メタバースの利活用に関する企業調査:NFTの出口戦略として期待されるメタバース

―PwCコンサルティングによる日本企業1,000社超を対象とした調査結果より―

はじめに

NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)とは、ブロックチェーン技術を活用した改竄と複製が不可能なデジタルな証明書(トークン)です。NFTを有効に活用すれば、例えば、個人対個人を含むパーティ間でのデジタル資産の交換もスムーズに行うことができます。NFTは、トレーサビリティの観点でも注目されており、サプライチェーンの中でデジタル資産の来歴を管理・可視化することで付加価値を生む、リユース市場などで原作者に還元する仕組みを構築するなど、さまざまな活用が期待されています。

現時点では、NFTアートとしての活用で注目を集めていますが、「NFTアート=NFT」という誤認もしばしば見られます。また、NFTアートなど活用の進んだ分野では、NFTには所有権を証明する機能や複製防止機能がある、またはNFTはデジタル資産のオリジナルを証明する技術である、といった誤認からくる訴訟リスク等に代表される、法的なリスクも見え始めています。

さらに、NFTはしばしばメタバースや仮想通貨と一緒に語られるため、互いに混同されることも多く、その理解が必ずしも正しいとは言えない場合があります。

そこで、PwCコンサルティング合同会社では、メタバースの利活用に関する企業調査を行うにあたり、こうしたNFTのビジネス利用における現況についても併せて尋ねました。

「メタバースのビジネス利用に関する日本企業1,000社調査」概要

  • 実施期間:2022年3月10日~2022年3月18日(インターネット調査)
  • 調査対象:企業パネル(第一次産業を除く全業種)
  • サンプル数:1,085社※1
  • 抽出条件:メタバースに興味があり、かつNFTを認知していること※2
  • 分析にあたっては、業種割付して得られた調査結果を、産業分布に基づきウェイトバック集計した数値を用いている

※1 本調査の対象1,085社をスクリーニングする目的で、企業パネルから無作為に抽出した72,033社に対して予備調査を実施した

※2 メタバースと併せてNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)についての関連調査も行ったため、抽出条件に含んでいる

NFTのビジネス利用における認知率と期待

NFTの認知率は26%と、4社に1社が認識しているものの、自社ビジネスでの活用に関心を持っている企業は10%にとどまっている

図1 NFTの認知状況

集計対象:認知率…予備調査回答者より無作為に抽出(n=10,000)/関心度合い…本調査全回答者(n=1,085)

NFTを自社ビジネスにとってのチャンスであると捉えている企業は、8割以上であった。一方、NFTを脅威であると考える背景には「よく分からないから」といった意見も多く、NFTの定義の理解や、自社ビジネスへ与える影響の理解などが必要である

ビジネスへの 影響

集計対象:本調査全回答者(n=1,085)

NFTのビジネス活用を推進している企業は3割を超えており、その半数以上が実現時期として1年以内を目標としている

NFT活用ビジネスの 進捗

集計対象:本調査全回答者(n=1,085)

図2 NFT活用ビジネスの実行時期

集計対象:NFTのビジネス活用について検討中、予算化済み、具体的な案件を推進中の企業(n=341) ※小数点以下は四捨五入

NFTの活用領域については、既存事業の延長線上で考えている業界が多いものの、マスコミや公共サービス、医療・福祉、自動車といった業界においては、新規事業創出への期待が高い傾向にある

推進中のNFTビジネスの 事業領域

集計対象:NFTのビジネス活用について検討中、予算化済み、具体的な案件を推進中の企業(n=341)

図3 NFTのビジネス活用の事業領域として新規事業の立ち上げと答えた企業の割合(業種別)

集計対象:NFTのビジネス活用について検討中、予算化済み、具体的な案件を推進中の企業(n=341)

従業員数の少ない企業では、NFTの活用領域を「新規事業の立ち上げ」と答えている割合が高いことから、スタートアップ企業のような小規模ではあるがアジリティの高い組織を中心に、新たなテクノロジーを用いた新規ビジネス開発を推進しようとしている様子がうかがえる

図4 NFTのビジネス活用の事業領域(従業員規模別)

集計対象:NFTのビジネス活用について検討中、予算化済み、具体的な案件を推進中の企業(n=341)

NFTのビジネスにおける活用実態と、見えてきた課題

NFT案件を進行中もしくは予算化済みであると答えた企業の4分の3が、既にメタバース案件も進行中である。デジタル資産が存在するメタバース世界の構築と併せてNFTビジネスを展開しようとしている企業が多いことが推察される

図5 NFT案件を既に進行中の企業におけるメタバース案件の取り組み状況

集計対象:NFTのビジネス活用で具体的な案件を推進中もしくは予算化済みの企業(n=70)

NFTを認知している企業のうち、具体的な案件を進行中もしくは予算化済みであると答えた企業は7%にとどまった。活用にとても関心があると答えている企業群に注目すると、4分の3の企業はとても関心がありながら行動を起こせていないため、今後の具体的な案件化が期待される

ビジネスでの活用を 推進している

集計対象:本調査全回答者(n=1,085)

図6 NFT活用にとても関心のある企業における具体的なビジネスの進捗度

集計対象:NFTの活用にとても関心のある企業(n=125)

NFT活用に対する課題は多岐にわたるが、既に実装に向けて動き始めている企業も多い中、法規制は主要な阻害要因とはみなされておらず、法規制上の課題の重要性について十分な認知がされていない懸念がある

図7 NFT活用の課題

集計対象:本調査全回答者(n=1,085)

おわりに

1,085社への調査から分かったことは、ビジネスにおけるNFTの認知率は、26%ほどにとどまっているということでした。

また、8割もの企業が、NFTを自社ビジネスにとって脅威というよりは機会として捉えており、新たなビジネスや市場の創出を期待している企業もほぼ5割に達していることが分かりました。

NFTの事業化に取り組んでいる企業の4分の3が、同時にメタバースへの取り組みも行っているという事実からは、NFTの事業化の出口を、NFTが利用・取引されるメタバース世界と捉え、その構築と併せて進めている各社の戦略が見えてきます。

現時点での注目度は高いNFTですが、サービスとして展開されているというよりは、PoC等の実証実験を通して、活用のあり方やビジネス上の効果を模索している状況と言えるでしょう。今後も変化の続くことが予想されるため、私たちも継続的かつ能動的にNFTをめぐるビジネス状況を注視していきたいと考えています。

また一方で、NFTの法規制上の課題の重要性については十分に認知されておらず、この点が今後のビジネス展開におけるリスクとなる可能性も孕んでいます。このため、今後の法整備の動向に注意を払い、専門性を高めていく必要もあると考えています。

企業のためのメタバースビジネスインサイト

メタバースのビジネス動向や活用事例、活用する上での課題・アプローチなど、さまざまなトピックを連載で発信します。

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主要メンバー

三治 信一朗

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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丸山 智浩

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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