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医療従事者、最新の知見や技術を持つ研究者、医療政策に携わるプロフェッショナルなどを招き、ゲストのPassionに迫るシリーズ「医彩」。今回は株式会社Veritas In Silicoの代表取締役社長 中村慎吾氏、同CSO 森下えら氏をお迎えします。同社はmRNA(メッセンジャーリボ核酸)を用いる創薬を行うAIバイオテック企業。日本の創薬エコシステムが抱える課題に取り組み、スペシャリティファーマを志向しながら、新たなバイオテック像の確立を目指しています。医薬業界の変革を支援するPwCアドバイザリーのエキスパート2名との議論は、AI技術から、成長戦略、M&A、人材流動性へと展開しました。
(左から)森下 えら氏、中村 慎吾氏、伊藤 嶺、河 成鎭
出演者
株式会社Veritas In Silico 代表取締役社長
中村 慎吾氏
株式会社Veritas In Silico CSO
森下 えら氏
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
河 成鎭
PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター
伊藤 嶺
※所属法人名や肩書き、各自の在籍状況については掲載当時の情報です。
伊藤:
生成AIやLLM(大規模言語モデル)の進化に伴い、AIを創薬に活用する動きが加速しています。バイオテック企業にも、AIを用いた独自プラットフォームの構築や、外部のAI活用といった新機軸が求められています。こうした時代下での競争優位性として、どのようなことが考えられるでしょうか。
中村氏:
優位性の核心は、やはり「データ」です。今では多くの企業がAPI(Application Programming Interface)を公開しており、ソフトウェアのアルゴリズムだけでは差別化が難しくなっています。研究開発の成果は、結局、「どのようなデータを持っているか」に左右されます。
森下氏:
mRNA標的創薬の初期段階には汎用アルゴリズムが存在しないため、自社開発が不可欠です。一方で、化合物最適化や治験成功確率の予測といった下流工程においては、既存の優れたツールを活用することで十分に対応可能であり、全てを自前で開発する必要はありません。
近年では、企業間でAIツールを共有・統合するコンソーシアム的な取り組みも始まっています。そうした技術を大手製薬企業が買収・統合する動きも加速しており、「水平連携か垂直統合か」といったエコシステム設計そのものが問われる時代に入ったと感じています。
PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター 伊藤 嶺
河:
Veritas In Silicoは「mRNA標的創薬」というニッチな領域で独自のプラットフォームを軸に、リスクおよびリターンを製薬企業と分担する協業モデルを展開しています。その一方で、自社のパイプラインを保有する戦略も同時に採用していますね。今後のビジネスの方向性として、どのようなバランスを目指すのでしょうか。
中村氏:
当社は現在、プラットフォーム型(特定のプラットフォーム技術を軸に製薬企業と共同で創薬を行い、そのシーズのR&D進捗に応じて製薬企業からマイルストーン報酬を得たり、上市後にロイヤリティ収入を得るビジネスモデル)とパイプライン型(医薬品の権利を自社で保有したまま、非臨床・臨床の試験まで行うビジネスモデル。R&Dに多額の資金を要するものの、将来的な医薬品のライセンスアウト時に大きな収益を得らえる)を組み合わせたハイブリッド型モデルを採用しています。
まずは資金効率の高いプラットフォーム型で事業基盤を固め、上場の後、核酸医薬品を中心に将来価値の高い自社パイプラインを創出、最終的にスペシャリティファーマに成長するというビジョンです。2024年2月の 株式上場を経て、現在はその第2フェーズに入ったところです。
河:
創薬はリスクの高い事業分野です。それだけに、他社との協業でリスクを分散するプラットフォーム型のビジネスには経営戦略としての合理性があります。その中であえて「自社でパイプラインを持つ」のはなぜですか。
中村氏:
プラットフォーム型だけでは、DCF(割引キャッシュフロー)法に基づく企業価値評価が十分に得られないからです。製薬企業との共同開発では、その時点によって開示できる情報が制限されます。このため、外部から見ると将来収益の見込みが曖昧で、企業価値が過小評価されがちなのです。そこで私たちは、将来価値の高い自社パイプラインを創出し、その情報を「開示可能なかたち」で提示し、企業価値の源泉を投資家に明示する必要があると考えたのです。
河:
Veritas In Silicoの「ハイブリッド型」は、いわゆる「バイオベンチャー」と「CRO」(医薬品開発受託)のどちらのビジネスモデルに近いのでしょうか。
中村氏:
双方のメリットを併せ持つモデルです。バイオベンチャーのような「将来の成長性」を示すとともに、CROのように着実な収益基盤も確保する。将来性と収益性の両面で企業価値を構築できるのがこのモデルの強みです。
さらに当社ではプロジェクト成果に応じてマイルストーン収入やロイヤリティを得る仕組みを組み入れています。単なる「売り切り」ではなく、リスクと成果をパートナーと分かち合う設計です。この点が、私たちの競争優位性の1つだと考えています。
河:
なるほど。「fee-for-service」の一般的なCROビジネスとは、制度設計もイメージも異なるあり方を実践しているというわけですね。
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー 河 成鎭
伊藤:
Veritas In Silicoのビジネスモデルが、創薬研究から開発までをカバーしていることが分かりました。自社独自のパイプラインを含め、一貫した実行力を持つことについて、どのようにお考えですか。
中村氏:
前提として、構造情報が少ないmRNA標的創薬の特殊性があります。タンパク質創薬の分野では、蛋白質構造データバンク(PDB:生体を構成する高分子<タンパク質・核酸・糖鎖など>の構造に関し、公共的な利用に供される国際的データベース)が整備されるなど、AI活用にも適したデータ環境が整っています。対してmRNAの構造情報は圧倒的に不足しており、データドリブンAIを活用できる状況にはまだありません。データ量で比較すると、タンパク質を「100」としてmRNAは「1」にも満たないのが現状です。
伊藤:
つまり、mRNA標的創薬は現状、「データを収集し蓄積している段階」ということですか。
中村氏:
そのとおりです。とはいえ、PDBのような情報基盤が整うのを待つ時間はありません。そこで当社では、生化学はもとより熱力学・量子力学を含む各領域の研究成果や、研究者の専門的知見に基づき、ルールベースAI(人間が設定したルールに従ってAIが状況判断し、対応・処理・作業を行う人工知能)を構築しました。これを活用し、提携・協力先との共同研究を通じたデータの蓄積と、将来的なデータドリブンAIへの移行を進めています。
森下氏:
当社はプラットフォーマーであるとともに、自社のパイプラインでも複数のプロジェクトを同時に推進しています。つまり、そこから高品質かつ均質なデータを大量に取得できるわけです。こうしたデータを自社内で安定的に取得できることは、AI運用上の大きな優位性を意味し、他社との差別化につながっています。
伊藤:
遺伝子の領域では米国を中心にデータアグリゲーターが登場していますが、mRNA領域にはそうした存在がまだありませんね。
中村氏:
はい。特に、私たちが重視している「mRNAと低分子化合物の結合に関する情報」は、世の中にも市場にもほとんど存在しません。外部からの購入も困難なので、自ら収集するしかないのが現実です。
河:
まさに「創薬の最先端」がうかがえるお話ですね。
mRNA標的創薬という観点から、Veritas In Silicoが取り組んでいる核酸創薬領域にも重要性があると感じます。加えて今、「DDS(ドラッグデリバリーシステム:薬の吸収や分布を制御する技術。有効成分を体内で拡散させず狙いどおりに標的に届けることで、薬効を最大化し、副作用を最小限に抑えるシステム)」をどう進化させ、それを自社でどう保持するかも、ビジネス戦略として極めて重要なのではないでしょうか。
中村氏:
実は当社は先だって(2025年4月)、DDSに関する画期的な独自技術を開発し、特許を出願しました。これにより副作用が抑制されるだけでなく、必要な薬剤量も大幅に減らせるのです。現時点ではまだ早期審査中であり、お話しできることに限りがあってもどかしいのですが、核心を突いた河さんのご指摘にもっと踏み込んでお答えするため、数カ月後にもう一度このようなディスカッションする場を設けていただきたいくらいです。
株式会社Veritas In Silico 代表取締役社長 中村 慎吾氏
伊藤:
今後の成長戦略は、段階的なオーガニックグロースを軸にお考えでしょうか。それとも、M&Aによる飛躍的な成長も視野に入れているのでしょうか。
中村氏:
フェーズに応じ、成長手段を柔軟に使い分けます。急成長が特に求められる局面では、創薬からは撤退しているものの製造・販売のラインは保持している企業を対象に、連携やM&A、株式交換といった手法も視野に入れます。現在は経営企画部門や広報部門とも連携しながら、企業価値を最大化するべく戦略策定を精査しているところです。
河:
今、創薬エコシステムは変化のさなかにあります。これまでバイオロジードリブンでやってきたところに、プラットフォームの技術ドリブンによる創薬がどんどん割って入ってきつつある。医薬品の開発・研究が今後どうなるかを製薬企業の視点に立って考えると、自社で全てのプラットフォームを抱え込むのではなく、優れたプラットフォームを持っている外部のパートナーと連携し、オープンイノベーションをうまく図ること。そうする以外にイノベーションは起こりづらくなってくるし、パートナーモデルが今後のイノベーションの鍵を握る──そんな観測が成り立ちそうです。
中村氏:
おっしゃるとおりです。米国では既にその分業モデルが主流です。製薬企業は初期開発には関与せず、完成度の高いアセットをバイオテックから獲得し、資金投入や上市を担うというスタイルが定着しつつあります。
河:
そのような流れの中で製薬企業の重要な役割の1つは、「最終的にリスクを引き受ける」ことではないでしょうか。もちろん、製薬会社にはGo to Marketのケイパビリティがありますが、自社が単独でイノベーションを生み出せる世界では、もはやなくなりつつあるのだろうと感じます。
中村氏:
それが創薬のあるべき姿だと私は考えています。創薬から製造・上市までのプロセスは極めて高リスク・高コストで、その全てを1社で担うのは非効率だからです。社会全体でリスクとリターンを適切に分担し、創薬の成果を患者に還元すること、つまり「社会による創薬のファイナンス」を築くことが重要なのです。
河:
現下のそうした創薬プロセスで、Veritas In Silicoの競争力を支えるコアな技術は、やはりRNAのスクリーニング(効果と安全性が期待される有望な物質・化合物を特定すること)技術ということになるのでしょうか。
中村氏:
そのとおりです。当社の最大の強みは、mRNA創薬に必要な初期技術を一貫して自社で実証できる社内体制です。当社と組んだ製薬企業は、RNA創薬の初期段階からリード化合物の創出まで、単独で進めることができます。特に「標的同定」から「スクリーニング」まではRNA固有の知見や実験技術が求められるため、対応できる企業はごく限られています。
河:
製薬企業からの相談は、どのような段階で寄せられることが多いのですか。
中村氏:
多くは、プロジェクトの初期段階です。例えば、タンパク質標的での創薬がうまくいかず、「mRNA標的なら可能性があるかも」と切り替えてご相談いただくケースがよくあります。そのような場合、疾患領域や評価系が既に整っていることが多く、当社ではヒット化合物の創出までを1年程度で実現できる体制を整えています。
河:
初期段階からということになると、モダリティ(医薬品の作用機序に関わる方法・手段、もしくはそれに基づく医薬品の分類)の変更をプッシュ型で提案するケースもありそうですね。
中村氏:
はい、こちらから提案する場合もあります。モダリティチェンジの意義をご理解いただけたケースでは、その後の進展が非常にスムーズになります。ただ、創薬に関する初期情報というものは製薬企業の社外からはとても見えにくいため、当社から働きかけるにも限界があることも事実です。今後は、当社の技術やアプローチについて、積極的に発信していく必要があると感じています。
河:
企業の成長にとって、優秀な人材の確保は不可欠です。製薬業界、および業界を取り巻く環境が大きく変わろうとする中、研究者に求められる役割やスキルにも変化を感じていますか。
森下氏:
近年の創薬では、膨大な化合物空間(ケミカルスペース:人間が利用可能な全ての化合物を包含する理論上の空間)を探索する上で、AIの活用が不可欠になっています。目的にかなう分子を見つけるには、分子の形状や性質など多次元データの解析が必要で、人間の直感のみに頼ることには限界があります。今では創薬科学者もケモインフォマティクス(情報化学)を活用し、AIを駆使して化合物を最適化するのが当たり前になりつつあります。また、創薬に欠かせない実証には、計算科学と実験科学の知識も求められます。
中村氏:
AI時代の研究人材には、ツールを「使いこなす」能力に加えて、「つくる」技術も必要です。研究者全てがプログラミングする必要はありませんが、「ツールをつくれる人がすぐ隣にいる」環境の構築は重要です。
河:
創薬に携わる以上、モレキュラーバイオロジー(molecular biology:分子生物学)の知見は不可欠でしょうが、もはやそれだけで通用する時代ではありません。プラスアルファの知見を持つ人材、“横断的なサイエンティスト”が、これからは求められるのだと思います。
日本では今、製薬企業がパイプラインの維持に必要な人材を配置し切れず、研究所の運営に苦慮しているという実態もあります。Veritas In SilicoのようなAI創薬やプラットフォーム企業は、研究人材の「受け皿」になり得ますか。
中村氏:
研究者が部署間を渡り歩くにはある程度のトレーニングが必要でしょうし、それが本来あるべき人材の流動性だと私は思います。米国では、研究者がバイオテックとメガファーマを行き来するキャリアパスが一般的です。例えば、マネージャーを務めていた人がバイオテックでディレクターを経験し、再びメガファーマに戻るような動きは珍しくありません。業界内でこうした人材の循環が活性化していけば、お互いの立場や考え方への理解も深まり、結果として業界全体の科学レベルも底上げされると考えています。
伊藤:
私たちPwCアドバイザリーは、M&Aなどを通じた日本の製薬企業の競争力強化を支援しています。業界の一部には、「海外の有力バイオテックと組み、その創薬力を活用し、自社は開発とコマーシャルに特化して成長するしかない」という意見もある中、Veritas In Silicoのようなバイオテックが国内に根付いていることを再確認できました。
河:
製薬企業の新たなビジネスモデルを確かめられ、良い議論を交わせました。本日はありがとうございました。
株式会社Veritas In Silico CSO 森下 えら氏
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