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前回の連載コラム第4弾では、自治体のIT・DX専門人材不足が大きな課題であることを明らかにしました。多くの自治体が労働力不足と急速なデジタル化の双方に対応しなければ、行政サービスの質向上はおろか維持も困難な状況です。そこで、技術力と実践力を持つ専門人材の育成と確保が鍵になります。一方、彼らは民間企業が求める人材像にも合致することから、既存慣習の範囲で対応することは難しく、前提から捉え直すことが求められます。
第5弾となる今回は、自治体が競争力を確保するための人事方針について示します。具体的には、専門人材の育成サイクル、部門および個人スキルの可視化、管理職の育成計画、そして民間との競争に負けない魅力づくりについて解説します。
自治体が専門人材を効果的に育成するためには、長期的なビジョンが欠かせません。
具体的には、部門のスキル要件と個人スキルを可視化し、配属先での育成期間の精査、配属中の育成計画策定、管理職育成プラン策定、個人の不足スキルを学ぶ機会のある部門への異動が必要です(図表1)。
一連のプロセスを通し、職員一人ひとりがキャリアパスを描き、給与・働きやすさ・やりがいで民間企業に負けない魅力的な職場づくりを目指します。
各ステップについて解説します。
部門でどのようなスキルが必要か、皆さんは明確に説明できるでしょうか。部門スキルを定義する際、システムサイクル(調達・開発・運用・保守)と現行運用知識、プロジェクトマネジメントスキル、ビジネススキルで区切ると、現在の業務起点ではなくスキル起点で考えることができ効果的です(図表2)。
これにより、部門に必要なスキル・人数を可視化します。
図表2:システムサイクルに基づいた部門スキルの定義・可視化
部門が求めるスキルと照合するためには、個人スキルと志向の可視化が必要です。
これまでの業務経験を通じて獲得したプロジェクトマネジメントや交渉力などのビジネススキル、職員の志向や希望する分野を可視化することが、配属における適性を検討する際の材料として欠かせません(図表3)。(なお、プロジェクトマネジメントスキルやビジネススキルを明確に定義し、比較可能な状態にすることは難しいのが実情です。この点は、各自治体の人材育成方針に沿った形に変更することが望ましいです。)
自治体のデジタル領域では事業者と対峙することが多く、複数の庁内調整を並行して進めることが求められます。そうした能力が人材育成方針に含まれているかを確認することも重要です。
図表3:職員の個人スキル・志向の可視化
部門のスキル要件と現行職員のスキル、異動サイクルを踏まえ、職員の育成期間と後任者の育成期間を定義します。育成計画を軸に、繁閑を正確に把握し、全体最適を検討できるよう人事部門への要望を整理することも有効です(図表4)。
図表4:システムサイクルと部門の求めるスキル・個人スキル・人事要望を踏まえた育成精査
部門が持続的に業務遂行できる状態を可視化した後、部門にいる人材の育成密度をさらに上げることが求められます。そこで、OJTとOff-JTのバランスを考慮した育成計画を作成します(図表5)。特に、調達時に事業者に求めるスキルと同程度のスキルを持っていることが重要です。そのためには、外部研修や資格取得が必要となることも予想されます。部門の繁閑を踏まえた育成計画により、職員が最新の技術動向を把握し迅速に業務へと適用できる力を養います。
図表5:部門の繁閑を見据えた育成計画と予算編成
上述の内容を現場で実現することは大きな困難を伴います。その際に、判断軸となる中長期的な管理職育成プランが必要となります。また、専門人材の管理職は、全行程に対応可能な多様なスキルを持つことが求められます。そのため、組織全体で専門人材の管理職を育成するための具体的な認識合わせを進め、計画的な異動を行うことが必要です(図表6)。対象者は配属先で新たなテーマやアプローチと向き合い、厳しい鍛錬を積むこととなります。そうした「先のキャリアパス」を示すことで、小さくないインセンティブになると考えます。
また、昨今では管理職を希望しない方も増えています。個々の志向と合わせて計画を見直すとともに、
専門人材の管理職を育成する必要があります。
図表6:管理職育成計画
給与、働きやすさ、やりがいの3つの観点から、職場を改善することが必要です。
もしも、デジタル職の給与を大手SIerと遜色ない水準にまで引き上げることができたら、非常に高い競争力になるでしょう。
また、明確なキャリアパスだけでなく多様な働き方を可能にする環境を整えることで、職員が安心して長期的に働ける体制を築くことにつながり、これにより民間企業並みの競争力を得ることができます。
上記2点は理想的な条件であり、調整し続けてもらいたいです。一方、自治体で実現することは相応に難易度が高いのが実態です。
そうした実情を踏まえ、3点目の「やりがい」では絶対に引けを取らないようにすることが重要です。DXは自治体住民から直接的に感謝される機会が少なく、実感を得にくい場面も多くあります。そのため、住民から感謝の声が届くような施策が重要です。例えば、自治体主催のコンクールや補助金・交付金の申請条件としてDXを行う自治体への感想提供を求めるなど、広く住民から声が届く仕組みが考えられます。こうしたやりがいは民間企業で経験することが難しく、流出防止に欠かせない施策です。
これまでの内容を実現することで、専門人材を育成し、やりがいある職場づくりを進めることができます。しかし、職種を分けることをしない限り、自治体の人事異動から逃れることはできません。一部の自治体で試みが始まっているように、デジタル職の新設は有用なアプローチです(図表7)。採用時から区分を分け、素養と志向のある職員を核として育成し、デジタル領域にとどめることが最も早い人材サイクルの整理になると考えます。
デジタル職で採用し、育成する過程で自治体の他部門や民間企業との人材交流を行うことも有効です。多様な視点を持ち、柔軟に自治体DXを捉える人材が、自治体経営には欠かせません。
図表7:デジタル職の新設
本連載では、自治体におけるIT・DX専門人材の確保・育成・定着の重要性を再確認し、持続可能な自治体DXを実現するための戦略を深掘りしました。自治体が住民に高品質な行政サービスを提供し続けるために克服すべき、避けては通れないシナリオです。
第4弾では、現代の自治体がなぜIT・DX専門人材の確保・育成・定着に取り組む必要があるのか、その背景を掘り下げました。多くの自治体が直面している課題を明らかにし、特に専門人材不足が自治体経営のリスクになること、民間企業との人材獲得競争が激化する中、専門人材の育成・維持が重要であることを示しました。
第5弾で紹介した持続可能な成長に向けた人材育成戦略では、専門人材の育成サイクルの構築、部門と個人スキルの可視化、管理職の育成、および民間企業との競争に負けない魅力づくりを中心に具体的なアプローチを示しました。
自治体は、時代の変化に対応し続けるために、新しいアプローチと柔軟な心構えが不可欠です。本コラムで提案した戦略とビジョンが、自治体が未来に向けた一歩を踏み出す支援となることを願っています。
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