消費財・小売・流通セクター対談 第1回:ファクトリエ 山田代表に訊く、「コト消費時代の小売業(前編)」

2018-12-03

第1回 忘れられたままの「顧客への価値提供」

業界全体が低迷する中、百貨店やアパレル各社は変革の真只中にある。EC化の進展とその対応、顧客との関係構築、生産・流通コストの削減、在庫リスクの低減など課題が山積みだ。そんな中、「ファクトリエ」は日本の工場とともにメイド・イン・ジャパンの衣料品を作り、適正価格で消費者に提供する前例のない革新的なビジネスモデルで、日本のものづくりの活性化に取り組んでいる。ファクトリエの山田敏夫代表とPwCパートナーの小山徹が、日本の小売の現状と未来について語り合う。

小山 徹(写真右)、山田 敏夫(写真左)

対談者

山田 敏夫

ライフスタイルアクセント株式会社 代表取締役(写真右)

ファクトリエ 代表

1982年熊本県出身。実家は創業100年以上の老舗婦人服店。大学在学中、フランスへ留学し、グッチ・パリ店に勤務し、一流のものづくり、商品へのこだわり・プロ意識を学ぶ。2012年に工場直結ジャパンブランド「ファクトリエ」を展開するライフスタイルアクセント株式会社を設立。年間100カ所以上のものづくりの現場を訪れる。

小山 徹

PwC Japanグループ 流通セクター統括(写真左)

PwC Japan合同会社 パートナー

グローバルIT企業、事業会社を経て、旧プライスウォーターハウスへ入社。16年にわたり主にヘルスケア、流通業界を担当し、業務改善/改革からシステム導入/グローバル展開、企業統合などの戦略案件を含む数多くのプロジェクトに従事。その後、大手流通会社役員兼システム子会社代表取締役、IT部門長を経て2017年よりPwC Japanグループの流通セクター統括に着任。

顧客提供価値の明確化が最重要

小山 アパレル業界が低迷する中、現在、百貨店からファストファッションまでの各社がオムニチャネル戦略に本格的に取り組むケースが増えています。一方、山田さんが経営する「ファクトリエ」は、高い技術や製法にこだわったメイド・イン・ジャパンの服づくりが特徴で、これはある意味、SPA(製造型小売業)で製品の全責任を担っていると言えます。その立場から、現在のアパレル業界のECへの取り組みをどう見ていらっしゃいますか?

小山 徹

山田 今の時代はステレオタイプが成立しない時代。さらに今後、消費の中心世代がミレニアルからヤンガーミレニアルに下がっていくと、個人の価値観はさらに多様化します。その“最大公約数”を取ろうとするのが大手のEコマースのようなサービスだと考えています。

僕の実家は熊本で婦人服店を営んでいるのですが、ホームページもブログも持たないし、SNSもしていません。中間流通もたくさん入っている。そんな街のブティックで商売が成立しているわけです。オムニチャネル戦略が有効なのは、大手Eコマースのように、ある程度合理化したサービスが提供できる会社ではないでしょうか。残りのマーケットを競う企業にとっては、実はECよりも、その企業やブランドが「何を価値として提供するか」が大事であり、それをスケールするためにECを活用するかどうかだと考えています。

小山 ご実家のように、100年以上も商売を続けているお店は、そこにいる顧客に対して「価値」があるから存続できている。

山田 そうなんです。彼らは「価値」を発揮している。販売力や接客力やコミュニケーション力など何かで顧客をグリップしているわけです。

小山 つまり、顧客とつながっているからこそ残れるわけですよね。本来、小売業ってMD(マーチャンダイジング)がすべてで、素晴らしい商品があり、その市場を作って顧客とつながっていた。でもインターネットの時代が来たら、その関係性の数を拡大したいと考えるようになった。ただ、それが顧客にとってどれだけメリットがあるのか、難しいところもあると思います。本来は、既存顧客のために最高のブランドや品質であることを追求すべきではないかとも思いますが。

山田 「新規を取れなくなったら既存を増やしましょう」というシンプルな話だと思っています。事業の成長曲線は、新規から既存という順。新規を取りきった後は、既存向けサービスに注力すべきではないでしょうか。例えば富裕層向けのサービスであれば、その顧客層を満足させることを徹底的に追い求めるべきです。

小山 ターゲティングと、そのターゲットの潜在的なニーズが何なのかというのを徹底的に追求すれば、小さくとも顧客のニーズが見えてきて、そこから顧客としっかりつながることができる。顧客を本気で見ているのか、顧客に寄り添うために自分たちのことを正しく伝えられるのかを突き詰めた方がいいようにも思います。

山田 ECやSNSマーティングに取り掛かる前に、まずは世の中に対して示す、自分たちの価値を探すことですよね。

小山 コアコンピタンスが明確であることは、ものすごく重要だと考えています。今の時代は、価値がモノからコトへと変わってきている。コトは共有されるものだから、企業側の手法もコミュニティマーケティングに移行し、その手段の一つとして例えばマーケティングオートメーションツールを導入したり、もう一歩進めてワンツーワンマーケティングを推進してみたりするのが現状ですよね。

山田 敏夫

保守的な日本の消費者

小山 PwCが今年5月に発表した「世界消費者意識調査2018(英語タイトルGlobal Consumer Insights Survey 2018)」は、各国の消費動向の実態を理解する上で大変興味深い内容でした。例えば、新しいモノとして出てきたAIスピーカーの所有率(図1)。中国は20%を超えていて、USとUKは15%近辺。でも、日本はたった4%なんです。中国はモノ・コトに対する興味がとても高いのに、日本は「興味がない」という答えが7割も占めているのは少し保守的という印象をもちました。トランスフォーメーションが求められる時代に、アーリーアダプターとして新しいテクノロジーに興味をもつことは大切だと思いますが。

山田 この数字は本当に危機的ですね…。中国はコト消費も伸びているんですね(図2)。

小山 そうなんです。日米英の3ヶ国で、モノ消費とコト消費は増えていないと答えている消費者が多い中、中国だけは、約半数の消費者が増えたと回答している。

図1 「Amazon EchoやGoogle HomeなどのAIスピーカー(ロボット、自動化されたパーソナルアシスタント)を現在所有していますか?」

回答者数:US(1,039)、UK(1,005)、中国(901)、日本(1,009) 備考:単一回

図1 「Amazon EchoやGoogle HomeなどのAIスピーカー(ロボット、自動化されたパーソナルアシスタント)を現在所有していますか?」

図2 「価格インフレを考慮に入れない前提で、過去12ヶ月にあなたの可処分所得の消費はどのように変わりましたか?」

回答者数:US(1,039)、UK(1,005)、中国(901)、日本(1,009) 備考:単一回答

図2 「価格インフレを考慮に入れない前提で、過去12ヶ月にあなたの可処分所得の消費はどのように変わりましたか?」
図2 「価格インフレを考慮に入れない前提で、過去12ヶ月にあなたの可処分所得の消費はどのように変わりましたか?」

出典:PwC「Global Consumer Insights Survey 2018 日米英中 4ヶ国比較から見る消費者動向の実態」2018.5

「コト消費」時代に実店舗が担う役割

小山 かつてモノ消費の時代は、顧客にきちんと向き合わなくても実店舗でモノが売れていた。Eコマースが進展した今でも、実店舗に足を運ぶ人もそんなに減っていない。売る側が自分でもコト消費を楽しんでいて、どんなコトが価値があるかを知っていれば、それなりのコト消費の空間を作れるかもしれませんが、実際はそうなっていない。

小山 徹

山田 結果、どこにでもある店になってしまいますよね。僕は基本的に実店舗の接客はキュレーターだと思っているんです。どういう人に対して、どんなライフを提供できるのか。本来、百貨店が担ってきた部分ですよね。

小山 キュレーターとして自分たちのコアコンピタンスが明確ならば、それができる。どこで買うかの選択権は顧客側にあるんです。でも、これまでの日本の企業は、そこでマスを獲ろうと展開してきた。でも規模を求める時代はもう終わっていて、山田さんのファクトリエはそのアンチテーゼのように僕は思えるんです。明確に素材や製法、クオリティにフォーカスするからこそ、納期はかかるけれども、メイド・イン・ジャパンの製品が顧客に届けられる。中間流通がなく、工場が販売したいプライシングも可能になっている。イノベーターと言っていいのではないでしょうか。

(第2回に続く)

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