
【2025年】PwCの眼(5)企業のサステナビリティ対応は統合的アプローチに昇華する
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
2024-09-09
自動車のEV化は踊り場と言われながらも確実に進み、加えてEV開発で優位に立ちつつある中国自動車メーカーの急激な競争力向上により、過去とは異なる形で自動車業界の構造が変化している。対中国メーカーを意識したブロック経済化など、政治的なスタンスの違いにより主要各国で自動車政策は異なるものの、将来のカーボンニュートラルを実現するためには、EV化を含む自動車の脱炭素は避けられない共通課題である。
EV化の潮流で留意すべきは、EVのバリューチェーンは旧来の内燃機関(ICE)車とは異なるスマイルカーブを描く点である。自動車のバリューチェーンは、素材から部品製造、車両製造、アフターサービスまで長いプロセスを構築しており、ICE車においては車両製造、すなわち自動車メーカーがバリューチェーンをリードしてきた。これはICE車の製造には、数万点の機械系部品の擦り合わせが必要であり、そのためには自動車メーカーの全体設計やプロジェクト管理などの能力が必要なためである。その結果、バリューチェーンも自動車メーカーを頂点としたピラミッド構造が効果的であった。
他方、昨今のEVバリューチェーンの状況を見てみると、自動車メーカーは利益確保に苦しんでいる。EVのバリューチェーンは、主に半導体、ソフトウェア、バッテリー(リチウムなど素材調達を含む)、EV専用部品(eアクスルなど)、汎用部品(ブレーキなどICE車でも利用している部品)、車両製造、アフターサービスで構成されるが、例えば需要が拡大するEV専用部品の代表例であるeアクスルは既に競争激化により利益獲得が難しくなっている。また、バッテリーにおいても価格下落のトレンドの中、サプライヤーは事業性が見通しにくいことで苦しい立場に追い込まれている。
このような状況で注目すべきは、半導体とソフトウェアである。半導体メーカーは収益拡大と更なる設備投資のサイクルに入っており、またソフトウェアに関しては現在群雄割拠で標準ソフトが定まっていないものの、先行ソフトウェア企業は高い利益率を実現している。EV事業で利益を確保している特定の海外自動車メーカーは半導体とソフトウェアを内製化しているが、これは半導体とソフトウェアの利益を内包化し、利幅が薄い車両製造をカバーする仕組みを構築したとも見ることが出来る。
このようにEV事業における利益獲得のスマイルカーブはICE車から大きく変化し、機械系/ハード系から、半導体やソフトウェアといったデジタル系/ソフト系に利益の源泉が移行しつつある。これはパソコンやスマートフォン、液晶テレビのようなデジタル家電で起こった業界構造の変化と類似している。かつて、このような業界構造変化が起こった際、多くの日本企業はその変化への対応に苦慮した。自動車業界にもいよいよ変化の波が迫っており、この流れを踏まえた上で事業戦略を構築する必要がある。
事業戦略としては、半導体やソフトウェアの領域に投資することも選択肢であるし、EV専用部品について規模の経済を生かしたボリューム戦略も取り得る。一方、EV、ICE車ともに利用する汎用部品については、それらをロールアップ(複数の小規模企業を買収して企業グループの価値を高める)するラストマンスタンディング戦略など、取り得る戦略は一つではない。業界構造の変化は急速に進んでおり、自動車メーカーやサプライヤーは業界全体の優勝劣敗が確定しない現段階で、自社の取り得る戦略オプションを精査し、ブラッシュアップしていくことが必要であろう。
※本稿は、日刊自動車新聞2024年8月26日付掲載のコラムを転載したものです。
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