第2期データヘルス計画中間年度に際し健康保険組合に求められる姿勢

レセプトデータや特定健診データに基づき保険者が医療費の適正化を図る「データヘルス計画」が、厚生労働省主導で2015年度から行われています。このうち大企業のサラリーマンなどが所属する健康保険組合や公務員が加入している共済組合といった保険者の中には、保健事業の実施を最適化・効率化するために事業者と共同で職員・被保険者の健康管理を行う「コラボヘルス」に取り組む例もみられます。

データヘルス計画は2015年度から3年間の第1期を経て、現在は2018年から2023年度までの第2期の中間年度を迎えており、中間評価および計画の見直しが実施されています。
この中間見直しにおいては、従来の個別の保健事業に対する評価とは別に、各保険者の総体としての評価指標を標準化し、これまで以上に健康への取り組みの有効性や妥当性が問われることが明文化されています。メタボリックシンドローム該当者の割合、特定保健指導対象者の割合、特定保健指導対象者の減少率、特定健診の実施率、特定保健指導の実施率などのアウトカムおよび アウトプットが評価指標として定められており、各健康保険組合はより厳しく、客観的に計画の遂行を評価される覚悟が必要になるとも言えるでしょう。

後期高齢者支援金加算・減算制度の中間見直しについて

特定健診や特定保健指導の実施率が低い健保組合には、国に納める後期高齢者支援金にペナルティとして加算分が既に上乗せされています。健保組合の財政難の一つの要因である後期高齢者医療への拠出がさらに重い負担になるということです。このペナルティの基準や加算率は2023年度まで段階的に引き上げられ、最終的には、例えば単一健康保険組合における加算対象は、現在の特定健診受診率57.5%未満から70%未満へと変更される予定です。新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、2021年度(2020年度実績)においては前年の基準が据え置かれることになりましたが、中間見直しの方向性として、今後引き上げが予定されていることに変わりはありません。

一方で、健康づくりに取り組む保険者のインセンティブとなり得る後期高齢者支援金の減算については、より動機付けを加速するための見直し方針が打ち出されています。具体的には、減算対象のボトルネックとなっている評価項目について基準値を緩和する、ゼロイチの評価から連続的な配点・評価に切り替えることで漸新的に改善を促進する、適正服薬の取り組みを評価項目に導入することなどが挙げられています。

後期高齢者支援金を含む拠出金は、2019年度は全国1,338の健康保険組合で総額約3兆4千億円に達しており、これは現行の後期高齢者医療制度導入前の2007年度の約2兆3千億円と比べ1.5倍近くにまで増加しています。また、団塊の世代が75歳に到達しはじめる2022年度には、拠出金は約5千億円という大幅な増加が見込まれています。健康保険組合は、上述の中間見直しを好機と捉え、組合加入者の健康増進・疾患予防への取り組みを早急に強化すべき時期に差し掛かっていると言えます。

共同事業の支援とコラボヘルスの推進

しかしながら、現状、健康保険組合の6割近くが加入者1万人未満の規模となっており、こうした中小規模の健康保険組合は、コストや事業規模の関係から保健事業を十分に行えていないと自認していることが、厚生労働省の調査からも分かっています。特に、民間のヘルスケア事業者の活用は、よりハードルが高い可能性があります。
このような場合、複数の健康保険組合が共通する課題に対して共同で保健事業を実施することによりスケールメリットやシナジー効果を獲得する好例もみられ、場合によっては民間の事業者を含むコンソーシアムが形成されることもあります。こうした取り組みはこれまでも高齢者医療運営円滑化等補助金における「レセプト・健診情報等を活用したデータヘルスの推進事業」としても実施されていましたが、厚生労働省保険局および健康保険組合連合会によりこれらの共同事業のノウハウを広く展開するための手引書が作成され、2021年3月に発刊予定となりました。また、既に運用が開始されている「データヘルス・ポータルサイト」においても、共同事業の情報共有機能が搭載される見込みです。
健康保険組合どうしの共同事業に加え、以前から推進されてきた事業者と保険者の協業、いわゆるコラボヘルスの必要性も健在といえるでしょう。データヘルス計画、およびそれが目指すところの健康寿命の延伸は、企業の健康経営と密接に結びついています。健康保険組合にとっての「将来的な保険給付金および高齢者医療支援金の削減」という課題と、企業にとっての「健康経営」は表裏一体です。現在、コラボヘルスのためのツールとしては、健康保険組合の活動状況や被保険者の健康データを組合単位でまとめた「健康スコアリングレポート」の活用が進んでいますが、2021年度からはさらに事業主単位でのレポートが作成されることになっています。

PwCの取り組み - 「Future Cast」

データヘルス計画への期待は、健康保険組合などの保険者が加入者ごとの個別データを取り扱えるというメリットが反映されたものです。これらのデータに基づく保健事業評価や健康スコアリングレポートのような統計情報は、組織全体の効率化を図る上で非常に重要です。しかしながら、生活習慣病の患者や予備軍に行動変容を真に促すためには、加入者個人の生活様式や健康状態に合わせたアプローチも同時に必要となります。

PwCでは、人体のモデリング・シミュレーション技術「Bodylogical®」の機能を搭載し、下記のような特徴を有するモバイルアプリケーションの開発を行っています。

  • ユーザーの生活環境、身長・体重、睡眠時間、食事、健康診断結果、心拍数などのデータと医学研究に基づき、自動的にユーザーのデジタルツインを生成
    • デジタルツイン上でのシミュレーションにより、現在の健康状況の把握および将来予測
    • 個人の身体情報に基づいた正確で具体的な将来予測
  • 生活スタイルに合わせた健康改善プログラムの提案 
    • 改善プログラム実行時に、健康状態にどの程度の変化が現れるのかデジタルツインにより確認
    • 健康状態の変化の経時的なシミュレーションを実行
  • デジタルツインを介してユーザーは将来をイメージでき、健康改善への意欲が向上する
    • 自分がより健康的になればデジタルツインも健康に

さらに、消費者データおよび人口統計データを用い、機械学習による集団特性の解析により人間の行動パターンを推測する「Behavior Predictor」を開発しました。これは現在、服薬アドヒアランスを左右する要因の分析などに用いられています。

このBehavior PredictorとBodylogical®を組み合わせたソリューション「Future Cast」は、「将来の健康状態の予測」および「行動の定量化」を相補的に実現するソリューションと位置付けられます。すなわち、人間の「身体面」および「心理面」双方のデジタルツインを作り出すものです。これにより、モバイルアプリの利用のみならず、健康保険組合が「健康を促進する行動」についての理解を深める助けとなるダッシュボードの利用も可能となります。

執筆者

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 佐藤 祐樹

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