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2022-07-13
コロナ禍で企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)は「コロナ禍で2年分のデジタル変革が2カ月で達成された」(グローバル企業CEO)との声が聞かれるほど加速しました。IoTやAI、メタバースといった技術領域での飛躍的な進歩も、DXに拍車をかけています。こうした潮流が今後も加速することは疑いの余地がありません。では、世界でDXが進む中、日本企業はどのようにDXと向き合うべきなのでしょうか。本稿ではPwCコンサルティング入社3年目の安野友哉が、20年以上にわたり企業のデジタル化を支援している同社のテクノロジーアドバイザリーサービス パートナーの荒井慎吾に、日本企業におけるDXの取り組みと、“DXのその先”を見据えた企業のあり方について話を訊きました。「荒井さん、DXのその先にあるものは何ですか」。
登場者
荒井 慎吾
PwCコンサルティング合同会社
テクノロジー・デジタルコンサルティング リーダー
テクノロジーアドバイザリーサービス リーダー パートナー
安野 友哉
PwCコンサルティング合同会社
テクノロジーアドバイザリーサービス アソシエイト
(左から)安野 友哉、荒井 慎吾
安野:PwCは2022年、米国・カナダ・メキシコの経営幹部を対象としたデジタル技術に関する調査「2022 Digital IQ*1」を公開しました。それによると、全体の53%が「過去2年間でDXの取り組みが加速した」と回答しています。グローバルではコロナ禍でDXが加速していますが、日本企業のDXはどのように変化したのでしょうか。
荒井:日本企業でもDXの取り組みは加速しています。中期経営計画や経営アジェンダの中に「DX」が書かれていない企業を見つけるほうが難しいでしょう。
コロナ禍を経験し、2つの大きな動きがありました。1つは、パンデミックによって有事に対する危機意識が高まったことです。これにより、企業が以前から取り組んできた変革が一気に加速しています。DXはその代表的な動きです。もう1つは、SDGsに対する関心の高まりが示すように、「世界レベルで物事を考える」という意識が強くなったことです。この2つの動きは以前から見られましたが、現在はその本気度が強くなっています。
安野:「日本企業のDXは外国企業と比較して遅れている」という指摘は、もはや当てはまらなくなったとお考えですか。
荒井:国内外を問わず、企業のDXは加速しています。日本企業の中には、世界に先駆けて先端技術を導入しているケースも多くあります。ただし「DXの明確な成果」を比較した場合、日本企業でインパクトのある成果を出している企業は、外国企業と比較して少ないのが現状です。
安野:日本企業のDXには、どのような問題があるのでしょうか。
荒井:DXの定義は「デジタル技術の活用によってデジタル化を図り、ビジネスモデル全体を改善し、変化するビジネス環境に適応させて、最終消費者にとってより優れた価値を提供できる状態にすること」です。
この定義に当てはめると、これまでの日本企業は「自社のありたい姿の全体像が明確化できていない」ケースが多かったと感じています。部門ごとに業務の効率化を図ったり新規サービスの提供を模索したりといった取り組みはあるものの、全社的に見ると個々の取り組みがバラバラで、DXの効果が限定的なのです。
*12022 Digital IQ
米国・カナダ・メキシコの経営幹部1,250名を対象に調査を実施。回答企業の売上規模は2億5000万ドル未満から500億ドル超まで。業種業界は多岐に渡る。調査時期は2021年4月でオックスフォード・エコノミクスが実施した。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 荒井 慎吾
安野:次に技術トレンドについて見解を聞かせてください。企業全体の取り組みとしてDXを推進するには、技術トレンドをいち早く把握する必要がありますよね。過去10年を振り返ると、AIの導入範囲の拡大や5Gの普及など、新技術の台頭で技術トレンドは激変しました。荒井さんはこれからの10年で、どのような技術トレンドが来ると予想しますか。また、そもそも予測することは可能でしょうか。
荒井:予測は可能です。マクロ的な観点でシナリオを想定し、将来的に活用される技術に対して“アタリ”を付けることはできます。
具体的に説明しましょう。過去に起こった技術トレンドを抽象化すると、「集中」と「分散」をくり返していますよね。例えば、クラウドコンピューティングが台頭してきた時には、全データをクラウドに集約するトレンドがありました。しかし、IoTが普及するにつれて、IoTデータはエッジ側で処理するほうが効率的であることから、エッジコンピューティングの導入が進みました。それに伴い、NFT(Non-fungible Token)のような技術も注目されています。そうなると次のトレンドは、「分散」に関する技術であることが、ある程度は予測できます。
しかしながら、ビジネス環境が複雑化している現在は、物事が予測どおりになるかわかりません。私はテクノロジー領域のコンサルティングを約20年続けていますが、数多くのディスラプション(デジタル技術による破壊的イノベーション)を目撃しています。ですから、「ある程度の予測と仮説を立てて準備する」ことは当然ですが、環境変化に迅速に対応できるアジリティ(俊敏性)を持つことも重要です。そして、外部組織と柔軟に連携できるコラボレーションの仕組み作りを早急に進める必要があると考えています。
安野:DXを成し遂げるために重要なのは、技術トレンドを追うよりも俊敏性やコラボレーションの仕組み作りが重要なのですね。
荒井:DXの目的は、企業の収益を向上させることや、自社のお客様に対してより良い価値を提供していくことです。収益向上や価値の追求にゴールはありませんよね。ですからDXは「終わりなき戦い」なのです。では、なぜDXには俊敏性やコラボレーションの仕組みが重要なのか考えてみましょう。
現在、DX推進に成功している事例でキーになるのは、「異業種連携」です。自動車会社と保険会社が連携した「テレマティクス保険」などはその典型例ですよね。また、現在はメタバースが注目されていますが、一企業が「仮想空間でイベントをやります」とうたっても、ビジネスにつながる可能性は低いでしょう。ビジネスにつなげるには実空間を超える新たな顧客体験や顧客価値を提供する必要があります。そのためには、顧客接点でのデジタル化だけでなく、金融や物流、小売り業者など、複数の異業種を巻き込んだバリューチェーン全体でのデジタル化やトランスフォーメーションが不可欠なのです。
PwCコンサルティング合同会社 アソシエイト 安野友哉
安野:外部組織と連携する仕組みを構築し、実際に取り組みを進めることは、かなりハードルが高いですよね。セクショナリズムが日本企業の課題の1つであり、自社の他部門とも連携できていない企業は少なくありません。
荒井:確かに簡単なことではありません。しかし、DXはこれまでになかったサービスや新しい価値を生み出すものです。DXにより自社の強みを活かすのか壊すのかを徹底的に考え、壊すと決断した場合にはどのような新ビジョンを持って再構築するのかを、きちんとデザインしなければなりません。その一環としてビジョンや方向性を同じくする企業と連携し、相互メリットがあるようにコラボレーションしていくことが重要なのです。
安野:では、“DXのその先”を見据えるために、日本企業はどのように対応する必要があるのでしょうか。
荒井:1つはデータ連携です。外部組織とデータをやり取りするだけで時間がかかってしまうような環境では、新規サービスの迅速な開発は難しいです。ですから企業は外部組織と柔軟にデータ連携ができるよう、自社のITアーキテクチャを見直さなければなりません。もちろん、その際にはデータガバナンスやセキュリティポリシーの策定も必要です。
もう1つは、高いコラボレーションマインドを持つ人材の確保する、または育成することです。DXは前例のない取り組みですから、失敗を恐れずにチャレンジするマインドが必要です。また、異業種や他企業など、働き方や企業文化の異なる人たちと連携して作業をするには、高いコミュニケーション能力が求められます。こうした人材を社内に内包することが、DXを継続的に推進するキーとなります。
安野:最後にPwCの支援内容について教えてください。お話を伺ってDXの実現には企業文化およびアーキテクチャの見直し、そして人材育成までを網羅する必要があることを理解しました。そうした課題に対し、PwCではどのような支援を実施しているのでしょうか。
荒井:不確実性が高く先行きが不透明な時代にビジネスを推進するには、既存の延長線上にある施策や経営戦略では対応できません。企業はこれから起こりうるシナリオを予測しながら、自社のありたい姿や、顧客に提供したいサービスの在り方を根本的に考え直さなければなりません。PwCではそのために必要な経営戦略立案からビジネスプラットフォームのアーキテクチャ構築、さらに必要な技術の検証から導入までを一貫して支援しています。
それを具現化したのが2021年にPwCコンサルティングが東京・大手町に開所した「Technology Laboratory」です。ここでは社会課題解決に先行して取り組む政府や地方公共団体、先端技術を開発・保有する研究機関、そして事業化の知見を持つ企業が連携し、技術を活用しながら新たなイノベーションエコシステムの形成を目指して活動しています。
安野:具体的にはどのような取り組み事例がありますか。
荒井:例えば、ヘルスケア領域の取り組みが挙げられます。労働人口の減少とともに超高齢化社会に突入する日本にとって、「ヘルステック」は注力すべき最重要領域の1つです。Technology Laboratoryでは介護事業者や関連企業とコラボレーションしながら、「望ましい介護のあり方」の実証実験などを実施しています。
安野:確かに異業種とのコラボレーションがなければ解決できない課題ですね。
荒井:PwCの強みは社会における重要なアジェンダや、企業が実現したい姿を産官学連携で支援できることです。技術の知見から持続可能な未来を予測すると同時に、実現に向けた課題設定と解決のユースケース作りの実践を通じて、企業の事業変革や大学・研究機関の技術イノベーション、政府の産業政策を総合的に支援しています。
こうした包括的な支援ができるのも、PwC Japanグループには監査法人やコンサルティング、税務・法務、M&A支援、フォレンジックなどのプロフェッショナル組織を広範囲に擁しているからです。もちろん、PwCグローバルネットワークが長年積み上げてきた知見や実績、最先端の情報を活かすこともできます。これらの力を統合し、将来的にクライアントが事業変革やイノベーションを実現できるよう、PwC Japanグループ全体で伴走型の支援を行っています。
安野:DXを継続的に推進するためにはさまざまな領域での連携や知見が必要であり、PwCはクライアントの状況に応じて支援できる体制が整っているのですね。本日はありがとうございました。