境は厳しいものとなっています。例えば米国では、2025年5月のPwCパルスサーベイによると、関税の不確実性を受けて、30%の企業がディールを一時停止または再検討していることが示されました。ディールメーキングを行う企業は、今後数カ月間、継続的に影響を受けるものと予想されます。
しかし、M&Aがなくなるわけではありません。M&Aは企業文化の根幹をなすものであり、プライベート・エクイティ(PE)の活力源でもあります。実際、同PwCパルスサーベイによると、米国企業の51%が依然としてディールを追求しており、トランスフォーメーションとビジネスモデルの再構築が引き続き最優先事項であることが明らかになっています。これは、人工知能(AI)と新たな競争のダイナミクスが企業環境を変革し、AIが業界のディスラプション(破壊)と変化のカタリスト(仲介者)となる新しい時代に、私たちが突入したことを反映しています。この新世代のテクノロジーが定着する中で、ディール活動はさらに活発化するでしょう。
こうした状況の中、世界中のディールメーカーは当然ながら「次に取るべき最善の行動は何か」と問うています。
このように複雑で、時に矛盾した動向を見せる今日のM&A市場において、ディールメーカーは次の一手を考えなければなりません。彼らが直面する新たな現実には、以下のようなものがあります。
不確実性が新たな不変要素へ 過去5年間、M&A市場はほぼ常に変化にさらされてきました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な大流行(パンデミック)の初期のインパクトにより、ディールメーキングは停止し、その後急速な回復と記録的な活動が続きました。しかしその後、金利の上昇や地政学的・規制環境の変化により、再び慎重な姿勢が強まっています。今日のより複雑で予測困難な市場は、ディールメーカーにとって厳しい環境となっています。結果として、M&A環境では高い不確実性がまん延しているだけでなく、構造化しつつあります。ディールメーカーにとっての第一歩は、不確実性が今後も続くという現実を受け入れることです。つまり、それが過ぎ去るのを待つのではなく、継続的に計画し、備える方法を見つける必要があるということです。
資本配分が直面する新たなトレードオフ 資本はもはや自由に流れているわけではありません。MicrosoftやMetaなどのビッグテック企業は、2025年だけで数千億米ドルをAIインフラ、人材、機能開発に投資する計画を発表しました。これは投資のスーパーサイクルを引き起こしており、今後5年間で数兆米ドル規模の世界的な投資が見込まれています。テクノロジーへの支出はAIだけに限りません。むしろ、全てのセクターで急速な技術革新が進行しており、CEOや取締役会、ディールメーカーは資本配分についてより難しい決断を迫られています。ある企業にとっては、ディールの数や規模を減らすことを意味し、別の企業にとっては、パートナーシップや少数株式、事業分割を活用して戦略的目標を追求しつつ、バランスシートの健全性を維持することを意味します。今日の投資規律とは、慎重かつ計画的な選択をすることです。オーガニックグロースか、インオーガニックグロースか?テクノロジーにどれだけ投資するか?AIには?これら全てが組み合わさることで、資本配分は今日の経営幹部にとって最も重要かつ困難な意思決定の一つとなっています。
AIが持つイノベーションの可能性は、ディスラプションとM&Aの機会をもたらす AI技術の急速な進化により、企業の世界はリスクの高い変革の新たな局面へと突入しました。買い手にとって、これはリスクとチャンスの両方を意味します。すなわち、ディスラプション寸前の企業を買収するリスクと、新技術を活用して競争優位となるチャンスです。M&A市場はこの二極化を反映しつつあり、GoogleによるWizの320億米ドルの買収提案のような機能主導型ディールへの需要が高まっています。また、従来のアセットをAIの視点で再評価する動きも見られます。今後6〜12カ月は、企業が次のイノベーションの波に備えて立ち位置を見直すために重要な期間となるでしょう。AIの成長を支えるデジタルインフラやエネルギーへの投資はすでに始まっており、各業界の企業は生産性向上、コスト削減、新たな収益機会の創出を目的としてAIエージェントの開発を急速に進めています。しかし、この新技術の波を最大限に活用するのは困難かつ高コストです。AIをビジネスやオペレーションモデルに組み込もうとする企業は、実行リスクや文化的抵抗などの課題に直面しています。それでも、最新のCEO調査によれば、行動しないことのコストははるかに大きく、40%のCEOが「現在のビジネスのやり方を変えなかった場合、10年を超えて自社が経済的に存続できない」と回答しています。
2025年上半期における全業種のグローバルM&A取引データは、不確実性の高まりに対する当然の慎重姿勢と、トランスフォーメーションを前進させることへの切迫感との間にある緊張を反映しています。現在のディールメーキングのペースが続けば、2025年の総ディール件数は45,000件を下回り、過去10年以上で最低水準となる可能性があります。一方で、ディール金額の上昇は、より大規模な取引への傾向を示しています。10億米ドルを超える価値のディール件数は前年同期比で19%増加し、50億米ドルを超えるディールは16%増加しています。テクノロジーセクターは依然として最も活発なM&A活動が見られますが、ディール活動はセクター全体に広がっています。国別では、全体的なディール活動は低調ですが、例外もあります。例えば、インドと中東ではディール件数がそれぞれ18%、13%と増加しています。
「ディール環境は、苛立たしくも非常に刺激的です。市場が新たな課題を生み出す中で、現金を貯めて一時停止するのは簡単ですが、私たちはその逆を推奨します。テーマに集中し、分析をこれまで以上に深め、戦略を実行に移すのです」
Brian Levy、PwC米国、パートナー、グローバル・ディールズ・インダストリーズ・リーダー関税の継続的な変動やその他の政治的な不確実性が金融市場、ひいてはM&Aの状況に影響を与えていることは、繰り返すまでもありません。今後何が起こるかを予測することもこの状況では不必要でしょうが、地政学的緊張が高まる中で、ディールメーカーが注視すべき重要なテーマがいくつかあります。
金利は依然として高止まり。長期金利はかたくなに高いままです。欧州の中央銀行は、成長の鈍化とインフレ率の低下を背景に、基準となる貸出金利を引き下げましたが、債券市場の金利は十分に追随していません。米国では長期金利が上昇を続けています。貸出金利は長い間、M&A活動に影響を与える2つの重要な要因のうちの1つで、もう1つはバリュエーションです。欧米経済が冷え込み、金利が低下するならば、M&A市場に弾みがつく可能性はあります。しかし、財政赤字の拡大などに対する懸念が市場金利を直撃する中、ディールメーキングの慎重さの根底にある重要な要因は、先行きの不透明さなのです。ディールメーカーは、特にプライベート・クレジットの成長に伴い、資金調達オプションを分析し、ディールの資本構造を最適化する必要があります。
政府債務:経済の首を絞める存在。この2つ目の課題は、前述の金利問題と関連しています。多くの国で政府による財政赤字支出が債務負担の大幅な増加を招いています。OECD諸国の政府債務は2025年に59兆米ドル、GDP比で85%に達すると予測されており、これは2007年の世界金融危機前の水準のほぼ2倍です。OECD諸国では、政府債務の利払いが国防費を上回る水準に達しています。この政府債務の増加は、ディールメーカーとM&A市場にとって重要な懸念事項です。第1に、長期的な財政の不確実性を生み出し、企業の信頼感を低下させる可能性があります。第2に、金利上昇圧力を生み出し、ディールの資金調達コストを増加させます。第3に、公的債務の増加は経済成長を抑制し、企業収益に圧力をかけ、そしてバリュエーションを低下させ、M&Aへの投資意欲を減退させます。ディールメーカーは、成長と資金調達に対する感度を自身のバリュエーションモデルに組み込む必要があります。
プライベート・エクイティのエグジットの停滞。注目すべき3つ目の課題は、PEプレーヤーが保有する投資先企業のバックログ(積み残し)をどれだけ減らせるかです。これにより、投資家への資金返還が可能となり、新たな資金調達も容易になります。このバックログは増加を続けており、2025年3月末時点で投資先企業数は30,000社を超え、そのうち47%が2020年から保有され続けています。バックログを減らすためにはエグジット件数を大幅に増加させる必要がありますが、現在の環境はそれに適していません。厳しい市場環境と弱いIPO市場がPEのディール活動に影響を与えているためです。ただし、最近の一連の新規株式公開は、市場が好転しつつある兆しを示しています。2025年第1四半期のPEエグジット件数は83件増加し、903件となりました(前年同期は820件)。しかし、この数値は、投資先企業の長期保有が進むという傾向を逆転させるためには、さらに大幅に増加する必要があります。この課題は、M&A市場全体にとっても重要です。PEファンドは、あらゆる種類のM&Aにおいてますます大きな役割を果たしており、プライベート・クレジットの分野でも積極的に成長しているからです。PEプレーヤーは、投資先企業のセカンダリー市場を開発する上で創意工夫を見せており、継続ファンドなどを通じて一部の投資家が資金を回収し、他の投資家は継続保有することが可能となっています。ただし、この仕組みでは投資先企業が何らかの形で帳簿上に残り続ける可能性があります。
※上記のチャートにおけるマルチプルは、各四半期に観測された取引の企業価値(EV)と過去12カ月のEBITDA(利息・税金・減価償却・償却前利益)との比率の中央値を示しています。観測されたコントロールプレミアムは、買い手が対象企業の支配権を得るために支払う追加額を表します。上記チャートでは、コントロールプレミアムは、ディール発表の1カ月前の株価に対する買収対価に基づいています。2025年第2四半期予測は、過去3カ月間の実績に基づいて四半期全体を推定したものです。
出典:S&P Capital IQおよびPwC分析
2023年第3四半期から2024年末にかけて、企業価値とEBITDAとの比較によるマルチプルは、COVID-19直後の高水準から続いていた下落傾向を反転させました。2024年第2四半期にわずかな下落が見られたものの、それ以外の期間ではマルチプルは着実に上昇し、2024年9月には中央値が14.3倍に達し、これは2021年9月以来の最高水準となりました。しかしながら、関税の可能性に対する懸念の高まりや、依然として高水準にある資金調達コストなど、継続する経済的不確実性が2025年のバリュエーションに再び下押し圧力をかけています。その結果、世界全体のマルチプル中央値は10.8倍まで低下し、2024年第4四半期の水準から約14%の下落となっています。
主要市場におけるバリュエーションを詳しく見ると、地域ごとの違いが浮き彫りになります。2025年上半期には、米国のマルチプル中央値が2024年第4四半期と比較して上昇した一方で、欧州およびアジア太平洋地域では低下しました。同時に、これらの市場における株式指数はおおむね連動して推移しています。ディールメーカーは、米国企業が関税戦争をより有利に乗り切ると見込んでいる可能性があります。
同じように観測されたコントロールプレミアム、つまり、バイヤーが対象企業の支配権を取得するために支払う追加額、は一般的にマルチプルと逆の動きを示しています。これは、ディールメーカーが本質的価値に対して一定の規律を維持しており、市場の変動に過剰反応も過小反応もしていないことを示しています。
注:上記のチャートにおける倍率は、各四半期において10億米ドル以上のディールを対象としたEVと直近12カ月のEBITDA(LTM EBITDA)との中央値倍率を示しています。コントロールプレミアムは、買収者が対象企業の支配権を取得するために追加で支払う金額を表します。上記のチャートでは、コントロールプレミアムは、買収発表の1カ月前の株価に対する買収対価を基に算出しています。
2025年第2四半期は、過去3カ月間の実績に基づき、四半期全体を表すように調整された推定値です。
出典:S&P Capital IQおよびPwC分析
2020年から2022年の2年間において、10億米ドル超のディールにおける観測されたマルチプルは、「全ディール」のマルチプルと比べて約25%高い水準でした。大企業はCOVID-19によるシステミックショックに対して耐性があるとみなされており、成長回復のカーブも急で、借入コストの低さから恩恵を受けていると考えられていました。しかし2023年以降、この大規模ディールと「全ディール」間のギャップはほぼ消失しています。10億米ドル超の取引における中央値マルチプルは、「全ディール」より平均で約2%高い程度にとどまっています。2025年第2四半期の大規模ディールの中央値マルチプルは、2021年第3四半期のピーク時と比べて37%低下しています。一方、「全ディール」の中央値マルチプルは、2021年第2四半期のピークからわずか17%の下落にとどまっています。
大規模ディールにおけるコントロールプレミアムは、過去を通じておおよそ30%で安定しています。これは、2025年第2四半期におけるマルチプルの低下が、大企業の価格下落を反映していることを示唆しています。この下落は、大企業ほどクロスボーダー取引が多いことから、関税リスクへの懸念が高まったことによる影響が示唆されます。また、これらの企業は、COVID-19直後の時期と比べて将来の成長期待が低下している可能性もあります。
現在の不確実性の高い状況を踏まえると、ディールメーカーは、ディールの価格設定において、上振れ・下振れ両方のシナリオを慎重に考慮する必要があります。以前は極めて起こりにくいと考えられていたシナリオであっても、現在では現実味を帯びている可能性があります。特に関税の影響を受ける変数など、モデル入力は慎重に精査されるべきです。2025年後半に金融政策が緩和され、地政学的緊張が緩和されれば、ディール価格の緩やかな回復が見られるかもしれません。
注:過去の半期との比較を容易にするため、2025年上半期予測のデータは年初来5カ月間の実績を6カ月間に調整した予測値です。詳細は後述の「データについて」を参照。
出典:LSEGとPwCの分析(データはターゲット企業の所在地に基づく)
2024年上半期から2025年上半期にかけて、ディール金額は15%増加した一方で、ディール件数は9%減少しました。規模が大きいため本質的にリスクが高く、最良の状況下でも実行が困難なメガディールについては、今年最初の5カ月間で36件が発表され、前年同期の31件を上回りました。地域別の傾向は次のとおりです。
注:バブルの大きさは2025年上半期予測のディール件数に基づくセクターの相対的な規模を表しています。変化率は2024年上半期と2025年上半期のディール件数・ディール金額の推移として算出しています。過去の半期との比較を容易にするため、2025年上半期予測のデータは年初5カ月を6カ月に調整した予測値になります。詳細は以下の「データについて」を参照してください。
出典:LSEGとPwCの分析(データはターゲット企業の所在地に基づく)
関税、政策転換、規制による不確実性の影響はセクターによってばらつきがあります。2024年上半期から2025年上半期にかけて、航空宇宙・防衛、化学、アセット/ウェルスマネジメント(AWM)、電力・ユーティリティは、ディール件数、ディール金額ともに増加しています。これとは対照的に、小売・消費財、医薬品、自動車、産業はいずれも減少しており、セクター特有の要因がディール活動に影響を与えていることが浮き彫りになっています。
関税に対する脆弱性はセクターを差別化する要因の一つですが、それだけではありません。自動車、製造業、医薬品は、貿易障壁の上昇に最もさらされているセクターの一つであり、M&A活動の減少につながっています。かつて一貫してM&Aのアウトパフォーマーであった医薬品は、現在、米国の薬価制度改革案、規制への不透明性、クロスボーダー関税など、3つの課題に直面しています。これらにより、取引にはより慎重な環境が生まれています。その反面、防衛分野は、欧州などにおける安全保障予算の増加に後押しされ、新たな投資家の関心を集めています。一方、サービス志向のセクター(テクノロジーではITサービス、ビジネスサービスではプロフェッショナルサービス、アセットマネジメントではサービスプロバイダーなど)は高いマルチプルで取引されています。アセットライトなビジネスモデル、サステナブルなキャッシュフロー、成長見通しが、ディール件数とバリュエーション上昇の両方を支えています。
大型ディールは依然として幅広いセクターで発生していますが、メガディールの活況は特にテクノロジー、銀行・資本市場、電力・ユーティリティに集中しています。この傾向は、2025年上半期に発表された上位3件のディールにも反映されています。いずれも異なるセクターからのもので、GoogleによるWizの320億米ドルの買収提案(テクノロジー分野)、Constellation EnergyによるCalpineの266億米ドルの買収提案(エネルギー分野)、そしてGlobal PaymentsによるWorldpayの242.5億米ドルの買収提案(銀行・資本市場分野)です。
現在の地政学的に不安定な環境下において、ディールメーカーが検討すべき重要な問いは、M&Aのターゲットを国内または地域内に絞るべきかどうかです。これは、より複雑なクロスボーダー取引を追求するよりもリスクが低い可能性があります。
以下のチャートでは、買い手の地域(米州、アジア太平洋、EMEA)ごとに、投資先地域への資本の流れを示しており、国内および国際的に資本がどこに投入されているかの洞察を示しています。関税の不確実性が続いているにもかかわらず、ディールにおける資本の流れは依然として米国に有利な方向を示しているようです。
注記:過去の半期データとの有意義な比較を可能にするため、2025年上半期予測のデータは、年初から5カ月間の実績に基づいて推計され、6カ月分として調整されています。詳細については、以下の「データについて」の注記をご参照ください。
出典:LSEGとPwCの分析(データはターゲット企業の所在地に基づく)
2024年上半期から2025年上半期にかけて、世界全体のディール金額は1.3兆米ドルから1.5兆米ドルへと増加し、前年比で15%の上昇となりました。2025年上半期には、クロスボーダーM&A活動も増加しています。EMEAまたはアジア太平洋の買い手による米州での取引が増加している一方で、米州に拠点を置くディールメーカーは、国内または地域内の取引にますます注力しています。
米州は2025年上半期において、9,080億米ドルのディール金額で世界のM&Aをリードしました。これは前年の7,220億米ドルからの増加であり、世界全体の61%を占めています(前年は55%)。この増加が、国内活動の活発化によるものなのか、あるいはアジア太平洋およびEMEAからのインバウンド投資の増加によるものなのかを判断するため、3地域間のディールフローを分析しました。
米州を拠点とする買い手は、2024年上半期の7,140億ドルから2025年上半期の8,300億米ドルへと、16%投資を増加させました。注目すべきは、この資金の91%が域内にとどまり、前年の86%から増加したことで、国内重視の傾向が強まっていることがうかがえます。
アジア太平洋地域の買い手は、絶対ベースでは自地域内での投資を拡大しましたが、米州への投資は2倍以上に増加しました。2025年上半期には、米州がアジア太平洋の総ディール金額の22%を占め、前年の11%から大きく上昇しています。
EMEAの買い手は、ディール総額で前年同期比3%の微減となったものの、米州とアジア太平洋への両方で支出を増やし、より成長性の高い市場やよりアクセスしやすい市場に資金を再配分しています。
これらの変化は、最も注目されるアセットが今後ますます米州、特に米国に集中する可能性を示しています。米国企業および国際的なプレーヤーによる数十億、あるいは数兆米ドル規模の投資発表が続いており、「米国優位」のストーリーを裏付ける形となっています。しかし、最近の関税の動きやその他の米国の政策変更によって、その熱意は冷めつつあります。影響に関する確かなデータはまだ出ていないものの、実体験に基づく証言では、投資家の慎重姿勢が高まっていることが示されています。多くのディールメーカーは、より複雑なクロスボーダー取引よりも、地域内または国内の取引の方が実行しやすいと考えており、モメンタム(変革の推進力)の変化を示唆しています。
「現在の不安定な環境下において、M&Aに対するメッセージは明確です。恐れではなく、戦略で舵を取ること。最もレジリエントなリーダーとは、不確実性に正面から向き合い、大胆な長期的目標を掲げ、それを達成するために確信を持って行動する人たちです」
Lucy Stapleton、PwC英国、グローバル・ディールズ・リーダーディールメーカーたちが不確実性を理解し、その先を見据えようとする中、今年のM&A市場ではすでにいくつかの重要な傾向が見られます。彼らが常に直面する大きな課題は、地政学的な変動だけでなく、世界経済の成長鈍化や地域紛争の激化といったマクロ経済環境を踏まえ、現在の状況下でいかにして成長を優先するかということです。以下に私たちが考える困難な時期を乗り越えるための有効な戦略を、網羅的ではありませんがご紹介します。
優良企業への逃避。優良企業は引き続き注目を集めています。実際、一部のオークションでは以前よりも競争が激しくなり、より高い価格やバリュエーション、さらには先制的な買収提案が提示されるケースもあります。このような優良企業への関心は、M&A件数が減少しているにもかかわらずM&A金額が上昇するという傾向の一因を部分的に説明しています。注目される企業はセクターを問わず、一貫した実績、強力な経営陣、そして支援体制の整った成長計画を持っています。市場バリュエーションは高くても、それに見合う将来性があります。一方、質の低いアセットには関心が集まらない状況が続いており、そうした企業の売却プロセスが延長され、時には終了するケースも見られます。
地理的条件の重要性。ディールメーカーは、各サプライチェーンのつながりを見直し、依存関係やリスクを特定するなど、地理についてこれまで以上に繊細な見方をするようになっています。そうすることで、関税やより不安定な地政学的背景に対して、より強靭で柔軟な体制を構築しようとしているのです。こうした取り組みは複雑な問いを生み出します。例えば、「米国を迂回または切り離して、その他の地域に注力すべきか?」「米国に集中し、中国以外の選択肢を模索すべきか?」といった問いです。
テーマに基づいた投資を軸とする。テーマ型投資は、ディールメーカーにとって戦略的な軸となります。短期的な市場変動に反応するのではなく、取締役会や投資委員会は、テクノロジーによるディスラプション、気候変動、人口動態の変化、サプライチェーンのレジリエンスなど、長期的な構造的トレンドに注目すべきです。セクターやサブセクターのテーマに基づいて明確なビジネスケースを構築することで、チャンスが訪れた際に迅速な意思決定が可能になります。市場のタイミングが難しい場合でも、特定のアセット、セクター、テーマが今後5〜10年で重要になる理由を明確にすることで、ステークホルダーの早期の合意形成と、バリュエーションやその他の条件が整った時の備えになります。このような将来志向のアプローチは、現在の市場変動を超えた価値創造への注力を一層強めます。
PwCが最近実施した調査では、AI、気候変動、その他のメガトレンドが、価値の源泉をどのように変化させ、業界を再構成し、経営陣のアジェンダを再定義しているか(英語)を分析しています。これは、リーダーが現在の価値の所在と今後10年で価値が向かう方向を検討する際、テーマ型投資アプローチを形成する上で有益なフレームワークとなります。
シナリオプランニングの強化。現在の不安定な環境下では、シナリオプランニングは表面的なストレステストにとどまらず、より深い分析が求められます。ディールメーカーは、マクロ経済、規制、地政学的な要因を含むさまざまな結果を体系的に想定し、それぞれの要素が対象企業の業績やバリュエーションにどのような影響を与えるかを理解する必要があります。これには、最良・最悪のケースの両方をモデル化し、成長率、サプライチェーンの変化、関税リスク、為替変動といった結果に影響を与える主要なドライバーを特定することが含まれます。医薬品や自動車など、関税の影響を受けやすいセクターの企業は、すでにこれらの前提をコストモデルに組み込んでおり、より迅速かつ確信を持った意思決定を可能にしています。こうした思慮深いシナリオフレームワークは、ディールメーカーが準備を整え、前進するための助けとなり、不確実性からチャンスへと視点を転換させることを可能にします。
Day1から価値創造を優先し、ミスの余地をゼロに。今日のような緊張感の高い環境では、もはやミスの余地はほとんど残されていません。ディールメーカーは、可能性を見出すだけでなく、規律正しく、細部にまでこだわって実行し、その可能性を実現することによって評価されます。そのためには、プロセスの初期段階で、明確で実行可能な価値創造に向けた計画を策定することが不可欠です。初期段階で取り組むべき重要な問いには、次のようなものがあります。「ビジネスの優位性はどこから生まれるのか?」「生産性向上のためのドライバーは何か?」「統合が価値獲得を妨げる可能性はあるか?」。成功は、これらの質問に早い段階で答え、それを正確に実行できるかどうかにかかってきています。目標が利益率の拡大、売上成長、ポートフォリオの再構築のいずれであっても、バリュードライバーは明確かつ現実的であり、デューデリジェンス、ディール交渉、統合計画に組み込まれていなければなりません。最終的に、ディールが成功するか否かは、ディールメーカーがこれらの詳細を正確に把握し、ミスが許されない環境下でそれを実行できるかどうかにかかっています。
実行における規律を維持しつつ、アジリティを保つこと。予期せぬ出来事は起こるものです。そして今、それは頻繁に起きています。今日の環境では、不確実性は例外ではなく、「前提」です。関税、規制、地政学的ショック、マクロ経済の変化などが重なり、「予期外」が「想定内」となりつつあります。だからこそ、実行における規律がこれまで以上に重要になっています。これには、投資原則に忠実であること、バリュエーションでの過剰な評価を避けること、そして契約前にディール後の統合体制を整えておくことなどが含まれます。同時に、規律を守るだけでは十分ではありません。ディールメーカーは、ディールプロセスに組織的なアジリティを組み込む必要があります。それは、クロージング前も後も同様です。つまり、状況が変化した時に素早く方向転換し、前提を問い直し、柔軟に適応できる新しいマインドセットを育成することです。アジリティとは、単に「素早く対応する」ことではなく、物事が計画通りに進まなかった時に対応できるように準備しておくことなのです。
19世紀のフランスの作家でありジャーナリストであったJean-Baptiste Alphonse Karrは、今日ではその簡潔な名言「Plus ça change, plus c'est la même chose(変われば変わるほど、実は同じこと)」で知られています。Karrはフランス第二共和政の政治について書いていましたが、今日のM&A市場について語っていたとしても不思議ではありません。過去数年間、M&A市場のキーワードは「不確実性」でした。パンデミック後の金利の方向性、インフレ、そして経済成長、貿易政策、地政学的不安定性と、私たちはただ一つの不確実性を別の不確実性に置き換えてきただけなのです。明確であることは歓迎すべきことですが、ディールメーカーは、それなしで生きる術を学ばねばなりません。資本配分、戦略、そしてAIを活用した実行力が不可欠です。現在の市場でも、大型ディールを含め、多くのディールが成立しています。そして、今後もディールは続いていくでしょう。今こそ、ディールメーカーは大胆に行動し、正しい道筋を見つけ、その日のニュースが何をもたらそうと、それを貫くべきです。
※本コンテンツは、PwC米国が2025年6月に公開した「2025 mid-year outlook Global M&A industry trends」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。