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~余韻形成には生体反応を伴うポジティブな感情惹起と好意/共感が特に重要~
社会のデジタル化に伴い、エンタテインメント・メディア業界ではコンテンツの視聴や消費行動だけでなく、送り手や作り手のコンテンツクリエーションなどにも大きな変化が生じています。特に映像コンテンツの知的財産(Intellectual Property:IP)戦略を踏まえた「長期アセット」としての価値に注目が集まり、海外展開や川下領域における新たな利活用機会が拡大しています。
このような状況下では、エンタテインメントコンテンツの提供価値は、楽しさや興奮といった一過性の情緒的価値にとどまりません。コンテンツ受容から生じる深い「感動」や「余韻」体験は、継続視聴や関連商品の購入意向の向上、他者への推奨行動など近年注目されている「推し活」や「ファンダムマーケティング」のキードライバーとなると考えています。
PwCコンサルティング合同会社では、以前から広島大学の脳・こころ・感性科学研究センター協力の下、映像コンテンツ視聴時の情動変容と余韻形成に関与する主要因子の特定、およびメカニズム解明を企図した研究を行ってきました。今回の調査結果の公開は基礎研究成果の社会実装と位置付けており、今後も研究活動を通じてエンタテインメント関連企業や関連団体の皆様と一緒に日本のコンテンツクリエーション、ひいては日本のエンタテインメント産業の発展に貢献していく所存です。
昨年度実施した予備調査では、「同じ映像を視聴した場合、視聴者の属性以外に、生体反応の有無、過去の体験やエピソード記憶などが感情変化や余韻形成に関与する感性に係る因子として存在する」という「余韻形成メカニズムの初期仮説」を提唱しています(図表1参照)。
図表1:コンテンツ視聴時の情動変容と余韻形成メカニズムの」初期仮説
出所:PwC作成
本調査では、個人特性による差異をより深堀するために調査サンプル数と設問項目を拡大し、主要因子の特定、および相関分析やSEM分析(Structural Equation Modeling)による余韻形成プロセスの精緻化を試みました。
SEM分析を実施した結果、注目すべき主要因子として映像視聴時の「感情惹起」「生体反応の発生(内受容感覚)」、および視聴後の「コンテンツへの好感形成」「コンテンツへの共感形成」が余韻形成と強い相関が見受けられました。
これは、コンテンツからの入力刺激により、ワクワクやドキドキといったポジティブな感情、特に生体反応を伴う強い情動変容が生じ、それがコンテンツへの共感や好意という評価形成に繋がり、余韻効果が生じたと推察できます。
余韻形成にかかる主要因子の分析に際して、被験者の特性によって明確な差異が見られました。特に、「自身の生体反応への感度」が高い人は、内受容感覚の変化やコンテンツへの共感、ポジティブな感情を抱きやすい傾向がありました。他にも、個人の「ノスタルジーを感じる頻度」や「ノスタルジー体験の重要性」の高さによって、コンテンツに対する共感や好意といった感情が強く喚起されることが示唆されました。さらに、「共感性」が高い人ほど、登場人物への感情移入を通じてコンテンツへの好意を形成しやすい傾向も確認されました。余韻形成には被験者の感受性や共感性、「ノスタルジー」に対する態度が直接・間接的に影響している可能性が高いと推察されます。
さらに、今回の調査において、「世代間の違い」を分析したところ、特にZ世代特有の差異が見受けられました。「生体反応の発生(内受容感覚)」の鋭敏さ、さらに共感余韻、行動余韻において、他の世代とは異なる反応を示しており、彼らをターゲットとした作品作りにおいて、重要な示唆を得たと言えます。
これらの実証結果を踏まえ、今後の作品作りにおいて、従来のマスマーケティングアプローチから個人の特性を考慮したパーソナルメディア的アプローチの重要性が考えられます。また、ノスタルジア傾向の強さなどの個人特性も、リメイク作品や過去ヒット作のライセンスビジネスなどの商業視点において有用な示唆であるといえるでしょう。今後、クリエイティブプロセスへのより有益な示唆提供に向けて、作品に関連するトリガー因子の深堀(ジャンル、フォーマット、ストーリーテリング、キャラクター要素)などの映像刺激側の因子特定も研究テーマとしていく必要があると考えています。また、感性工学と脳科学を融合した「感性脳科学」の観点から、予測誤差メカニズムや感情惹起モデルとの関連性探索や精度向上などにチャレンジすることで、より有益な示唆が得られると考えられます。