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「地域ICTクラブ普及推進事業」で目指す、ICT教育のかたち

2019-07-09

プロジェクト名:地域ICTクラブ普及推進事業(地域におけるIoTの学び推進事業)

2020年に小学校でプログラミング教育が必修化されるなど、未来の日本を担う人材育成に向けてプログラミング等のICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)教育が大きな期待を集めています。そうした背景を受けて、学校の課外の時間に、地域の人々との世代間での知識・経験の共有などを通じて楽しく学び合うことで、ICTに対して高い興味関心を示す子どもたちを増やす仕組みづくりとして、「地域ICTクラブ」事業が総務省の主導のもと進められています。初年度となる平成30年度(2018年度)には全国で23件の実証が行われました。そこで今回、この事業のキーパーソンの方々にお集まりいただき、ICT教育の課題や、地域ICTクラブが目指すところやその“未来”について語り合っていただきました。

プログラミング教育必修化を受けて、地域住民も参画する学びの場の創出を

 まず「地域ICTクラブ」および「地域ICTクラブ普及推進事業」の概要と、こうした試みを実施することとなった背景についてお聞かせいただけますか。

坂平 「地域ICTクラブ」は、総務省が2018年度より「地域におけるIoTの学び推進事業」の一環として整備を開始した、児童生徒や地域住民が地域の中でプログラミングなどのICTを楽しく学び合い、世代を超えて知識・経験を共有するための仕組みです。クラブでは、学校の課外の時間にプログラミング、デザインやアプリ制作、世代間での知識・経験の共有などを通じて楽しく学び合うことで、ICTに対して高い興味関心を示す子どもたちを増やすことを目的としています。この新しい時代の絆を創るための仕組み(地域ICTクラブ)の構築に向けて、クラブが活動していく上で必要なメンター、教材、端末・通信環境、会場を継続的に提供できるように、地域住民だけでなく、産官学、NPOや金融機関などの関係機関による支援体制を検証するための実証事業を行っています。

2018年度には、北海道から沖縄まで、全国で23件の実証を実施しました。全国に設置されたクラブは62にのぼり、参加児童生徒は2,000人を超えています。さらに、これらの実証を通じて高校生からシニアまで約450人のメンターが育つとともに、約200人もの地域のサポーターがクラブ運営を支援してくれています。年間の講座実施総数も445回を数えました。

取り組みの主な背景としては、2020年度からのプログラミング教育の必修化が挙げられます。文部科学省がプログラミング教育のカリキュラムを進めていく一方で、児童生徒によってはプログラミング自体をハードルが高いと感じる場合もあるかもしれません。またプログラミング教育を受けてICTへの興味・関心を高めた児童生徒にとっても、さらなる知識・経験を育むことができるような場が求められてくるはずです。そこで学校以外でも、社会人、高齢者、障害者など地域の皆さんが一体となって、プログラミングに興味を持ち、持続的・発展的にプログラミングを学んでもらえる場を創出していこうと、「地域ICTクラブ普及推進事業」を実施することとなったのです。

また地方/地域の課題を取り扱う総務省としては、地域ICTクラブの取り組みを通じて、これまで地域イベントなどに参加したくてもなかなか一歩を踏み出せなかった高齢者の方々などにも参画してもらい、地域の活性化につながればという思いも強いです。

 我々もこの1年実証のお手伝いをさせていただくなかで、地域の大人たちが地域の活動に参画するきっかけとしての地域ICTクラブの役割もとても大きいと実感しました。子どもたちの学びのための場であるとともに、クラブ終了後には参画した大人たちもとても満たされた表情で帰っていくといったシーンを何度も目にしましたから。地域ICTクラブの取り組みは、まさにコレクティブ・インパクト(立場の異なる人や組織がその壁を越えてお互いの強みを出し合い社会的課題の解決を目指すアプローチ)の好事例なんですよね。

プログラミング教育必修化に向けた学校現場の課題と地域ICTクラブへの期待

 学校現場におけるICT教育(プログラミング教育)の現状については知らない人も多いと思います。松田先生はこの3月まで校長を務められた小金井市立前原小学校での先進的なICT活用で全国の小学校のロールモデルとなられていますが、学校現場でのICT教育の現状と課題についてどのように見ていますか。

松田 正直なところ、学校現場においてはICT教育のプライオリティは低いと言わざるを得ません。というのも、学校にとって何を置いても最優先すべき課題として児童生徒の安全の確保があります。しかも一口に安全の確保と言っても、対象となるリスクは災害、事故、病気、犯罪など多岐にわたってきます。最近では保護者からの虐待への対応なども大きな課題となっています。そして次に高いプライオリティとして、児童生徒の人権の尊重が挙げられるでしょう。全国の学校現場では教師の人材不足が深刻です。そうしたなかにあって、児童生徒の安全確保と人権の尊重だけでも大きなリソースを費やす必要があるうえ、それらができて初めて、学力の向上に目を向けることができるわけです。その学習の最新動向としては英語教育やアクティブラーニングなどに注力する流れがあるなか、さらに新たにプログラミング教育にリソースを費やす余地など現状ではほぼないと言っていいでしょう。

このような学校現場の実態から、プログラミング教育が必修化されても、多くの学校ではそのための時間をあまり多くは抑えないのではないかと見ています。そうなると、当校のように最大限の枠をプログラミング教育に充てようとしている学校との格差も生まれてくるでしょうし、何よりも問題となるのが、単にカリキュラムをこなすための授業では子どもたちも面白さを感じられないであろうということです。特にプログラミングというのは楽しんだり興味を抱いたりすることが大事ですから、これでは豊かな発想で次世代を担う人材を育てることなど難しいでしょう。

そうした深刻な課題があるなかで、地域の人々が積極的に関与して子どもたちにプログラミングについて学んでもらおうという地域ICTクラブの試みは、課題解決の糸口になるとともに、学校現場にとっても大いに刺激になるのではないかと期待しています。プログラミング教育に限らず、これまでの“学び”の主体は学校でしたが、もうそうした時代は終わったのではないかと個人的には考えています。これだけ全国にICT環境が整っていて、いつでもどこにいても学ぶことができるのですから。地域ICTクラブはそんなこれからの学びの場のあり方を考えるきっかけの一つにもなっていると思いますね。

岡田(総務省) 地域ICTクラブから育ったメンターの人たちが、学校でのプログラミング教育に貢献することができればという思いもあります。

松田 最終的にはそれぞれの学校長の判断になってきますが、十分に可能でしょうね。ただ、ICT教育自体に関してもそうですし、外部人材の活用についても消極的な人が多いのも事実なので、地域と学校が一緒になって子どもたちを育てる場であることを十分に理解してもらうことが鍵になるかと思います。

地元の商店街や大学とともに、コミュニケーションロボを用いたICT教育を実証

 2018年度には全国23件・62のクラブで地域ICTクラブの実証を実施したわけですが、そのなかでも地域密着型の取り組みの代表事例として広島県三原市における地域ICTクラブの取り組みにスポットを当てさせていただきました。まずはこの実証事業の内容についてお聞かせください。

岡田(RoFReC) 三原市をフィールドとする地域ICTクラブは、私が代表理事を務める一般社団法人RoFReCと、三原市、シャープなどで構成するMIHARAプログラミング教育推進協議会が実施主体となります。協議会では、三原を「世界のIT・スタートアップ集積地域」とすることを目標に掲げており、その実現のためにプログラミング教育のメンター育成事業を行っているのです。もともと三原という地域は、小早川隆景公の時代には城下町として、その後には重化学工業の工場地帯として栄えてきました。こうした地域の歴史を踏まえて、サービス、流通、小売り、製造などのあらゆる分野や事業領域で、IoTやICT等の新規事業が次々と生まれる“世界のMIHARAビジョン”に向けた仕組みづくりの実証を行うというのが我々の事業の趣旨となります。

2018年度の地域ICTクラブでは、新たなサービスを創出するために、コミュニケーションロボットを三原市内のホテルや店舗などに設置して、現場の課題解決や業務改善のためにロボットを活用するといった試みを実践しています。そのロボットのプログラミングを子どもたちが行うに当たり、地元の商店街や大学などの協力のもと、メンターの育成を行ってきました。

 教育と産業振興の垣根を超えて幅広い展開を見せているようですね。三原市での地域ICTクラブの活動のきっかけや将来の目標を含めて、これからの地域ICTクラブの展開などについては、このあと皆さんから詳しくお話をいただければと思います。

子どもたち自ら地域の課題を見つけ、解決策を考える三原市の地域ICTクラブ

 広島県三原市での地域ICTクラブの実証事業はどのような経緯でスタートしたのでしょうか。

岡田(RoFReC) 私自身が三原で生まれ育ったのですが、大学に進学後は就職してからもずっと県外でした。すると帰省する度に“あそこがつぶれた”“あの店が撤退した”などといった話を耳にするようになり、かつての元気で賑わっていた工業の街が衰退しつつあることを寂しく感じていました。やがて歳を重ねるにつれて故郷への思いは大きくなり、“三原をもっと元気にしたい”と2018年4月にUターンしたのです。

地元に戻ってきて、少子高齢化など今後直面する課題を考えたとき、テクノロジーを活用した解決が欠かせないという信念を抱くようになりました。そこでテクノロジーを用いて新しい価値を生み出せるような人材が地域には欠かせないと考えて、まずはそうした人材を育成することから着手しようとなったのです。このような見地からプログラミング教育に着目しました。

子どもたちと一緒にICTについて学べる場があればという思いのもと、教育フォーラムを開催したりして松田先生にも講師をお願いしました。このようなフォーラムを開くと自然と賛同者が集まってきて何かやってみようよという空気が醸成されてきます。そうしたなか、総務省の地域ICTクラブの公募を目にして、子どもたちと大人が一緒になってプログラミングを学べる仕組みづくりを目指すこの取り組みは自分が目指している理想とマッチすると確信して応募したのです。

 そうしてコミュニケーションロボを用いた2018年度の実証がスタートしたわけですね。

岡田(RoFReC) はい。お話したようなこれまでの経緯から“シャッター街となった地元商店街を元気づけたい”という強い思いがありました。そこで商店街を学びのフィールドとして、ICTの学びのモデルを実証できないか考えたのです。その具体的な方法として、頑張っているお土産屋の店頭やホテルのロビーなんかにコミュニケーションロボットを設置して、地域の魅力のPRなどをしてもらうことで、人の流れが生まれて商店街にお金も落ちるのではと考えました。

 子どもたちはどのように参画しているのでしょうか。

岡田(RoFReC) ICTの学びの場をつくるうえで強い思いとしてあるのが、プログラミング学習を通じたメンターの育成と、そうしたメンターなどから学んだ子どもたちの中から、やがて三原で事業を起こすような起業家が育って欲しいのです。そのためにはまず、問題を発見し、解決策となるソリューションを考えられる力がなければいけません。そこで、子どもたちには実際にお店にヒアリングにも行ってもらい困っていることを聞いてきたりして課題を見つけてから、その解決のためにロボットにやってもらうことは何かということを議論し、目的を明確にしたうえで、プログラミングをしてもらうようにしたのです。

例えば、商店街の高齢の店主の中には外国人観光客などと英語でコミュニケーションするのが難しいという人も多いです。それでも店主たちには海外からのお客さんに三原の魅力を伝えたいという強い思いがあることを、子どもたちは実際に話を聞いて知ったのです。それならばと、代わりにコミュニケーションロボットに英語や中国語で会話するようなプログラムをつくっていきました。おかげさまで多くの人々に喜んでもらえているのも、こうした地域の問題解決のアプローチがあったからではないでしょうか。

 1年の各地の実証からヒト・モノ・カネそして“場所”のリソースをどうやって上手につないで運用していくかが難しいという課題が見えてきました。三原市の実証は産学官の連携がうまくいっているケースだと思いますが現状はいかがですか。

岡田(RoFReC) そうですね、大学や民間の福祉の専門家の方々にメンターに入ってもらい、大学生メンターへの指導を積極的に行ってくれるなど、持続可能な取り組みになってきていると自負しています。資金については、民間財団などからも支援を受けながら、継続してやっていけるようにしたいと考えています。そしてもちろんお金も大事なのですが、メンターの人たちが、“三原をICTの街にして盛り上げよう”といったビジョンに共感し、子どもたちとともに成長していく喜びを感じてくれているのが何よりも大きなことだと思っています。

岡田(総務省) 三原市のような成果を上げている地域ICTクラブの実証事例を知った他の自治体や学校からの、うちでもやってみたいといった引き合いが今まさに増えているところです。また実証に参画してくれた地域の人々からは“子どもたちと接するのが楽しい”などの声が寄せられていて、どこからも肯定的に受け止めてもらっているのがうれしいですね。

 地域ICTクラブ実証に参画していただいたメンターの方々にアンケートをとったところ、応募動機の1位は子どもたちの成長への貢献、2位は自分自身の新たなスキル習得、3位が地域の人々との交流やネットワークをひろげることでした。地域の子どもたちや大人たちと交流したいというニーズも大きいようですね。

全国への横展開がカギ

 “自分の子どもも地域ICTクラブに行かせたいのだけど、うちの近所にもある?”とよく聞かれるものの当然ながらまだまだ数は限られています。全国網羅的に、というひとつの指標である中学校区単位であれば、その数は全国に約1万カ所となりますので、今後はどうやってスケールを広げていくかが大きなミッションになるのではないかと感じています。そこで今年度以降の地域ICTクラブの方向性について皆さんの考えをお聞かせいただけますでしょうか。

坂平 まさにその通りで、どんなに優れた取り組みであっても全国展開できなければ一つの地域だけの成果に終わってしまいます。そのためいかに三原市のような先進事例をつくりつつ、その横展開を図っていくかが今後の課題です。

岡田(RoFReC) 私自身の地域ICTクラブの立ち上げ時を振り返ると、行政を巻き込み、民間企業を巻き込みというプロセスが必ず必要となってくるのですが、その際に総務省の“お墨付き”があることが大きかったですね。もし自分だけで一生懸命ビジョンを訴えたとしても、正直なところ、短期間での立ち上げに至ったかどうか自信がないです。ですから、国を挙げた取り組みであることをもっと周知していけば全国の“同志”にとってもハードルが低くなるはずです。

松田 ICT人材というのはこれからの地域振興では絶対に必要です。ですから行政にももっと積極的に地域ICTクラブに関わってくれればいいなと感じています。あともう一つ、子どもたちがICTについて常に学べるようなスペースやカリキュラムがあって、わからないことがあればメンターに質問できるような仕組みがあれば理想的ですよね。

岡田(総務省) 地域ICTクラブを立ち上げたい人たちの役に立つような最低限のガイドライン的なものもつくっていきたいです。例えば、協力者を募る際には相手にとってのメリットも伝えながらお願いすると賛同してもらいやすい等、実際の経験をもとにしたノウハウなどです。こうしてスタートのハードルを少しでも下げる工夫をしながら、地域ICTクラブを周知していければと考えています。

坂平 どこの地域の実証でも参画している人々はみんな楽しそうですから、そんな様子を発信して見てもらうことが大事ではないでしょうか。それは国としてどう伝えていけばいいのかいろいろと考えつつチャレンジしていきたいですね。

 これからの日本を担うICT人材の育成に向けて果たす地域ICTクラブの役割の大きさが実感できたと思います。ありがとうございました。

総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 情報活用支援室 課長補佐 坂平 海 氏

2000年郵政省(現総務省)入省。これまで総務省、島根県奥出雲町(出向)などにおいて、デジタルデバイドの解消や地域でのICT利活用の促進などに取り組む。
2017年総務省中国総合通信局情報通信連携推進課長を経て、2019年4月から現職。

総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 情報活用支援室 主査 岡田 智子 氏

1997年郵政省(現総務省)入省。電波利用の国際調整や適正利用の啓発、府省共通の情報システム・省内情報ステムの担当等を経て、2019年から現職。
現職では、小中学生向けのプログラミング教育の普及推進に取り組む。

合同会社MAZDA Incredible Lab 代表 松田 孝 氏

東京学芸大学教育学部卒、上越教育大学大学院修士課程修了。東京都公立小学校教諭、指導主事、主任指導主事(指導室長)等を経て、2016年より東京都小金井市立前原小学校校長に就任し、情報端末の積極的活用、プログラミング学習の導入による初等公教育のリデザインを実践。2019年4月には合同会社MAZDA Incredible Lab設立し、新教育モデルMDM(MAZDA Disrupt Model)の実証に取り組む。現在は総務省地域情報化アドバイザー、金沢市プログラミング教育ディレクター、小金井市教育CIO補佐官を兼任。

一般社団法人RoFReC 代表理事 岡田 吉弘 氏

2011年京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、日東電工(株)で新製品開発を担当。その後、松下政経塾に4年間在籍し、松下幸之助(パナソニックの創業者)の考え方を学び、国内外の科学技術政策や教育政策を調査研究。故郷・広島県三原市で、(一社)RoFReCを設立し、代表理事に就任。MIHARAプログラミング教育推進協議会の立上げに従事。広島県立三原高等学校非常勤講師。大学や民間企業と連携を図り、ICTやプログラミング等の教育振興による地域づくりに従事。

PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 林 真依

人材サービス系事業会社にて、法人営業、公共事業コンサルティング、新規事業開発に従事後、2017年より現職。一貫して人材政策に携わり、中でも地域中小企業における多様な人材活躍支援、様々なライフイベントを抱える人材へのキャリア形成支援を専門とする。近年では、子どもから大人まで幅広い層への「学び」の場づくりや、カリキュラム開発に取り組む。当該テーマにおける講演・研修実施、有識者委員就任実績複数。

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