生成AIが登場したこの時代、HRテクノロジーを活用したエンプロイーエクスペリエンスの提供が、従業員エンゲージメントを高める鍵の1つとなる

エンプロイーエクスペリエンスサーベイ2025調査結果(速報版)

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  • 2025-08-14

PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)は日本国内の企業を対象にエンプロイーエクスペリエンス(EX)*の認知度や重要度、取り組みの現状などについてHR総研(ProFuture株式会社)と2025年2~4月に共同調査を行い、回答企業140社の結果を取りまとめました。

* EX=Employee Experience(従業員体験):従業員が企業組織との間で体験・経験することの内容や価値を指す概念

本調査は2018年から継続しており、今回で7回目の実施となります。

EXは経営課題としての認知度が高い一方で、
EXに関する取り組みは2020年以降伸び悩んでいる

従業員体験を意味する「エンプロイーエクスペリエンス(EX)」という言葉の認知度は、2025年調査では、調査開始の2018年から比較すると全企業で25ポイント上昇して74%となっていますが、2020年以降の伸長は見られず、停滞傾向にあります(図表1)。また、実際に施策の検討・実施に至っている企業の割合を従業員規模別に見ると、中小企業(112社)10%、大企業(23社)26%という結果になりました。
また、EXを向上させることが今後の経営・人材マネジメントにおいてどの程度重要になると思うか質問したところ、「経営の最重要課題になる」もしくは「経営の注力テーマの1つになる」と回答した企業は、2022年に比べ3ポイント増の51%と、半数以上を占める結果となりました(図表2)。図表1の結果と併せて、バックオフィスあるいは人事部門のみならず、経営全体の課題として重要視しつつも、具体的な施策の検討・実施に着手できていない企業が相当な割合存在していると考えられます。

図表1:EXの認知度と取り組み状況

図表2:EX取り組みの重要度

従業員エンゲージメント向上のためにEX施策に取り組む

各領域でのEXへの取り組み度のレベルを要約した総合的なEX取り組み度合いと各経営指標の関係性を分析した結果としては、EX取り組み度合いと従業員エンゲージメントを改善した企業の割合の間で、相関関係が明らかとなりました(図表3)。
ここから、エンゲージメント(従業員が企業に愛着を持ち、自発的に仕事に取り組もうとする度合い)を上げる方策として、EXへの取り組みは依然として重要であることが推察されます。

図表3:EXと従業員エンゲージメントの関係性

EX施策として従業員向けキャリア開発の注目度が高い

PwCコンサルティングではEX向上施策を6つの領域に分けて定義しており(図表4)、各領域における関連施策の実施状況を基に調査回答企業の「EX成熟度」を計測しています。

図表4:EXで捉えるべき視点

各企業における現在の「EXの取り組み度合い」を領域ごとに見てみると、「ウェルビーイング領域」および「ワークスタイル/ワークプレイス領域」合計の平均レベルが最も高い結果となっていました。コロナ禍以降、リモートワークの普及などによる働き方の自由度の高まりを受け、ワークスタイル/ワークプレイスの施策を重点的に実施してきた企業が多いことがうかがえます。また、ウェルビーイング領域においても、2015年の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)の目標の1つに「全ての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」が掲げられており、社会的にも注目度の高い領域であることもあって、企業における取り組みが進んでいることが分かります。一方で、他の領域では、取り組みを進められていない企業が半数を占める結果となり、全体として多くの企業はEXの取り組みが不十分であることが再確認できる結果となりました(図表5)。
また、今後のEX強化領域については、キャリア・スキルディベロップメント領域を挙げる企業の割合が多い結果となりました(図表6)。PwCによる「世界CEO意識調査」*1において、「自社の従業員のスキル不足」に課題を感じているCEOが非常に多いことが明らかとなっています。また、同じくPwCの「グローバル従業員意識/職場環境調査『希望と不安』2024」*2でも、「スキルアップは従業員にとって価値あるものであり、従業員はそれを会社の差別化要因と見なしている」との回答が出ています。これらの結果からもキャリア・スキルディベロップメント領域は非常に注目度の高い領域となっており、今後この領域におけるEX向上の取り組みが進んでいくことが予想されます。

図表5:領域別EX施策の取り組み度合い

図表6:現在の注力領域と今後の強化領域

欧米ではEX向上のためのHRテクノロジー活用が加速している

さらに、PwC米国の「HR Tech Survey 2022」およびPwC Japanグループの「HRデジタルトランスフォーメーションサーベイ2024」*3から、米国ではHRテクノロジーの活用がEXの向上にとって「かなり効果的」であると82%が回答している一方で、日本国内では24%の回答にとどまり、EX向上にテクノロジーを活用できていない現状がうかがえます(図表7)。今回の調査でもEXツール導入率は、ツールのタイプ別にばらつきがあるものの、多くても41%、最も低い領域(リワード/リコグニション)では6%となっています(図表8)。

また、39%の企業がEXツール/HRテクノロジーを理解・活用できる人材が不足していると回答しており、HRテクノロジーに関する人材の育成や獲得に課題を抱えているようです(図表9)。その傾向は直近数年間で大きな変化なく継続しており、人事担当者のHRテクノロジーに関する知識不足はエンゲージメント向上に直結する課題となっています。

PwC Strategy&「デジタル化時代の労働力変革に向けた10の原則」*4では、Z世代を含む次世代人材の確保に向けて、企業が最新テクノロジーを活用しながら、組織文化や働き方を変革する必要性が述べられています。特に、AIやモバイルアプリ、オンライン学習などを活用してスキルを磨き続けられる人材が求められており、これが雇用ブランディングの差別化要因につながると論じています。このように、生成AIが登場した昨今では、プライベートで利用しているテクノロジーと同等のレベルのツールを自由に使いたいという期待に応える施策を打ち出していく必要があるでしょう。

図表7:HRテクノロジーによるEX向上のグローバル比較

図表8:EXツールの導入状況

図表9:EXツールの活用における課題

本調査結果から、EXの重要性は認識されつつあるものの、具体的な施策の検討・実施に至っている日本企業はまだ少数であり、特に、テクノロジーを活用したEXを向上させる取り組みにはグローバルから大きく後れを取っていることが分かりました。
市場での競争上の優位性を獲得するためには、EXを意識した人事施策の提供が不可欠です。従業員が雇用主をどのように認識するかには、数え切れないほどの要因が関係していますが、雇用主が提供する物理的(オフィスなど)、デジタル、カルチャーの3つのエクスペリエンスは重要な要素と言えます。
EXの成熟度を上げていくには、さまざまな投資が必要となります。よって、局所的な対応ではなく、自社が提供しているエンプロイージャーニーにおけるペイン/ゲインポイントや従業員の声(VoE:Voice of Employee)を分析し、自社特有のEX向上における最も効果的な施策を導入していく必要があると言えるでしょう。

エンプロイーエクスペリエンス向上のためのKey Findings

1. エンプロイーエクスペリエンス設計の方法論を適用する

会社と従業員双方が期待するものの解像度を上げて理解し、ギャップを解消する必要があります

2. 従業員のライフサイクル全体に焦点を当てる

労働者が企業に応募し、採用されてから、会社を辞め、次の職場へ転職するまでの一連のエンプロイージャーニーを考える必要があります

3. 総合的なウェルビーイングを育む

従業員は仕事以外の生活があり、個々のニーズに敬意を示してくれる雇用主を探しています

4. 従業員のデジタル体験を優先する

従業員は私生活で役立つテクノロジーを自由に使えることに慣れており、仕事でも同じことを期待しています

5. 従業員の声(VoE)を収集し、それに基づいてアクションを検討する

従業員はそれぞれに多様な価値観を持っており、個々のニーズが満たされる体験を期待しています

6. 従業員の自律性と意思決定を促す(自己実現への欲求を満たす)

従業員はキャリア生活をどのように歩むか、自分自身で決定していくことを好みます

*1 PwC「第27回世界CEO意識調査(日本分析版)」(2024年2月発行)
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/ceo-survey/2024.html

*2 PwC「グローバル従業員意識/職場環境調査『希望と不安』2024」(2024年8月発行)
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/hopes-and-fears2024.html

*3 PwC「『HR Tech Survey 2022』『HRデジタルトランスフォーメーションサーベイ 2024』」
~生成AIを搭載したHRテクノロジーがもたらす人事の未来~
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/journal/busi-pub202504.html

*4 PwC Strategy&「デジタル化時代の労働力変革に向けた10の原則」
https://www.strategyand.pwc.com/jp/ja/publications/report/10-principles-of-workforce-transformation-jp.html

なお今回の調査結果について、HRSUMMIT 2025 ONLINEのセッションで紹介します。
2025/9/9(火)12:00-12:50
人事データ活用とEX向上プロジェクト:成功への道筋と落とし穴
申込ページ: https://www.hrpro.co.jp/hrsummit/2025

執筆者

鈴木 英理子

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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名取 淳

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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川面 鷹

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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三浦 康太郎

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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