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自動車の将来動向:EVが今後の主流になりうるのか 序章・第1章

2019-01-25

序章

自動車業界における電動化や自動運転化が注目される中、それらのテーマに関連する各国政府のアナウンスや各種予測情報の発信が多くなっています。一方で電動車や自動運転車の普及には技術上のハードルが高いため、業界トレンド予測には技術的な裏付けが重要と考えます。本連載では、地球環境改善に向けた各国のCO2削減目標、次世代車両技術の完成度、交通インフラ、顧客ニーズの観点から、モビリティ社会の発展と地球環境維持を両立するためにこれからの自動車および交通システムが進むべき方向について示唆を提供します。なお、本連載は2018年6月に開催した「PwC自動車産業セミナー」の講演内容をまとめたものです。文中および図表の情報は原則、2018年6月時点の情報であり、意見・判断に関する記述は著者の私見です。特に出典表示のない図表については、著者が公表情報をもとに独自に試算・作成したものです。

本連載においてお伝えしたいことは、次の3点です。

  1. CO2削減は待ったなしの環境課題です。COP21パリ協定でのCO2削減目標達成に向け、全セクターは脱化石燃料への転換を検討し行動に移す必要があります。世界のCO2排出量に占める割合は運輸2割、発電4割と大きく、2050年には2013年比で70%以上の削減が必須となります。電力セクターは脱化石燃料化(再生可能エネルギー化)の推進、運輸セクターは脱カーボン燃料への転換と実効のある規制強化、およびその対応が必要になります。

  2. 自動車メーカーには規制・顧客ニーズ双方の要求水準を満たす技術開発が望まれます。また、各種原動機技術の完成度を見極め、従来のエンジン車も存続しつつ、次世代車も取り入れていくというセールスミックスの検討なども望まれます。そのためには以下の対応が必要になります。
    1)多くの人が購入可能な自動車の販売価格の実現
    2)移動体として重要な車両の軽量化(走る、曲がる、止まるという機能に影響)と航続距離の確保
    3)WtW(Well to Wheel)※1、LCA(Life Cycle Assessment)を考慮したトータルCO2排出量の削減
    次世代車の導入は先進国中心で、導入順位はHV、PHV、EV、FCVが現実的と考えられます。新興国ではエンジン車の効率改善や48Vマイルドハイブリッドシステムの拡大展開、石油系燃料からバイオ/水素燃料などへの転換が必要になるでしょう。ただし世界全体がエンジン車から急速にEVに変わっていくEVブームには危うさを感じます。

  3. 自動車業界の130年に一度の大変革期には、慎重かつ大胆に対応する必要があります。
    自動車およびそれを取り巻く関連サービスの拡大により、ビジネスチャンス拡大(CASE※2対応) が予想されますが、Electric(電動化)とAutonomous(自動運転)に関しては慎重な対応が必要になると考えます。
    1)自動車メーカーは製造のみから自動車製造+MaaS(Mobility as a Service)へ
    2)自動車メーカー、テクノロジー企業、スタートアップ三つどもえでの提携・協力が拡大
    3)電動化に対し、部品/デバイスメーカーによるシステム参入が活発化
    4)自動運転は自律型+インフラ協調型での開発と合わせ、道路環境整備が必須


※1: WtW Well to Wheel 油田からタイヤを駆動するまでのCO2排出量

※2: Connected, Autonomous, Shared & Services, Electric

第1章 自動車を取り巻く環境と次世代車の技術完成度(導入優先順位)

自動車を取り巻く環境と対応技術

図表1は、自動車を取り巻く環境と対応技術の俯瞰図です。地球温暖化、エネルギーセキュリティ、大気質という重点課題に対して、低コスト/安全/クリーン/乗って楽しいという自動車において重要な要件を満たしつつも、エネルギーをセーブして自動車のCO₂排出を低減することが重要になります。具体的には、従来の内燃機関車であるSIE(Spark Ignition Engine)車の効率改善、CIE(Compressed Ignition Engine)車のクリーン化や低コスト化とあわせ、次世代車と言われるHV(Hybrid Vehicle)の展開拡大、PHV/RE(Plug in Hybrid Vehicle/Range Extender)の電動技術革新、EV/FCHVの技術大革新(電池エネルギー密度、燃料電池セル出力密度)などが挙げられ、全方位での技術開発が急務となっています。

また、エネルギーに関しては、再生可能エネルギー発電による電力のみならず、電力に比べて貯蔵・輸送が容易な水素に転換して活用することも全産業で必要となります。費用対効果の高い内燃機関車を新興国など向けに存続させるためには、従来のガソリン/軽油という石油系燃料から、天然ガス(ローカーボン)/バイオ燃料(カーボンニュートラル)/水素燃料(カーボンフリー)への転換を図り、CO₂排出量を低減していくことも重要になります。特に水素活用に関しては、今後、液化技術とあわせた大幅なコスト低減の検討が急務となります。これからは、自動車メーカー側が自動車を製造販売し、ユーザーは保有するという形態から、自動車メーカーが自動車を使ったサービスも提供して、ユーザーがそのサービスを利用するMaaS(Mobility as a Service)方向に転換し、コネクテッド、カーシェアリング・ライドシェア、自動運転(自律、協調、道路環境)の検討を進めていくことが求められます。

自動車の大分類

図表2は従来車と次世代車の分類です。左からエンジン車、エンジン+モータ駆動のHV車、モータ駆動のEV/FCV車に大別されます。カリフォルニア州のZEV(Zero Emission Vehicle)規制では、2018年からの規制強化に伴いHEVが対象から除外され、2019年から導入される中国のNEV(New Energy Vehicle)規制においてもHEVは含まれず、認定車はEV/FCV車のみになりました。大都市の大気汚染対策としてやむをえない一方で、EV/FCV車は、移動体として航続距離や重量面での課題が残ります。環境対策とユーザーが購入可能な販売価格の実現を考慮すると、効率改善と脱石油燃料化に対応したエンジン車を継続させた上で、次世代車に関してはHVやPHV主体で拡大展開するのが現実的と考えられます。

次世代車の構造とHV車の分類

図表3は次世代自動車の構造比較です。HV車をベースに、エンジンとガソリンタンクを取ればEV車に、バッテリー搭載量を増やして外部充電機能を追加すればPHV車に、エンジンとガソリンタンクを燃料電池と水素タンクに入れ替えればFCV車になることが分かります。つまり、HV車の開発を進めることがEV車の開発にもつながるということになります。

EV車の開発は簡単だという意見もあります。しかし、自動車開発130年もの歴史の中で、今の自動車の走行性能と機能が確立されています。単にエンジンをモータシステムに入れ替えただけで、EV車が簡単に開発できるとは言いがたいと考えます。現状の電池性能では航続距離や重量面での課題もあることから、EV車の移動体としての完成度は、発展途上の段階とも言えます。

図表4はHV車の分類です。全て200V以上の電源電圧となるためストロングHVと呼び、この中では、シリーズ/パラレルHVの燃費・CO₂削減効果が最も高く、ガソリン車比50%程度です。(シリーズHVはガソリン比40%、パラレルHVは30%)。一方、48Vのマイルドハイブリッドシステムは、エンジンの燃費改善技術の一つで、パラレルハイブリッド技術をベースにしたものです。燃費改善効果はガソリン車比10%程度ですが、費用対効果が比較的高いため、これからのエンジン車の主流システムの一つとなりうると考えられます。

図表4:HV車の分類

エネルギー密度向上のロードマップとEV車電池の実力

図表6は将来のエネルギー密度向上のロードマップです。現在はLiイオン電池をベースに改良を進めていますが、重量当たりのエネルギー密度に着目すると、180Wh/kgから300Wh/kgを大きく上回ることは難しいのが現状です。その限界を超えると期待されるのが2020年以降に登場する全固体Li-S電池であり、現状の3倍以上の500Wh/kgを超えるレベルが期待できるようになります。また、2030年以降に実現すると言われているのがLi空気電池であり、2040年には1,200Wh/kg程度まで向上することが期待されています。ただし、これらの実現には解決すべき課題が多く残っています。

図表7は電池改良に伴う航続距離延長効果です。EV車の電池の実力について、ガソリン車と比較しやすくするために、重量当たりエネルギー密度と航続距離の関係を整理しました。ここでは、電費を改善した場合の予想も示しています。比較対象のガソリン車の航続距離は700km前後で、40Lのタンク容量だと燃料重量は32kgになります。一方で、EV車は32kgのバッテリーで電費を現状の6km/kWhとすると、重量密度は180Wh/kgになり、航続距離はわずか35kmということになります。これがガソリン車並みの重量と等価で考えた場合の電気自動車の実力となります。将来の電池ロードマップの、2030年に900Wh/kg、2040年に1,200Wh/kgという前提で予測しても、航続距離は2030年に172km、2040年でも230kmほどにとどまります。

次世代車の実力

エンジン車含め、現在市販されているHV・PHV・RE・EV・FCVの販売価格、車両重量、航続距離を比較したものが図表8です。HV・PHVはエンジン車に比べ航続距離が長く、次世代車の現実解と考えられます。EVでガソリン車同等の航続距離を確保するために電池搭載量を増やすと、車両重量はガソリン車(車両重量1,100kg、価格200万円)に対して1.6倍、価格は2.8倍程度になります。重量1,500kgでのPHVとEVと比較すると、同重量・同コストながらもEVの航続距離は1/5になります。EVは走行時排気ガスゼロというメリットがあるので、都市部での小型商用車などに限定されていくと考えられます。FCVに関してもコストダウン・軽量化は最重点課題であり、将来的には水素価格低減とセットでの長距離輸送トラック・バスでの活用が有効と考えられます。

図表9はエンジン車と次世代車の各種性能比較・展開難易度を整理したものです。ここでは、エンジン用燃料をガソリンや軽油から天然ガス/バイオ/水素に転換したものも含めています。1,100kgクラスのガソリン車をベースに、CO₂低減率、コスト、重量、航続距離などを総合的に比較することで展開難易度を整理し、優先順位をつけました。その結果、HVが最も優先順位が高く、次にディーゼルエンジン車、バイオ燃料エンジン車、バイオHV、PHVと続きます。EVは航続距離、重量、コストの課題、FCVは重量、コストの課題があり、移動体として活用しづらいと考えられるため、優先順位が低くなっています。

図表9:エンジン車と次世代車の各種性能比較および展開難易度

今後のエンジン車と次世代車の展開に向けた考え方

自動車のCO₂排出低減には、エネルギー多様化に伴うさまざまな技術開発への対応が必要です。また、EV車の電池改良における進展リスクを鑑みると、エンジン車の燃料転換やHV車の導入拡大の優先順位は高いと考えられます。

自動車メーカーとしては、次世代車展開に向けて下記の要素を検討しつつ、可能なことは全て行う全方位の開発(技術開発の積み上げ)が重要となります。

  • 多くの人が購入可能な販売価格の実現
  • 移動体として重要な航続距離の確保
  • 乗って楽しい(軽量)
  • メンテナンスコストの抑制(耐久・信頼性確保)
  • WtW、LCAを考えたトータルCO₂の低減
  • 車のニーズに対応した技術の棲み分け

図表10はエンジン車の導入技術と次世代車の導入優先順位です。

エンジン車に関しては、各種システム改良や燃費改善の補助手段としてのマイルドハイブリッドシステム導入拡大検討と並行して、脱石油化への転換が重要です。次世代車に関しては、HV開発の中で電動システムの改良を進め、そこで培われた改良技術をRE・EV・FCVに展開するという進め方になると考えられます。EV・FCVによるZEV規制/NEV規制への対応は、都市部での大気環境改善ということを考えるとやむをえないと思います。ただし、WtWの重要性(再生可能エネルギーによる発電)はしっかり認識しておく必要があります。

図表10:エンジン車の導入技術と次世代車の導入優先順位

執筆者

藤村 俊夫

顧問, PwC Japan合同会社

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