コラムシリーズ 自治体経営の未来を考える

第四弾 なぜ今、自治体のIT・DX専門人材の確保・育成・定着を考える必要があるのか?

  • 2025-06-13

労働力不足と急速なデジタル化による二つの波

自治体は労働力不足とデジタル化の進展の波を受け、改革が求められています。これらは日常業務の効率化や住民サービスの向上が期待できる一方、実現は容易ではありません。
特に、専門人材の不足は喫緊の課題であり、自治体の改革スピードを上げる足かせとなっています。

ガバメントクラウドの構築や業務標準化、教育環境改革に向けたGIGAスクール構想など、自治体が迫られるDXテーマは複数存在します。
しかし、予算制約や専門人材不足から、うまく取り込むことが難しいのが現実です。さらに、民間企業の賃上げや働き方改革が進む中、システム関連予算は上昇傾向にあり、取り込みたいが踏み切れない、取り込みたいが予算向上の説明がつかない、といった場面も増加しています。

IT・DX専門人材の不足・流出とその影響

増加傾向にある予算相場を踏まえ落としどころを持って整理するためには、時流を踏まえた自治体のあり方を考え、発注者として決断材料を定義し、技術的な事象を民間企業と対等に話し合い双方が合意できる領域に着地させる、技術力と実践経験を持つ専門人材が欠かせません(図表1)。

図表1:自治体における理想的なDX専門人材像

一方、そうした人材は市場でも稀であり、民間企業が求める人材像とも合致していることから競争性は高くなります。給与水準やリモート勤務などの労働環境に幅を持たせることができない自治体は、人材の確保が一層困難になる可能性があります。
つまり、民間企業との人材獲得競争に打ち勝つか、求める人材像を育成しなければ事態を好転させることはできません。

このような状況を踏まえ、人材育成に着手するのが定石ですが、ここで一つ自治体特有の課題に直面します。それは、異動制度の存在です。
多くの自治体でDXの専門人材を特別区分として整理せず、一般の行政職と同等に扱っていることから、育てた人材を特定の部門に置き続けることが困難な状況です。
庁内調整の中で、異動先部門を制限することはあるものの、長期にわたる異動先の制限は現実的ではありません。また、デジタル領域の専門人材はITプロジェクトの企画・計画から、設計・開発・運用・保守までを一巡することが求められ、育成には、最低でも5年程度の時間を要します。
さらに、民間企業の求める人材像とも近しいことから、育成した人材が民間企業に転職してしまう可能性もあります。地域への貢献を主とする独自の職域となっていた自治体も、民間企業との人材獲得競争にさらされているのが実態です。
この流れを止めなければ、自治体DXが進まず、自治体経営の基盤が揺らぎ、持続可能な成長はおろか衰退あるいは存続の危機にまで陥る可能性があります。

IT専門人材の位置付け再考の必要性

そうした事態を踏まえ、自治体内におけるIT専門人材の位置付けを根本から再考する必要があります。多くの自治体がDXに関する人材育成方針を持つものの、具体的な実行は現場に委ね、実行力が弱いことも見受けられます。また、民間企業との人材獲得競争を見据えた際、専門人材の異動制約・待遇改善を選択肢に含めることも求められます。外部人材登用や兼業副業人材の活用も一時的には有用ですが、長期的な視点で考えると、待遇改善による人材確保は避けることのできない打ち手と言えます。

人材育成と継続的学習の必要性

デジタル化の波に対応するためには、全ての自治体職員に継続的な学習を通したスキルアップが求められます。
デジタル化の急速な発展は、実生活のレベルで進むことから、時間の経過とともにデジタルに関する柔軟性や興味の向上は進みます。一方、そうした状況だけでは専門人材は育ちません。
職員の機会平等性の観点から、外部研修への参加予算が個別部門で獲得しにくいなど、横並びを重視するが故に機動的な育成予算の確保が難しい現状も見られます。そのため、従来の業務研修に加え、DX基礎人材とDX専門人材を区切り、DX専門人材にはデジタル・IT領域の基礎知識やシステム事業者と対峙するためのビジネススキルを向上させる研修の充実が重要です(図表2)。

図表2:DX人材育成方針イメージ

まとめ

自治体DXには専門人材が不可欠です。専門人材の不足は、自治体DXの遅延だけでなく、遅延による職場の魅力低下、事業者の意見に対し検討が浅くなり結果的に総予算が拡大する事態につながります。こうした状況は、全国の自治体で同時発生するだけでなく、民間企業も欲しい人材です。専門人材の育成・確保を進めるためには、人事方針や待遇の変更も求められます。
次回のコラムでは、これらの問題に対する具体的な解決策と仮説を提示し、自治体がどのように改革を進めていくべきかを検討します。

主要メンバー

林 泰弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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谷井 宏尚

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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犬飼 健一朗

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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亀井 裕平

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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