情報開示と信頼
アフターコロナの時代においては、これまでよりはるかに優れたESG報告と適切な情報開示が求められます。CEOおよび経営陣は、5つの短期的な優先事項に照準を合わせる必要があります
昨年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に拡大したことで、透明性という概念は全く新しい意味合いを持つようになりました。2020年の初めには、世界の多くの地域において、自分の居場所を常に共有する位置情報サービスの利用を人々が受け入れることなど、考えられなかったでしょう。しかし今では、COVID-19の検査で陽性反応を示した者が近くにいることを判別するために、位置情報サービスを利用したスマートフォンアプリで警告の通知を受け取れるようになりました。
2021年を迎え、透明性確保の問題は個人から企業、組織レベルにまで及んでいます。コロナ禍において、企業は投資家、サプライヤー、政府、顧客、従業員などのステークホルダーに対してオープンになることを今まで以上に迫られています。もちろん、それはCOVID-19感染者に関連したものではありません。むしろ、パンデミックによって、世界が密接に絡み合った相互関係にあることを突き付けられこと、水面下で存在していた経済的および社会的不平等が悪化および露呈したこと、次の世界的な危機である気候変動にどのように対処するかについて鋭い疑問が投げかけられたことが相まった結果なのです。民間セクターはこれらの世界的な脅威に緊急に対応する必要があります。将来のショックに備えてレジリエンスを構築できることを投資家に対して示し、長期的で持続可能な価値を創造していることとカーボンニュートラルな経済に取り組んでいることを社会全体に対して示す必要があるのです。
投資家は、ESGの問題や適切な情報開示を戦略へ組み入れるなど、責任投資にますます関心を高めています。
透明性を向上させるだけでなく、変化を促進するために、企業はより多くの質の高い情報が必要となります。情報の質を改善することにより、企業は投資家を含むステークホルダーに力を与えるでしょう。投資家は、社会に貢献し、環境、社会、ガバナンス(ESG)リスクを管理している企業を高く評価し、そうでない組織に対してはそうあるように圧力をかけることができます。
現時点で、企業に関して高い確実性をもって把握することができるのは、財務パフォーマンスだけです。しかし、それだけでは将来は言うまでもなく、現在でさえもステークホルダーの期待に応えるには十分とは言えません。
今でも投資家はより質の高い情報を求めています。機関投資家の88%が、ESG指標をモニタリングして投資判断への情報としていると述べています。この需要は、ESG情報の重要性が増すにつれてますます高まるでしょう。PwCの分析(英語)によると、今後5年間で、ヨーロッパのESGミューチュアルファンドへの投資総額は、複合年率で25%を超える成長を遂げる可能性があります。企業が大きな資本市場にアクセスしたい場合、ESG関連の十分な報告が参入の条件としてますます重要になっています。
同時に、従来の財務数値の範疇を超えた情報開示が、幅広いステークホルダーから求められています。昨年、欧州委員会は非財務報告指令の改訂を開始し、証券監督者国際機構(IOSCO)は持続可能性基準の調和を加速する意向を表明。また、米国証券取引委員会(SEC)は人的資本の開示を強化するために規則を修正しました。消費者、従業員、NGOは、企業が社会に与える影響を理解したいと考えており、これにより信頼できる情報を見つけられると期待しています。
透明性を高めることへの圧力は、非財務情報に関して客観的かつ強制力のある共通基準を定義する取り組みにつながっています。しかし、この動きはまだ始まったばかりです。現時点では、二酸化炭素排出量からジェンダーにおける多様性まで、あらゆるものを報告するための無数のものさしがあり、すべて異なる目的を持っています。少なくとも、意味のある比較を行うためにユーザーが異なるフレームワークを相互にマッピングすることは困難であり、企業にとってはどの項目が最も影響力があるかを知るのは困難です。財務分野での会計基準に相当する、非財務報告のスタイルが広く合意された形で確立されるまでにはしばらく時間がかかりそうですが、間違いなくその方向に進んでいます。
また、保証業務を通じて情報開示への信頼を構築することについても大きな進歩が見られます。さまざまなステークホルダーは、財務情報が監査されることを期待していると同時に、非財務情報に対しても同様のニーズをもっています。
向かうべきところは明確ですが、取るべき経路と変化のペースについては多くの不確実性を伴います。CEOと経営陣がより透明性の高い未来について検討する際に考慮すべき5つの課題があります。
非財務報告革命は急速に進んでおり、そういった面で2021年は非常に重要な年と言えます。準備ができていない企業は、資本へのアクセスを失い、価値を犠牲にし、評判を傷つけ、最終的には法令違反となる可能性もあります。一方、透明性の確保をリードする企業は、すべてのステークホルダーの間で信頼を築き、他社との差別化に成功し、資本市場の効率性を高め、社会の発展に寄与することになるでしょう。
著者紹介
本シリーズでは、PwCグローバルネットワークのさまざまな分野のプロフェッショナルが最新の考察を展開しています。著者のインサイトはESGトランスフォーメーションから、仕事の未来、AIアプリケーションやデジタル通貨に至るまで多岐にわたります。そして、それらはさまざまな業界の企業が将来を見据えて大きな課題に取り組むのを何十年にもわたって支援してきた経験によって導き出されたものです。
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※本コンテンツは、PwCが2021年1月18日に発表した「Learning to love transparency」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。