「信頼」を基盤にした戦略的なマーケティングの在り方とは:Cookieレス時代の顧客理解 

第3回:「信頼」を獲得し、選ばれ続ける組織を作るために、CMOがなすべきこととは

  • 2025-07-24

 

第3回では、第2回で解説した「エンゲージメント好循環モデル」を長期的に構築し、組織として顧客からの「信頼」を獲得し続けるための方法について述べます。

1.部署間のKPI不一致が招く「信頼」の崩壊

第2回では、プライバシー保護重視の時代において顧客からの「信頼」を育むためにマーケターは何をすべきか、顧客理解の重要性とそのアプローチ方法について述べました。企業は、「エンゲージメント好循環モデル」、つまり、企業と顧客が「信頼」を育み、双方にとっての価値を高めるために行動することでさらに「信頼」が強化されるといったサイクルを構築することが求められます。そのために、企業は各部署で共通目標となるKGI(Key Goal Indicator)を持ち、KPI(Key Performance Indicator)を部署間で相互に認識し、オーナーシップをもって顧客理解を図ることで、顧客からの「信頼」を獲得することができます。

ここで、理想的な企業のCMO(最高マーケティング責任者)配下のマーケティング組織を考えてみましょう。大きく「ブランド戦略」「フィールドマーケティング」「マーケティングオペレーション」の機能を有し、部署ごとに異なる役割やKPIを持つ体制だと仮定します(図表1)。

図表1:CMO配下の部署の役割・KPIの違い

ブランド戦略、フィールドマーケティング、マーケティングオペレーションのKPIは異なるため、共通目標であるKGIやお互いのKPIを各部署が理解しなければ、顧客の「信頼」を失う可能性があり、注意が必要です。

例えば、コーヒー販売におけるマーケティング推進を取り上げます。ブランド戦略のKPIは“ブランド認知度”で、他社との差別化のためプレミアム感を強調し高品質なコーヒーを宣伝する一方、フィールドマーケティングのKPIは“売上増加率”で価格競争を優先し低価格でコーヒーを販売、マーケティングオペレーションのKPIは“キャンペーンROI(投資対効果)”でROI最大化のみを追求し、最も安価な方法で顧客ターゲットや媒体を絞らず広告を大量配信、とそれぞれKPIを設定したとします。

そうした場合、顧客は高品質なコーヒーを期待し購入しますが、実際は低価格で品質が不安定なコーヒーが提供され、期待していた品質とは異なり期待外れに感じ、企業への信頼度が下がってしまいます。さらに、低品質なWebサイトに広告が大量配信されることで、安っぽいイメージを持たれ、ブランドイメージとは異なる広告イメージから一貫性のなさを感じ、顧客はさらに企業に対する信頼を失う可能性があります(図表2)。

図表2:KPIの不一致による「信頼」の崩壊例

これは、各部署が自らのKPIを達成するために単独で行動した結果、顧客には一貫性のないメッセージが届き「信頼」を失ってしまうという一例です。

2.CMOが主導する「信頼」獲得のための部署間横断戦略

ではどのようにすれば、部署をまたいでも、なお一貫した顧客アプローチを持ち、顧客の「信頼」を獲得できるのでしょうか。

各部署のアプローチが一貫性を持つためには、CMOが指揮を執り、部署間が密に連携できるような横断体制を構築することが重要です。CMOが共通目標であるKGIと各部署のKPIとの関連性を理解し、メンバーに相互認識させることで、一貫した顧客へのアプローチが実現します。

先ほどのコーヒー販売におけるマーケティング推進の例を挙げると、各部署が「最高の顧客体験を提供する(顧客満足度を90%以上に維持)」という共通するKGIに基づき、それをまず各部署のKSF(Key Success Factor)に落とし込み、さらにそれぞれの部署のKPIに紐付けます。このときに、共通のKGIと各部署のKSFを部署間で相互理解することで、一貫性のあるKPI設定が可能になります。

例えばブランド戦略では、KGIに基づきKSFで「ブランド表現の一本化」を掲げ、他部署と連携を図りながらブランド表現を統一させます。つぎにフィールドマーケティングでは、KSFで「顧客視点での体験価値の強化」を置き、売上増加率をKPIとしながらも、顧客体験向上につながる接客を重視します。さらに、マーケティングオペレーションでは、KSFでROI最大化を掲げるのみならず、「顧客体験を重視したオペレーション実現」を目指すことで、ブランド価値とROI最大化を両立します(図表3)。

図表3:KGIに基づく各部署のKPI設定例

このように、KGIやそれに基づいたKSFを相互に理解しKPIの一貫性を図ることによって、企業は効果的なマーケティングを行うことができます。顧客は“特別感”のある体験を期待し購入した結果、トレーニングされた従業員による“特別感”のある店舗接客を受け期待が上回ります。さらに“特別感”のある有料メディアや限定サイトでの広告によりブランドイメージに一貫性がある体験を受けることにで、企業への「信頼」を深め、次もこの企業を選択するというような、ロイヤル顧客の育成へとつなげることができるのです(図表4)。

図表4:KPIの相互理解による「信頼」の獲得例

こうして、CMOによるリーダーシップの下、共通するKGIから各部署のKPIを紐付けることにより、企業はマーケティング戦略の一貫性を保ち、顧客の期待を超える体験を提供し企業の長期的な成功につなげることができます。また、CMOが横断体制を実現するための手段としては、KGIとKPIの紐付けの他にも、顧客データの一元管理や、全社的なブランドガイドラインの策定などのアプローチが挙げられます。

このように、CMOが指揮を執ってマーケティング組織を横断的に結び付け、一貫性のある顧客へのアプローチを図ることで、顧客からの信頼低下を防ぎ新たなシナジーを生み出すこと、マーケティングを組織的、効率的に加速させることができると考えます。第4回では、顧客からの「信頼」を獲得するための手法である、カスタマー・データ・インサイトの活用について述べていきます。

執筆者

奥野 和弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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池田 英哲

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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中野 雅也

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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中村 凌子

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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