
【2025年】PwCの眼(5)企業のサステナビリティ対応は統合的アプローチに昇華する
カーボンニュートラルに向け、エコカーの生産・販売にシフトしてきた完成車メーカー各社ですが、一方で事業において気候・自然・人権の負荷を同時に高めてしまうリスクが現実味を帯びてきています。課題を可視化し、コスト低減と価値創出を両立させるために企業がとるべき統合的アプローチについて考察します。(日刊自動車新聞 2025年6月2日 寄稿)
2023-04-14
欧州では環境意識の高まりとともに官民一体での電気自動車(EV)推進が功を奏しており、EVへのシフトが進んでいる。欧州自動車工業会の発表によると、2022年の欧州連合(EU)での新車販売の1割以上をバッテリーEVが占めるようになった。EUでは2035年以降すべての内燃機関車の新車販売を事実上禁止する法律が議論されている。それに向けた各国での補助金や税制などの政策、および各自動車メーカーの積極的なEVラインアップ拡充の効果もあり、EV普及は着実に進んできている。内燃機関車がEVに全て置き換わるのはまだ将来の話だとしても、今よりもEV市場が格段に広がることは現実となっている。
今後さらに内燃機関車からEVへの転換が進むためには、エネルギーの安定供給、バッテリーに使用されるレアメタル確保などのさまざまな課題があるが、充電インフラがより拡充されることが必須であることは言うまでもない。
欧州自動車工業会によると、欧州においては2016年から2022年にかけて新車EV販売台数が17倍と大きく伸びているのに対し、充電スタンド数は約6倍伸長と半分以下の伸びにとどまっており、急成長はしているがまだ充電インフラ需要に供給が追い付いていない状況だと考えられる。そのため、グローバルで充電インフラ業者、エネルギー関連企業、充電技術メーカーなど多数が投資を大幅に増やしている状況が続いており、積極的に普及拡大を図っている。さらに、より高速な充電やEVと充電設備のスマート接続の実現などの技術開発も急速に発展を遂げている。
充電インフラについては、大きく分けて、住宅に設置される家庭用と一般に使用される充電スタンドがあるが、ビジネスモデルとしては自動車メーカーによるEVと家庭用充電器のセット販売、エネルギー関連企業がガソリンスタンドに併設するケース、充電スタンド業者が街中や路肩の駐車場に設置するケースなど、さまざまなケースが玉石混合となっている。今後EV普及拡大が続く限り、欧州全体において充電インフラの拡大も進むと想定される。EVユーザーの立場においても、オランダなどごく一部の国を除いて、まだ多くの国では十分にインフラが整備されているとは言えない状況であり、長距離運転の際の充電切れ不安についても払しょくされていない。また、さまざまな国において充電ハードウェアの基準が統一されていないことも市場の成長を妨げている一因となっている。
また、一般的にEVは今も高価格商品であり、2035年の目標に向けて、バッテリーなどのコスト低減による手頃な価格帯の商品がラインアップされることで顧客層が拡大すること、充電拠点数が拡大すること、の双方の実現が必要である。
世界では、昨今の政治情勢によるエネルギー事情、レアメタル供給などの不確定要素は非常に大きいが、欧州だけでなく、中国や北米もEV普及およびそのインフラ整備を官民挙げて加速している状況にあり、競争環境は激化している。日本においても今後同様の変化が起こる可能性はあることから、その変化を産業や事業における大きな機会と捉えた上で、官民一体で競争力を高めることがより一層必要となるのではないだろうか。
安藤 俊行
シニアマネージャー, PwC Germany
※本稿は、日刊自動車新聞2023年3月27日付掲載のコラムを転載したものです。
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※法人名、役職などは掲載当時のものです。
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