
【2025年】PwCの眼(5)企業のサステナビリティ対応は統合的アプローチに昇華する
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
2025-06-26
モビリティ業界では、SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)の標準化に向け、自動車メーカーやサプライヤーが対応を迫られている。この背景にあるのは、業界を取り巻くGX(グリーントランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)の2つの変革である。本稿では業界におけるGX・DXの取り組みの方向性に立ち返った上で、なぜSDVが注目されているのかを解説する。
日本のモビリティ業界を取り巻く変革は、GXとDXの2軸に大別される。まず、GXは、サステナビリティ(持続可能性)を実現するため、電気自動車(EV)の普及や資源循環の進展などを受け、自動車とエネルギー/資源エコシステムが融合しながら進行する。
加えて、移動・車両価値を最大化するため、DXが進行する。日本政府は「モビリティDX戦略」において、SDVのグローバル販売台数の「日系シェア3割」の実現を目指している。DXは自動運転の普及やSDV化などを受け、自動車と交通・モビリティエコシステムが融合しながら進行する。
日本のモビリティ業界は、内燃機関(ICE)車の卸売りを中心に構築したアセット(資産)を抱えているため、米中の新興自動車メーカーと比べるとGX・DXの進行が緩やかである。従って、日本がGX・DXを成し遂げるためには、新領域の創造を目指す「新規産業・事業の探索」、既存産業の効率化・省人化により原資を確保する「既存産業・事業の深化」の両利き経営だけではなく、企業変革への柔軟性を高めて組織・産業能力を再定義する「既存産業・事業の再創造」も含めた3つの舵取りが重要となる。
この舵取りをする上で、6つの観点を提示する。まず、新規産業・事業の探索について、GX観点ではエネルギー・電池産業を含めたネットゼロ、DX観点では、ヒト・モノの移動を支え続ける自動運転・モビリティサービスのデザインと具現化が挙げられる。
続いて、既存産業・事業の深化に向けて、GX観点では、バッテリー電気自動車(BEV)を基軸としたパワートレインのマルチパスウェイ化が挙げられる。DX観点では、新たな取り組みを進めるためのヒト・カネの拠出を目的とした、共同開発などの基盤となるデータ利活用の促進が挙げられる。
最後に、既存産業・事業の再創造に向け、GX観点では脱炭素とQCD(品質・コスト・納期)を両立するサプライチェーン(部品供給網)・バリューチェーン変革が挙げられる。DX観点では、SDV化を軸にした“ビジネスモデル・リインベンション(再発明)”が挙げられる。売り切り型の事業やウオーターフォール型の機能、製品・サービスの在り方の再定義と、それに対応した体制整備が期待される。
以上のように、SDVは、DX観点での中心的な機能であることに留まらない。例えば、新規産業・事業の探索では、EV関連の新規事業・機能付加への貢献を通じ、GX観点でも顧客・車両の理解を深め、最適化を図るイネーブラーになることが期待される。従って、日本のモビリティ業界においては、パワトレ・機能面での「多様なSDV」を目指すことになるだろう。
※本稿は、日刊自動車新聞2024年11月25日付掲載のコラムを転載したものです。
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