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前編に続き、サークルエコノミー財団CEOのイヴォンヌ・ボジョー氏とPwCJapanグループの中島崇文が、サーキュラーエコノミー(循環経済)とSX(サステナビリティトランスフォーメーション)の実現に向けた具体的な道筋を語ります。焦点を当てるのは、ホリスティック/システミックアプローチを推進する上での課題、求められるリーダー像、そして日本が果たすべき役割などです。議論の内容から、ステークホルダー間の信頼醸成、次世代を見据えたリーダーシップといったキーワードが浮かび上がってきました。
(本文中敬称略)
対談者
イヴォンヌ・ボジョー
サークルエコノミー財団 CEO
中島 崇文
PwC コンサルティング合同会社 パートナー
中島:これまでの経験から、ホリスティック/システミックアプローチの成功の要諦は何だと思われますか。
ボジョー:ステークホルダーの結集、そしてステークホルダー相互の信頼関係を醸成するエコシステムの設計です。
私たちにサーキュラリティ・ギャップ・レポートを依頼する公共セクターは、単一の省庁や部局です。例えば、オマーンでは経済省からの依頼でした。しかし、レポート作成に当たっては、政策立案者だけでなく、初期段階から業界リーダー、金融機関、学界、スタートアップコミュニティなど主要なステークホルダーの知見を結集していきます。
そして、前述(前編 参照)のように共通の分析を基に、共通の言語・理解に基づいて議論し、共通の指標で進捗を測定して、共通の目標に向かうのです。それがエコシステム内のプレイヤーを関与させ、相互の信頼関係を醸成することにつながります。信頼関係を構築できれば、レポート作成後もエコシステムが機能し、長く協力を続けられます。持続可能なソリューションは、そのようにして生まれると私たちは信じています。
オマーンのケースでは、豊富な資金力を持つ政府系ファンドであるオマーン投資庁(Oman Investment Authority)が当初から参画していました。そして、他のステークホルダーとの議論を通じて、循環経済への移行を加速するために、どこに投資すべきかについて重要な指針を得ました。金融資本がサーキュラーエコノミーの価値を理解すれば、新たな資金の流れが生まれ、それがイノベーションを促進します。
中島:全く同感です。ホリスティックアプローチは、多様化・複雑化した複数のサステナビリティアジェンダをまたいで、横断的に施策を評価し、デザインしていくものですから、幅広く、そして深い専門知識が必要です。そして、システミックアプローチでは、1社では実行できない解決策をステークホルダー同士の協調関係によって実行していきます。いずれも信頼で結ばれたエコシステムの形成が不可欠となります。
では、ホリスティック/システミックアプローチを推進していく上での課題については、どうお考えになりますか。
ボジョー:課題はいくつかあると思います。
1つはリーダーのメンタリティです。例えば、企業はこれまで、収益性に価値を置いてきました。そして、競争で勝った者が富を独占したり、他企業を排除したりする勝者総取り(winner-takes-all)が、称賛の対象となってきました。だからこそ、投資家も企業のCEOも、短期的な利益を何よりも優先してきました。
私たちは、成功とは何か、そしてリーダーシップとは何かを再定義すべき時期を迎えています。短期的な利益の追求ではなく、次世代を見据えたレガシー思考で人類の繁栄と環境の再生をデザインできるリーダーが必要だと私は考えています。また、人々の共感を集め、大胆な意思決定と行動ができるリーダーが、本当のブレークスルーを起こすと信じています。それはビジネス界に限らず、メディアや教育、政治の世界でも同じことだと言えます。
幸いなことに、変化は見え始めています。例えば、グローバル・サーキュラリティ・プロトコル(GCP)の策定を主導するWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)には、約200の多国籍企業からCEOや幹部が参加し、各国政府や国際機関、NGOなどと協力し、社会課題の解決に取り組んでいます。
しかし、これだけでは十分ではありません。より多くのリーダーが、人々と地球の幸福のために主体性を持って大胆に行動してくれることを願っています。
ボジョー:もう1つの課題は、知識とスキルです。サステナブルな社会、あるいはサーキュラーエコノミーへの移行には新たなスキルが必要です。サーキュラーエコノミーへの移行に伴い、5~10年後の生産ラインやビジネスモデルは、今とは異なる姿になるでしょう。
例えば、オランダでは電気自動車(EV)の普及を進めており、住宅の屋根には太陽光発電設備の設置が広がっています。分散型の再生可能エネルギー電源を束ねてグリッド(送配電網)につなぎ、電力系統を安定させるには、新たな知識とスキルが必要ですが、オランダではそうした人材が不足しています。
資源や材料の循環性を高めるには、循環型の製品設計ができる人材が必要ですし、使い込んだ製品を修理・再生できる人材もさらに必要です。今後、社会で必要となる仕事と、そこで求められるスキルが何か、そして、その習得をどのようなプログラムで進めていくのか。こうした点について、教育界や高等教育機関を交えた議論を急ぐべきです。
中島:DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するためには専門スキルを持った人材が重要であるのと同じように、サーキュラーエコノミーやSXにも必要なスキルセットを持つ人材が欠かせないということですね。
ボジョー:そのとおりです。DXと同様に、サーキュラーエコノミーやSXでも、スタートアップコミュニティなどをどんどん巻き込んでいくことが求められます。
中島:先進的なイノベーションやリスクマネーの投資判断、ビジネスの実態を深く理解した上での政策立案なども必要でしょう。このような必要な素養を身に付けた多様な人材を社会で育成し、互いの意見を交わし合っていくことが大切だと思います。
政策に関しては、サステナビリティアジェンダに関するルールやガイドラインが特定の国に有利であったり、逆に不利なものであったりすると、課題解決の障壁になります。例えば、水資源が豊富な国と不足している国では、水ストレスを測定する指標は共通にすべきですが、解決策は自ずと違うものになるでしょう。
ボジョー:おっしゃるように、国や地域によって優先すべき取り組みは異なります。サークルエコノミー財団では、各国をSHIFT経済(高所得国)、GROW経済(中所得国)、BUILD経済(低所得国)の3つのカテゴリーに分け、優先すべき取り組みや適切なソリューション、政策などを提示しています。
例えば、多くの資材を使用する分野の1つが建築環境です。BUILD経済の国では、病院やオフィス、住宅などの整備を進める必要があり、発展をスローダウンさせるのは難しいでしょう。その代わり、再生可能な建材やバイオベースの建材を積極的に活用すべきです。SHIFT経済の国では、新たな建設を抑えて、改修してなるべく長く使うとか、解体した建物の資材を再利用するといったことを優先すべきです。
EU(欧州連合)は、サーキュラーエコノミーやサステナビリティの先駆者と見なされていますが、EUのルールやガイドラインが全ての国にとって望ましい効果をもたらすとは限りません。だからこそ、異なる国々のステークホルダーが、同じテーブルに着いて対話を続ける必要があります。そのために私たちは世界で活動しているのです。
中島:EUがルールメイキングに長けており、サステナビリティの専門家が多いことは確かです。日本やアジアの国も、議論に積極的に加わり、きちんと主張していくことが重要だと思います。
また、国内においても政策立案者の動きを待つだけではなく、より良い政策になるよう当局者とコミュニケーションを図ること、そして継続的な議論で政策をブラッシュアップしていくことが大切だと強く感じます。
ボジョー:チャタムハウス(英国王立国際問題研究所)の調査によると、これまで75の国と地域でサーキュラーエコノミーの政策が策定され、2,900の政策が発表されています。さらに今後5〜10年で3,000以上の政策が発表される見通しです。
現代のバリューチェーンは、さまざまな国と産業セクターにまたがっています。例えば南米で発表される政策が、東南アジアの企業に影響を与える事態が生じるかもしれません。世界各地の動向をウォッチすることが、全ての企業にとって不可欠です。これも、ホリスティック/システミックアプローチを推進していく上での課題の1つと言えます。
そしてもう1つ、重要なのが、消費者の行動変容です。地球が45億年かけて築いてきた生態系と環境のバランスを、私たち人類がほんのわずかの間に崩していることを深く自覚しなくてはなりません。
中島:行動変容を起こす上で大事なのは、次世代の視点を持つことです。その点についてあらためて気づかされた個人的なエピソードを1つ紹介します。
私には3人の子どもがいます。私が車の購入を検討していた時、カーシェアリングサービスの利用を息子に提案されました。試しに使ってみると、確かに便利だし、子どもたちはそれで十分満足しています。私たちの世代に比べて、今の子どもたちは、モノを所有することにこだわっていないし、学校では環境やサステナビリティに関する教育を受けています。
私たち大人が行動変容を起こすためには、子どもの視点で社会や地球を見ることが起点になると思います。
ボジョー:素敵な例ですね。真の変化は取締役会ではなく、家庭の食卓から起こると、私はよく言っています。
一方で、まずは家族を養うために働いている多くの人々が居ることも忘れてはなりません。彼らは持続可能な製品や仕事を選ぶ余裕がないのです。彼ら彼女らがサステナブルな選択ができるよう支援するのが、ビジネスリーダーや私たち専門家の使命だと思います。
中島:私もプロフェッショナルの1人として、その使命を深く胸に刻みたいと思います。
最後に、日本企業への期待をお聞かせください。
ボジョー:私は日本文化の専門家ではありませんが、日本人の価値観の中核には、自然への敬意や世代を超えた幸福の希求、そして高品質で長く使い続けられるものを作り出す職人技への共感があることを知っています。
それらは、いずれもサーキュラーエコノミーの根底にある価値観と共通するものであり、日本の文化にはサステナビリティの追求が生来的に根付いていると思います。その文化的基盤があるからこそ、日本はアジアやおそらく世界的においても、サーキュラーエコノミーへの移行をリードするのに最もふさわしい立場にあると言えます。
日本企業が、日本の文化とイノベーションの実績に基づいて、世界にインスピレーションを与え、情報を提供し、インパクトを及ぼすことを心から期待しています。
中島:心強いメッセージをありがとうございます。今後もサーキュラーエコノミーの実現に共に取り組んでいくことができれば幸いです。
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