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消費財・小売・流通セクター対談 第5回:J.フロント リテイリングCFO 若林 氏に訊く(前編)「ビジネスパートナーとしてのCFOの役割とは」

2019-07-23

大丸松坂屋百貨店やパルコなどを傘下に有し、GINZA SIXなど「脱・百貨店」のビジネスモデルにも果敢に取り組むJ.フロント リテイリング。同社は百貨店業界において、いち早く小売業の枠を超えた事業構造の変革を進めている。財務面での指揮を執るのは、社長の右腕であるCFOの若林 勇人 氏。同氏にCFOの役割や、IFRS(国際財務報告基準)、店舗別B/S(バランスシート)導入で大きく変わった現場の意識について話を聞いた。

(左から)田所 健、若林 勇人氏

対談者

若林 勇人

J.フロント リテイリング株式会社 執行役常務 財務戦略統括部長兼資金・財務政策部長(写真右)

1961年生まれ。85年、松下電器産業(現パナソニック)に入社。2013年、同社コーポレート戦略本部財務・IRグループゼネラルマネージャー兼財務戦略チームリーダー(理事)就任。2015年5月、J.フロント リテイリングへ入社し、業務統括部付財務政策担当。同年9月、同社執行役員業務統括部財務戦略・政策担当。18年より現職。

田所 健

PwCあらた有限責任監査法人 パートナー(写真左)

1991年、青山監査法人入社。2000年、中央監査法人との合併により中央青山監査法人へ。06年あらた監査法人設立と同時に移籍、現在に至る。監査業務の他、IFRS(国際財務報告基準)導入アドバイザリー業務をはじめとした会計アドバイザリー業務、会計領域全般における業務改善に関与。

小売の枠を超える「マルチサービスリテイラー戦略」

田所 「脱・百貨店」をうたわれている御社に伺うのも恐縮ですが、現在、百貨店業界を取り巻く状況をどうご覧になりますか?

若林 日本百貨店業界調べでは、2018年度の全国百貨店売上高は約5兆9,000億円です。1991年の約9兆7,130億円をピークに減少している流れは、大きく変わっていませんが、ただ2017年度は前年度比プラスでしたので、2年ぶりに前年度実績を割り込んだという状況です。

田所 プラスだった年は、インバウンド消費が影響したのですか?

若林 そうですね。2015年くらいは、中国人観光客の「爆買い」が大きな話題になりました。2018年もインバウンドは好調で、購買客数は524万人と、前年比28.6%増。免税売上高も3,396億円と、25.8%増えています。いずれも過去最高の数字です。

田所 インバウンド消費は下火になったとも言われていますが、今も影響は大きいのですね。国内市場では、地域差は大きいのですか?

若林 名古屋や大阪、東京などの10都市では、2年連続で売り上げが伸びています。一方、それ以外の地方では、前年からのマイナス幅が拡大しています。一言で言えば、地方店が厳しい状況です。なぜ地方店がこれほど厳しくなったかと言うと、人口が減っていること、地域の中心市街地の空洞化、そして、前回の消費増税ですね。消費増税以降、消費の低迷が顕著になっています。また、地方にショッピングモールが続々進出している状況や、電子商取引(EC)の広がりなども挙げられるでしょう。

商品別では、化粧品は引き続き好調で前年比9.5%増です。また美術・宝飾・貴金属も3.3%伸びて堅調です。逆に状況が厳しいのは衣料品(前年比-3.1%)や食料品(前年比-1.9%)です。衣料品はECとの競争が、食料品は近年、「駅ナカ」との競争が激しくなっている結果だとわれわれは分析しています。

J.フロント リテイリング株式会社 若林 勇人氏

PwCあらた有限責任監査法人 パートナー 田所 健

田所 厳しい状況が続く百貨店業界において、御社では「マルチサービスリテイラー戦略」を打ち出し、小売業の枠を超えた事業領域の拡大に取り組まれています。

若林 現状は、まだ売り上げの約6割を百貨店事業が占めていますが、5割以下にするのが目標です。といっても、百貨店を縮小する意味ではなく、他の事業が伸びる結果、全体的にその割合にしたいということです。百貨店業界の将来の見通しは決して楽観できるものではありません。だからこそ、各社が今後取るであろう差別化戦略が大きなポイントになります。リスクシナリオとしては、5年くらいのうちにもう1回、再編統合が起きてもおかしくない状況だと見ています。ただ、そのような状況になったとしても、当社がそれをリードする役割になるために、現在、さまざまな施策を考えています。

田所 新規事業としては、幼児保育事業に参入されました。参入された理由を教えてください。

若林 財務の立場から事業ポートフォリオを考えると、いろいろな事業を持って互いに補完できるようにバランスよく動くことが必要です。そういう意味では、百貨店事業は景気の変動に左右されやすい。富裕層のお客さまは株式相場の動向をとても気にされますし、インバウンドのお客さまは為替相場をよく見ていらっしゃる。そうなると、当社が持つべき新しい事業は、景気感応度がそれほど高くない事業になります。教育やエネルギー関連、決済を中心とした金融などですね。その中で教育事業は、当社のそもそものターゲットである富裕層と重なるわけです。では、富裕層の方々をターゲットとした教育事業とは何か?いろいろ検討した結果出てきたのが、いわゆるバイリンガル幼児園でした。2019年4月に開園し、英語教育、知能教育、運動教育の3つを柱としたカリキュラムを子どもたちに提供しています。正直、月謝は通常よりかなり高いものです。

百貨店事業でもボリュームゾーンは大事ですが、価格競争に巻き込まれがちでもあります。だからこそ、別のところに重点を置いて取り組んでいくべきじゃないかと思うんです。

田所 景気感応度が低い新規事業として、クレジット金融事業に力を入れていらっしゃいます。来年度を目標に新カードを発行する計画があるそうですが、全ては「顧客データベースの統合」につなげていかれるわけですよね?

若林 お客さまの志向を認識できるようなデータベースをグループ共通で持つことがとても大事ですね。短期的には投資が先行し、収益を望めませんが、先行投資ですね。

「CFO=社長のビジネスパートナー」としての挑戦

田所 CFOというお立場から、事業ポートフォリオの変革に対してどのように考えていらっしゃいますか?

若林 僕の持論としては、ホールディングスの下にマックス5つまでしか事業をぶら下げてはいけないかなと考えています。1つひとつが最低営業利益50億円、理想では100億円。そのセグメント別に、使う資本も資産も違いますから、目指すべき経営指標も投資判断の基準も異なるべきです。

当社は今、“くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。”というグループビジョンを立ち上げて、それに向かって議論を重ねているのですが、小売流通業が「発明する」という言葉を使うこと自体なかなかないですよね。僕の製造業の経験からすると、発明する人は信念と執念を持って取り組んでいる。社内に対してはその部分を意識して取り組んでほしいというメッセージであり、社外に対しては、マルチサービスでいろいろなご期待に応えるというメッセージになっている。素晴らしいグループビジョンだなと僕は思います。

田所 事業ポートフォリオを変えていく中で、財務の中でも新しい「発明」は出せていけそうですか?

若林 なかなか出しにくい部分ではあります。僕が1つヒントとして出したのは、財務人財を計画的に育てていくような制度を、社内的にオーソライズしてもらうことが必要じゃないかということでした。財務って、気前よく「はいはい」って言っているだけじゃダメなんですよ。「社長、申し訳ありませんが、今おっしゃっていることはちょっと違うと思います」って言えないといけないと僕は思っているんです。でも、社長からの一方通行の評価制度だと言いづらい場面もあるじゃないですか。だから、社長からの評価の他、事業会社の財務責任者に対しては、ホールディングスの財務としての評価もする財務人財制度をつくりました。財務の視点で見て、きちんと仕事ができているのであれば、社長からのラインの評価が悪くても、僕が守るからと。

実は、当社では“くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。”というビジョン実現に向けた具体的なアクションへのアイデアを出してもらう「チャレンジカード」という制度があり、皆にそれを利用してもらっています。僕も言い出しっぺの1人だったので、きっちり経営層に意図を説明し、昨年から制度化してもらいました。

田所 財務系人財の評価は、点数化しにくい部分がありますよね。

若林 今までの発想からすると、管理部門って利益を生まないものですからね。だから、できるだけ小さい組織にしておくべきだとされてきました。しかし、新しく事業ポートフォリオを変えていくとなったら、従来と同じ考え方や頭数だけではやりきれないところが出てきます。一時的にコストアップになっても将来を考えたらやるべきだと、社長を含めて人事部門などとも話し、考え方を変えてもらってきているところです。

田所 最近、日本でも「CFOとは、どうあるべきか」という議論が盛んで、その中で、「CFOは社長のビジネスパートナー」と言われることがあります。日本では、経理や財務から上がって来た人がCFOのような肩書を名乗るケースがまだ多いですが、実はそうじゃない。お話を伺っていて、若林さんのような人こそビジネスパートナーなのだろうと感じました。

若林 まさに社長の右腕でないといけないんだと思いますね。僕の「マジックナンバー」は3で、何かを決める時にも3つ考えるようにしているんです。例えば、「この課題は何か」と聞かれたら、「課題は3つあります」と答えてから、一生懸命考えるわけです。その対応策も3つ、判断シナリオもベスト、スタンダード、ワーストの3つ。3つずつを考えます。今のお話で言うと、ビジネスパートナーも3つなんだと思います。「人事」と「企画」、そして「財務」。この3点で社長をサポートするのが理想形でしょうね。

財務の人が集まるセミナーに出ると、僕は憎まれ口をたたくんです。「日本の企業にCFOはいないと言われています」と。僕も、ずっとそう言われてきました。なぜCFOがいないのかと言うと、日本の企業には経営企画という組織があるからではないでしょうか。欧米には経営企画ってないんです。投資だとかM&A、企画機能も、財務やCFOと呼ばれる人たちがやっています。日本企業のように経営企画がやっても、役割分担できていればいいことで、1人でやる以上のパフォーマンスを出せればそれでいいんだと思いますね。

僕はホールディングスの役割は、経営資源の配分だと思っています。経営資源の配分といったら、究極は「人」と「お金」ですよね。各事業会社の責任者が、どんな事業戦略をやるのか、いかにプランを立ててそれを実行していくかという中で、それがちょっと違っていたり、うまくいってなかったりとなったら、まずは人を変えます。それでも変わらなかったら、資金を引き上げます。再配分できる「人」と「お金」の担当役員が、そういう形できちんと社長をサポートしなくてはいけません。そして、その事業戦略をとりまとめていくのが経営企画じゃないでしょうか。

(後編に続く)

J.フロント リテイリング株式会社 若林 勇人氏

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