
【2025年】PwCの眼(5)企業のサステナビリティ対応は統合的アプローチに昇華する
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
PBR(株価純資産倍率)で測った日本の上場企業の株主価値が諸外国と比べて見劣りしている。このような背景をもとに、東京証券取引所は2023年3月末に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を公表して上場企業に株価向上への対応を促したものの、その2年後の2025年3月末のPBRを見ても大きな改善があるとは言えない状況である。
PBRはROE(自己資本利益率)とPER(株価収益率)の積で表現できるため、PBR向上のためにはROEまたはPERいずれかの改善が必要となる。このうち、ROEについては課題がありながらも多くの企業がその改善に取り組んでいる。一方、PERについては、市場で決まるためコントロール不能と考える企業も多く十分な取り組みがされていない状況である。
このような中、ROEは高いものの、PERが低迷しているために、PBRが伸び悩んでいるケースをよく見かける。実は、この状況は、自動車メーカーを含む輸送用機器業種(東証33業種分類)の上場企業に平均的に当てはまり、特に業種内でも時価総額が大きい大規模企業にその傾向が強い。このような場合、PBR改善のためには、PER向上への対応も必要となる。
PERは、配当割引モデルのもとで、1/(資本コスト-期待成長率)で表現できる。期待成長率と資本コストは、企業の将来の事業の成長やリスクに係る市場(投資家)の長期的な見通し(期待)を反映しているため、PERが低いということは、これら指標に反映される投資家の期待が低いということになる。従したがって、PERの改善を企業側で能動的に行うには、投資家が企業のどのような活動や成果に注目して事業リスクや成長に係る期待形成を行っているか、すなわち、「投資家視点」を理解することが対応への第一歩となる。
投資家視点を理解するためには、第一に、投資家との直接的な対話の頻度を高めることが考えられる。個々の投資家の投資スタイルやテーマは個別性が大きいことから、投資家視点を俯瞰的に把握するためには、多数かつ多様な投資家と対話して情報収集・分析を行う必要がある。
第二に、投資家との直接対話を補完してより効率的に投資家視点を把握する方法として「データ分析」の活用が挙げられる。機関投資家は投資先選定やポートフォリオ構築を効率的に行うために企業財務・非財務・市場データを用いた統計分析を活用している。従したがって、投資家が使用しているものと同様のデータと分析手法を活用できれば、投資家が価格付けの上で重視している企業の特性を資本コストや期待成長率の推定を通じて定量的に把握することができる。
その上うえで、競合他社などとの横比較を通じて投資家視点から自社の「弱み(経営課題)」を把握するのである。他社との横比較が必要となるのは、投資家の期待形成がその投資ユニバース(投資対象企業群)内での「相対評価」を基本としているからだ。投資家視点で把握した自社の経営課題について適切な改善措置を講じた上うえで、法定・任意開示や直接的な対話を通じて投資家と同じ目線に立ったコミュニケーションができれば、投資家の期待形成に働きかけてPERを能動的に改善できる可能性が高まる。
※本稿は、日刊自動車新聞2025年4月14日付掲載のコラムを転載したものです。
※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
PER(株価収益率)の改善を企業側で能動的に行うには、投資家が企業のどのような活動や成果に注目して事業リスクや成長に係る期待形成を行っているかの「投資家視点」を理解することが対応への第一歩となります。 投資家視点を理解するための情報収集・分析のススメについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年4月14日 寄稿)
車の価値がハードウェアからSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)へ移行したことによって、高度なサービスが提供されると同時にソフトウェアの複雑さとサイバー攻撃への脆弱性が増すことになります。これからは、情報を守るための仕組みや組織体制づくりを行い、法制度の高度化や高速化に備えていくことが重要となってきます。(日刊自動車新聞 2025年3月24日 寄稿)
日本の半導体産業は現在、半導体製造装置や部素材が競争力を保っており、自動運転用途では海外製の先端半導体が多く採用されています。運転支援システムや自動運転システムで重要な役割を果たす先端半導体の今後について解説します。(日刊自動車新聞 2025年2月17日 寄稿)
日立製作所のリーダ主任研究員 長野岳彦氏と主任技師 大石晴樹氏、PwCコンサルティングのシニアマネージャー佐藤 涼太が、設計開発領域の変革に取り組む理由、変革ポイント、活動推進における課題について議論しました。
近年、自動車業界においてもAI技術の革新が進んでいます。 新たな安全規格となるISO/PAS 8800の文書構成や既存の安全規格(ISO 26262, ISO 21448)との関連性について概要を整理するとともに、AI安全管理およびAIシステムの保証論証について紹介し、AIシステム開発における課題について考察します。
京都大学の塩路昌宏名誉教授と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、水素小型モビリティ・エンジン研究組合(HySE)の担当者をお招きし、産官学連携での水素エンジンの研究開発の重要性と、具体的な課題について議論しました。
京都大学の塩路昌宏名誉教授と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、水素小型モビリティ・エンジン研究組合(HySE)の担当者をお招きし、水素社会実現に向けた内燃機関やマルチパスウェイの重要性について議論しました。