
【2025年】PwCの眼(5)企業のサステナビリティ対応は統合的アプローチに昇華する
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
従来、車の価値はハードウェアによって決まっていたが、今後はソフトウェアが主要な価値の源となるスマートフォン革命に似た変革を迎えようとしていると考えられる。
SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)への移行によって、より高度なサービスが提供されることになるが、同時にソフトウェアの複雑さとサイバー攻撃への脆弱性が増すことになる。
車両の場合は遠隔操作されると死亡事故に至るケースも考えられることや、ドライバーの個人情報や移動情報・会話情報など、盗まれる対象となる情報は多岐にわたるため、このような情報を守るための法規制の拡充・増加に継続的に順応していくことが求められる。
現在、車載ソフトウェアの規制枠組みは国連欧州経済委員会の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)によって、サイバーセキュリティ(UNR-155)とソフトウェアアップデート(UNR-156)を柱として策定されている。
しかし、当該基準には具体的な指示が示されていないため、自動車メーカーはこれらのガイドラインを慎重に解釈し、関係者と組織的な連携を図りながら対応を実施する必要がある。
また、今後は技術革新が非常に短い間隔で起き、それに伴い次々と法規制が追加されていくケースが考えられ、企業は新しい技術の使用・利用にあたって計画的に対応していくことが求められる。
法規制への対応は、「複雑化」「高度化」「高速化」という観点から困難が伴う。
「複雑化」として、国ごとの異なる規制や、相互承認制度の限界、情報保護法の違いなどがあり、法規制への対応部門が多岐にわたるため、企業内での統括管理をしなければならない難しさがある。
「高度化」として、市場に出た自動車が走っている間は問題ない状態に保つことも、自動車メーカー側の責任となるため、今後どういう形でいつまでアップデートを続けていくのかといった点にも難しさがある。また、自動車メーカーがユーザーの個人情報や走行情報などを収集する必要性が出てくるが、こうした情報の適切な運用管理についても、高度な対応が求められる。
「高速化」として、SDVの機能増加に伴いソフトウェアも増加することになり、それは自動車メーカーが短期間での開発を求められることに繋がる。個々のソフトウェアの品質を保った上で、不正なソフトウェアの侵入リスクに対する管理の高度化も必要となる。
今後、ますます複雑化する法制度に対する備えとして、常にアンテナを広げて積極的に法規制をモニタリングしながら、それに対して自社製品が適合できているのかなど、自己点検や自己評価を行い、即座に対応できるように必要なプロセスや実効性を備えた管理ルールづくりや仕組みづくりをすることが重要である。
SDVのソフトウェアにおける欠陥は、人命に関わる重大事故に繋がる恐れがあることを自動車メーカーはしっかりと認識し、社会の求める水準の一歩先の対策を打てる態勢を作ることが必要となる。
また、これからのSDVは非常に多くのソフトウェアを搭載した部品で構成されるため、サプライヤーとの連携を強化しながらの構成部品の管理が求められる。
これには、ALM(アプリケーションライフサイクル管理)やその構成要素の一つであるSBOM(ソフトウェア部品表)を導入した仕組みづくりや組織体制づくりを行い、法制度の高度化や高速化に備えていくことが重要になるだろう。
※本稿は、日刊自動車新聞2025年3月24日付掲載のコラムを転載したものです。
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※法人名、役職などは掲載当時のものです。
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
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