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欧州議会は2024年6月13日、EUの「コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(以下、CSDDD)」を採決し、同指令は同年7月に発効しました。これによって、一定規模以上のEU域内・域外企業には、人権および環境領域におけるデューデリジェンスの実施と結果の開示などが義務付けられることになりました。
ところが、規制負担の軽減を求める企業からの声を受け、欧州委員会が修正案を発表し、ドイツおよびフランスの首脳は指令そのものの撤廃を示唆するなど、先行きは非常に不透明となっています。
そうした状況の中、日本企業はいかにCSDDDに備えれば良いのでしょうか。本稿では、欧州だけでなくアジアにおける人権・環境デューデリジェンスの動向も踏まえながら、日本企業が取るべき対応について考えます。
CSDDDは2024年7月に発効しましたが、同年11月には、規制によって企業に課せられる負担の軽減を求める声を受け、早くも欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が、CSDDDを含むサステナビリティ関連規制を簡素化する包括的な提案(オムニバス法案)を提出すると発表しています。
オムニバス法案では、CSDDDについて、①適用開始時期の延期、②リスク評価の対象範囲の縮小、③義務違反に対する制裁措置の修正などが提案されました。
この法案が通過すれば、企業の負担は一定程度軽減されるはずですが、自国やEU域内の経済発展を求める欧州主要国の首脳からは、法令そのものの撤廃を示唆する発言も相次いでいます。
ドイツのメルツ首相は2025年5月、訪問先の欧州委員会で、「欧州産業の競争力強化」を目的にサステナビリティに関するデューデリジェンスを企業に求める国内法を廃止する考えを表明。「EUにも同様のステップを踏むことを期待している」と述べています。
フランスのマクロン大統領も、同月行われたビジネスリーダーへの演説で、「メルツ首相(の意見)と非常に一致している」と述べ、CSDDDを簡素化するだけでなく、完全に撤廃するよう呼び掛けていることを明らかにしています。
ただし、両首脳の所属政党からは、撤廃に関する支持は必ずしも得られておらず、EU企業の間でもESG関連の規制に対して肯定的な意見も多く見受けられます。
これらの状況を総合的に判断すると、CSDDDが全面撤廃されることはなく、要件の緩和・修正を軸とした調整が行われる可能性が高いと考えられます。
とはいえ、どのような内容となるのか、いつごろ適用が開始されるのか、どの企業に適用されるのかといったことは、まだ分かりません。そのため、日本企業にとっては、自社の対応方針を具体化することが難しい状況が続きそうです。
しかし日本企業には、CSDDDの要件や適用開始時期が決まるまで“待ち”の姿勢で構えていることは推奨できません。
なぜなら、世界的な人権・環境に対する意識の高まりとともに、欧州だけでなく、アジア諸国でもサステナビリティ・デューデリジェンスに関する法制度の整備が進んでいるからです。
例えばタイでは、企業がサプライチェーンで人権と環境のデューデリジェンスを実施することを義務付ける人権・環境デューデリジェンス法(mHREDD)の成立を目指しています。韓国でも、2023年9月に強制力を持つmHREDDが国会に提出され、一度は取り下げられたものの、2025年6月に再度法案が提出され、現在審議が進められています。人権問題に詳しい李在明大統領の就任により、企業の人権対応が国家的に重視される見通しです。
このように、アジア諸国でサステナビリティ・デューデリジェンスの法制化が進み、各国企業の人権対応の水準が引き上げられれば、主に欧米諸国にとって、これらの国々の企業は法整備が不十分な国の企業に比べて、より信頼できる取引先や調達先として位置づけられるようになるでしょう。
その結果、日本企業は相対的に人権対応の水準が低いとみなされ、競争力を失い、「選ばれにくい存在」となるリスクが高まるといったことも考えられます。
仮にCSDDDが撤廃、または適用範囲が縮小されたとしても、日本企業としては、競争力維持の観点から、人権リスクへの対応を継続的に強化することは重要な取り組みだと言えるでしょう。
にもかかわらず、現在の人権リスクへの取り組み状況を見る限り、日本企業の対応は、必ずしも十分とは言えません。
企業のSDGsへの貢献度を評価する非営利法人であるWBA(World Benchmarking Alliance)が2022年・2023年に公表した「CHRB(Corporate Human Rights Benchmark)」によると、日本企業の人権リスクへの取り組みは、アパレル企業を除いて、他国企業と比べて相対的に低い水準にとどまっていることが示されました(図表1)。
図表1:CHRBによる評価結果(日本企業・他国企業の比較)
出典:2022・2023 Corporate Human Rights BenchmarkよりPwC作成https://www.worldbenchmarkingalliance.org/publication/chrb/
さらに、PwCコンサルティングが日本企業443社を対象として2025年1~2月に実施した「CSDDDに関する日本企業の課題意識調査」でも、人権デューデリジェンスを「実施していない」と回答した企業は56.2%と過半数を占めています。また、人権方針策定や体制整備といった初期段階の対応は一定程度進んでいるものの、予防・是正措置、モニタリングといった人権デューデリジェンスの後半フェーズに関しては、対応が追い付いていない現状が浮き彫りとなりました。
つまり、日本企業の人権対応は形式的な整備にとどまり、実効性のある運用に至っていないケースが多いと考えられます。グローバルで求められている責任ある企業行動に対応し、取引先・投資先をはじめとするステークホルダーとの関係を維持するためにも、より実務的な対応の深化が求められていると言えます。
では、人権リスクへの実務的な対応は、どのように深化させていけば良いのでしょうか。
これまで日本企業があまり向き合ってこなかった課題であることから、ゼロから独自に方針を構築するよりも、既存のルールや規制をベンチマークとして方針を作り上げるのが合理的だと言えます。
その際、人権対応の基本的な考え方を示すものとして、まず押さえておきたいのが国連の「UNGPs(ビジネスと人権に関する指導原則)」、そしてCSDDDです。図表2に示すように、この2つには相違点があります。
図表2:UNGPsとCSDDDの相違点
結論から言うと、企業が人権リスクへの実務的な対応指針を策定するうえで役立つのは、UNGPsよりも、むしろCSDDDであると考えます。
UNGPsは、すべての企業が尊重すべき共通の枠組みとして、企業の人権尊重責任や人権デューデリジェンスの基本的な考え方を提示しています。しかし一方で、「何を、どのように、どの程度実施すべきか」といった具体的な水準や方法までは示しておらず、具体的なアクションについては各企業に委ねています。
これに対し、CSDDDは、リスクの特定や評価の頻度、予防・是正措置、報告義務といった人権デューデリジェンスに関する具体的な手続きを明文化しており、企業にとっては、より実務的な対応指針作りのためのベンチマークとして活用できると考えられます。
CSDDDの適用開始時期や内容については不透明感があるものの、その内容自体は人権・環境デューデリジェンスの進め方を具体的に定義したガイドラインとして有効です。
アジア企業とのグローバル競争に勝ち抜くためには、CSDDDの対象企業はもちろんのこと、対象外の企業であっても、これをベンチマークとして自社の人権・環境デューデリジェンス体制を強化すべきではないでしょうか。
とはいえ、CSDDDの要件を正しく読み解き、自社の施策に適切に反映させるのは、専門的な知識や体験を持った人材の登用が求められます。社内の人材だけでは、対応が難しい企業も少なくないはずです。
PwCコンサルティングでは、CSDDDに定められた義務と、企業の取り組み状況を比較し、どこに対応のギャップがあるのかを明らかにする「簡易診断サービス」を提供しています。このサービスは、主要案件ごとの取り組みの成熟度を可視化した上で、課題を抽出し、その解決に向けたアクションプランまで提示することができるため、CSDDDへの対応を具体的に進めていくための実践的な足掛かりとなるはずです。ご興味がございましたら、ぜひご相談ください。
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