
次世代のB2Bセールス ―ヒトとAIの協働による次世代の営業スタイルの実現に向けて―【前編】
AI活用の営業改革を成功させるために、重要な5つのポイントのうち、「ヒトとAI協働での付加価値提供」「営業オペレーションモデル」について解説します。
2023年から継続的に実施している「生成AIに関する実態調査」では、前回(2024春)の米国との比較により、日本企業が直面する課題を浮き彫りにしました。今回は新たに中国、英国、ドイツを調査対象に加え、世界における生成AI活用の潮流の中での日本の現在地を多角的に明らかにしています。日本は活用の推進度こそ平均的ですが、他国に比べて効果創出の水準が低くとどまっています。高い効果を上げている企業はいずれの国でも、生成AIを単なる効率化ツールではなく、業務や事業構造の抜本的改革の手段と捉え、業務プロセスへの本格的な組み込み、ガバナンス体制の整備、従業員への価値還元に取り組んでいます。日本では、このような先進的な取り組みを実現する企業の割合が少なく、それが全体としての成果の差となって表れています。今後は、経営層のリーダーシップと挑戦を後押しする環境づくり、そして変革を支える組織的マインドの醸成が不可欠です。
PwC Japanグループは、「生成AIに関する実態調査2025春 5カ国比較」を実施し、日本企業と米国・英国・ドイツ・中国企業における生成AIの認知度、活用状況、直面する課題を比較して明らかにしました。
生成AIは、業務効率化にとどまらず、企業の変革を促す手段として注目を集めています。しかし日本企業においては、活用の推進度が一定の水準に達しているにもかかわらず、期待を上回る効果を実感している企業は限られており、むしろ効果が期待を下回る企業の増加が明らかになりました。前回調査で見えた二極化の兆しは解消しておらず、さらに二極化が進む傾向にあります。
本調査では、まず日本における生成AIの導入とその効果の実態を明らかにするとともに、米・英・独・中との比較を通じて、日本企業が直面する構造的な課題を浮き彫りにします。そのうえで、効果を上げている企業に共通する成功要因を抽出し、日本企業が現状を打破し変革を実現するための具体的な示唆を提示します。
本調査は、売上高500億円以上の企業に勤務する課長以上の方々を対象に実施しました。本調査が日本におけるこれからの生成AI活用の在り方を検討する一助となることを期待しています。
まず日本国内の状況を見ると、生成AI活用の推進度が伸び、「社内で生成AIを活用中」または「社外に生成AIサービスを提供中」と回答した層は前回調査から+13ptの56%となり、過半数を超えました(図表1)。
図表1:自社の生成AI活用の推進度合い
生成AIの期待度合い(チャンス)については、「業界構造を根本から変革するチャンス」「他社(者)より相対的に優位に立つチャンス」が減少した一方、「自身や周囲の困りごとを解決するチャンス」が増加(前回調査から+6pt)。「自社ビジネス効率化のチャンス」と捉える層と合わせ、内向きの捉え方が過半数を占めました(図表2)。
図表2:生成AIへの期待度合い(チャンス)
生成AIへの脅威認識については、「コンプライアンス・企業文化・風習などにおける脅威」が44%と前回調査から大幅に増加しました(+23pt)。チャンス・脅威とも、生成AI活用が浸透・定着してきた結果、より身近な範囲での関心にシフトしつつあるように見えます(図表3)。
図表3:生成AIへの脅威認識
各業界での生成AIへの取り組み状況を把握するために、前回までと同様に「生成AI活用の推進度」で順位付けを行い、業界ごとの順位の変動を比較し、以下の4つの業界層をグルーピングしました(図表4)。
図表4:推進度の特徴的な業界層
パイオニア層では、新サービス提供などの新たなユースケースの導入傾向も見られます。躍進層では、カスタマーサービスへの活用など、業界の課題に沿ったユースケース構築が進んでいると推察します。安定成長層では、データ収集や企画アイデアなど、社内業務の効率化を中心とした活用が進んでいると考えられます。試行錯誤層では、現状技術レベルで導入に課題があると想定されるものの、一部企業においてはユースケース開発が進められています。
前回調査で見えた二極化の兆しは、解消に向けた進展がなく、既に活用中/具体的な案件を推進中の層では、「まだ効果を評価できていない」が11pt減少して「やや期待を下回る」と「期待とはかけ離れた結果になった」が7pt増加した一方、他の回答は微増にとどまり、二極化の傾向が常態化しつつあります(図表5)。
図表5:生成AIの活用効果に対する期待との差分
期待を上回る効果を創出する企業と、期待未満の効果しか出せない企業の分岐点は、AIを単なるツールとして捉えるのではなく、AIを事業の中核に据えて本質的な変革に取り組んでいるかどうかにあります(図表6)。
図表6:生成AIへの期待値
上記の根拠となる調査結果をいくつか見てみましょう。
目的意識については、生成AIの活用効果と生成AIへの期待度合い(チャンス)の設問で、生成AI活用効果が期待を大きく上回ると回答した層の55%が、生成AI活用を「業界構造を根本から変革する」チャンスと捉えています。高い視座を持って生成AI活用を推進することで、期待を大きく上回った効果が出たと考えられます(図表7)。
図表7:生成AIの活用効果と生成AIへの期待度合い(チャンス)
推進体制については、生成AIの導入を推進する部門の設問で、期待を大きく上回ると回答した層では、約6割が「社長直轄(経営トップが直接推進している)」と回答した一方、期待未満と回答した層では1割未満にとどまっています(図表8)。
図表8:生成AIの導入を推進する部門
また、CAIO配置状況については、期待を大きく上回ると回答した層では6割が「配置されている」と回答した一方、期待未満と回答した層では約1割にとどまっています(図表9)。
図表9:CAIOの配置状況
業務プロセスについては、生成AIによる業務置き換えの見込みの設問で、期待を大きく上回ると回答した層では、約7割が「完全に置き換わる(100%)」「大部分が置き換わる(60~80%程度)」と回答した一方、期待未満と回答した層では15%程度にとどまっています(図表10)。
図表10:生成AIによる業務置き換えの見込み
また、生成AIの業務プロセスへの組み込み度合いやAIエージェントの導入状況の設問でも、期待を大きく上回ると回答した層と期待未満の層で顕著な差が見て取れます(図表11)(図表12)。
図表11:生成AIの業務プロセスへの組み込み度合い
図表12:AIエージェントの導入状況
活用の土台については、生成AI関連の最新技術へのキャッチアップに関する質問で、期待を大きく上回ると回答した層では、8割が「十分にキャッチアップできている」と回答した一方、期待未満と回答した層では約1割にとどまっています(図表13)。
図表13:生成AI関連の最新技術のキャッチアップ
また、生成AIの活用効果とガバナンス整備状況や、生成AIで生まれた効果の還元先の設問でも、期待を大きく上回ると回答した層と期待未満の層で顕著な差があることがわかります(図表14)。
図表14:生成AIで生まれた効果の還元先
同じ設問で日・米・英・独・中の5カ国を調査した結果、生成AI活用において、米国と英国が効果的な導入を示し、中国が積極的な活用を進める一方、日本は効果創出について課題を抱えていることがわかりました(図表15)。
図表15:各国の位置づけ
5カ国の調査の結果、日本の期待を上回る効果を上げている企業と同様に、各国共通で高い効果を上げている企業は、経営変革の目的をもった経営陣のリーダーシップの下で生成AIを中核プロセスに統合し、強固なガバナンス整備と全社的変革を進めていることがわかりました。逆に効果が期待を下回る企業は、生成AIを単なるツールとして断片的に導入しています(図表16)。
図表16:各国共通の成功要因
日・米・英・独・中の5カ国の生成AI活用の実態から見えた事実とその解釈を以下に示します。
他国と比較すると、日本の生成AI活用の推進度は平均的ながら効果創出が低く、「期待を上回る」企業の割合は米・英の1/4、独・中の半分にとどまります。
効果の格差は、時間の経過とともに指数関数的に拡大するため、早急に手を打つ必要があります(図表17)。
図表17:日本の位置づけ
日本は、国全体では期待を上回る効果を上げる企業の割合は低い一方、期待を上回る層に注目すれば、期待を上回るという回答の割合が5カ国の中で最も高い米国の企業と同様の目的意識や推進体制であることがわかります。
これは、日本においても、生成AI活用で効果を上げるうえでの要諦は他国と変わらないことを示唆していると考えられます(図表18)。
図表18:効果の日米比較
今回の調査から見えてきたのは、経営リーダーシップの下で、高い目的・期待設定、推進リソースの確保、業務プロセス・ガバナンス・還元策の整備といった全社的な改革が必要であるということです。
単なる効率化のツールとして生成AIを活用する企業は、推進が現場任せになり、既存業務の延長線上でしか改善を進めることができません。このため、抜本的に業務を変えることはできず、小さな効果しか享受できません(図表19)。
図表19:生成AI活用の成功要因
期待を上回る効果を創出する企業が日本に少ない背景として、合意形成重視・ボトムアップ志向の意思決定スタイル、失敗に過度な懸念をもつ企業文化、低い目標設定とチャレンジ意識の欠如があると考えられます(図表20)。
図表20:効果を上げるために日本企業がとりうる対応
こうした日本企業にありがちな傾向に対して、今回調査で見えてきた成功企業のような構造改革を実現するためには、トップダウンの意思決定、リスク回避文化の緩和、高い目標設定と変革マインドの醸成が正攻法での対応となります。
一方、日本企業の特徴として、社員一人ひとりが強い責任感と高い自律性を持ち、幅広い業務に対応できるジェネラリストとしてのスキルを備えている点が挙げられます。さらに、生成AIの活用においては、特定の部門に限らず、社員全体が積極的に取り組む姿勢とアプローチが標準化しつつあります。
こうした土台の上に立ち、現場の知識と業務感覚を持つミドルマネジメントが、経営の戦略的意図を的確に汲み取りながら、個々人の生成AI活用による成果を組織全体の価値創出へと昇華させることができれば、日本企業ならではの競争優位の源泉を築くことができるのではないでしょうか。
調査実施時期 | 日本:2025年2月19日~2月25日 米国:2025年3月3日~3月18日 中国:2025年3月3日~3月18日 英国:2025年3月8日~3月18日 ドイツ:2025年3月4日~3月18日 |
回答者数 | 日本:945名 米国:670名 中国:512名 英国:412名 ドイツ:103名 |
調査方法 | Web調査 |
調査対象の条件 |
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[PDF 7,444KB]
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