「全員主役」時代の新しいリーダーシップとは

人材・組織のエネルギーを最大化する「場のリーダーシップ」

  • 2025-06-03

新しいリーダーシップのあり方として注目を集める「場のリーダーシップ」論。従来のリーダーシップ論で見られた「特定の個人がリードする」ことを求めないリーダーシップのあり方です。本記事では、「場のリーダーシップ」とは何かを議論しながらその効用と利点を実際に体験する試みを紹介します。「場のリーダーシップ」の理論と実践に詳しい武蔵野大学の中村一浩准教授と、PwCコンサルティングで組織変革や人材育成を専門とする6名が、「全員のエネルギーを最大化する」リーダーシップを探りました。

参加者

武蔵野大学 ウェルビーイング学部 准教授
中村 一浩氏

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
鈴木 貞一郎

PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
中北 順也

PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
岡本 茉莉子

PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
荒井 滉平

PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
小島 竣介

PwCコンサルティング合同会社 アソシエイト
山田 理紗子

※法人名・役職などは掲載当時のものです

上段(左から):鈴木、岡本、山田、小島 下段(左から):荒井、中村、中北

若手の主観表明は否定されやすい?──「共鳴し合う」ことで破られる壁

中村:
今回は「場のリーダーシップ」とは何かを探ります。1950年代から広がった「上意下達」型の機械制御的な統率を「リーダーシップ1.0」とすると、2000年代からはリーダーを起点にチームが協働して知識創出を目指す「リーダーシップ2.0」が主流になりました。「場のリーダーシップ」は、これらを包含し、人と組織の可能性をさらに広げる「リーダーシップ3.0」へと広がっていくだろうと考えています。

さて、場のリーダーシップとは?という話に入る前に、そもそも「場」とは何なのかを感じてみたいと思います。
いま私たちがいるのは少し不安と緊張感が漂う「場」のようですね。こうした場の空気感や環境要因に、実は私たちはかなりの影響を受けています。これがもし公園の芝生で話していたら、きっとまた違う雰囲気の「場」になるはずです。

武蔵野大学 ウェルビーイング学部 准教授 中村 一浩氏

鈴木:
私は普段から慣れている社内の環境なので、今もリラックスしています。もし中村先生の教室だったら逆に緊張しそうです。

山田:
ここにいる皆さんとは普段、リモートで画面越しに話すことが多いので、こうしてリアルに集まるのは新鮮です。今日は、ある「場」で感じる私の悩みを聞いてもらえればと思います。

私を含む若手コンサルタントは、会社などの組織・チームから、「あなた自身の考え(主観)を表明してほしい」「あなたらしいリーダーシップを発揮してほしい」と期待されます。コンサルタントという立場や専門性への期待もあるでしょうが、一方でその期待に戸惑うこともあります。

以前、とある場で「自分の主観=私なりの意見」を表明したところ、あまり響かずに流されてしまった苦い経験があります。主観の表明をある種の自己表現だと考えると、「主観=表現」が否定されたり軽んじられたりした時、「自分自身」をも否定されているような気持ちになってしまう。すると「私なりの意見」を表明することが怖くなり、「その場に合った“正解”」を探し始めてしまうんです。

鈴木:
なるほど、それは日常的によくありそうな場面ですね。私は、若手のみんなに「主役になってほしい」と思っています。あなた個人として何を感じて、どう考えるかを大切にしてほしいのです。自分は何を思い、どんなスタンスを取るかという主観を起点に、思いもよらぬ「新しい発見」を掘り当てて主役になってほしい。「正解」を求める必要はないと思うんです。

これまでの体験を振り返ると、私は「場」を意識したことがあまりなかったのですが、周囲を観察することはいつも心がけてきました。例えば新卒研修で100〜300人を相手にリードした時は、個ではなく全体を見ていました。そこではディレクターである自分が参加者に与える影響も考え、ピシッとした感じをあえて出さず、ゆったりとした雰囲気となるように意識して関わっていましたね。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 鈴木 貞一郎

また、こんなことも感じます。「今日の会議には職階が上の方がいるので、自分はおとなしくしていても大丈夫だろう」と寄りかかられてしまうと、窮屈だし、少しいら立たしさも感じてしまう。「一人ひとりが主役になるチャンスなのに、それを手放すなんてもったいない」と。

中村:
周囲の人に対して「主役になってほしい」という思いを持つことは、すごく大切ですよね。と言うのも、場のリーダーシップは従来型のリーダーシップとは異なり、「特定の個人がリードする」ことは求めず、それぞれの主観と、それが「共鳴し合うこと」に価値を置いています。
それゆえ、特定の個人1人が過度に頑張る必要はありません。また、チームにとっての絶対的な「正解」も規定されないので、誰かが立案した当初の計画とは異なる形でのアウトカム(成果)が生まれやすいという特徴があります。

実は今日の座談も、事前に準備していた計画や資料はあったのですが、それには固執せず、皆さんが主観を述べ合うことで「場」が生まれる状況を体験していただいています。そうすることで、こうした「場の影響」で生まれた成果を、皆さんと共有したいんです。

荒井:
僕も、1人の個人として発揮できるリーダーシップには限界を感じるところがあります。プロジェクトを始めると、「自分がリードしなきゃ」と、ついどこかで考えるのですが、そんな従来型のリードだと、ミーティングで空振りしている感触が残ってしまうんですよね。

PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 荒井 滉平

「自分がなんとかしなくては」「この人がいれば……」と自分あるいは他者に依存する時と、「この場では自由に思ったことを話せそう」と感じて臨む時とでは、場に生まれるものは確かに違いますよね。後者なら「自分も主役、みんなも主役」という場になりそうだなと思いました。

図表1:「これまでのリーダーシップと場のリーダーシップの比較」

ファシリテーションを超越する「場のリーダーシップ」

鈴木:
今日は非常に大きな学びを得ました。場のリーダーシップとは「ファシリテーションの技術」なのかと考えていましたが、ファシリテーションは「コントロールしなければならないもの」と考えるため、一種の力技と言えます。それに対して場のリーダーシップは、エネルギーを最大化するために、もっと場や他者に意識を向ける必要があるものなのですね。

中北:
最初は場をつくる必要がある。ただその後はエネルギーで流れていく──ということですね。互いの主観を大切にするリーダーシップで、どういう場をつくるのかということが大切なのだと思います。

岡本:
場はみんなでつくるもの、場を成す要素は自分だけではないと思えば、楽になれる部分もあります。思考が硬直しがちな人も、その場になじむことで少しでも柔軟になれるといいな、と思います。

山田:
仕事で主体性を発揮するにはどうすれば良いかと悩んできましたが、肩の力を抜くことで見えてくるものがあるのだと感じました。今までとは違ったアプローチにチャレンジしてみる価値がありそうです。

小島:
みんなが「手放す」こと、「委ねる」ことが大切だと思います。管理職も、若手の立場でも、手放すことで広がりが出て、新たな思いが生まれてくるのではないでしょうか。

中村:
個人が頑張ることは大切ではありますが、頑張りすぎると苦しくなる。みんなで分かち合って進める方が良い。そこに「場」も加わればさらにいいなと思っています。誰か1人が孤軍奮闘するのではなく、場の流れに沿って、みんなで活躍できることが理想だと考えています。

主要メンバー

鈴木 貞一郎

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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中北 順也

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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岡本 茉莉子

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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荒井 滉平

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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小島 竣介

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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山田 理紗子

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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