2035年に向けて進化を続けるAIエージェント どう使いこなすかが企業の明暗を分ける

  • 2025-06-09

チャットボットやロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)などを活用する業務効率化が進んでいます。これらは基本的には人が指示を出し、その通りに動く仕組みですが、今後は技術のさらなる進化によって、あらゆるタスクをAIエージェントが自律的に行うようになります。

そのような未来を見据えて、私たちPwCコンサルティングと、世界に広がるPwCグローバルネットワークにはAIの活用、導入、運用の専門家が多数在籍し、さらには社外の専門家とプロジェクトや研究で連携しながら、多くのクライアント企業を支援しています。本稿では、AIエージェントの今後の進化と、企業経営にもたらす影響について紹介します。

AIエージェントが活躍する範囲が広がる

AIエージェントや対話型生成AIが普及し、人による業務負担が軽くなっています。その背景にあるのは、AIエージェントの頭脳となるLLM(大規模言語モデル)の技術革新です。

既存のLLMは、大規模なテキストデータをLLMの知識とする事前学習のスケーリングによってその価値を高めてきました。今後は、テキストの他に画像、音声、動画などもマルチモーダル(複数の情報を組み合わせること)に幅広く入力できるようになります。同時に、それらのデータを学習済みモデルに深く考えさせることでより高度な出力を得て、推論のスケーリングに伴い精度がさらに向上します。企業はユーザーとなることで、専門知識や推論が求められる複雑なタスクまでAIエージェントに任せられるようになり、AIエージェントの導入や活用に積極的であるほど業務パフォーマンスを迅速かつ高度に向上させることができます。

LLMの進化で出力の質が高度化する

AIエージェントの進化には3つの潮流があります。

1つ目は、ベースモデルのさらなる精度向上です。これは、インプットする情報の広さと、アウトプットする情報の深さに分けて考えることができます。AIエージェント(LLM型)のインプットは、テキスト、画像、音声、動画といった種類の異なるデータを統合して処理するマルチモーダル技術の発展によって広がっています。例えば、犬という動物を「犬」「いぬ」「dog」といった言葉からのみ理解するのではなく、写真や鳴き声からも犬であることを理解し、それを元に犬の画像を生成することができます。

今後は、ユーザーが求める課題解決のコンテキスト(背景や前後の文脈)をより詳細に理解し、さらには過去のデータを人の記憶のように長期保存してバックトラッキングできるようになります。例えば、従来のAIエージェントは、「怒っている表情」のデータ(画像など)を「怒っている人」としか理解できませんでした。しかし、コンテキストを理解し、記憶のデータを参照することで、「表情は怒っているように見えるけど実際はうれしい」といった複雑な感情まで理解できるようになります。

アウトプットは、すでに生成AIによってプログラム、画像、文章、動画などを生成できるようになりましたが、そこにアナロジー(類推)を用いて、既存の知識を具体のままではなく、抽象化・メタ認知化した上で異なる領域や課題に転用、応用できるようになりました。例えば、新幹線の空気抵抗を減らすデザインを考える際、カワセミのクチバシからヒントを得るなどです。

さらに先の展開として、AIエージェントが自律的に改善しながら継続的に進化する自己学習の力をつけ、新たな価値を創出する知識創造の力も加わります。新しいアイデアの壁打ちを例にすると、自己学習しないAIは「良い」「悪い」しか回答できません。しかし、今後はAIエージェントが多様な視点と幅広い領域から自己学習を行い、問題点や不足点を指摘しながら新しいアイデア(解決策)をブラッシュアップしていきます。

図表1:AI(生成AI)技術発展の方向性

2035年には完全自律型が実現か

LLMが進化すると、2つ目の潮流として、デジタル空間(ソフトウェア領域)では自律性が高いAIエージェントが増えていきます。

既にビジネスで使われているAIエージェントは自律性が低いワークフロー型で、定型的で予測可能な環境に限り、あらかじめ手順を学習させておくことによって業務を遂行します。これがAIエージェントやLLMが、体系化された手順をデータとして学習し、忠実に実行できる状態になると、ある程度変動がある環境でもタスクを遂行できるようになります。

さらに進むと、環境の変化に適応しながらユーザーの課題解決のルールを自ら再定義し、タスクを遂行する完全自立型のAIエージェントが登場します。この段階になると、人はAIエージェントに手順などを覚えさせる手間から解放され、課題の入力と、アウトプットされた結果の確認と承認をするだけになります。このような未来は約10年後の2035年に実現すると予想されています。

図表2: AIエージェントの自律度合い

AI時代を見据えた業務変革が求められる

ここまでいくと、ロボットのパフォーマンスはほぼ人に近い水準となり、より多くのデータを短時間で客観的に処理するという点では人を超えるようになります。また、自律化したAIロボット同士が協調してタスクに取り組んだり、その上位で中央司令塔的な知能システムがAIロボット群を制御したりする組織のような体制を作っていくことも可能になります。

では、その時に人はどのような役割を担うのでしょうか。業務の主体が人からAIエージェントに移ると、定型的な業務は全てAIエージェントに任せ、非定型的な業務を含む領域(準定型)においても、一部をAIエージェントが、その残りを人が担うといった協業で行えるようになります。ただし、人が主体となって行う業務も引き続き残り、その重要性は増していくと考えられます。例えば、経営の意思決定、戦略策定、研究開発のテーマ選定、M&Aの交渉などは人が行う必要があります。営業活動を通じた信頼の獲得、人のマネジメントやOJTでの育成は、長期的な信頼関係や、センシティブで感情的なつながりに基づくことから、AIの支援は受けながらも人にしか担うことができない領域として残るでしょう。

企業の成長と新たな価値創出の点では、任せられる領域は AIエージェントに可能な限り任せ、人にしかできない領域に人を集中させること、また、そのためにAIエージェントに任せる業務と、人が価値を高めていく業務を整理しながら業務改革を進めていく必要があります。

その際には、AIエージェントに関する知見を持つパートナーを通して最新の情報を得たり、知見を蓄えたりしていくことも大事です。また、AI分野は進化のスピードが速いため、経営層は業務改革に向けてスピーディに意思決定すること、また、そのための材料として実態とトレンドを踏まえた正しい情報を的確に収集し、経営判断に生かしていくことも求められます。

図表4:AI時代における働き方変化

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