従業員エンゲージメントは企業価値を映す指標へ――人的資本経営時代に求められるEX対応

エンプロイーエクスペリエンスサーベイ2026調査結果(速報版)

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  • 2026-08-26

PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)は日本国内の企業を対象にエンプロイーエクスペリエンス(EX)*の認知度や重要度、取り組みの現状などについてHR総研(ProFuture株式会社)と2026年4~5月に共同調査を行い、回答企業116社の結果を取りまとめました。

* EX=Employee Experience(従業員体験):従業員が企業組織との間で体験・経験することの内容や価値を指す概念

エグゼクティブサマリ

本調査は2018年から継続しており、今回で8回目の実施となります。2026年の調査では、EX向上が人事施策の一部ではなく、人的資本経営や投資家対話にも関わる経営アジェンダとして位置付けられつつあることが示されました。従業員エンゲージメントは、組織の活力や人材定着を示す社内指標にとどまらず、企業価値や人的資本経営の質を示す対外的な指標へと変化しています。今後は、キャリア・スキルディベロップメントを中心に、従業員が自ら学び挑戦できる文化の醸成と、ファイナンシャルウェルビーイング(経済的ウェルビーイング)による安心感の提供を一体で進めることが重要です。また、従業員の声をAIで継続的に収集・分析し、EX改善につなげる動きが始まる一方、日本企業ではHRテクノロジー活用の効果実感は限定的であり、導入目的の明確化や既存データとの接続が課題です。EXを実効性ある取り組みにするには、経営の関与、HR横断の推進体制、テクノロジーを活用できる人材を整え、EX全体を統合的に設計・改善していくことが求められます。

2026年のEXを読み解く4つの鍵

  1. EX向上をビジネスインパクトとして捉え、経営アジェンダとして据える
  2. パーパスドリブンで得られる「自分と学び」の好循環を生み出し、挑戦し続ける組織カルチャーを根付かせる
  3. 従業員の声(Voice of Employee)の収集にAIを取り入れる
  4. EX施策はHR横断チームで対応できる体制を

1.EX向上をビジネスインパクトとして捉え、経営アジェンダとして据える

従業員体験を意味する「エンプロイーエクスペリエンス(EX)」の向上は、回答企業の54%において「経営の課題」として取り組むべき重要なテーマとなっており、その傾向は直近数年間で大きな変化なく継続しています(図表1)。加えて、直近の人事施策の注力領域を見ると、「従業員エンゲージメント向上・ウェルビーイング経営」が「人的資本経営」や「事業戦略の実現」と並んで上位テーマとして挙げられており、EXの向上が経営アジェンダとして捉えられていることが分かります(図表2)。

また、統合報告書などを通じて社外に開示する企業が一定数存在し、特に大企業ではその割合が3割に達することが分かりました(図表3)。

従業員エンゲージメントは人的資本経営の質を示す指標であり、社外公表が進む

ここから見えてくるのは、従業員エンゲージメントが、もはや社内管理のためだけの指標ではなく、企業・投資家双方にとって重要な要素にシフトしてきているということです。従業員エンゲージメントの社外公表は、投資家や求職者に対する重要なアピールとなります。実際に、有価証券報告書やサステナビリティレポートを通じ、人材を重要資本として捉える姿勢を示す企業が増加しています。

EX向上は人事施策の一つとしてではなく、人的資本経営や投資家対話の中核テーマとして扱う段階にあります。従業員エンゲージメントは、組織の活力や人材の定着、成長力を映す指標であると同時に、人的資本経営の質を示す指標でもあります。今後は、エンゲージメントを把握すること自体ではなく、その背景にあるEXをどのように設計し、改善していくかがより一層、重要になっていくことが示唆されます。

図表1:EXの重要度

EXの 重要度

図表2:注力したい人事施策

注力したい 人事施策

図表3:エンゲージメント調査結果の活用方法

エンゲージメント調査結果の 活用方法

2.パーパスドリブンで得られる「自分と学び」の好循環を生み出し、挑戦し続ける組織カルチャーを根付かせる

今回の調査では、EXの6つの領域(図表4)の中でも、現在の注力領域としてはリクルーティング・オンボーディングとキャリア・スキルディベロップメントが高く、今後強化すべき領域としてはキャリア・スキルディベロップメントが最も高いという結果でした(図表5)。また、ウェルビーイング経営に向けた課題を見ると、カルチャー変革・組織変革に伴う疲弊の次に、キャリアウェルビーイング関連の課題(マネージャーのスキル強化とキャリアオーナーシップの醸成)が上位に挙げられ、ウェルビーイングの中でもキャリアディベロプメント領域に課題を感じている企業が多いことが分かりました(図表6)。PwCの「グローバル従業員意識/職場環境調査『希望と不安』2024」*1でも、「スキルアップは従業員にとって価値があり、会社の差別化要因と見なされている」と報告されているとおり、スキル開発はグローバルでも非常に注目度が高い領域です。これらの結果からも、企業はキャリア・スキルディベロップメント領域の対策をEXの中心テーマとして捉えていくことが重要であることが分かります。

テクノロジー活用によるパーソナライズされた学習機会の提供により、個の欲求にこたえる

キャリア・スキルディベロップメントを推進する上では、ハード面とソフト面の両輪で対策を練る必要があります。研修機会や制度(学びを評価する、学習時間のKPI、勤務時間内に学習時間を組み込む)、テクノロジーを活用しパーソナライズされた学習体験ができるプラットフォームの提供も大事な要素です。本調査では、キャリア・スキルディベロップメント領域におけるテクノロジー・AI活用について、大企業の4割ではすでに活用が進む一方で、中小企業ではまだ導入が少ない状況が分かります(図表7)。まだ導入していない企業においては、個に合わせた学習機会を提供するテクノロジーをリサーチし、活用を検討することが望まれます。

CCO(チーフカルチャーオフィサー:Chief Culture Officer)が自ら情報を発信し、マネージャーのコーチング力や従業員本人の意欲を高める

次に、グローバルと比較し、成長への挑戦に対する心理的安全性が低いことが分かります(図表8)。「失敗したらキャリアパスから外れてしまうのでは」「今の安定したジョブで給与を維持できれば良い」という考え方から、現状維持が最も安全であるという思考に陥っている日本人が多いことが想定されます。なお、「State of the Global Workplace 2025」*2によれば、日本を含む東アジア地域ではキャリア不安や職場不満が強く、転職意向が世界で2番目に高い(57%)と報告されていることからも、口に出せない不満を抱えている日本人が多いことが想定されます。個人のキャリアオーナーシップを高めるためには、従業員が自律的にキャリア形成に取り組めるよう動機づけることが重要です。そのために、CCO(チーフカルチャーオフィサー:Chief Culture Officer)が自ら情報や「挑戦こそが成長であり、失敗こそが学びである」というメッセージを発信し、パーパスを起点とした「自分と学び」の好循環を生み出す必要があるでしょう。

また、今回の調査では、マネージャーのコーチング力など、メンバーをケアするスキルの強化を課題に挙げる企業が多いという結果も出ています(図表6)。「State of the Global Workplace 2025」*2でも、マネージャーの訓練不足という構造的な問題があり、特に東アジア地域では上司との1on1の頻度や質が世界平均より低い傾向がみられると報告しています。心理的な安全性を高めるため「部下が脅威ではなく報酬として感じられるフィードバック」をマネージャーが提供することが非常に重要です。過去の失敗や現状の評価にこだわるのではなく、未来に向けた具体的な行動や解決策を提案するコミュニケーション手法である「フィードフォワード」ができるよう、マネージャーの1on1の質を向上させるためのトレーニングや勤務時間の確保を促していく必要もあるでしょう。

ファイナンシャルウェルビーイングによりキャリアライフを楽しむための支援を

加えて、従業員が安心して学びや挑戦に向かうためには、生活基盤や将来への安心感も重要です。こうした観点から注目されるのが、ファイナンシャルウェルビーイングです。

大企業では、キャリアオーナーシップ・学びたくなる文化・マインド変革に加えて、日々の生活を経済的な不安に左右されず安心して過ごすための支援が、課題として上位に挙がりました(図表9)。

これは、企業が従業員の成長支援だけでなく、その前提となる生活基盤や安心感にも目を向け始めていることを示しています。こうした結果からキャリアウェルビーイングとファイナンシャルウェルビーイングは切り分けて考えるべきものではなく、成長支援と安心支援の両輪として捉える必要があります。キャリア自律を促しても、学ぶ環境が整わず、挑戦を後押しする文化も弱く、生活面の安心感も乏しければ、従業員は前向きに行動できません。キャリア形成を支える施策と、安心して働ける土台づくりを一体で進めることが、これからのEX向上において重要になります。

図表4:EXで捉えるべき視点

EXで捉えるべき 視点

図表5:現在の注力領域と今後の強化領域

現在の注力領域と 今後の強化領域

図表6:ウェルビーイング経営において課題に感じているテーマ

ウェルビーイング経営において 課題に感じているテーマ

図表7:自社のスキル開発環境の提供状況

自社のスキル 開発環境の提供状況

図表8:現在の自社の職場の心理的安全性状況(グローバルとの比較)

現在の自社の職場の心理的安全性状況 (グローバルとの比較)

図表9:ウェルビーイング経営において課題に感じているテーマ(大企業 5,000人以上)

ウェルビーイング経営において課題に感じているテーマ(大企業 5,000人以上)

3.従業員の声(Voice of Employee)の収集にAIを取り入れる

2025年度の本調査(エンプロイーエクスペリエンスサーベイ2025調査結果〈速報版〉)では、EXへの取り組み度合いと従業員エンゲージメントを改善した企業の割合の間に相関関係があることを指摘しましたが、従業員エンゲージメントは重要な指標である一方、それ自体は結果であり、その背景には日々のEXが存在します。したがって、EX向上の実践におおける出発点は、従業員の声を把握することにあります。

エンゲージメントを高めるためには、スコアを追うだけではなく、そのスコアを生み出している体験そのものを、従業員の視点から捉え直す必要があります。今回の調査では、従業員エンゲージメント調査は大企業ほど実施率が高いことが分かりました(図表10)。一方で、従業員の声の把握方法は依然として定期的な調査が中心であり、多くの企業では一定の間隔で状態を確認する運用にとどまっています。なお、生成AI・先端テクノロジーの活用業務として、サーベイ結果の分析・収集が上位に挙がっており、従業員の声の把握は新たな段階に入りつつあることが示されました(図表11)。

従来のエンゲージメント調査は、ある時点の状態を把握するうえでは有効である一方で、変化の兆しや潜在的な不満の蓄積を見逃す可能性があります。これに対してAIを活用すれば、従業員の声を継続的に収集したり、テキストや行動データも含めて分析したりすることができ、課題の把握漏れを防ぎやすくなります。従業員リスニングの高度化・高頻度化は組織の状態をより精緻に捉え、人的バイアスを抑えながら改善につなげるための基盤になります。

図表10:従業員エンゲージメント調査の実施状況と従業員の声の把握

従業員エンゲージメント調査の実施状況 と従業員の声の把握

図表11:生成AI・先端テクノロジー技術の活用業務

生成AI・ 先端テクノロジー技術の活用業務

テクノロジーを導入すること自体が目的ではない、どう活用するかを見失わないように

また、AI・テクノロジーの効果に対する認識は日本企業でも一定程度見られるものの、グローバルと比べると効果実感はなお限定的です。PwC米国の「HR Tech Survey 2022」*3との比較では、米国ではHRテクノロジーの活用がEX向上に効果的だと97%が回答しています。一方、日本では63%にとどまり、EX向上におけるテクノロジー活用が遅れている現状が見て取れます(図表12)。一方で、大企業では、AI・テクノロジーの効果がEX向上や従業員の行動変革など、個々のEXに近い領域にまで広がっており、活用の高度化に向けた動きも見られます。こうした状況から見えてくるのは、導入の有無そのものではなく、活用の目的設計やEX向上へのつなげ方が問われる段階に入っているということです。

EXツールの導入・活用における課題では、2026年は「目的・目標が明確でない」が最多となり、課題の重心が、予算・人材不足から、導入目的の設計や既存システム・データとの接続へと移りつつあることが明らかになりました(図表13)。重要なのは、ツールを導入すること自体ではなく、それをどのようにEX向上につなげるかということなのです。

こうした結果を踏まえると、今後のEX推進では、従業員の声を「聞く」ことから、「継続的に把握し、分析し、改善につなげる」運用へと進化させることが求められます。AIはその実現を支える有力な手段ですが、成果を左右するのはツールそのものではありません。重要なのは、従業員の声を起点に、エンゲージメントの要因となるEXを従業員目線で捉え直し、継続的にデザインしていくことです。

図表12:HRテクノロジーにおける効果発揮度合い

HRテクノロジーにおける 効果発揮度合い

図表13:EX向上のためのツール導入・活用における課題

EX向上のためのツール導入・ 活用における課題

4.EX施策はHR横断チームで対応できる体制を

EXの重要性は認識されていても、それを全社的に推進するための責任主体や進め方が十分に定まっていない企業も少なくないと考えられます。今回の調査から、全社的な実践に落とし込むための基盤が十分に整っていないことも明らかになりました。

EX向上に向けた課題としては、体制不足が継続的かつ最大の障壁として挙げられています(図表14)。さらに2026年は、経営層の優先度の低さ・理解不足を課題に挙げる割合も大きく上昇しており、単なる推進体制の問題にとどまらず、EXを経営アジェンダとして十分に位置付けられていないこと自体が障壁になっていることが分かりました。

EX向上は人事部門の1チームが個別対応するのではなく、人事チーム横断で推進すべきテーマとして扱う必要があります。そのためには、経営の関与と明確な推進体制が不可欠です。そのことは、EX専門組織・担当者の設置状況にも表れています。企業規模による差は大きく、大企業では設置済み、もしくは設置予定の企業が多い一方で、中小企業では約7割が設置予定なしにとどまっています(図表15)。これは、EXを横断テーマとして扱う責任主体が定まっていない企業が多いことを示しています。今後は、専門組織の設置そのものを目的とするのではなく、少なくとも誰が横断的に課題を特定し、施策を束ね、改善を回していくのかを明確にすることが重要です。

従業員の声を集めることも、キャリア支援を個別最適化することも、従業員エンゲージメントを経営指標として扱うことも、それらを実効性のある施策として機能させるには、推進体制と実行人材の両方が必要です。

EX向上を本当に機能させるためには、個別施策を導入するだけでは足りません。推進体制、人材、テクノロジー活用をつなぎ、EX全体を経営の視点で統合的に設計することが求められます。

2026年のEX推進において、体制構築は他の全ての施策の実効性を左右する基盤であり、EXを経営アジェンダとして実装するための前提条件だといえるでしょう。

図表14:EX向上へ向けた課題

EX向上へ 向けた課題

図表15:EX専門組織・担当者の設置状況(従業員規模別の比較)

EX専門組織・担当者の設置状況 (従業員規模別の比較)

執筆者

鈴木 英理子

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

迫田 航次郎

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

Email

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