{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
人材ポートフォリオとは、企業が経営・事業戦略を実現するために必要で最適な人材の構成を指します。中期的な経営・事業戦略や予測される環境変化を基に、求められる人材の量と質を明らかにします。そして、現状とのギャップを可視化し、採用や育成などの人材マネジメント施策を講じていきます。つまり、将来からのバックキャストで人材マネジメントを行うことが求められます。
人材ポートフォリオをいかに精緻に描いても、人材マネジメントが伴わなければ「絵に描いた餅」になってしまいます。人材マネジメントのあり方も、人材ポートフォリオに合わせてアップデートしなければなりません。従来型の人材マネジメントで対応しようとしてしまい、人材ポートフォリオの転換がうまくいかないケースは多く見受けられます。
人材ポートフォリオの構築に向けて、大きくポイントは3つあります。
人材ポートフォリオは、企業が必要とする人材の量と質を明らかにすることで、将来の人材投資に優先順位を付ける取り組みです。ここで忘れてはならないのは、「優先順位」に沿った人材マネジメントを行うということです。
日本企業ではこれまで、公平性を重視して「一律的」な人材マネジメントを行ってきました。しかし、人材ポートフォリオ・マネジメントは根本的な考え方が違います。「一律的」な人材マネジメントではなく、「選択と集中」の人材マネジメントをおこなわなければいけないのです。
例えば、教育投資について考えてみましょう。これまでであれば、新人研修や入社3年目研修、管理職研修などの階層別研修に代表されるように一律的に教育投資が行われていました。しかし、人材ポートフォリオ上で「データサイエンティスト人材」が必要となったとしましょう。人材にあまねく教育機会を提供していたら、短期間で必要な人材を育て上げられません。素養のある人材や意欲の高い人材を見極め、集中的に教育や経験を与えていくことが求められます。
このように、目指す人材ポートフォリオに近づけるため、限られた経営資源を最も投資効率が高いところに集中しなければなりません。これは、教育だけではありません。採用や配置転換、評価や処遇においても同様です。この取り組みは、現場部門の不満や反発を生むこともあります。この部門・この機能だけ「不公平だ」という声です。
しかし、目指す人材ポートフォリオを実現するためには、公平や一律の壁を乗り越え、「選択的」な人材マネジメントをおこなう決断も必要となってきます。この考え方は、従来の人材マネジメントと一線を画すものであり、人事部門が意識的に変革しなければならないポイントと言えるでしょう。
人材ポートフォリオを実現するためには、人材マネジメントの「統合」が求められます。これまで、日本企業の人材マネジメントは機能最適型でした。人事部門は採用チーム、給与チーム、教育チームなどに分かれ、それぞれの人事機能ごとにゴールの達成へ推進していく体制です。もちろん連携はするものの、基本的には各チームに求められるのは各チームに課せられた機能別ゴールの達成です。
しかし、人材ポートフォリオでは、目指すべきゴールが「特定の人材タイプの量・質を充足すること」であり、統合的ゴールです。採用や教育での各機能のゴールを実現しても、求める人材タイプの量・質が充足していなければ意味がありません。経営・事業戦略に求められる人材を量・質ともに揃えられるかどうかが問われるのです。
そのためには、連携というレベルを一段超えて、統合的に動く必要があります。採用・育成・配置転換などの施策がどの程度講じられ、人材ポートフォリオ上のギャップがどの程度埋まっているか。それを統合的に判断し、次の一手を講じていく必要があるのです。
これを実現させるためには、統合的判断をするオーナーを人材タイプごとに置くことが重要です。「AIエンジニアの充足」が会社として急務と認識するのであれば、AIエンジニアに対するオーナーを任命します。同オーナーの使命は相応の責任・権限を持ち、各人事機能を統合的に動かしながら、人材充足を進めることです。人材獲得に苦戦するのであれば、オーナーが中心になって追加的な施策を講じていきます。採用予算を獲得し、AI人材に特化したイベントにエントリーしたり、リファラル採用(社員による紹介制度)など、採用施策の強化を行ったりします。場合によってはAI人材の処遇そのものを見直すことも求められます。
人材マネジメントの「統合」をするためには、それに合わせた体制にすることが重要です。従来的な機能最適は分散集中の体制です。統合的な人材マネジメントを行うためには、統合的判断を行う「オーナーを中心とした体制」へとシフトしなければなりません(図表)。
図表:人材マネジメントのあり方
旧来的な人事機能は、保守的な選択をする傾向が強いように見受けられます。人事という機能自体が会社において重要な機能であるとともに、会社全体に与える影響が大きいためでもあります。良く言えば慎重、悪く言えば官僚的となりがちです。
しかし、人材ポートフォリオにおいて、従来的な施策だけでは充足できないことが良く起こります。特に、人材獲得競争が激しい領域はそうです。人材ポートフォリオでは、「特定の人材タイプの量・質を充足すること」である統合的ゴールを達成することが大命題であり、それが実現できなければ経営・事業戦略自体の成功確率が著しく下落します。
そこで、大事なのは目的を重視する「ゴールオリエンテッド」なスタンスです。果たして、今の活動の延長線上でゴールを達成できるのか。難しいようであれば、大胆で革新的な方法も検討の俎上に載せていく。前例にとらわれない柔軟な思考が大事になってくるのです。
例えば、ある小売企業では、DX人材の不足が顕著であり、人材ポートフォリオ上の注力人材に据えました。しかし、同社では店舗ビジネスを展開しており、店舗の人材や就労体系に合わせた人事制度が組まれていました。DX人材と店舗人材では労働市場における報酬水準は大きく異なるとともに、働き方の柔軟性に対する感度が全く違います。DX人材市場ではテレワークができなければ、最初から求職者の選択肢にもならないことも当たり前です。同社では、報酬水準や出社前提がDX人材獲得の大きなハードルになっていたのです。
とはいえ、DX人材に合わせて会社全体の人事制度や勤務制度を変えることも難しい。そこで同社は、ある関連子会社をDX人材の受け入れのための会社と位置付け、そこにDX人材を集中することにしました。本体と切り離すことで、労働市場での競争力のある報酬制度や柔軟な勤務制度、アジャイルな組織体制などを機動的に行える体制などを取れるようにしたのです。
このように、従来の人材調達方法の延長線上で考えるのではなく、大胆なアプローチも含めて検討することが重要です。そのためには、取り得る選択肢となる施策を網羅的にリストアップすることです。そして、最初から選択肢を絞らず、従来の人材調達方法自体が人材充足に有効なものか、そもそもの考え方を変えなければならないものか、に立ち返って検討することが必要です。
ここまで人材ポートフォリオの構築・運用に係る3つのポイントを解説してきましたが、いかがでしょうか。人材ポートフォリオは将来からバックキャストで求められる人材を構想し、現状とのギャップを埋める取り組みです。当然ではありますが、現状の人材ポートフォリオは、過去の人材マネジメントの結果です。将来の求める人材ポートフォリオを実現するためには、過去の人材マネジメントにとらわれていてはなりません。①一律ではなく選択と集中、②統合的な人材マネジメント、③ゴールオリエンテッド。この3つのポイントを押さえた新たな人材マネジメントを構築する必要があると言えるでしょう。
加藤 守和
ディレクター, PwCコンサルティング合同会社
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}
{{item.text}}