Worldwide Tax Summary 2025年7月号

2025-08-20

Worldwide Tax Summary 2025年7月号トピックス

  1. 下院での「One Big Beautiful Bill Act」(H.R.1)の可決(米国)
  2. 移転価格、恒久的施設、および迂回利益税の改正に関する公開協議を開始(英国)
  3. DST法案を立法プログラムから除外(ニュージーランド)
  4. 政府がeコマースプラットフォームに対する課徴金の導入を検討(フランス)
  5. 多国籍企業が国別報告書を作成する際によくある誤り」に関する文書を公表(OECD)

下院での「One Big Beautiful Bill Act」(H.R.1)の可決(米国)

2025年5月22日、下院は、税法改正案、国境警備と国防のための歳出増、および多数の連邦プログラムに係る歳出減を含む「One Big Beautiful Bill Act」(H.R.1)を215対214で可決した。この法案には、連邦政府の法定債務限度額を4兆米ドル引き上げる条項も含まれている(本誌2025年6月号参照)。H.R.1には、下院歳入委員会が5月14日に最初に報告した税制案の一部変更が含まれている。H.R.1では、2017年減税・雇用法(TCJA)の一部として制定された特定の個人関係税、パススルービジネス税、および国際税規定(2025年末に期限切れ)は一部改正の上、恒久的に延長されよう。また、H.R.1では、適格生産資産(不動産)(property)に係る新たな特別減価償却やその他の事業投資インセンティブを含む、いくつかの新たな事業関係税および個人関係税の提案があり、チップ所得の非課税など、トランプ大統領が提案した特定の規定案の他、「不公正な外国税」に対処するための新たな報復措置やさまざまな歳入増策が含まれる。H.R.1は、下院規則委員会が採択した修正案(“manager’s amendment”)を反映しており、歳入委員会や他の下院委員会によって報告された多くの条項を修正している。修正された主な規定には、特定の国際事業関係税に係る税率の改正、個人の州税および地方税(SALT)に係る項目別控除の上限(現在1万米ドル)のさらなる引上げ案(3万米ドル→4万米ドル)、および特定のインフレ削減法(IRA)に係るクリーンエネルギー税額控除の段階的廃止日の前倒しが含まれる。さらに、下院は、以前に下院司法委員会によって承認されていた純所得税に係る州の課税権に関する連邦法(Public Law 86-272)(有形動産の電子商取引に係るネクサスルール関係)の改正案を含めている。

事業関係税および国際事業関係税の主な改正案は以下のとおりである。

事業関係税の改正案

TCJAに係る事業関係税の改正規定 – 本法案では、TCJAの下で2017年以降改正された主要な事業関係税規定に対処している。これらには、100%の特別減価償却(Section 168(k))、米国ベースの(US-based)研究投資に係る支出時損金算入(Section 174)、およびEBITDAベースの事業関連利子控除制限(Section 163 (j))、それぞれの復活が含まれる(本誌2024年3月号10月号および2025年1月号参照)。また、適格生産資産(不動産)に係る新たなSection 168(n)の特別減価償却規定が含まれている。

  • 100%特別減価償却 – 本法案では、2025年1月19日後、2030年1月1日(長期生産資産および特定の航空機は2031年1月1日)前に取得および事業供用された資産に係る初年度特別減価償却について、初年度100%償却に増加したうえで延長されよう(長期契約に係る特別規定(Section 460関連)の恒久化も規定)。
  • Section 174 – 本法案では、2024年12月31日後、2030年1月1日前に開始する課税年度に係る米国内での試験研究(R&E)費の支払い/発生額について、現行の資産計上および償却の要件が停止され、当該期間について、納税者は、(1)新Section 174Aに基づき即時損金算入、(2)資産化して研究に係る耐用年数(最低60カ月)で償却、(3)資産化して10年間で償却のいずれかを選択することになろう(なお、国内R&E関連支出に係る資産の処分などの場合は残額を償却)。国外でのR&E支出は引き続き15年間での償却となる(州がこれらに準拠する場合、国内外の事業活動および投資に係る取扱いの差異が差別的であるとして、州税上問題になる可能性があろう)。
  • Section 163(j) – 本法案では、2024年12月31日後、2030年1月1日前に開始する課税年度について、減価償却費などの控除前の調整課税所得(ATI)(EBITDA)ベースの事業関連利子控除制限となろう(上述の他規定と合わせ、州税の準拠状況にも留意が必要)。

適格生産資産(不動産)に対する新たな特別償却 – 本法案では、適格生産資産(不動産)(QPP)の定義を満たす特定の非居住用不動産に対する選択的な100%減価償却(新たなSection 168(n))を提案している。本制度の適用上、当該資産について、(1)Section 168の減価償却対象、(2)適格生産活動に不可欠なものとして使用、(3)米国(領土)内で事業供用、 (4)新規使用開始資産、(5)2025年1月19日後、2029年1月1日前に建設開始、(6)納税者によるQPP選択、(7)制定日後、2033年1月1日前に事業供用、の各要件を満たす必要がある(上述の(4)、(5)、その他について、特別な移行規定も策定される見込み)。本法案によると、適格生産活動には、有形動産(tangible personal property)として定義される適格産品(qualified product)の製造(manufacture)、生産(production)、精製(refining)が含まれよう(生産活動は、農業生産と化学生産に限定され、産品を構成する資産の大幅な改変が必要となろう)。なお、多くの州がSection 168(k)の特別減価償却について州税法において取り込んでいないか、加算調整を求めているが、新Section 168(n)償却についても別途検討が必要となろう。本法案ではまた、QPPの処分益がある場合、Section 1245償却の取戻し課税規定の適用がある。納税者は、当該資産の事業供用後10年以内に適格生産活動の不可欠な部分として使用されなくなり、非適格な生産に再利用された場合、通常所得(ordinary income)として減価償却費の100%(既存規定では25%)の取戻し課税となろう。

国際事業関係税の改正案

本法案には、GILTI(global intangible low-taxed income)、FDII(foreign-derived intangible income)、およびBEAT(base erosion and anti-abuse tax)に関する改正案が含まれている。本法案では、GILTIとFDIIの現在の控除率は若干修正の上、恒久的に延長されよう。2025年12月31日後に開始する課税年度の控除率は、GILTIについて49.2%(Section 78グロスアップ額を含む)(実効税率の閾値は13.335%(連邦税率21%×50.8%/80%(外国税額控除率))、およびFDIIについて36.5%に縮小されよう(現行法では、2025年後の開始課税年度にこれらの控除額はそれぞれ37.5%と21.875%に縮小見込みであるが、TCJA規定の継続を前提とした上院共和党の「現行ポリシー」ベースラインでは、本改正案では歳入増となる)。また、本法案では、2025年12月31日後に開始する課税年度の修正課税所得に対する現行のBEAT税率(10%から12.5%に引き上げ予定)は10.1%に引き上げられよう。本改正案では、subsection 59A(b)(2)の特別規定は廃止されよう(BEAT算定における通常税額の計算上、限定的なSection 38税額控除のみを考慮)。

Section 899(案) – Section 899(案)は、「不公正な外国税」を課す差別的な外国に対する報復措置である。不公正な外国税には、軽課税所得ルール(UTPR)、デジタルサービス税(DST)、迂回利益税(DPT)、および財務長官の規定による域外適用的な税、差別的な税、または米国の者(persons)に対し直接的/間接的に不均等な経済的負担を求めることを目的として制定されたその他の税、が含まれることが提案されている。不公正な外国税には、通常は、米国の者にもそれらの者が過半数を所有する被支配外国法人(CFC)にも適用されない税は含まれないであろう。特に、外国政府は、差別的な外国の税務上の居住者に係る特定子会社(不公正な税制がある国の居住者ではない外国法人もSection 899(案)の対象となりうる)と同様、適用対象者に含まれている。ただし、通常、議決権または価値の50%以上が米国の者によって直接/間接に保有されている外国法人は、適用対象者とは見なされないであろう。本改正案では、これらの国の居住者(その子会社の一部を含む)および政府に対する米国の純所得、源泉徴収、およびグロスベースの税率を年間(暦年ベース)5%ポイント引き上げ(条約適用後)、適用される法定税率を最大20%ポイント上回る税率まで引き上げる(同一課税年度に複数の税率が併存の場合は加重平均。なお、納税者が複数の差別的外国に関して適用される者である場合は最も高い%ポイントを適用)とともに、外国政府の免除は否認されよう。さらに、Section 899(案)では、BEAT規定に関して、5億米ドルの総収入と3%の税源浸食割合の閾値撤廃、すべての一般事業税額控除の否認、売上原価に資産計上される関連者費用(例えば、適格利子またはロイヤルティー)を税源浸食支払いとして扱う、サービスコスト法による例外の否認など、いくつかの改正を加えられよう。これらの改正に加えて、適用対象者が保有する米国法人は、通常12.5%(銀行は13.5%)の割増率でBEAT課税の対象となる。BEATに係るSection 899(案)は、米国法人株式の議決権または価値の50%超を適用対象者が所有している場合にのみ、米国法人に適用されよう。本規定案の発効日は以下のとおりである。

  • 税率(Substantive rates)とBEAT改正 – (1)制定90日後、(2)当該外国税が制定されてから180日後、または(3)当該外国税が適用される最初の日、のいずれか遅い方の後に開始する課税年度
  • 源泉徴収税 – 適用対象者に該当する期間に開始する各暦年に適用

なお、2027年1月1日前に源泉徴収を怠った場合の源泉徴収義務者の一時的なセーフハーバー(適時に遵守するための最善努力を条件)がある他、関連する国・地域が財務長官によって差別的な外国としてリストされていない場合、5%ポイントの税率引上げおよび関連する源泉徴収要件は求められないであろう。

なお、今回下院で可決された税制改正案では、現行法で2026年1月1日以降に開始する外国法人の課税年度に関して期限切れとなるCFCルックスルールールの延長などは取り上げられていない。

Source: PwC, Tax Insights

移転価格、恒久的施設、および迂回利益税の改正に関する公開協議を開始(英国)

2025年4月28日、英国政府は、2023年夏の最初の公開協議と2024年秋のアップデートを受けて、移転価格(TP)、恒久的施設(PE)、および迂回利益税(DPT)に係る規定の改正を目的とした法案に関する公開協議を公表した。これは、政府の法人税ロードマップの一部であり、国際基準と利害関係者のフィードバックに沿って税法を近代化および簡素化することを目指している(注)。この公開協議に加えて、さらに、3月26日の春季声明(本誌2025年5月号参照)との関連で、2つの移転価格関連の提案について公開協議が開始されている。1つ目は、中小企業(SME)に対する既存の移転価格制度免除を修正し、中規模企業を広く同制度の対象に含めるものである。2つ目は、TPルール適用となるすべての多国籍企業(国別報告書(CbCR)の提出が求められる多国籍企業に限らず)に対して、国際関連者取引(Controlled Transactions)スケジュール(ICTS)の提出により、クロスボーダーの関連者取引に関する情報をHMRC(歳入関税庁)に報告することを義務付ける新たな税務コンプライアンス要件である。

本改正は、公平性の向上、より簡素で理解しやすい法律の制定、国際条約パートナーとの連携の強化、条約上の恩典の確実性とアクセスの向上による英国への対内投資の促進を目的としている。この2つの公開協議では、国際租税法の3つの分野(移転価格、恒久的施設、DPT)がカバーされている。法案に関するTP/PE/DPTの公開協議は2025年7月7日まで行われ、その後、政府は利害関係者が表明した意見を分析し、回答を公表する。これらの意見は、政府の2025-26年度財政法案に含まれ、2026年中に発効する可能性がある。中小企業TP免除とICTSに関する公開協議も2025年7月7日まで行われる(その後、政府は意見を分析し、回答を公表)。政府がこれらの変更のいずれかまたは両方の導入にメリットがあると結論付けた場合、当局は将来の財政イベントでの実施に向けて取り組むことになる。

(注)法案に係る公開協議について、TP関連では、「関連者」の定義拡大(二者に共通管理の協定のある場合など)、英国居住法人間の国内取引を一定の要件のもとで免除(事業体/取引単位で免除を受けない選択も可)、金融取引(保証)に関するOECD原則と英国規定のさらなる整合、無形固定資産に係る評価(市場価値との併存ではなく、独立企業間価格で統一)、貸付関係およびデリバティブ契約に係る移転価格規定との関係や為替差損益の当該規定への取込み、が含まれる。DPT関連では、新税であるDPTを新たな未査定の移転価格利得(UTPP:Unassessed Transfer Pricing Profits)に置き換えて法人税に統合(相互協議(MAP)対象の明確化)、“不十分な経済実体要件(insufficient economic substance condition)”を簡素化された新たな“租税設計要件(tax design condition)”に置換え、通常の法人税制の下で納税者の告知要件なし、が含まれる。PE関連では、PEの定義に係るOECDモデル租税条約(MTC)とのさらなる整合、MTC第7条およびOECD承認アプローチ(AOA)に基づくPEへの利得の帰属(PEと非英国企業双方の機能・資産・リスクについても要検討)、投資マネージャーの免除規定(IME)の拡大および明確化、が含まれる。

Source: PwC, Tax Insights

DST法案を立法プログラムから除外(ニュージーランド)

政府は、デジタルサービス税(DST)法案を立法プログラムから除外する(現時点では進めない)ことを決定した(歳入大臣がその旨を公表)。グローバルな解決策が常に優先されてきたことや、最近のOECDの取組みに対する各国コミットメントを受けたものであるとしている。デジタルサービス税法案は、デジタル化によって生じる課税の課題に対処するための他国との合意に向けた進展が見られないとの認識に基づき、前政権によって2023年に提案されていたものである。

Source: PwC, Knowledge Navigator

政府がeコマースプラットフォームに対する課徴金の導入を検討(フランス)

政府は、eコマースプラットフォームに対する課徴金(levy)を導入し、業界の監視を強化する計画である(注1)。2025年4月29日、デジタル担当大臣は、大手eコマースプラットフォームの活動とそれが競争、製品の安全性、市場の公正性に与える影響について懸念を表明した。これらの課題に対処するため、政府は、公正性を回復するための措置として、輸入される各小包に対して定額の課徴金を導入することを検討している。さらに、フランスは、ヨーロッパに輸入される少額貨物(low-value consignments)に対する150ユーロの関税免税閾値の廃止(注)を支持している、としている。また、外資系の大手プラットフォームを通じてEUに輸入される小包の増加に対応して、税関検査を3倍に増やすことを公表している。上述の計画に加えて、経済財政省は、プラットフォームとビジネスユーザーに対する管理を強化し、リスクの高い事業者を早期に特定するとともに、税務代理人に対する新たな支払い能力保証の施行を意図している。要求された記録を提供しない納税者は、VAT登録から抹消される。

(注)付加価値税(VAT)については、2021年7月1日に少額貨物の免税閾値(22ユーロ)が廃止されている。また、EU消費者に150 ユーロまでの商品を販売する事業者のVATコンプライアンス簡素化のため、輸入ワンストップショップ(IOSS)も導入され、販売者は単一の登録でVATを徴収、申告、納付できるようになっている。

Source: PwC, Knowledge Navigator

「多国籍企業が国別報告書を作成する際によくある誤り」に関する文書を公表(OECD)

国別(CbC)報告書には、多国籍企業(MNE)グループが事業を行う国・地域(税務管轄)における所得、納付税額、経済活動のグローバルでの配分に関する貴重な情報が含まれており、ハイレベルな移転価格リスク評価、その他のBEPS関連リスクの評価、および必要に応じて経済分析および統計分析に活用できる。ただし、これらの情報をこれらの目的に効果的に使用できるのは、MNEグループが作成したCbCレポートに含まれるデータが安定的で正確である場合に限られる。税務当局は、これまでに提出されたCbCレポートのデータについて多くの懸念に直面しており、2025年5月、これらの項目のうち、最も一般的なものを文書として公表した(注)。CbCレポートの適用範囲内のMNEグループは、これらについて検討し、CbCレポートでこれらの誤りが繰り返されないようにする必要がある。これは、納税者番号の欠落や誤りに関して特に重要である(税務当局がCbCレポートのデータを効果的に使用することが困難となるため)。OECDは、誤りの発生リスクを軽減するため、本文書を納税者およびアドバイザーと共有し、不正確なCbCレポートについて修正を求めることを推奨している。各国税務当局は、提出されたCbCレポートに係る誤りを特定するため、以下のようなさまざまなプロセスを導入している。

  • CbCレポートが提出された時点でCbCレポート(XMLスキーマ形式)を使用して実施される自動検証により、多国籍企業グループが特定のエラー(無効な形式の納税者番号、重複した納税者番号、「NOTIN」の過剰または不適切な使用など)を含むCbCレポートの提出を防止
  • CbCレポートが提出された後、各国との交換前に行われる自動または手動の検証
  • CbCレポートが交換された後に、受領国・地域によって行われる自動または手動の検証

税務当局が、提出されたCbC報告書に誤りが含まれていると判断した場合、MNEに対して誤りの訂正を求めるべきであるとしている。

(注)誤りの例として、数多くの類型があげられており、構成事業体からの配当が税引前当期利益(損失)の額に含まれている、重要性の原則により連結の範囲から除外される会社等および恒久的施設等が含まれていない、といった誤りも含まれている。

Source: OECD website

その他、海外税務ニュースを含む当法人発行ニュースにつきましては、https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/tax/tax-news.htmlをご参照ください。

本ニュースは、各国の税制改正の動向をお知らせする目的で、各国のPwCが作成する速報ニュースや各国省庁等のホームページ掲載の情報等を翻訳してお伝えしています。税制改正案の段階の情報が多いため、最終的な法制度につきましては、専門家にご確認くださるようお願いいたします。

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