海外ビジネスモデルの日本展開に向けた、顧客起点新規事業開発アプローチ

  • 2025-07-08

テクノロジーの進化とともに急速に変化する人々のライフスタイルや消費者ニーズに対応するため、さまざまな業界で新たなビジネスモデルへの変革が進んでいます。ビジネスモデルの変革においては多様なアプローチがありますが、その1つとして、海外で成功を収めながら日本ではまだ認知されていないビジネスモデルを日本市場に展開する形の新規事業開発が挙げられます。

しかし、成功した海外のビジネスモデルを単純に輸入するだけでは市場に定着することはおろか、新規事業投資に対する十分なリターンが見込まれずローンチにこぎつけることすら叶わないケースも多く見られます。対象となる市場の文化的背景・商習慣・法規制が異なることで、「顧客がそのサービスをどう“使いこなすか”」というシーン自体が大きく変わるためです。本稿では、単なる新規事業開発ではない、海外で急成長したデジタルサービスモデルを日本市場向けに顧客起点で最適化して展開する際に陥りがちな課題と、解決のアプローチを提示します。

クライアントが直面する4つの課題

① ターゲット市場の顧客起点によるビジネス・モデル・リエンジニアリング

海外ビジネスモデルを導入する際には、単に同じビジネスモデルを展開するだけでは成功は困難です。国によって法規制やシステムが異なるのはもちろん、国や文化が異なることで、顧客ニーズやライフスタイルも大きく異なります。そのため、文化的背景・商習慣・法規制などの前提条件の違いを踏まえ、現地におけるUSP(Unique Selling Proposition)を鵜呑みにせず、日本顧客独自の意思決定要因を再定義した上で日本市場に適したビジネスモデルへと作り変えることが必要です。これら前提条件を理解するためには、机上の調査だけでなく現地からのヒアリング、パネル調査など多角的な情報収集も肝要です。これらを通じて得た情報を元に海外・日本の顧客像・顧客体験の違いを抽出し、ビジネスモデル上でチューニングが必要な箇所に仮説的に当たりを付ける必要があります。

② 海外ビジネスモデルの成功度合いの定量的確認

海外ビジネスモデルの輸入時に注意すべきなのが、現地で勢いのある新興系サービスとして目にとまった企業のビジネスが、実は投資先行型でプロモーションに力を入れていることで過大に成功を収めているように見えるという現象です。また、新規性の高いビジネスモデルを模倣しようとした場合、当該サービスの展開企業とNDA(秘密保持契約書)締結の上で個別契約にこぎ着けない限り、実際の収支バランスやアクティブユーザー数などの定量的な情報を調査から入手することには限界があります。特に机上の調査のみで現実味のある有用な情報収集に至ることは非常に困難なため、投資の意思決定にあたり、求められるビジネスシミュレーションが正確に行えないという問題が発生します。

③ 社内における「目指す姿」の共通認識化

海外ビジネスモデルの日本展開に限らず新規事業開発プロジェクトに共通することとして、推進していく中でさまざまな壁にぶつかることで、この取り組みがなぜ必要なのか?といった目的が揺らぎ、この取り組みによって成し遂げたいことは何か?といった意義を見失いやすくなります。ステークホルダー間で微細な認識の違いがあるままプロジェクトが進むことで、本当に必要なことが不明確になり、プロジェクトのスケジュールに手戻りが発生することなどが多々発生します。このような状態を未然に防ぎ、スムーズに推進できるよう、プロジェクトの初めの段階で共通の目指す姿・取り組みの意義を明確にし、全員が同じビジョンを共有しながら推進することが重要です。また、目的定義をしっかりと行うことで、社内での他部署との連携も円滑に進みます。

④ 市場開拓にあたる仕掛けづくりと投資

いかに海外で成功を収めている事業でも、日本国内では新規性の高い未知のサービスであることに変わりありません。国内において前例のない事業を展開する場合、明確な指標がない状態でROIが見合っているかを試算する必要があります。特に、初期のターゲットユーザーから認知や理解を得るために一定のコストを要することは許容しなければなりません。事業の失敗を防ぐためには、明確で精度の高い顧客像やビジネスモデルの仮説を持つことが重要であり、このためにはターゲットとする市場・ユーザーに対する受容性検証のプロセスを踏むなど、深い顧客理解が求められます。この結果を踏まえてカスタマーエクスペリエンス(CX)設計の磨き込みやマーケティング戦略の高度化を図ることで、サービスローンチ後の成功確率を高めるとともに、これに必要な投資予算を精緻化していくことにもつながります。

プロジェクトアプローチ

このような海外ビジネスモデルの日本展開プロジェクトの走り出しにあたっては、論点を5つのカテゴリ(目的設定/スケジュール設計/ターゲット選定/コンセプト設計/ビジネスモデル設計)に分類し、1つずつの初期仮説を構築するところから着手していきます。
そもそもどのようなサービスを海外から参照してくるかのリサーチから着手するプロジェクトもあれば、初めから所与のものとして参照する海外サービスが決まっているプロジェクトもあり、企業や部門の置かれている状況によりスタート地点はさまざまです。
どのような場合においても普遍的な5つの論点(解くべき問い)に対し、各種設計・社内合意形成を繰り返していくことで、単なる海外サービスの模倣ではなく、海外の先行ビジネスモデルを参照した(日本向け)独自サービスとしてのコンセプトアイデアが洗練されていきます。これをベースに社内外のステークホルダーから意見を集めるだけでなく、小規模でもPoC(概念実証)を実施して顧客の声を聞き、常に顧客起点でビジネスモデルをブラッシュアップしていくことが求められます。

図表:海外ビジネスモデルの日本展開における論点/アプローチ

PwCコンサルティング合同会社では、PwCグローバルネットワークによる豊富なリレーションを通じ、専門家の知見や、顧客像・ニーズなどの定性的な情報収集だけでなく、定量的な試算を行う上での貴重なインプット情報の提供まで多角的に支援しています。

また、新規サービス導入にあたっては、新規サービス単体で収支を見るのではなく、これによって得られた新規顧客の中長期的なLTV(顧客生涯価値)をKPIとして設定するなどし、新規事業立ち上げ時に起こりやすい収益性に関する議論をスムーズに進められるよう、クライアント企業をサポートします。

主要メンバー

丸山 貴久

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

土井 俊悟

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

石川 武

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

眞下 三葉

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

Email

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

本ページに関するお問い合わせ