人工知能(AI)やアナリティクス(データ解析による経営支援)の応用は人材マネジメントの世界でも活発になっている。2015年前後を境にして、日本でも採用時の内定者の予測や異動時の配置のマッチングなど様々な局面でデータの活用が進みつつある。
実際、PwCコンサルティングとProFuture(東京)が2020年に実施した調査でも、人事領域でのデータ分析について、日本企業の65%が「取り組み済みである/取り組み予定である」と回答している。従業員5000人以上の大企業に限定するとこの割合は81%にも達しており、事業環境が急速に変化するなか、データを用いた客観的な判断が人材マネジメントでも標準的な取り組みになりつつあることがわかる。
この動きに拍車をかけているのが、新型コロナウイルス禍に伴うテレワークの浸透である。在宅を前提とした業務の遂行を余儀なくされるなか、人材マネジメント領域でのデータ活用が改めて脚光を浴びている。
具体的には、テレワークに伴い多くの企業で従業員のモチベーション(意欲)や心身の健康に対する影響、生産性の維持、組織の一体感の低下など様々な課題に直面した。その解決を手助けしてくれる方策の一つとして、「ワークスタイルアナリシス(働き方のAI分析)」という考え方が注目されているのである。
どのようなデータを分析し、どんなことがわかるのであろうか。テレワークを中心とした働き方では従業員の多くの活動がウェブ会議やチャット・メールなどを仲介したものになっている。これらのアプリケーション上の活動情報をAIで解析することで、従業員間や組織間のコミュニケーション状況の可視化、エンゲージメント(仕事への熱意)や生産性に影腎を与える課題の特定や予兆の把握ができるようになった。
当社でも20年4月から試行的に導入している。社員のメールやカレンダー、意識調査などをAIで解析し、組織間での協働作業や情報伝達が機能しているかを把握。さらにコミュニケーション的に孤立している従業員の特定やモチベーション低下による離職防止、心身問題の予兆をつかみ、課題への早期の対応を可能にしている。こうした情報は各組織のリーダーに提供し、テレワーク下でのマネジメントの意思決定を支援する貴重な情報源にもなっている。
テレワークが進んだことで、出社が当然だった時代には自然に把握できていた組織の雰囲気や個々の従業員の士気などがわからないまま、社員のマネジメントをしなくてはいけない状況となっている。新たな働き方が求められるニューノーマル(新常態)の世界では、人にまつわる様々なデータを収集しAIを活用することなどにより、現場の意思決定を支える様々な情報を提供する仕組みが欠かせない。それがなければ、組織の生産性・従業員のモチベーションを維持・向上させていくことは困難になっていくであろう。