{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
日本企業を取り巻く経営環境は大きく変化しています。米中摩擦や生成AIを筆頭とした技術的革新、環境負荷に対する企業の社会的責任への要請、Z世代を中心とした新しい価値観や消費スタイルの台頭、そしてSNSによって加速度的に広がる情報流通とブランド毀損リスク。企業の経営・事業戦略も経営環境の変化に応じて、迅速かつ柔軟に変化させる必要があります。
その際に問題となるのが人材です。戦略を転換しようとしても、適切な人材を配置できなければ、その戦略を実現するのは困難です。知識・スキル・経験のない人材では、戦略の立ち上げが難しく、失敗のリスクも高まります。外部から人材を獲得するにしても、社会的要請が高まっている分野の人材獲得競争は非常に厳しいことは言うまでもありません。一方で、人材育成を行って内部で補うには時間がかかります。時間をかけすぎると、適切なタイミングを逃してしまいます。
持続可能な形で戦略を実現するためには、適時・適所・適材で人材を配置できるようにしなければなりません。そのためには、将来の経営・事業戦略や環境変化を見据えて、求められる人材の量と質を戦略的に確保することが必要です。
これまで、日本企業は要員計画によって人材を充足してきました。これは、人材の「量」に重きを置いた人材マネジメントです。どの部門、どの機能にどれだけの要員が必要かを明らかにし、採用や配置転換を行ってきたのです。全方位型の職員であるいわゆる「ゼネラリスト」は、どのような配置転換をしても素早くキャッチアップして、十分な戦力として活躍できることが大前提でした。
しかし、戦略そのものの高度化・専門化が進み、求められるスピード感が高まる中、ゼネラリスト配置モデルでは通用しなくなってきています。どのようなスキル・経験・志向性を持った人材を集められるかが、戦略の成否を左右する――すなわち、人材の「質」の重要性が高まっているのです。人材ポートフォリオを策定することは、人材の「量」だけでなく、「質」も含めて最適な人材配置を実現することを意味します。
また、人材配置において考慮すべき点は、「適時」であることです。前述のとおり、戦略の実行や環境変化への対応は、適切なタイミングで行わなければなりません。機を逃してしまうと、取り組みが正しく行われても、無駄になってしまうリスクが生じます。「時間」は最も重要な経営資源の一つになりつつあるのです。
とかく人材の拡充には時間がかかるものです。外部から採用するにしても、内部から育成するにしても、そこには一定の時間が必ずかかります。戦略の実効性を高めるためには、その「時間」の短縮が欠かせません。
そのためには、戦略や経営環境の変化を先取りして、人材の獲得・育成を進めていくことです。それを実現する枠組みこそが、人材ポートフォリオなのです。中期的な経営・事業戦略や予測される環境変化を基に、求められる人材の量と質を明らかにします。その上で、現状とのギャップを可視化し、採用や育成などの人材マネジメント施策を講じていきます。将来のあるべき姿から現在を考える、バックキャスト型アプローチで人材マネジメントを行っていくのです。
図表1:人材ポートフォリオ・マネジメントの全体像
人材ポートフォリオは、ある時点における企業の人材の量と質をスナップショットのように切り取ったもので、人材ポートフォリオ自体は「静的」なものです。しかし、経営環境は時間の経過とともに刻々と変化し、経営・事業戦略も変化に対応する必要があります。場合によっては、大きな方向転換も求められます。
人材ポートフォリオも、戦略の変化に機敏に対応しなければなりません。せっかく人材獲得や教育投資を行っても、戦略に寄与しないものであれば、意味がなくなってしまいます。人材ポートフォリオは常に、アップデートされていなければならないのです。
経営環境や経営・事業戦略の変化に伴い、求める人材の量・質を示す人材ポートフォリオの見直しも随時行っていくことが必要となります。そして、現状とのギャップを基に、採用・育成・評価・配置転換などの人材マネジメント施策も組み替えていきます。それぞれの時点ごとの人材ポートフォリオを連続的に見ると、コマ送りのように動いていくことがわかるでしょう。まさに「動的」な人材ポートフォリオというわけです。
「動的」な人材ポートフォリオを実現するためには、経営・事業戦略と連動して人材ポートフォリオ・人材マネジメント・人材基盤(体制・データ)が三位一体の運営となっていることが重要です。
では、実際に日本企業がどこまで人材ポートフォリオに取り組めているのでしょうか。PwCコンサルティング合同会社が行った調査「HRデジタルトランスフォーメーションサーベイ2024」を紹介します。同調査においては、人的資本経営における課題トップ10の中に、人材ポートフォリオと関連する課題が多くランクインしています。多くの企業が、戦略と連動した人材ポートフォリオを策定し、それに沿った適時・適量の人材マネジメントを行うことを重要な課題と認識しているのです。また、実際に人材の量・質の双方で人材ポートフォリオ・マネジメントに取り組めている企業は6%にとどまっています。日本企業の人材ポートフォリオ・マネジメントへの取り組みは、まだまだと言えるでしょう。
図表2:人材ポートフォリオの実施状況
出所:PwC「HRデジタルトランスフォーメーションサーベイ 2024」
経営・事業戦略の成否は、適時・適所・適材の人材マネジメントにかかっています。不確実性の高い経営環境下では、特にスピードが戦略優位を決める要素となります。企業があらかじめ、将来を見越して人材づくりに着手しているかどうかで、大きな差が出ます。人材ポートフォリオは、企業が人材マネジメントを行う上でのゴールであり、「的(まと)」のようなものです。また、環境変化や戦略遂行の状況に応じて、アップデートし続ける「動的」なものでなければなりません。最初から完璧なものを求める必要はありません。クイックに仮説を立てて、検証しながら精度を高めていくくらいの位置付けが良いでしょう。まずは取り組みをスタートしてみること。それが、人材ポートフォリオ・マネジメントを通じた人材戦略の高度化の重要な第一歩と言えるでしょう。
加藤 守和
ディレクター, PwCコンサルティング合同会社
PwCは、人員計画の策定から採用戦略、育成計画に至るまでの一連のプロセスにおいて、人材マネジメント戦略を策定するためのアプローチを用いて、企業が人材獲得力を強化するための取り組みを包括的に支援します。
ビジネスが目指す姿や企業として実現したいビジョンを把握し、顧客の組織構造やカルチャーを勘案した上で、人と組織の活性化に資するさまざまな課題の特定とソリューションの提供を行います。
PwCコンサルティングは、従来型のHRIS(人事情報システム)だけでなく、独自のアプローチであるBXT(ビジネス、エクスペリエンス、テクノロジー)の3つの視点から、最適なHRテクノロジー戦略やグランドデザインを策定します。
PwCは、ミッション再定義、人事機能改革、サービスデリバリーモデル改革、組織改革、ロードマップ策定などを通じて、ビジネス戦略に沿った人事変革を支援します。