リスクアペタイトの有用性

ここ数年、3つのディフェンスラインの考え方に基づき、第1線へリスク管理機能の多くを移管する例が見られます。本稿では、PwCが実施するリスク管理の動向に関するサーベイをもとに、明確なリスクアペタイトの設定が第1線によるリスク管理活動の強化に資する可能性が高いことを概観します。

1. Risk in review 2017

PwCではリスク管理の動向に関するサーベイを定期的に実施し、「Risk in review」としてレポートにまとめています。2017年度のサーベイは、リスク領域と第1,2線の役割をテーマとして実施されました。

ここ数年、3つのディフェンスラインの考え方に基づきリスク管理機能の多くを第1線(組織によっては第1.5線)に移管する傾向が見られ、本サーベイでも多くのリスク領域において第1線をリスクオーナーと捉える組織が増加していることがわかります。さらに、第1線主導のもと実効的なリスク管理を行う組織ほどリスクアペタイトを明確に定義し、それを尺度とするアプローチをとっているという結果も出ています。

このような結果を踏まえ、本稿では明確なリスクアペタイトの設定が第1線によるリスク管理活動の強化に資する可能性が高いことを概観したいと考えます。

2. 第1線主導のリスク管理活動を推進するには

(1) 実効性を担保するポイント

第1線主導のリスク管理活動を推進する狙いは、一義的にはリスクのオーナーシップを明確化することにあると考えられます。加えて実質的な側面から捉えれば、ビジネス・業務が細分化(専門化)する一方でリスクは広範化していくため、加速度的に変化するリスクに有効に対処する狙いもあると考えます。サイバーセキュリティーリスクや各国で高まるコンプライアンス領域のリスクなどはその典型例といえます。
さらに、第2線との連携・相談を前提としつつも、現実的な業務環境では第2線との連携が難しい急を要する状況も想定されます。また第2線が有するリソースや情報にも限りがあり、指標の設定やテクノロジーの活用による能動的な予兆管理といったモニタリング活動をおこなったとしても、あらゆる事態に対応できるわけではありません。
3つのディフェンスラインが本来の意図を体現し実効性を有するためには、現場での正しい判断とそれに基づく行動(アクション)が重要になります。最も豊富な情報を有し、ビジネス環境を理解している第1線が、限られた時間内にいかに「社会の期待を踏まえた、組織が正しいと考える結論」に至るかがポイントになるのです。

(2) 想定される課題

このような状況下で、収益目標や営業目標も念頭に置きながら第1線に意思決定を委ねるには、価値判断の基準が必要になります。
禁止事項(多くは法令をはじめとするコンプライアンスや事務的手続き)は判断基準が明確なため順守されやすいといえますが、その背景や組織としての価値観が求められる場合には解釈の余地が多く残されています。そのため解釈を誤れば、ときに集団志向(組織的自己正当化)に陥る可能性もあります。また、組織が大規模になれば部分が見えなくなり、局所的なリスクの発生可能性も高くなります。実際に最近の企業不祥事は、必ずしもメインストリームの事業や大規模拠点で発生しているわけではありません。事業全体から見れば一部分にすぎない周辺事業や海外の小規模拠点などから発生し、結果として全体に影響を及ぼす事例も見られます。

(3) リスクアペタイト明確化の効果

このような課題に対応し、第1線による価値判断の基準となるのがリスクアペタイト(リスクトレランス)であり、さらに行動の側面から定義するものが行動原則(コードオブコンダクト)です。図表1から、第1線がリスク管理機能を多く担っている組織ではリスクアペタイトフレームワークを具備していることが読み取れます。また図表2からそういった組織では実効的なリスク管理を実現していることが読み取れます。

3. 効果的なリスクアペタイトとは

現状、多くの組織においてリスクアペタイトの定量的な側面での具体化が進んでいます。しかし、その多くが収益、資本管理、流動性管理に偏っています。一方で、最近の顕在化するリスクには定性的なもの(典型的にはオペリスクやコンプライアンス、さらにはコンダクトリスクやフィデューシャリーデューティー)が多いにも関わらず、これらについてはリスクの最小化をうたうなど判断基準としては具体性を欠いている傾向があります。
図表3からオペレーション、テクノロジー、人材管理などは、多くの組織で1線にリスク管理を依存している、または1線の方がより効果的にリスク管理ができる可能性が高い領域と読み取れます。このような領域については特に、自律的かつ機動的なビジネス判断のため、具体的なリスクアペタイトの明示が重要です。

自社の中で第1線に大きく依存しているリスク領域について、リスクアペタイトさらには行動原則が現場の判断基準としてどこまで活用できるか、確認されてはいかがでしょうか。

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