撤廃か?推進か?不確実性の中で求められるアクションとは

日本企業はCSDDDをどのように捉え、いかに備えるべきか

  • 2025-07-29

はじめに

欧州議会は2024年6月13日、EUの「コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(以下、CSDDD)」を採決し、同指令は同年7月に発効しました。これによって、一定規模以上のEU域内・域外企業には、人権および環境領域におけるデューデリジェンスの実施と結果の開示などが義務付けられることになりました。

ところが、規制負担の軽減を求める企業からの声を受け、欧州委員会が修正案を発表し、ドイツおよびフランスの首脳は指令そのものの撤廃を示唆するなど、先行きは非常に不透明となっています。

そうした状況の中、日本企業はいかにCSDDDに備えれば良いのでしょうか。本稿では、欧州だけでなくアジアにおける人権・環境デューデリジェンスの動向も踏まえながら、日本企業が取るべき対応について考えます。

対応が追い付いていない日本企業

にもかかわらず、現在の人権リスクへの取り組み状況を見る限り、日本企業の対応は、必ずしも十分とは言えません。

企業のSDGsへの貢献度を評価する非営利法人であるWBA(World Benchmarking Alliance)が2022年・2023年に公表した「CHRB(Corporate Human Rights Benchmark)」によると、日本企業の人権リスクへの取り組みは、アパレル企業を除いて、他国企業と比べて相対的に低い水準にとどまっていることが示されました(図表1)。

図表1:CHRBによる評価結果(日本企業・他国企業の比較)

出典:2022・2023 Corporate Human Rights BenchmarkよりPwC作成​https://www.worldbenchmarkingalliance.org/publication/chrb/

さらに、PwCコンサルティングが日本企業443社を対象として2025年1~2月に実施した「CSDDDに関する日本企業の課題意識調査」でも、人権デューデリジェンスを「実施していない」と回答した企業は56.2%と過半数を占めています。また、人権方針策定や体制整備といった初期段階の対応は一定程度進んでいるものの、予防・是正措置、モニタリングといった人権デューデリジェンスの後半フェーズに関しては、対応が追い付いていない現状が浮き彫りとなりました。

つまり、日本企業の人権対応は形式的な整備にとどまり、実効性のある運用に至っていないケースが多いと考えられます。グローバルで求められている責任ある企業行動に対応し、取引先・投資先をはじめとするステークホルダーとの関係を維持するためにも、より実務的な対応の深化が求められていると言えます。

何を基準として人権リスク対応に取り組むべきか

では、人権リスクへの実務的な対応は、どのように深化させていけば良いのでしょうか。

これまで日本企業があまり向き合ってこなかった課題であることから、ゼロから独自に方針を構築するよりも、既存のルールや規制をベンチマークとして方針を作り上げるのが合理的だと言えます。

その際、人権対応の基本的な考え方を示すものとして、まず押さえておきたいのが国連の「UNGPs(ビジネスと人権に関する指導原則)」、そしてCSDDDです。図表2に示すように、この2つには相違点があります。

図表2:UNGPsとCSDDDの相違点

結論から言うと、企業が人権リスクへの実務的な対応指針を策定するうえで役立つのは、UNGPsよりも、むしろCSDDDであると考えます。

UNGPsは、すべての企業が尊重すべき共通の枠組みとして、企業の人権尊重責任や人権デューデリジェンスの基本的な考え方を提示しています。しかし一方で、「何を、どのように、どの程度実施すべきか」といった具体的な水準や方法までは示しておらず、具体的なアクションについては各企業に委ねています。

これに対し、CSDDDは、リスクの特定や評価の頻度、予防・是正措置、報告義務といった人権デューデリジェンスに関する具体的な手続きを明文化しており、企業にとっては、より実務的な対応指針作りのためのベンチマークとして活用できると考えられます。

おわりに

CSDDDの適用開始時期や内容については不透明感があるものの、その内容自体は人権・環境デューデリジェンスの進め方を具体的に定義したガイドラインとして有効です。

アジア企業とのグローバル競争に勝ち抜くためには、CSDDDの対象企業はもちろんのこと、対象外の企業であっても、これをベンチマークとして自社の人権・環境デューデリジェンス体制を強化すべきではないでしょうか。

とはいえ、CSDDDの要件を正しく読み解き、自社の施策に適切に反映させるのは、専門的な知識や体験を持った人材の登用が求められます。社内の人材だけでは、対応が難しい企業も少なくないはずです。

PwCコンサルティングでは、CSDDDに定められた義務と、企業の取り組み状況を比較し、どこに対応のギャップがあるのかを明らかにする「簡易診断サービス」を提供しています。このサービスは、主要案件ごとの取り組みの成熟度を可視化した上で、課題を抽出し、その解決に向けたアクションプランまで提示することができるため、CSDDDへの対応を具体的に進めていくための実践的な足掛かりとなるはずです。ご興味がございましたら、ぜひご相談ください。

執筆者

北崎 陽三

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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相川 麦太

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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