
【2025年】PwCの眼(5)企業のサステナビリティ対応は統合的アプローチに昇華する
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
2024-03-22
「どんな車が欲しいですか?」これまで自動車メーカーは市場の顧客ニーズを隅々までくみ取り数年後の市場を読みながら開発・製造してきた。しかし米中の新興自動車メーカーはそんなやり方に疑問符を持ち、新たな挑戦をしてきている。「ユーザーがどんな車の使い方をしているかデータを見ればニーズが分かる」彼らは、モデルチェンジを待たずしてタイムリーにニーズを捉え、必要な変更を投入していく。これからの自動車の開発とはどうあるべきか。本稿では従来の自動車開発のやり方に対して、今後取り入れていくべき観点を考察したい。
車の開発企画は「これがないと売れない、こんな機能はいらない」と喧々諤々と議論を数か月繰り返して固まっていく。その理由の1つは、エンジニアとユーザーの距離が遠く、営業やディーラーを介さないとユーザーの声が届かなかったからだ。今日は車両データを見られることがエンジニアにとってお客との距離を縮める大きな武器だ。エアコンの温度設定もシートヒータの必要有無も使われ方を見ればわかる。コネクテッド機能で社内のメインパネルを介して直接アンケートを取ってもよい。
原価企画は企業の利益を担保する上での大事な取り組みだ。売れると思った価格から利益が出る原価の範囲内で開発・生産し、自動車を売り利益を出す。しかし今日では価格がダイナミックに変わってしまう。価格の変化を是として、タイムリーに原価低減に反映していける仕組みが必要となるのではないか。原価低減も効果は開発上流にこれまであったが、ユーザーの使い方がデータで分かる今日、使われていない機能はどんどんそぎ落とすような下流の活動も力を入れていくべきではないか。
開発速度も加速している。これまで開発標準期間は3年程度が一般的で、決められたテストをクリアし開発目標と品質を担保して上市してきた。それに対して新興自動車メーカーは2年程度で車を投入してしまう。企業によっては、標準を作ると人はみなその日程通りに動こうとするため敢えて標準日程は作らず、いちばん早く市場に出せる日程で挑戦してくる。部品やソフトの共通化が注目されがちだが、内製化、試作の速さ、設備メーカーの対応の速さといった点が盲点になっている。今後は試作・量産の「速さ」が大事な指標となり、凝り固まった対応しかできない企業は事業機会を逃すリスクとなる。
とはいえ、新興メーカーのすべてが正しいようには映らない。例えばギガキャストは大規模に設備投資がかかり、アルミ材料も高いため、廉価な鉄板を既存の償却した溶接機で作るほうが割安な場合もありえるだろう。なによりもボディの一部分でありそこまで原価低減に寄与しないであろうし、電池の原価低減の方がずっと効果があるはずだ。
これまで自動車メーカーが培ってきた開発・生産の勝ちパターンを新規参入者は切り崩しにかかっている。彼らのチャレンジは玉石混合であろうが、タイムリーに顧客のニーズをつかみ、いち早く市場に投入していく姿はあるべき姿に映る。彼らから謙虚に学び、大胆に変えるべきところは変える、強みとして慎重に残すところは残す姿勢こそ今の日本企業に求められるのではないだろうか。
※本稿は、日刊自動車新聞2024年2月26日付掲載のコラムを転載したものです。
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