
【2025年】PwCの眼(5)企業のサステナビリティ対応は統合的アプローチに昇華する
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
2025-06-27
昨今、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)という言葉が急速に広まっている。自動車メーカーやサプライヤーは対応を迫られている。SDVが何を指すかは主体によって捉え方が異なり定義はあいまいだが、重要なのは、車本体ではなく、ユーザーそのものやユーザーに提供する価値・体験を中心に据えることだ。
そこで、PwCコンサルティングは、SDVを「ソフトウェアを基軸にモビリティの内と外を繋ぎ、機能を更新し続けることで、ユーザーに新たな価値および体験を提供し続けるための基盤(エコシステム)」と定義している。
また、私たちは、SDVをレベル0~5の6段階で整理している。
レベル0の「機械制御車両」は、エンジンなどの一部が電気電子制御されるが、主に機械部品が協調することで走行する。レベル1の「電気電子制御車両」は、独立した電子制御ユニット(ECU)が複数存在し、車両機能の電気電子化が進む。レベル2の「ソフトウェア制御車両」は、ECU数が増えて、車載ネットワークによってバス(bus)管理される。
そして、レベル3の「部分ソフトウェア定義車両」は、パワートレインやインフォテインメント、先進運転支援システム/自動運転などの機能要素(ドメイン)を軸に電気電子アーキテクチャーを構築することでECUの統合が進み、統合した機能を大規模なシステムオンチップ(SoC)が制御する。一部ではビークルOS(基本ソフトウェア)やAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の標準化が進む。不具合以外の機能追加、商品性向上のためのソフトウェアアップデートはOTA(オーバー・ジ・エアー)で行われる。
レベル4の「完全ソフトウェア定義車両」は、センサーやアクチュエーターの物理配置に合わせて機能を配置する電気電子アーキテクチャーにより、機能の最適配置と拡張性が増加する。ビークルOSやAPIの標準化により、ハードウェアとソフトウェアの分離が進む。また車載通信の高速化により、自動運転向けなどの大規模・高速データ通信が容易になる。さらにソフトウェアアップデートにより、購入後もモビリティの価値が向上し、車両販売以外の収益モデルも構築される。
レベル5の「ソフトウェア定義エコシステム」は、モビリティの内部と外部が常時接続されて、AIなどの頭脳系制御が外部に移る。内部のソフトウェアアップデートや外部での常時学習によって、常にユーザーニーズを満たした状態にする。例えばインフォテインメント系は、自動車メーカー共通のアプリケーションやサービスを提供できるようになり、モビリティの価値がソフトウェア・サービス側に大きく移行する。これらによってモビリティの価値がエコシステム全体を通じて底上げされ、ユーザーの価値・体験の最大化が図られる。
現在、新興自動車メーカーの一部がレベル4を実現しているが、多くはレベル2やレベル3で、レベルアップの途上にある。業界では新技術が登場し、同時に新たな課題や考え方も浮上して定義される。現状を正しく把握し、取り組むべき事項を柔軟に捉えて対応することが最も重要だ。またSDVのレベルアップと、自動運転や電動化の開発の親和性は高く、バランスよく取り組むことが求められる。
※本稿は、日刊自動車新聞2024年12月23日付掲載のコラムを転載したものです。
※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
社会やユーザーのニーズの変化に伴い、SDV領域における取り組みが加速しています。PwCは各領域におけるケイパビリティを結集させ、「SDVイニシアチブ」としてソフトウェアを基軸にモビリティの内と外をつなぎ、新たな価値創造に向けた支援を幅広く提供します。
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
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