
PwC's View 第56号 特集「デジタル時代の生成AI活用法―効率化から監査、セキュリティ対策まで― 」
生成AIは会計・監査領域を含めて多様な活用方法が模索されています。本特集は生成AIとそのセキュリティ分野での応用に焦点を当て、デジタル時代における経営革新を探求します。
2021-07-28
人工知能(AI)とは何か。現在ビジネスシーンで「AI」と呼ばれているものは2つに大別される。1つは設定したルールを自動化したもので、もう1つは大量のデータや事実からパターンや傾向を読み解くものである。前者は「演繹(えんえき)法的AI」、そして後者は「帰納法的AI」と言い換えることができる。
演繹法的AIは人間があらかじめルールを決め、それに従って分析処理・実行するアプローチだ。帰納法的AIは過去に起こった実績に対して複数データから共通する特徴や関連性を探し出し、そこから普遍的なルールを導き出す。
最近のAIブームをけん引する機械学習(マシンラーニング)はこの帰納法的AIに該当する。数年前に世界的に話題になった囲碁AIも全ての打ち筋を事前に想定してルールを設定するのではなく、過去の膨大な棋譜データから当該局面においてどの打ち手が一番勝利に近づいたかを導き出す帰納法的なアプローチである。
この帰納法的な手法は新しい考え方ではなく、従来の統計解析にもある。デジタル空間でのデータの蓄積に加え、コンピューターの高性能化と低価格化がもたらした深層学習(ディープラーニング)などの高度な分析技術の進化が、最近の帰納法的AIを実現した。
これにより、従来に比べて高度なことができるようになった。例えば大手EC(電子商取引)サイトでのレコメンド(お薦め)機能は購入に至る確率を飛躍的に向上させている。「20代女性だから○○を薦めよう」といった利用者の属性から演繹法的に商品を提示する方法に代わり、過去の膨大な数の利用者の購入・閲覧履歴から帰納法的にパターンを導き出し、閲覧者が潜在的に求める商品を示す手法を取るようになったからだ。
ただ、なぜこの結果をAIが出したのか、最近の帰納法的AIは理由を説明しにくい点に注意したい。人間が事前にルールを決める演繹法的AIはそのルールから理由を説明できるが、帰納法的AIは手法によってはAIが見つけ出したルールが、人間がその意味を理解することが難しいブラックボックスになるものもあるからだ。
日本企業はどう活用したらよいのか。最近のAI技術をリードする帰納法的AIは参考となる過去のデータを大量に保持するほど活用が期待される。ここで重要なのは「量」だけではなく「質」である。まずは企業の中に過去の成功事例などに関連したデータがないか探してみてはどうだろうか。
AIの2つのアプローチ |
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演繹法的AI |
人間があらかじめ定めたルールで判断。20世紀のAIの主流。なぜその結果が出たのか、理由を説明しやすい。 |
帰納法的AI |
複数のデータから共通する法則を抽出して判断。最近のAIブームの主流。結果の理由の説明が困難な場合がある。 |
高見 一生
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社
※本稿は、日経産業新聞2021年3月23日付掲載のコラムを転載したものです。見出しおよび図表は同紙掲載のものを一部修正/加工しています。
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※法人名、役職などは掲載当時のものです。
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