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自動車の将来動向:EVが今後の主流になりうるのか 第5章

2019-04-02

第5章「自動車の先進技術の俯瞰と内燃機関車の改良技術」

本章で強調したいことは下記の4点です。

  • 車両の開発は全方位で進め「適時・適車」で市場投入する
  • 2030年までにエンジン車の燃費効率の20%向上とカーボンフリー燃料へ早期転換を図る
  • 2030年までにエンジン車へ48Vマイルドハイブリッドシステムを全面展開する
  • 熱マネジメントが今後の自動車のキーを握る

図表1は車両改良技術の全体俯瞰です。技術開発は全方位で進め、エンドユーザーのニーズと環境性能を両立する完成度の高い技術から市場に導入していくことが重要となります(導入の優先順位は第1章参照)。

図表1:車両改良技術の全体俯瞰

良い車の定義とは、「乗って楽しい、便利、安心、適正価格、壊れない、環境に優しい」であり、これらを実現するために、エネルギー、素材を含めたパワートレーン、エネルギーソース、ボディー、シャシーの大幅改良が必要です。

パワートレーンに関しては、エンジン車はエンジン・駆動系の効率改善、EV/FCVはモーター、パワーデバイスの効率改善がポイントです。HV/PHVはこれらをインテグレートし、効率のシステム最大化を狙うことになります。エネルギーソースに関しては、EVはバッテリーのエネルギー密度/出力密度向上、FCVはスタックの出力密度向上がキーとなります。ボディー、シャシーに関しては、従来比で大幅な軽量化、空気抵抗・転がり抵抗の低減がキーとなります。

ここでEV/FCVは重量が重いため、エンジン車、HVなどとのプラットフォームの共通化は容易ではありません。専用設計が必要となり、車両開発効率、原価低減の阻害要因となります。どの車両カテゴリーでEV/FCVを生かすべきかよく考える必要があります。EVは都市内短距離走行のシェアカー/宅配車として低速小型車(LSEV)に、また、FCVは長距離輸送のバス/トラックと一部のラグジュアリー乗用車(ショーファーカー)への適用がそれぞれ現実的です。

今後の販売台数増加に伴い、電動車の比率も増えていくことになりますが、新興国においては価格面も考慮しながらエンジン車を自動車の主体として存続させていくことを考えなくてはいけません(詳細は後述)。

エンジンの効率化に関しては、まだまだ改良の余地は残されており、今後電動車の現実解として拡大するHV/PHVに搭載するエンジンも含め、燃料の多様化(天然ガス、バイオ、水素、GTL<Gas‐to‐Liquids:天然ガスの液化燃料>)とセットで強力に開発を推進する必要があります。

エンジンの改良技術

図表2はエンジン改良技術とその動向です。現行技術の最適化と、ハイブリッドまで見据えたシステム効率の最大化を図っていく中で、エネルギー多様化(脱石油化:天然ガス、バイオ、水素)への積極的な対応を地産地消も考慮しながら行っていく必要があります。

図表2:エンジン改良技術とその動向

図表3は熱効率(燃焼エネルギーのうちエンジン出力に変換された比率)向上の方向性です。ガソリン車の例ですが、現状の熱効率は約41%で、燃焼エネルギーの60%近くは熱損失です。熱損失低減技術と廃熱回収の新技術をインテグレートし、まずは大型舶用ディーゼルエンジン並みの熱効率55%を目指していきます。廃熱を電気変換するペルチェ素子(熱電素子)の研究もこれまで長年進められてきましたが、変換効率が3%程度と低い上、高温での耐久性という問題がありました。近年、多くの研究者の努力により、変換効率が10%以上に改善し、耐久・信頼性も確保されてきたため今後は量産化が期待される技術となりました。この技術を排気された廃熱の電気変換のみならず、エンジン内燃焼室壁の断熱と併せ、吸熱/放熱制御などの先進的な熱マネジメントにも積極的に活用していくなど、エンジン技術者の夢はますます膨らんでいくと思えます。

図表3:エンジンの熱効率改善の方向性

図表4はガソリンエンジンの最大熱効率の動向です。これまで改善率は緩やかでしたが、2010年以降の燃費規制強化に伴い、従来の2倍程度の速度で改善が進みます。今後、図中に示す各種技術改良を織り込むことで、最大熱効率は、2020年に43%、2030年に50%程度まで向上し、燃費改善率として20%を実現します。これらの技術はもちろんHV用の高効率エンジンにも展開していくことになります。またエンジン車においては約10%の燃費改善と発進性改善が期待できる48Vマイルドハイブリッドシステム(MHS)を2030年までに全車に搭載し、トータルで30%の燃費改善を図ることが可能となります。システム構成に関しては、エンジンサイズごとにモーター、PCU(パワーコントロールユニット)のバリエーションを増やすのではなく、共通化により種類を極力抑え、システムコストの低減を図ることは言うまでもありません。その後、2050年に向けてはエンジン全体の熱マネジメントを駆使し、熱効率55%を目指すことになります。

図表4:ガソリンエンジンの最大熱効率の動向

ここでマイルドハイブリッドの定義について少し解説します。欧州メーカーは、MHSを搭載した車両をマイルドハイブリッドビークル(MHV)としてクリーンネスをアピールし、2021年に実施される燃費規制対応の技術として、2017年より導入を急速に進めています。コストパフォーマンスで日本のハイブリッド技術に太刀打ちできないことに対する苦肉の策ですが、あくまでもエンジン性能・燃費改良技術の一つであることをここでは強調しておきます。

図表5はディーゼルエンジンの最大熱効率の動向です。今後、各種技術改良により、最大熱効率は、2020年に47%、2030年に53%程度まで向上し、燃費改善率20%を実現します。ディーゼル車においても、2030年までに全車に48V‐MHSを搭載し、トータルで30%の燃費改善を図り、2050年に向けて熱効率55%以上を目指すことになります。ディーゼルのストロングHV化は効果を出しにくく、さらなるコストアップを伴うため、ブレーキ回生に着目したMHSが現実解と考えます。

また、これまでSI(Spark Ignition)エンジンはガソリンベース、CI(Compressed Ignition)エンジンは軽油ベースで燃焼改良検討を進めてきましたが、今後は燃料多様化に向けた燃焼制御技術(燃焼効率改善、排気成分低減)の確立が重要課題となります。具体的には天然ガス、バイオ、水素との混合気形成方法、噴射システム、点火方式に関する新技術の創出ということになります。

図表5:ディーゼルエンジンの最大熱効率の動向

最後に、今後重要となってくる熱マネジメントのうち、暖房について少し解説します。

エンジン車の燃費、電動車の電費改善の観点で、エンジン/モーターとPCUの効率改善が進めば進むほど、これまで暖房に使っていた熱エネルギーは減少します。そのため今後は、低温始動のエンジン/電動システム(バッテリーを含む)の暖気、車両暖房システムのエネルギー最小化に着目した熱マネジメント効率向上の検討が必要になります。

図表6はReduce、Reuse、Recycleの観点で、システム効率改善および空調性能改善のアプローチについてまとめたものです。ここでは従来のエンジン車と次世代車において、対応すべき項目の概略をまとめています。空調性能、特に暖房に関しては、システム効率向上に伴い、内燃機関車、HV、PHVの順にエンジンからの冷却損失は減少します(エンジン作動頻度の差)。そのため排気(廃棄)エネルギーの熱交換も含めた暖房性能確保が積極的に進められています。一方、EVでは暖房に使える熱が非常に少ないため、暖房においても冷房と同様、ヒートポンプを使用するか、新たなヒーター(熱線方式、セラミックヒーター方式)が必要となります。

図表6:Reduce、Reuse、Recycleの観点での熱マネジメント

ここでWell to Wheel(WtW:燃料の製造から走行段階まで)の観点でEVとエンジン車のエネルギー消費量を考察します(ここでは暖気状態と想定)。

EVのWtWは、石炭⇒火力発電(効率50%)⇒送電⇒バッテリーへ充電⇒放電⇒PCU/モーター⇒車輪駆動の過程で、エンジン車のWtWは、原油⇒ガソリン精製⇒輸送⇒給油⇒エンジン⇒ミッション⇒車輪駆動の過程で、それぞれエネルギー変換され消費されることになります。

図表7は暖気後の1km走行あたり必要なエネルギー消費量(車重1300kgガソリン車ベース)です。WtWでみるとガソリン車は2515kJ、EVは1768kJとガソリン車を30%下回ります(ただしCO₂排出量は、石炭火力の見積もりのためほぼ同等となります。第3章図表6参照)。

図表7:エンジン車、HV、EVにおけるWtWでのエネルギー消費

ここでHVにおけるWtWはガソリン車の50%減となるため、約1258kJのエネルギー消費量となります。EVのWell to Tank(WtT:燃料の製造段階)に関しては、発電所内での電力消費、発電効率、送電効率、充電時の効率、Tank to Wheel(TtW:走行段階)に関してはバッテリーからの放電効率、PCU/モーター効率を考慮しました。

整理すると、WtWでのエネルギー消費量は多い順からエンジン車>EV>HVになります。WtTでのエネルギー消費量はEV>エンジン車>HV(EVでは発電分はTtWにまわる)、TtWでのエネルギー消費量はエンジン車>HV>EVとなります。EVはWtT(電気エネルギー製造時)に燃焼熱を捨てていますが、TtWすなわち車両での熱損失は少ないため、エンジン車のように放出熱を暖房にうまく活用できないことが分かります。寒冷時の走行においてEVの航続距離が著しく低下する(バッテリーヒーターありで25%減、なしでは50%減という結果もあります)現象はこれが理由です。

WLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure:乗用車などの国際調和排出ガス・燃費試験法)においては、今後、空調によるエネルギー損失も燃費/電費に加味されます。その理由はまさに、地球温暖化を阻止するために実効のあるCO₂低減(エネルギー消費量低減)を実現することにあり、今後はエンジン、モーター/PCUの効率アップ、車両重量低減のみならず、空調システムの効率向上も重要となります(国内のメガサプライヤーもすでにその点に着目した開発を進めています)。

現在開発が進むEVはこれまでの自動車の延長上(先進国の考え方)で考えており、航続距離を伸ばすために大量のバッテリーを搭載し、重く、高価なラグジュアリークラスを対象として採算を確保しています。車体が大きいため空調に必要なエネルギーも膨大となり、航続距離減少への影響度も大きくなります(このような理由から、中国の内陸部の寒冷地域ではEV補助金を出していない地方政府もあります)。

このように「EVが今後の主流になりうるのか」というテーマに関して高いハードルがここにも存在するのです。

ただし、先進国のカーメーカーが進めているような中・大型のEVではなく、中国で拡大しつつあるようなLSEVにかじ取りを図れば、インセンティブがなくても採算が取れる上、空調面でも安価なスポット空調などですむ可能性もあります。まさにLSEVがEVの現実解であり、都市部の環境対策と購入可能な価格の両立を図れる上に、シェアカーとしてもジャストフィットすると考えます。

最後に中国におけるLSEVの動向について少し触れておきます。中国では日本の軽自動車と同等か、それよりも小さい2人乗りの超小型EV(LSEV)がEV登録車の50%を占め、未登録のLSEVは登録車の2倍程度販売されるほど人気が高くなっています。特にこのナンバー登録もないようなLSEVは中国内陸地で販売され、安全・品質の劣るものが多いため、政府はより高品質なLSEVの合法化と、低品質なEVの禁止を検討しています。また、2017年の規制案には「LSEVの最高速度は時速40〜70キロ、一定の重量と寸法規定、衝突保護装置とリチウムイオン電池の利用を義務付」を盛り込みました。

中国での自動車の保有台数は世帯当たり0.4台程度(日本は1.1台)です。中国人にとって、航続距離が短く、2人乗り程度でも低価格の車であることが最も重要です。この点は、自動車に対して既成概念(自動車とは4人以上乗車できて、1回のエネルギーチャージでの航続距離も500km以上)がある先進国の考え方と異なるところです。そういう意味で、このLSEVという新しいカテゴリーのEV(電池交換式、航続距離50km程度)が今後中国のモビリティーの一角を担っていく可能性は非常に高いと考えます。

執筆者

藤村 俊夫

顧問, PwC Japan合同会社

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