
生成AIの将来技術動向 2035年への生成AI技術変化を見据え、今、日本企業がなすべきこと
生成AIは想像を超えるスピードで私たちのビジネスを再構築しています。本レポートでは大規模言語モデル(LLM)の現在の技術レベルを整理し、研究開発の最前線や議論の焦点を俯瞰した上で、今後5年・10年を見据えた生成AIの進化と社会・ビジネスへの影響について展望します。
AIのビジネス活用が加速しており、企業においては無視のできない経営課題となっています。チャットボットやロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)による日常業務の効率化に加え、生成AIを使って企画案の壁打ちや議事録作成を行うケースも増えてきています。さらに、AIエージェントと呼ばれるユーザーの業務を代替するAIも登場しました。今後はAIエージェントを、業務に活用することが企業の競争優位性の源泉となると考えられます。
私たちPwCコンサルティングと、世界に広がるPwCグローバルネットワークにはAIの活用、導入、運用の専門家が多数在籍し、さらには社外の専門家とプロジェクトや研究で連携しながら、多くのクライアント企業を支援しています。本稿では、AIエージェントの進化と活用価値について紹介します。
AIエージェントの定義は各社ごとに異なりますが、私たちPwCコンサルティングでは、AIエージェントを「ユーザーの指示を理解し、自律的に計画を立ててタスクを実行し、与えられた目標を達成するソフトウェアプログラム」と定義しています。
AIエージェントを業務に取り入れることで、これまで人が行ってきた業務の自動化・高度化が可能です。課題解決の方法も、従来は人が主体となって計画段階から考えるのが当たり前でしたが、方向性を指示するだけでその後のアクションを自動化することができます。さらにその先の展開としては、人が指示を出さなくてもAIエージェントが必要なデータを自動で習得し、自律的に学習しながら課題解決に導いていけるようになります。
図表1:AIエージェントによる業務処理フロー
AIエージェントの歴史は半世紀以上前にさかのぼります。英国の数学者であるアラン・チューリングが、アルゴリズムさえ書ければどのような計算でも解けると証明したのは1936年のことです(チューリングの計算理論)。これは「思考する機械」の誕生を示唆するもので、現在のAIに通じる概念が生まれるきっかけになりました。1956年のダートマス会議で「AI(人工知能)」という言葉が誕生し、以来、AIは幾度かのブームを繰り返しながら、対話をしたり、専門知識を踏まえた判断をしたり、ユーザーに助言を行ったりする機能を持つようになります。
また、1995年にはスチュアート・ラッセル、ピーター・ノーヴィグによりエージェントが言及され、エージェントについて明示的に定義されることとなりました。
2000年前後からはインターネットと検索プラットフォームが普及し、2010年代には機械学習の技術が進展しました。さらには、大規模言語モデル(LLM)の出現により、これまでは理論にとどまっていた自律エージェントについても、実用化が見えてきました。このような進化を経て、AIエージェントはルールベースから機械学習、そして自律的にタスクを遂行する「知能」へと成長してきたのです。
直近の動向としては、2024年にビッグテックと呼ばれるプラットフォーム企業各社が多様なAIエージェントを開発し、活用範囲が急速に広がっています。これらに共通しているのは、生成AIを用いる大規模言語モデル(LLM、Large Language Model)を使うAIエージェント(LLM型AIエージェント)であることです。LLMは膨大なテキストデータを学習し、人のように自然に文章を理解し生成します。そのため、事前に手順をインプットした定型的な業務のみならず、広範囲のタスクに対応できます。
図表2:AIエージェントが注目される理由
既存のAIエージェントと比較すると、コールセンターでの導入が多いチャットボットは、顧客との会話をある程度まで理解しますが、タスクは問い合わせ対応やオペレーターの補佐役などに限定されます。
事務で活用されているRPAは、書類の転記やメールの自動配信などさまざまなタスクに対応しますが、その動作手順はあらかじめ定義して入力する必要があります。
生成AIはLLM技術を用いているため、事前に手順を決めていなくても指示(プロンプト)を柔軟に解釈してタスクを実行します。また、チャット型ツールの活用事例からも分かるように、プログラム、画像、音声の生成といったさまざまな非定型のタスクにも対応します。
LLM型AIエージェントは、これをさらに進化させたものです。生成AIのように柔軟性とタスクの対応力に長けているのに加えて、目標達成に向けた計画や、そのプロセスに影響する環境の変化にも臨機応変に対応します。
図表3:従来型のソリューションとLLM型AIエージェントの違い
LLM型AIエージェントの活用では、主に2つの成果が期待できます。
1つ目は、人が担っている業務を、その水準を維持しながら代替することです。営業の業務を例にすると、従来のAIエージェントは顧客データの分析や営業スクリプトの作成といった業務の一部を担ってきましたが、今後はAIエージェントが目標を理解し、その目標の達成に向けて自律的に計画を立て、実行できるようになり、データ分析、見込み客の推定、既存顧客のフォローといった一連のプロセスを代替できるようになります。
2つ目は、業務の高度化です。AIエージェントは大量のデータを短時間で処理でき、そのプロセスから感情を排除することができます。この特徴を生かすことで、データ処理の点では、社内外の過去のデータを幅広く分析したり、経営に影響する経済関連のデータを網羅的に収集して分析したりすることができます。感情面では、例えば価格設定は過去の取引価格を参考に担当者の「高い」「安い」といった主観が働きがちですが、AIエージェントを使うことで最適な価格を客観的に算定することができます。
AIエージェントはさらなる技術の進化によってユースケースが増えていきます。将来的には、既存業務をAIエージェントに置き換えるアプローチから、AIエージェント活用を前提として業務プロセスを見直し再構築していくアプローチへと変わっていきます。
ただし、AIエージェントによる業務の自動化には工数がかかり、現状ではメインストリームとなる活用の方向性についても、さまざまな可能性があります。そのため、まずはリスクが低く効果が出やすい業務を出発点として、徐々にAIエージェントへの置き替えを進めていくのが良いでしょう。その過程で知見を蓄えながら、あるいはAIエージェント活用に関して知見を持つパートナーと協業しながら、自社に最適な活用方法を追求し、実現していくのが理想です。
図表4:AIエージェントの浸透レベル
小澤 孝夫
シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社
生成AIは想像を超えるスピードで私たちのビジネスを再構築しています。本レポートでは大規模言語モデル(LLM)の現在の技術レベルを整理し、研究開発の最前線や議論の焦点を俯瞰した上で、今後5年・10年を見据えた生成AIの進化と社会・ビジネスへの影響について展望します。
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