「社長、AI(人工知能)はこの買収の成功確率が高いと判断しています」。こんな会話が役員会でなされる日が来るかもしれない。
M&A(合併・買収)の意思決定は検討すべき視点が多く複雑で、データ化されていない要素が多く残っている。一方、M&Aの各プロセスはAIによって部分的に高度化・自動化され始めている。近年の取得できるデータの種類の拡大、データ処理・分析手法の革新がそれらを加速させている。
例えば、ある事業を早急に売却しなければならない局面。AIは可能性の高い買い手候補を探し出せる。世界の過去数十万件のM&A案件データとその買い手、売り手の企業・事業情報を基にした機械学習によって、最も可能性が高い買い手候補を導き出す。
このような最適マッチングは、AIが得意とする領域の一つだ。現段階では当社を含めてアドバイザーが経験やロジックを基に導き出す買い手候補とAIがデータから導き出す買い手候補を照らし合わせ、選択肢を広げる目的で使用している。今後、企業の外形的な情報だけでなく、固定資産や技術・特許などの詳細情報を組み合わせれば、より精度の高い候補先選定ができるようになるであろう。
買収時のデューデリジェンス(資産査定)でもAI活用が進んでいる。買収対象の内部情報が不十分でも、外部データでビジネス環境や成長ポテンシャル(潜在力)を評価できるようになってきた。
例えば建物、人の動き、気候といった要素は地理空間データとして数値化できる。つまり現実の世界の多くはデータによって可視化できるようになってきた。これらの情報に市場や購買データ、ウェブ上の消費者の声を重ね合わせていく。多種多様なデータを組み合わせることで、これまでに見えなかった重要な発見がAIによって導き出せる可能性が高い。
また、AIを用いて事業の将来収益に大きな影響を及ぼす重要な指標を予測する取り組みも様々な領域で実施されている。
M&Aの実務はこの20年で成熟してきており、経験値がたまった日本企業も多い。それでもまだその成功率は高いとはいえない。M&Aについて正しく意思決定するには情報の非対称性の最小化を追求し、AIを含めてあらゆる手段で最高の分析と評価をすべきである。M&Aプロセスが平成時代と同じなら、最高の手を尽くしているとは言えないだろう。