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「ホリスティックに考え、システミックに動く」。このアプローチは、多様化・複雑化するサステナビリティ課題を解く重要なカギとなります。リニアエコノミー(線形経済)による大量の物資消費と廃棄が地球環境に大きな影響を与える中、今やサーキュラーエコノミー(循環経済)への転換とSX(サステナビリティトランスフォーメーション)の実現は、社会全体で待ったなしの状況です。本対談では、サークルエコノミー財団(オランダ)CEOのイヴォンヌ・ボジョー氏をゲストに迎え、PwC Japanグループの中島崇文と、包括的かつ体系的な変革の道筋を議論します。
(本文中敬称略)
対談者
イヴォンヌ・ボジョー
サークルエコノミー財団 CEO
中島 崇文
PwC コンサルティング合同会社 パートナー
中島:私たちPwC Japanグループは、新時代のサステナビリティ経営を具体的に推進していくために書籍『サステナビリティ新時代』を出版しました。この書籍では、SXの実行を加速させるための重要な考え方として、「ホリスティックアプローチ」と「システミックアプローチ」を提唱しています。ホリスティックアプローチは、脱炭素や生物多様性などのサステナビリティ課題を横断的に捉えて全体最適を図る考え方を指します。一方、システミックアプローチは、課題をシステムとして捉えて、要所に同時に働きかけて変革を促す方法論です。
サーキュラーエコノミーは、脱炭素や資源、自然といった複数のサステナビリティ課題を解消する非常に重要な概念です。これを実現するためには、多数のステークホルダーと協調し、実現に向けてボトルネックを解消していくことが求められます。まさにそこでシステミックアプローチが必要になってきます。
本日は、今後のサステナビリティ経営のあり方について、ホリスティック/システミックアプローチの観点を交えながら、ボジョーさんと意見を交わしたいと思います。まずは、自己紹介をお願いします。
ボジョー:私はオランダのアムステルダムを本拠とするサークルエコノミー財団のCEOを務めています。当財団は、サーキュラーエコノミーを社会実装するための実用的かつスケーラブルなソリューションを研究、推進するために設立されました。
私たちは、公共セクターおよび民間セクターとの共同プログラムを実施し、それを通じて両者の密接な連携を促しています。中島さんがおっしゃるように、サーキュラーエコノミーの構築にはシステミックアプローチが不可欠です。なぜなら、全ての主要なステークホルダーが関与してこそ、効果的なコラボレーションを実現できると信じているからです。
私たちは主に3つの活動を行っています。
第一に、データドリブンアプローチを採用し、都市、国家、グローバルセクター、そして個々の企業に至るまでのマテリアルフロー(原材料や製品、廃棄物などモノの流れ)を分析します。
第二に、サーキュラーエコノミーに関するケイパビリティ(組織能力)の開発に注力し、インサイト(洞察)を実践的なツールや知識に変換することで、民間および公共セクターの人々がサーキュラーエコノミーへ移行できるように支援します。
そして第三に、異なるステークホルダーが集まり、複雑かつグローバルなバリューチェーンに対するサーキュラーソリューションを共同で実行するために、安心して対話・学習できる場を提供します。
中島:いずれもサーキュラーエコノミー実現のために不可欠な要素だと感じます。具体的な議論に入る前に、今後のサステナビリティ経営において私たちが重要だと考えるホリスティック/システミックアプローチについて、簡単に説明します。
中島:ホリスティックアプローチは具体的には、経済・社会・環境に対するプラスとマイナスのインパクト、そしてトレードオフをデータ解析し、その結果を踏まえて、施策を検討していくことを指します。サステナビリティ領域においては、気候変動、生物多様性、水ストレス、資源循環、人権など、多様化・複雑化する課題に同時に対応しなければならない時代に入っています。
こうした対応には費用も工数もかかるため、いかに効率化するかが大きな課題の1つです。
加えて、各課題間の相互依存関係を適切にシミュレーションし、意思決定する必要があります。例えば、生物資源由来のバイオマス燃料は温室効果ガス(GHG)排出量の減少に寄与する一方で、サトウキビや木材の生産には大量の水と広い土地を使用するため、水不足や生態系の破壊など環境に負のインパクトを与える可能性があります。
そのため、個別最適ではなく、ホリスティックな観点から、課題横断で施策を評価し、全体最適で施策を考えていくホリスティックアプローチも重要だと考えています。
もう一つのシステミックアプローチは、1社単独あるいは1つの部門だけでなく、複数の業界・企業・組織、そして公共セクターなどが協調して施策の実行と成果創出のスピードを上げる方法論です。ポイントは、関連する要素やプロセスをシステムとして捉え、大局的な視点から解決策を導き出すシステム思考と、各ステークホルダーによるエコシステムの形成です。
多様な利害関係者と関わりながら、財務的なリターンと環境および社会的な課題解決の両方を達成するためには、システムレベルでのリスクと機会を評価することが必要です。複雑で不確実な状況や課題に対し、異なるプレーヤーが協調・連携し、変革を実現するための解決策を導き出す行動を実践することで、トレードオフのバランスを取り、課題解決を妨げる障壁(リバウンド効果やバイアスなど)を解消することができます。
したがって、「ホリスティックに考え、システミックに動く」。これによって正のインパクトを最大化することが、これからのサステナビリティ経営にとって非常に重要なテーマになると私たちは考えます。
ボジョー:「ホリスティックに考え、システミックに動く」は、確かに正しいマインドセットです。
現在のリニアエコノミー(大量生産・大量消費・大量廃棄の線形経済)の根本的な問題の1つは、組織・企業・業界ごとのサイロ化された構造です。そこでは、しばしば個別の状況で意思決定がなされ、ときには環境と社会を犠牲にした利益の追求が行われます。
サーキュラーエコノミーへの移行には、根本的に異なるアプローチが必要です。それは、コラボレーティブ(協働的)かつシステミックなアプローチです。グローバルなバリューチェーンは深く相互接続されており、主要なステークホルダーが協力してこそ、サーキュラーソリューションが創出されます。
例えば、製造業の生産ラインの変革やビジネスモデルの再設計に何が必要かを金融機関が理解すれば、適切な資金を提供できます。また、企業が直面する障壁を政策立案者が真に理解すれば、公平な競争環境を作るための政策を策定できます。
そして、ビジネスリーダーがリニアエコノミーは持続不可能であるという共通理解の下に連携すれば、大胆なリーダーシップを発揮できます。
ボジョー:サークルエコノミー財団の過去13年の活動を通じて、関係者が同じテーブルに着き、同じ分析に目を向け、共通言語で対話し、今後の目標について合意すれば、大きな飛躍を遂げることができると実感しています。
オランダのフリースラント州では、10年前に複数の企業が「今のままではビジネスは持続可能ではない。競争相手であろうとなかろうと同じテーブルに着き、未来のために変わらなければならない」と決意しました。彼らは、地方自治体や中央政府、主要銀行を招き、過去10年にわたってシステミックアプローチに取り組み、その州における自動車、衣類、食料などのマテリアルフローをホリスティックに捉え、国全体のサーキュラーエコノミーに与えるインパクトを分析してきました。サーキュラーエコノミーへ移行するには、ホリスティック/システミックアプローチこそが唯一の方法論であると理解しているからです。
中島:ホリスティックな評価プロセスと、共通した言語と目標を持つことによって、業界や役割を超えたコラボレーションが加速され、成果が創出されていくことを示す、とても印象的な例だと思います。
サークルエコノミー財団では、「サーキュラリティ・ギャップ・レポート」(The Circularity Gap Report)を発行されていますが、レポートの作成を通じてどのようなインサイトが得られましたか。
ボジョー:私たちは7年前からサーキュラリティ・ギャップ・レポートを発行しています。2024年1月に発行したレポートの内容を一部紹介すると、2023年の世界のサーキュラリティ(マテリアルフローにおける循環型資源・材料の利用率)は7.2%で、2018年の9.1%から低下しています。物質の消費は増え続けており、過去6年間で5,000億トンに達しています。これは、20世紀を通じて世界で消費された物質の量に相当します。
一方、サーキュラーエコノミーをテーマとした議論や記事の量は、5年前と比較して約3倍に増えています。つまり、サーキュラーエコノミーへの関心は高まっているものの、地球規模での人口増加と経済の拡大がサーキュラリティを押し下げていると言えます。
今、地球のシステムは危機に瀕しています。2023年のサーキュラリティ・ギャップ・レポートでは、9つのプラネタリーバウンダリー(人類が安全に活動できる地球環境の許容限界を定めた概念)のうち、「気候変動」「生物圏の一体性(生物多様性)」「生物地球化学(窒素・リンの)循環」「土地利用変化」など6つの項目が許容限界を超えていることを指摘しました。今こそ分析や理論化だけでなく、行動を起こす時です。
人々は、地球が生産できるスピードをはるかに超えて消費しています。サーキュラーエコノミーは、ビジネスの持続可能性だけでなく、食料と経済の安全保障、そして私たち自身の生命に深く関わることなのです。私たちが対症療法ではなく、地球システム全体の根本問題に対処するサーキュラー戦略の実行を提唱するのはそのためです。
中島:サークルエコノミー財団は、政府や自治体、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)といった国際団体と、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。
ボジョー:グローバルなサーキュラリティ・ギャップ・レポートだけでなく、各国政府と協力して国別のレポートも作成しています。これまで、ノルウェー、スウェーデン、オランダ、オーストリア、スコットランドなどでレポートを発行しました。その上で、公共セクター、民間セクター、アカデミアなどを巻き込んで、国や地域ごとのサーキュラー戦略を策定しています。
オーストリアは、2018年にサーキュラリティ・ギャップ・レポートを発行し、2022年に内閣でサーキュラーエコノミー戦略が承認されました。スコットランドでは2016年に最初のサーキュラー戦略を発表し、2024年にサーキュラーエコノミー法案が議会で可決されました。ホリスティックかつシステミックなアプローチは大きな変化を目指すものであり、成果を出すにはエネルギーと忍耐が必要です。
経済構造は国や地域によって違うので、私たちは中央政府や地方政府とのパートナーシップによって、それぞれの経済構造を深く掘り下げ、経済の現実に沿ったデータに基づくサーキュラーソリューションを開発しています。最近では中東のオマーンでも同様の取り組みをスタートさせたほか、インドや日本の蒲郡市(愛知県)でも予備調査を始めました。
2024年からは、WBCSDの重要なイニシアティブである「グローバル・サーキュラリティ・プロトコル」(GCP)の開発に協力しています。これは、サーキュラーエコノミーにおけるGHGプロトコル(GHG排出量を算定・報告するための国際基準)に相当するものです。
GCPのフレームワークは、2025年11月に開催を控えるCOP30(国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議)で発表される予定です。GCPは、グローバルビジネスにとってゲームチェンジャーとなる可能性を秘めており、アクションを連携させ、進捗を測定し、産業全体でサーキュラーエコノミーへの移行加速に向けて機能するはずです。
公共セクターと民間セクターが共通のフレームワーク、データ、目標の下に協力するときにこそ根本的な変革が起こるので、私たちはこれらの活動に取り組んでいます。
中島:私たちも公共セクターの人たちと対話する機会が多いのですが、正しい政策を作るために民間セクターで何が起きているのかを知りたい、あるいは民間での取り組みにおける成功体験、失敗体験を教えてほしいというリクエストをいただきます。
正しい政策を作り、それを確実に実行するエコシステムを形成するために、産業界・金融業界のリーダーと政策立案者が同じテーブルで議論し、ブレークスルーを起こしていくことが、ビジネスと社会、地球環境の持続可能性を高めていくことにつながります。私たちもその活動をリードしていきたいと思っています。
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